2017-03-06

ゼニゴケの精子はどのようにして卵細胞にたどりつくのか その1

 雌器托・雄器托と雌器床・雄器床は同じもので(詳しくは秋山先生のこちらのブログをどうぞ)、(a)柄の部分と(b)それに続く平面に広がっている部分とからなります。 しかし(a)と(b)の述語を寡聞にして知りませんので、あえて以下では(a)と(b)を合わせた全体を「〇〇托」、(b)のみを「〇〇床」と書くことにします。

 ゼニゴケ Marchantia polymorpha は雌雄異株です。 雨などで雄器床の表面に出てきたゼニゴケの精子(正確には精細胞:こちら)は、雄器床に雨粒などが当たると撥ね飛ばされ、散らばります。 この精子はどのようにして卵細胞にたどりつくことができるのでしょうか。
 卵細胞のある造卵器は雌器床の下に守られるように垂れ下がっていて、造卵器の入口は下を向いています(こちら)。 精子が撥ね飛ばされて造卵器の入口にくっつくなどはほとんど不可能です。 また地表や雌株の葉状体の上などに落ちた小さな精子からすれば、雌器托はとても高くそびえ立っていることになるでしょう。 さらに、精子の多くは、泳げない精細胞の状態です。
 泳げない精細胞が雌株の葉状体の上またはその近くに落ちたとして、精細胞ははどのようにして雌株の①葉状体から②雌器托の柄を登り③雌器床の下にある造卵器にたどりつくのでしょうか。 結論を先に書くと、精細胞運搬のしくみがあるようです。 ①~③の順に、2回に分けて、そのつくりを精細胞の移動に焦点を当てて見ていくことにします。

① 葉状体


 上はゼニゴケの葉状体の中央付近の横断面のです。 葉状体を種子植物の葉に例えるなら、葉の主脈のようなものが、多くの場合は2本並行して腹面(地面などの基物に接する側)に走っています(多くの場合はたくさんの仮根に隠されていますが・・・)。


 ゼニゴケの腹面に見られる仮根には平滑仮根と有紋仮根の2種類あります。 上は平滑仮根で、1枚目の写真の一部を拡大して撮り直したものです。 細胞壁に微小な斑点状の肥厚しか持たない平滑仮根は主に“主脈”近くから出て地面などの基物に向かい、葉状体の固定や基物からの水分などの導入の経路として機能しています。


 上は有紋仮根です。 有紋仮根は内生肥厚による紋様を持ち、葉状体の腹面全体から生じ、“主脈”方向に腹面に沿って伸び(上の写真)、次第に寄り集まって束化していきます。 じつは“主脈”は腹鱗片に囲まれた有紋仮根の束で、1枚目の写真では束化したたくさんの有紋仮根の断面が写っています。 下は1枚目の写真の有紋仮根の束の断面部分を拡大したものです。


 有紋仮根の束化により生じたたくさんの隙間による毛管現象で、葉状体の腹面全面での水の移動が可能になっているのですが、精細胞もこの水の移動に乗ることができます。

>>> その2 


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