2015-12-03
キビノダンゴゴケの雌植物体と雄植物体
京都コケ展で何の予備知識も無く初めて出会ったキビノダンゴゴケ、吉備国(きびのくに)岡山県で発見されたコケで(詳しくはこちら)、桃太郎でおなじみの岡山名産黍(キビ)団子のような丸いコケのネーミングのすばらしさに感心し、それまで日本では見つからなかったダンゴゴケ科(注1)の形態のユニークさにも驚かされたコケでした。 丸い“団子”の中を覗きたいと思いながらも、展示されているコケをピンセットでほじくるわけにもいかず、残念に思っていたところ、思いがけず、「岡山コケの会」(通称オカモス)会員の村井さんからキビノダンゴゴケを送っていただくことができ、じっくりと見ることができました。
キビノダンゴゴケ( Sphaerocarpos donnellii )は雌雄異株で、孔の開いた団子のような丸いものをつけているのは雌植物体です。 雄植物体は群落の中で雌植物体に混じって生えているのですが、あまり目立ちません。 1枚目の写真でも、あちこちに雄植物体が写っているのですが、写真の左端の黒っぽい部分など、ゴチャゴチャしたように見える所が雄植物体です。
団子のように見えるものや、黒っぽいゴチャゴチャしたものは、生殖器官を包み込んでいる包膜です。 キビノダンゴゴケは苔類で、葉状体の背面にたくさんの包膜を載せていて、葉状体は包膜群の縁にわずかに見えるだけです。
上の写真は雌植物体と雄植物体が接している所で、左が雌植物体、中央が雄植物体です。 雌植物体の包膜は丸く膨らみ、頂に穴が開いています。 雄植物体の包膜は、中に造精器が作られるのですが、雌植物体のそれよりはるかに小さく、丸形フラスコのような形をしています。 上の写真の雄植物体はまだ未熟なようで、“丸形フラスコ”の丸い部分は淡い緑色をしています。
雄包膜は成熟すると紫褐色になります。 上の写真は雄植物体のみを撮ったもので、写真の中央に成熟した包膜群があり、その周囲には未熟な包膜群があり、それらの包膜群の周囲に葉状体が見えています。
雌包膜の内側には造卵器が作られ、その中にある卵細胞は受精し、細胞分裂を繰り返し、胞子体を形成していきます。 上の写真は、1つの大きな雌包膜を破いたところですが、雌包膜の中には球形のものがありました(上の写真の下中央)。 これが胞子体で、その中で作られている胞子が透けて見えています。
胞子の形態もおもしろそうなので、胞子体の中も見てみたのですが、胞子はまだ未熟で、簡単に壊れてしまい、胞子の形態的な特徴も確認できませんでした。 成熟した胞子体があるのではないかと、いくつか調べてみたのですが、いずれも上の写真のような状態のものでした。 いただいたキビノダンゴゴケを育て続け、成熟を待ちたいと思います。
上は葉状体で、大きな細胞で形成されています。 光の弱い状態が続いたまま撮ったので、葉緑体の多くが細胞壁に寄ってしまいましたが・・・。
(注1) 日本では馴染みの薄いダンゴゴケの仲間ですが、世界的にはそうでもないようで、植物ではじめて性染色体がみつかったのは、このキビノダンゴゴケからということです(コメント参照)。
早速アップしてくださってありがとうございます!
返信削除造精器は聞いていて確認していたのですが、造卵器は知りませんでした。
胞子が透けて見えているのに感動してしまいました。
キビノダンゴゴケは岡山コケの会に入会したばかりの頃の観察会で初めて出会いました。
滋賀に帰ってきてから色んな田んぼを見てまわりましたが、今でも一向にこちらでは見かけません。
ネーミングとそのかたちと岡山にだけにしか生息していない、その揺るぎない一致が素晴らしいなと思います。
このような写真が撮れたのも厳重な包装でコケを送っていただいたからです。ありがとうございました。
削除帰化植物は広がりだすと急に分布を広げる可能性があります。岡山だけにあてはまる限定要因も特に無いように思いますから、注意が必要ですね。
植物で性染色体が最初に観察されたのが、このダンゴゴケです!
削除情報提供ありがとうございます。
削除Allen,C.E.(1917),A chromosome difference correlated with sex differences in Sphaerocarpos. Science 46:466-467.
ですね。
「コケで」ではなく「植物で」なんですね!
植物の性染色体は1917年にコケ植物の一種Spaerocarpos (ダンゴゴケ)で最初に報告されたんです!
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