2015-07-08
ユキノシタの花
写真はユキノシタの花です。 いちめんに咲くと見応えがありますが、1つの花もなかなか趣があります。 が、野生植物にとっては人の趣など関係なし。 虫媒花は生殖器官として虫を呼ぶために咲くのです。
虫媒花の花は、来てほしい虫を呼ぶために花の色や花の形などを“工夫”しています。 また蜜のありかを虫に教える蜜標(ガイドマーク)と呼ばれる模様を持っている花が多いものです。 以下、ユキノシタの花の“工夫”を見ていくことにします。
ユキノシタの花は横向きに咲く左右相称の花です。 このような花は、上向きに咲く放射相称の花と比較して、来てほしい虫と来てほしい方向(正面から)を制限することで、同種の花(この場合はユキノシタの花)に来てもらう確率を上げ、受粉効率を上げようとしているのでしょう。
ユキノシタの花は5枚の花弁を持っていますが、そのうちの上方に位置する3枚の花弁は有色で、下方の2枚は白く長くなっています。 これらの特徴はどのように機能しているのか、似た花との比較で考察してみます。
ダイモンジソウの花弁には色がついていませんが、花弁の長さが異なります。 たぶん花弁の長さだけで虫に何らかのメッセージを伝えているのでしょう。 長い花弁は着陸する飛行機の滑走路のように虫を誘導しているのではないかと考える人もいます。
ハルユキノシタやジンジソウは、花弁の長さの違いに加えて、上方に位置する3枚の花弁に黄斑があります。 これは蜜標として機能しているのでしょう。 最初の写真を見ていただくと、ユキノシタの花弁にも、この黄色い蜜標があります。 しかしユキノシタの場合は、その外側にある赤っぽい色が、この黄色を目立ちにくくしています。 しかし目立ちにくいのは人の目で見た場合のことで、虫の眼の感じることのできる光の波長域は人とは全く違っています。 虫にとってユキノシタの花はどのように見えているのでしょうね。
次にメシベとオシベに注目して見ていくことにします。
最初の写真と上の写真とを、メシベとオシベに注目して比較してください。 上の写真のオシベは花粉が全て出てしまい、葯(花粉を入れておく所)は小さくなっていますが、最初の写真のオシベは、花粉を出してしまったものとまだ花粉を出していないオシベが混在しています。 この混在していることについては後から見ていくことにして、2枚目の写真の方が咲いてから時間が経過した花だと分かります。
この2枚の写真のメシベを比較すると、ユキノシタのメシベは突き出た先が2つに分かれているのですが、最初の写真ではメシベの先がぴったりくっついているのに対し、2枚目の写真ではメシベはより長く伸び、先が明瞭に2つに分かれ、先端の柱頭の部分は膨大し、いかにも花粉を受け取り易くなっているように見えます。 つまりユキノシタのメシベはオシベが花粉を出しているうちは、花粉を受け取る柱頭は互いにくっつき、花粉がくっつかないようになっています。 そしてオシベの花粉が出尽くした時に、はじめて受粉できるようになります。 このしくみにより、ユキノシタのメシベは同じ花のオシベの花粉を受け取ることなく、自家受粉を防いでいるわけです。 有性生殖はいろんな遺伝子の組み合わせを作ることに意義があるわけですね。
次にオシベを見ていきます。 もういちど最初の写真を見てください。 オシベは10本あるのですが、そのうちの3本だけが前に突き出てメシベの側に来ています。 そして残りの7本のオシベをよく見ると、既に花粉を出し終えでしぼんでしまった葯とまだ花粉を出していない葯が混ざっています。
以下で詳しく書きますが、分かり易くするために先に結論を書いておくと、ユキノシタのオシベは花弁のある位置とほぼ同じ平面で待機し、1~3本ずつ順に前に突き出して(=メシベの側に来て)花粉を出します。 この時、長い花糸は虫の止まり木の役割をする場合もあるのかもしれません。 そして花粉を出し終えたオシベは、メシベの側を離れ、元の位置に戻ります。 つまり、虫がメシベの付け根付近にある蜜腺から蜜を吸おうと花の正面から近づく時に、花粉を出している葯に虫の体が触れ、花粉が虫の体に付くしくみです。
ユキノシタの花は、このように10本のオシベが入れ替わり、少しずつ花粉を出すことで、長時間咲き続けて花粉を出し続けられるように工夫されています。 この工夫のしくみ、つまり花粉を出すオシベの順序(=メシベの側に近寄ったり離れたりする順序)がどのように決まっているのか、調べてみました。 植物は意識が無い故に(「意識」とは何かという議論はしません)、「気まぐれ」な行動は取れないはずです。
まず、オシベに番号をつけます。 真上に位置する花弁の上にあるオシベを①とし、向かってその左隣にあるオシベを②、右隣のオシベを③とし、②の下に位置するオシベを④、③の下に位置するオシベを⑤とし、以下、下方に順に番号を付けていきます。 図で示すと、次のようになります。
①
② ③
④ ⑤
⑥ ⑦
⑧ ⑨
⑩
ユキノシタの10本のオシベは、5枚の花弁の上に位置するオシベが5本と、花弁と花弁の間に位置するオシベ5本とからなりますが、①④⑤⑧⑨が花弁の上にあるオシベということになります。
次に、オシベの状態も記号化して、まだ花粉を出していないオシベを「○」で、メシベの近くに来て花粉を出しているオシベを「@」で、花粉を出し終えて後ろへ戻ったオシベを「X」で表すことにします。 つまりオシベは ○ → @ → X と変化することになります。
このようにすると・・・
上の写真の花は
① ②③ ④⑤ ⑥⑦ ⑧⑨ ⑩
○ ○ X ○○ X X @@ X
と表現できます。
また、最初の写真の花は
① ②③ ④⑤ ⑥⑦ ⑧⑨ ⑩
○ @ X ○○ X X @@ X
と表現できます。
この両者を比較すると、異なるのは②のオシベだけです。 つまり、3枚目の写真の花は次に②のオシベを倒して、まだ受粉能力の無いメシベの近くで花粉を出し、最初の写真の状態になることが分かります。 このように、1つの花の変化を長時間見続けることなく、写真を比較することでオシベの動きや花粉を出す順序を知ることができます。
じつは比較のためにできるだけいろんな状態の花を選びながら14枚の写真を撮っているのですが、ここではその14枚の花の写真を並べるのは止めて、○の多いものから順に並べなおした結果だけを下に載せておきます。 ちなみに、No.11が1枚目の写真の、No.8が3枚目の写真の花で、No.14が2枚目の写真の花です。(このブログ、等幅フォントが使えず、表が波打ってしまいました。)
No ① ②③ ④⑤ ⑥⑦ ⑧⑨ ⑩
1 ○ @○ ○○ @@ ○○ X
2 ○ ○@ ○○ @@ ○○ X
3 ○ @○ ○○ X X ○○ X
4 ○ ○@ ○○ X X ○○ X
5 ○ ○@ ○○ X X ○○ X
6 ○ ○@ ○○ X X @○ X
7 ○ @○ ○○ X X @@ X
8 ○ ○ X ○○ X X @@ X
9 ○ X○ ○○ X X @@ X
10 ○ @ X ○○ X X @@ X
11 ○ @ X ○○ X X @@ X
12 @ X X @ X X X X X X
13 @ X X X@ X X X X X
14 X X X X X X X X X X
②と③、④と⑤、⑥と⑦、⑧と⑨ は、位置的には等しいはずですが、ほぼ同時ではあるものの、どちらかが少し先に花粉を出しはじめます。 この場合のどちらが先に花粉を出しはじめるのかは、環境要因など何かに支配されているのでしょうが、そこまでの分析はしていません。 しかしそれを同時と見ると、オシベの花粉を出す順序は次のように見ることができます。
⑩ → ⑥⑦ → ②③ → ⑧⑨ → ④⑤(→)①
この順序を見ると、オシベの花粉を出す順序は、2つの要素が関係しているようです。 つまり、花弁と花弁の間にあるオシベの方が早く、下方に位置するオシベの方が早いということになります。
花弁と花弁の間にあるオシベの方が早く花粉を出すことについては、次のように考えられると思います。 花はガク片も花弁もオシベもメシベも葉が変化して作られたと考えられています。 葉は2列互生や輪生を例外とすれば、光合成を効率よく行うために、重ならないように少しずれて付きます。 このことをユキノシタの花にあてはめると、花弁になった5枚の葉の上に位置して少しずれた、つまり花弁と花弁の間に位置した5枚の葉が5本のオシベとなり、その上に位置して少しずれた、つまりオシベとオシベの間つまり花弁の真上に位置した5枚の葉が5本のオシベになったとすれば、花弁と花弁の間に位置する早く作られたオシベが先に花粉を出すことは納得できます。
下方に位置するオシベの方が早く花粉を出すことについては、下方の花弁の方が生長が良い(長く伸びる)ことと関係するのかもしれません。
以上、長い文章におつきあいいただき、ありがとうございました。 ブログの記事としては過去最長の文になってしまいました。 書く方も疲れましたが、読んでいただいても途中で嫌になったのではないでしょうか。 おつかれさまでした。
スゴイ!
返信削除ユキノシタのオシベのこと、よ~く知ってないと撮れない写真・・・
観察会でユキノシタのことが話題になりました、リンクお願いしました。
毎年のこと、庭にいっぱい咲いてます、葉っぱを天ぷらにするぐらいで・・・
庭でたくさん咲いているなら、どんな虫が来ているのか、花糸を止まり木にして葯を体に触れさせながら蜜を吸っている虫がいるのか、見ておいてください。
返信削除リンクは了解です。
もう、お花は終わってしまったんで来年の課題になります、けど、ユキノシタに来てる虫ってあんまり意識したことないです、観察力アップ心がけます。
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