以下は Part1の 2012.7.25.に載せていたものを、一部書き換えてこちらに引っ越しさせた記事です。
2012年7月23日のNHKラジオ第一放送の「夏休み子供科学電話相談」で、昆虫の脚はなぜ6本なのかという小学生の質問に対して、昆虫担当の先生は、昆虫の体は頭、胸、腹に分かれていて、脚は胸から生えているが、その胸が3つに分かれていて、そのそれぞれから1対の脚が生えているから、というような内容を答えられたということでした。
私は直接ラジオを聞いたわけではなく、上の話はブログ友達のブログに書かれてあったことですので、誤解があるかもしれませんが、質問した小学生はこの答で満足したのでしょうか。 短い時間に明瞭に答えなくてはならないことは分かりますし、答の内容は間違っているとは言えませんが、下に書くように原因と結果を逆にしているように思います。 それに、小学生は6本生えている意義を聞きたかったのではないでしょうか。 私たちの足は2本、犬や猫の足は4本。 なのにどうして昆虫は6本なの? 足は多い方がいいの? 少ない方が便利なの? そんなことを聞きたかったのではないかと思います。 それに対する答が、脚のつく場所が6ヶ所だから、では、私なら不満です。 それなら、なぜ昆虫の胸は3つに分かれてなければならないのでしょうか。 もし、脚が8本の方がいいのなら、4つの節の胸にすればいいのです。
節足動物はミミズのようなたくさんの節からなる生物から進化しました。 原始的な節足動物の各節はほぼ“平等”で、脚もほぼ全ての節についています。 それが進化の過程で各節の“分業”が進みました。
昆虫はエビやカニなどの甲殻類から分かれて進化してきましたが、脚や翅などでの移動を担当する胸部は3節でなければならない必然性はなかったはずです。 胸部が3節だから脚が6本あるのではなく、脚は6本の方がいいから胸部は3節になったと考える方がいいのではないでしょうか。
なお、昆虫の翅は4枚で、中胸と後胸に1対ずつついています。 もし脚が犬や猫のように4本の方がいいのなら、なにも胸部が3節だからといって、脚を6本にする必要は全くありません。 2本を退化させれば済むことです。 なお、これらの胸部と翅や脚の位置関係については、 Part1のこちらやこちらなどに載せています。
では、なぜ6本がいいのか。 その前に確認しておきたいのは、上にも書きましたが、節足動物の脚はたくさんあるものから、整理されて減少する方向に進化してきたということです。 Simple is Best ということでしょうか、カニは10本にまで減り、陸に上がって節足動物の中で最も進化していると考えられている昆虫では6本にまでなり、その状態がいろいろと都合がいいので、そこで減少を止めたと考えられます。
では、なぜ6本がいいのか。 私は「6」は「3+3」としても「2+4」としても使えるからだ、と思っています。
その説明に入る前に、これからの話をしやすくするために、脚に下のような番号をつけることにします。 ●が頭で、①~⑥が脚です。 ①と②が前脚、③と④が中脚、⑤と⑥が後脚です。
② ④ ⑥
●
① ③ ⑤
まずは「3+3」から。 三輪車を想像すると分かりやすいと思いますが、地面上の物体が安定して存在するためには、三角形を構成する最低3つの支点が必要です。 上の図の脚を、①④⑤のグループと②③⑥のグループに分けると、どちらか一方のグループの脚を上げたままでも体は安定です。
下は走って逃げているオサムシの一種を撮ったものです(だからピントは合っていません)が、脚に注目すると、②より①が、③より④が、⑥より⑤が前に来ています。 つまり写真の状態は①④⑤グループの脚を前に持ってきた状態と言えるでしょう。
いつも体を安定な状態に保っておけることは、忍び足でゆ~っくりと進む時などにも、とても有効でしょうね。 なお、上の話は、『ふしぎの博物誌』(河合雅雄編:中公新書1680)をヒントにしています。
次に「2+4」についてです。 昆虫の体は左右ほぼ対称です。 移動する時の脚は左右非対称に動かしますが、左右にしか無い脚で対称性を守ったまま、安定した静止姿勢を保つためには脚は最低4本必要です。 4本脚の机を想像してもらうといいかもしれません。 では、6本の脚の残った2本は? 餌を捕えたり顔を掃除したりなど、「手」として使えるのです。 例えばカマキリのようにあまり素早く走る必要の無い昆虫では、前脚の2本は、他の4本とは異なった形態になってしまっています。 また、静止している時には4本の脚しか使わない昆虫はたくさんいます。 このことに関しては、 Part1に次のような記事を載せてきました。
タイワンウチワヤンマ(トンボの足は何本?)
4本の足で止まる①(コシアキトンボ、チョウトンボ)
4本の足で止まる②(ヒメアカタテハ、ナシイラガ)
最後に、6本の脚がそんなにいいのなら、なぜ哺乳類の足は4本なのかも、少し考察しておきます。 もちろん私たち人間も4本です。
昆虫の脚と哺乳類の足は出発点が違います。 上に書いたように、節足動物はたくさんの脚を持つものから減少させる方向に進化してきました。 ところが脊椎動物のスタートは、魚類のように足が0からのスタートです。 陸に上がる時に、体を安定して支えるためにも移動のためにも足が必要になり、左右対になっている胸鰭と腹鰭を工夫して4本の足を作りました。 これ以上足にする“元”もありませんし、4本あればどうにかやっていける、ということなのでしょう。 なお、4本足のゆっくりした移動では、やはり体を支えるために3本の足を使いますので、足は1本ずつ動かすことになります。
進化という過去の歴史を経て現在の生物があります。 歴史を見ないと現在を見誤ります。 虫の歴史も無視できません v(^_-)
最初のラジオの質問、私なら次のように答えるかな?
Q こんちゅうの足は、なぜ6本なんですか?
A 足はね、3本あると体が安定するんだよ。 足の不自由なお年寄りがツエを使っているのを見たことがあるでしょ。 3本の足で体を支えると、残りの3本の足は進みたい方向などに動かせるよね。 このようにすると、いろんな動きをするのにとても便利なんだ。 それにね、カマキリのように、4本の足をふんばって体を支えて2本を手のように使うことだってできるんだよ。
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