2022-01-19

イトラッキョウゴケ

 渓谷の木に覆われた岩上にあった写真のコケ、センボンゴケ科だろうと平凡社のコケ図鑑の検索表で調べたのですが、下のあちこちに書いたような理由で、どうしてもそれらしいコケに行き当たることができません。 Facebookに載せ、秋山先生に同定を依頼した結果は、以前にも載せた(こちら)イトラッキョウゴケ Anoectangium thomsonii だろうということになりました。

 上は少し離れた所にあった、岩から垂れ下がるようにして育っていたコケで、蒴は付けていませんが、葉を調べた結果は同種のようでした。

 上の写真の上は乾いた状態で、下は湿った状態です。 湿った状態では仮根が分かりにくくなっていますが、葉が褐色になった部分の茎では仮根が発達し、互いに絡み合って密なタフトを形成しています。 そのうえに古い茎はもろくなっていて、上の写真のいずれも、茎の下部は切れてしまっています。
 葉は長さ1~1.5mmで、乾くと葉は中央で折り畳まれ、ゆるく茎につきます。 蒴柄は長さ約5mm、蒴は短円筒形で、長さは約 0.7mmです。

 葉は狭楕円形~狭披針形、葉縁は全縁で平坦、葉先は鋭尖です(上の写真)。 葉の基部は広がらず、鞘状になっていません。 中肋は葉先に達しています。
 葉の幅は中央付近で最も広くなっています。 平凡社のセンボンゴケ科の属の検索表では、本種の属するメンボウゴケ属(Anoectangium)に至るには「ふつう基部付近でもっとも幅広い。」を選ぶことになります。 この選択は[葉は狭いか幅広いか]とのセットですので、どうにかクリアできますが・・・。

 上は葉先です。 密なパピラがあるため、細胞の輪郭は不明瞭です。

 上は葉の基部です。 平凡社の図鑑では本種の葉の基部の細胞は広楕円形となっていますが、矩形の細胞が多いようです。 中肋に近い細胞は長く、葉縁に近づくにつれて短くなっています。
 センボンゴケ科の葉の下部の細胞は、ふつう透明で平滑ですが、上の写真では透明ではありません。 これもセンボンゴケ科を疑うことになった理由の1つですが・・・

 上のような葉もありました。 葉の細部も複数の葉で確認しなければならないということですね。

 上は葉の中央付近です。 上のような倍率まで拡大すると細胞の輪郭も分かります。 葉身細胞は厚壁、方形で、各細胞にはイボ状のパピラが4~6個あります。

 上は葉の横断面です。 中肋の横断面でステライドは背面側だけにあります。 これが私が同定できなかった最大の原因で、平凡社のセンボンゴケ科の属の検索表では、「中肋のステライドはふつう背腹両面にある。」を選ばないと、本種の属するメンボウゴケ属(Anoectangium)には至りません。 メンボウゴケ属の解説文には「中肋の横断面でガイドセルの背面側にステライドがある。」とあるのですが・・・。

 中肋の横断面は多くの葉で作りましたので、もう1枚載せておきます。 上の写真では中肋の背面にもパピラがあること、葉身細胞のパピラは背面にも腹面にも同様にあることが分かります。

 上は茎の横断面で、中心束があります。

 上は蒴の断面を内側から撮っています。 蒴には蒴歯も口環もありません。

(2021.12.24. 奈良県十津川村)

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