『ミクロの世界のコケ図鑑』作成時にp217の写真を提供いただいた北海道の泉田さんから、環境省絶滅危惧Ⅰ類のテヅカチョウチンゴケ Plagiomnium tezukae かもしれないので見てほしいと、生育環境を撮った上の写真と共に、標本が送られてきました。 生育地はやや湿った土上で、同種と思われる群落は他の同様の環境でもみつかっているとのことです。
上の写真でも分かりますが、送られてきた標本は匍匐茎ばかりでした。 チョウチンゴケ科で匍匐茎のあるのは Plagiomnium(ツルチョウチンゴケ属)だけですので、この属に絞って検討しました。
平凡社の検索表をたどると、たしかにテヅカチョウチンゴケに落ちそうなのですが、特に葉縁の歯の様子などから、私はオオチョウチンゴケモドキ Plagiomnium ellipticum ではないかと思います。
本種は平凡社では和名は新称とされていて検索表にあるだけですし、野口図鑑にも記載されていません。 ネットで検索すると、和名ではほとんど情報は得られませんが、学名で検索するといろいろ出てきました。 分布地図を見ると、ヨーロッパ、カナダ、アラスカなど北半球を中心に広く分布し、日本でも北海道や本州中部(たぶん高山)で確認されているようです。
上の写真の背景は1㎜方眼です。 上の茎の長さは約5cmですが、文献(北アメリカ産)では最長12cmほどにまでなるようです。
葉の混み方にはかなりの違いがあります(上の2枚の写真)。 葉の大きさも条件によって変化するようです。 ネットで検索して出て来る本種(北アメリカ産)の葉の長さは (1-)2-6(-8)mm となっていますから、写真のものは少し小さめのようです。
葉は乾くと上のように縮れてねじれます。
葉の基部はほとんど下延していません(上の写真)。
上の2枚は(匍匐茎の)葉ですが、最初から2枚目の写真を見ても、葉形は、楕円形、卵形、円形など、変異があります。
平凡社の検索表では、葉先が円頭ならテヅカチョウチンゴケになり、本種へ向かうには「葉は鋭頭」を選ばなくてはなりません。 最初から2枚目の写真を見ても、円頭を選びたくなるのですが、本種を学名で検索して出てくる写真は上に近い写真ばかりです(例えばこちら)。 検索表の「鋭頭」は葉先の尖突している部分のことでしょうか?
中肋は葉先に届くか、葉先近くに達しています(上の2枚の写真)。 ヨーロッパや北アメリカのものでは突出することも多いようです。
上は葉先から1/3ほどの所です。明瞭な舷があります。 なお、この舷は全周で明瞭です。
葉身細胞の多くは細長い六角形で、並び方は縦列および斜列です。 細胞の大きさは、縁近くでは明らかに小さくなっています。
上の2枚は葉縁を撮った写真で、上は葉先から1/3ほどの所、下は葉先から2/3ほどの所です。 葉縁上部には、1~2細胞からなる鈍い歯がありますが、葉縁下部には歯は存在しません。 テヅカチョウチンゴケでは葉縁全周に2~3(~4)細胞の鋭い歯があるはずで、この違いが両種を区別する最も明瞭な特徴ではないかと思います。
上は中央付近の葉身細胞です。 細胞壁のあちこちにくびれが見られます。 なお、最初から12枚目の写真(中肋~葉縁が写っている写真)の所にも書きましたが、葉身細胞の大きさや形にはかなりの違いがあり、細胞の長さは文献では(30-)50-65(-85)μmとなっています。
【参考文献】
いろいろなサイトを見たのですが、いちばん参考にした所を、1つだけ下に載せておきます。 Flora of North America @ efloras.org の vol.28 の 233ページです。
http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=200001513






















