2020-03-22

ヒメミズゴケモドキ


 上はヒメミズゴケモドキ Pleurozia acinosa です。 倒木の上で育っていました。 分布は平凡社の図鑑では、屋久島、台湾、東南アジアとなっています。
 先端に孔の開いた円筒形のものがいっぱいですが、これは不稔の場合に作られる花被であることはヤクシマミズゴケモドキの所に書きました。 本種は雌雄同株のはずですが、ほとんどが不稔であるということは、精子と卵細胞の成熟時期を大きくずらして自家受精を避けているのでしょうか。
 上の写真ではほとんど葉が見えませんが、元来蘚苔類の「葉」は、種子植物の葉とはかなり異なった器官で、「種子植物の葉に形が似ているもの」と理解すべきでしょうから、光合成の主体が花被であってもいいのでしょう。 もちろん蘚苔類の「花被」も、種子植物の花被と似た位置につく器官ということで、機能は全く異なります。


 別の所の樹幹で育っていたものも、不稔の花被ばかりが目立ちます。


 上は群落をほぐして横から撮ったもので、花被をつけていない枝も写っています。 花被は不稔の場合に作られるものばかりです。 写真の右中央に破れた花被がありますが、中は空であることが確認できます。 花被の下には葉より大きな苞葉が見られます。 葉は2裂しています。


 上は円筒形の花被の底を上から撮っています。 造卵器の存在を期待したのですが、小さな球形のものがそうであるのか、確認はできませんでした。


 上は1枚の雌苞葉です。 花被をぐるりと捲いているのですが、剥がしてみると3裂しています。


 上は花被のついている枝先付近ですが、いろんなものが写っています。 ①は花被です。 ②は雌苞葉で、この角度から撮ると3裂していることが分かります。 ④と⑤はどちらも葉ですが、形が異なります。 ④は一部が袋状になっていますが、⑤は2裂しているように見えますが、葉のことはひとまず置いて・・・
 平凡社の図鑑では、「雄花序は短側枝となり,雌苞葉の直下につき,隠れる。」と書かれています。 このことを確かめるために、雌苞葉の下についている葉(④など)を押し下げてみると、たしかに③のようなものが現れてきました。 中のものを保護するかのように枝先の葉は膨らんでついていて、雄花序だと思われたので、これを顕微鏡で観察すると・・・


 上が雄花序と思われるものの顕微鏡写真です。 枝先付近が分かるように、幾重にも重なってついていた葉をかなり取り去って写しています。 成熟した造精器があれば十分確認できる倍率のはずですが、造精器は確認できませんでした。 念のため、さらに葉を取り除いてもみたのですが、結果は同じでした。 たぶん時期的な問題だと思います。

 観察対象を葉に戻します。 3枚目の写真や6枚目の写真の⑤に類する葉を1枚取って顕微鏡で観察したのが下です。


 葉は2裂し、背片(上の写真の左側)と、それより少し大きな腹片(上の写真の左側)からなります。 裂ける深さは葉のついている場所などで異なり、上の写真の場合は浅い方です。 背片は円頭で、写真の腹片の先には小さな2歯があります。 写真の背片は、ミズゴケモドキ属全体の中では仏炎苞状背片になるのですが、背片の基部が張り出している場合でも、ヤクシマミズゴケモドキのように基部が合着することはありません。


 上は6枚目の写真の④の葉で、茎に面する側の見える葉(左側)を、その反対側が見える葉(右側:腹片の基部が少し欠けています)にもたれさせて撮っています。 背片は袋状になっていて、茎に面する側の上部に小さな孔が開いています。 この袋状背片を持つ葉は花被をつける枝にのみ見られます。


 上は葉身細胞です。 トリゴンが大きく、油体は球形で微粒の集合です。

(2020.3.2. 屋久島)

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