2021-05-10

蘚類の葉序(カマサワゴケの葉のつき方から)

 

 上は昨日のカマサワゴケの植物体の再掲ですが、茎全体が角柱状になっています。 これは葉が規則的に茎についているからで、今回はこの葉のつき方を深堀りしてみました。

 上は茎の真上から撮った写真(グレースケールにしています)で、葉をつけた茎は5角柱であることが分かります。 5角柱になっているのは、葉が5列についているからでしょう。 規則正しく葉がついた結果、5列になる場合の葉のつき方は・・・

 上のカマサワゴケの写真を見ると、葉は同一平面の5方向についているのではありません。 葉は螺旋状についています。 上の写真のように拡大すると5列かどうかはっきりしなくなりますが、a-b-・・、c-f-・・、d-g-・・、e-h-・・ の4列に陰になって見えない1列を加えた5列です。
 螺旋状に5列になる葉のつき方を考えてみました。

 上は葉のついた茎の横断面を示す模式図で、①~⑥は葉の位置を示しています。 Aはある葉(これを①とします)に注目した場合、その上につく1枚目の葉(②の葉)は時計回りに茎の周囲を 72°回転した位置につくことを示しています。 同様に、Bは 144°回転した場合を、Cは 216°回転した場合を示していて、いずれの場合も5枚目の葉(⑥の葉)が真上に来ます。 規則正しく5列に葉が並ぶケースはこれ以外には考えられません。
 じつはBとCは根本的には同じです。 Bの葉は時計回りに144°回転してついていますが、これを反時計回りに回転させるとCになります。 同様にAの反時計回りも考えられますが、割愛しました。

 上の3枚目写真のカマサワゴケと、上の模式図を比較して、カマサワゴケの葉のつきかたは模式図のどのパターンでしょうか。
 ある葉に注目し、その葉の左右にある葉の高さを見ると、Aの場合は①の葉とあまり高さの差が無く②の葉があり、その反対側にある⑤の葉とはかなりの高さの差があることになります。 BやCの場合はある葉の左右の葉との間に高さの差は少ないことになります。
 そのようにして見ると、3枚目の写真のカマサワゴケはCのパターンになると思います。 aの葉を①とすると②は隠れて見えず、cが③、dが④、eが⑤、bが⑥になります。

 カマサワゴケの葉のつき方を整理してみましょう。 ある葉(これを0枚目の葉とします)に注目すると、その上の葉は茎の周囲を2/5回転して付き、その上の葉も茎の周囲をさらに2/5回転して付き、同様のことを繰り返し、2/5(回転)×5=2(回転)で、茎の周囲を2回転して5枚目の葉が真上に来ます。 このような葉のつき方を 2/5葉序と言います。(葉序の「序」は「順序」の「序」、「秩序」の「序」です。)

 こちらには同じような葉のつき方をして枝が5角柱に見えるゴレツミズゴケを載せていますが、この場合も上と同様でしょう。

 このような葉のつき方は茎や枝が5角柱に見えるカマサワゴケやゴレツミズゴケなどに特有のものでしょうか、よく伸びたコツボゴケがあったので調べてみました。

 上の写真のコツボゴケの場合は、たぶんその時々の環境によって茎の伸び方が異なり、葉と葉の間隔がまちまちですし、長く伸びる茎では茎のねじれも無視できませんが、基本的には葉はBのようについていて、 2/5葉序のようです。

 苔類の場合は葉(側葉)と腹葉という2種類の葉の存在が基本となり、上のような葉序の概念を当てはめるのは難しくなりますが、基本的に同じ葉で構成されていることの多い蘚類の場合は、葉はデタラメにつくのではなく、何らかの葉序に従っているように思います。
 例えばホウオウゴケの仲間は、茎の左右に葉をつける 1/2葉序であり、コシノヤバネゴケやミスジヤバネゴケなどは 1/3葉序です。 また茎の周囲に葉をたくさんつける種では 3/8葉序や 5/13葉序もありそうです。(そのことを写真で示すのは大変なので、今回は止めておきます。)

 この葉序の数を順に並べると、1/2、1/3、2/5、3/8、5/13、・・・ という数列になりますが、これらの数の間には、
 (前の2つの数の分子の和)/(前の2つの数の分母の和)が次の数になるという不思議でおもしろい関係があります。
 例えば 1/2、1/3 に続く次の数は (1+1)/(2+3)=2/5 ですし、
 1/3、2/5 に続く次の数は (1+2)/(3+5)=3/8 です。
 なお、ある数列で前の2つの数の和が次の数になる場合は「フィボナッチ数」として知られていて、分子と分母を別々に見ていくと、どちらもフィボナッチ数だということになります。
 これは科学的に言えば茎頂で細胞分裂が一定のルールに従って正確に葉の元になる細胞を作る結果でしょうが、やはり小さなコケにもあちこちに“生命の神秘”が潜んでいることを感じます。

-----(以下、2021.6.30.追記)-------------------------------------------------------------
 6月21日~7月4日の期間、広島大学統合生命科学研究科シンポジウムがオンラインで開催されています そのプログラムの1つとして嶋村先生が動画「広島大学のコケ植物自然誌研究 〜90年のあゆみと現在〜」を公開されていますが、その中で葉序についても触れられています。
 動画の中では、1/2葉序の例としてミズゴケモドキが、1/3葉序の例としてコマチゴケが、2/5葉序り例としてヒメツリガネゴケが、3/8葉序の例としてエゾスナゴケが挙げられていますが、これらは頂端細胞の分裂面の回転によって制御されていることを示されています。

 上は動画の中の1コマで、1/3葉序の場合です。 丸みを帯びた三角形が長短分裂細胞で、黒丸は核を、黒い楕円は分裂中の核を示しています。 なお、メロファイトとは、頂端細胞から切り出された1つの細胞に由来する細胞群のことで、植物体の組織分化の基本単位です(上の場合は葉になっていきます)。 コケ植物の植物体はメロファイトが積み重なった構造と言えるでしょう。

0 件のコメント:

コメントを投稿