2018-10-28
ヌルデミミフシとヌルデシロアブラムシ
ヌルデ Rhus javanica の葉が緑のうちは目立たなかったヌルデの虫えい(ちゅうえい=虫こぶ)が目立つ季節になってきました。 この虫えいにはヌルデミミフシという名前が付けられていますが、生薬としては五倍子(ごばいし)と呼ばれています。
この虫えいはヌルデシロアブラムシ Schlechtendalia chinensis が寄生することにより作られます。 ヌルデは寄生されると、防御のためにタンニンを作ります。 我々人間は、タンニンが豊富に含まれているこの虫えいを、皮なめしに用いたり、黒色染料の原料としてきました。 明治時代以前の既婚女性などの化粧法であったお歯黒も、鉄漿水(かねみず)と呼ばれる酢酸に鉄を溶かした溶液と五倍子の粉を交互に塗ることで、鉄イオンがタンニンと結合して黒変することを利用したものです。
ヌルデミミフシの形成は、春に1匹のヌルデシロアブラムシが口からヌルデの葉に“虫こぶ形成物質”を注入することから始まります。 この個体は多くの個体の元となるところから、幹母(かんぼ)と呼ばれます。 この物質を注入されたヌルデの葉の組織は幹母を包み込むように隆起します。 葉の組織に閉じ込められた幹母は“家つき食事つき”の生活を保証され、無性生殖でどんどん仲間を増やします。 この頃のヌルデシロアブラムシは無翅型ですが、秋になりヌルデの葉が落葉する頃になると・・・
上は10月27日に堺自然ふれあいの森でヌルデミミフシを切って中を撮ったものですが、ワックスでまぶされた有翅型の個体がひしめきあっていました。
自然の状態では、これらの有翅型のヌルデシロアブラムシは虫えいの一部に開いた穴から飛び立ち、冬の間はチョウチンゴケの仲間に寄生して暮らします。
チョウチンゴケにたどりついた有翅型は無性生殖で無翅型を産み、これが越冬します。 越冬したヌルデシロアブラムシは翌春に有翅型となって(注1)ヌルデに移り、無性生殖でメスとオスを産み、この雌雄が有性生殖で産んだ卵が孵化したものが幹母となります。
ところで、ヌルデシロアブラムシは、なぜこんなめんどうな暮らす場所の変更をするのでしょうか。 落葉樹のヌルデには冬季に寄生はできないでしょうが、年中緑であるチョウチンゴケで年間を通して暮らすことはできないのでしょうか。
最近、コケ植物は退行進化的に小さくなることで寄生を防いでいるのではないかという考えも出てきました(注2)。 ヌルデシロアブラムシは口吻を植物に突き刺して吸汁するのですが、チョウチンゴケの葉は1層の細胞でできていて、口吻を突き刺そうとしても突き抜けてしまうのかもしれません。 また、茎に口吻を突き刺しても、維管束の無いチョウチンゴケからは効率よく吸汁できないでしょう。 ヌルデシロアブラムシは、気温が低く活動が低下する冬季に限り、どうにか生きていけるギリギリの食料を得る場所として、チョウチンゴケを選んでいるのかもしれません。
(注1) その可能性の高い有翅虫の様子をこちらに載せています。
(注2) こちらではそのことをもう少し詳しく書いています。
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