2017-10-07

ホソべリミズゴケ


 写真はホソべリミズゴケ Sphagnum junghuhnianum ssp. pseudomolle です。 水の沁み出る斜面と山道との境にありました。
 日本で見られるミズゴケの仲間は、そのほとんどが北方系ですが、本種は日本では稀な南方系のミズゴケです。


 ミズゴケの仲間には、茎から横に伸びる開出枝と、茎に沿って下に伸びる下垂枝の、2種類の枝があります(上の写真)。 1枚目の写真で写っているのはほとんど開出枝です。


 上は開出枝です。 開出枝につく枝葉は内曲し、先はやや反り返っています。


 上は茎を隠している開出枝と下垂枝を取り去って撮ったものです。 茎の色は褐色です。 茎の横から出ている枝を見ると、1ヶ所から開出枝が2本と下垂枝が1本出ています(2枚目の写真は平らにするために開出枝の1本を除去しています)。
 茎葉は茎に張り付いていて見るのが難しいのですが、よく見ると写真の上の方で確認できます(写真の中ほどの茎葉は調べるために取り去っています)。 また写真の中央少し下には表皮を剥ぎ取った跡が写っています。 この剥ぎ取った表皮を検鏡すると・・・


 ホソべリミズゴケの表皮細胞は3層ですので、下の層の細胞も見えてしまいますが、表皮細胞は長方形で、孔が無いことは確認できます。


 上は茎葉です。 左側に少し皺がよってしまいましたが・・・ ホソべリミズゴケの茎葉は二等辺三角形で、舷は下部でも広がっていません。 また、中央部より上の透明細胞には糸状の肥厚が見られます。


 上は茎葉の縁近くです。 舷は2~3細胞列です。


 上は茎葉の先端で(4枚を深度合成しています)、数個の歯があります。 緑色の部分が光合成能力のある葉緑細胞で、白っぽい部分が水を貯め込んでおく透明細胞です。

 次に開出枝の枝葉を見ていきます。


 上は枝葉の断面です。 3枚目の写真で見たように枝葉は内曲していますから、写真の上側が腹面(枝に面している側)で、写真の下方が背面です。 断面で葉緑細胞は二等辺三角形で、腹面に広く、背面にはわずかしか開いていません。 つまりホソべリミズゴケの場合は、枝葉を腹面から見ると葉緑細胞がはっきり見えるが、背面から見ると透明細胞の壁に邪魔されて葉緑細胞ははっきりとは見えないということになります。


 上が腹面から見た枝葉で、葉緑細胞がはっきり見えます。 透明細胞の表面には強度を保つための糸状の結合組織が見られます。


 上が背面から見た枝葉です。 葉緑細胞はぼやけています。 透明細胞の表面には腹面では見られなかった、縁の厚い接合孔(注1:赤い○)や3子孔(注2:青い〇)など、たくさんの孔が見られます。

(注1) 接合孔:葉緑細胞を隔てて隣の細胞のものと相対する所にできる孔の組
(注2) 3子孔:透明細胞の角隅に相対する所に孔が3個集まったもの

(2017.10.4. 奈良県 川上村

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