2021-05-29

フチナシイボクチキゴケ

 岩上を這う糸くずのようなコケ、拡大して見ると・・・

 外見はクチキゴケに似ているのですが、色が濃く、触ってみると厚く硬い感じがします。 以下の観察結果から、フチナシイボクチキゴケ Odontoschisma pseudogrosseverrucosum と判断しました。
 従来イボクチキゴケとされていた日本の標本の大半が本種なのですが、Odontoschisma(クチキゴケ属)の世界的な分類学的再検討が Gradstein & Ilkiu-Borges(2015)により行われ、従来のイボクチキゴケの学名 Odontoschisma grosseverrucosumフチドリイボクチキゴケの学名となっています(片桐・古木,2015)。

 枝につく葉は次第に大きくなったり小さくなったりで、枝の一部は鞭状になっています。

 葉は全縁です。 葉身はほぼ平らですが、縁はやや内曲ぎみのため、上の写真では色濃くみえています。

 葉身細胞は縦横ほぼ同径で 10~20μmです。 トリゴンは小さく、油体は丸~楕円体で、各細胞に2~4個あります。 上の写真の葉の縁を見ると、細胞の外側にもこもこしたものがあって・・・

 上は葉身細胞にピントの合った状態から、ピントの合う位置を少し上にずらした写真です。 葉縁だけではなく、葉の中央部でも葉身細胞を覆うように透明な丸いものがびっしりとあるようです。 平凡社の図鑑の検索表では本種の葉身細胞の表面には著しいベルカがあることになっていますが、少なくとも上の写真のものはベルカと呼ぶには大きすぎるように思います。
 表面からでは、どうなっているのかよく分からないので、葉の断面を作ってみました。


 上の2枚は葉の断面です。 背面も腹面も、葉全体が透明なものに厚く覆われています。 この透明なものは巨大なパピラがひしめきあっている状態と理解すべきなのでしょうか。

 腹葉は痕跡的です(上の写真)。

 上は鞭状になった枝の一部です。 葉(側葉)は腹葉とあまり変わらない大きさになっています。

(2021.5.24. 奈良県宇陀市)

こちらには花被をつけ赤っぽくなったフチナシイボクチキゴケを載せています。

【参考文献】
片桐知之・古木達郎(2015).日本産タイ類・ツノゴケ類学名情報1.クチキゴケ属Odonto-
schisma.蘚苔類研究11(5).

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