2020-11-22

カヤゴケ

 

 擁壁をいちめんに覆う写真のコケ、同定に困った時に頼りにする西宮市のSさんから、アオギヌゴケ科のカヤゴケかもしれないと言っていただき、追加していろいろ観察した結果、やはりカヤゴケ Rhynchostegium inclinatum のようでした。 いろいろと検討したので、今回はたくさんの写真になっています。
 平凡社の図鑑には「(アオギヌゴケ科は)分類のもっともむずかしい科の1つである。」と書かれていて、そのなかでもカヤゴケ属の解説には「同定はむずかしい。」と書かれています。

 まずは植物体から検討していきます。

 茎葉は多少扁平につき、長さは 1.8mmほどです。


 上の3枚は茎葉です。 ほとんどの茎葉は傷んでいて、きれいな葉はみつかりませんでした。 茎葉は卵状披針形で、漸尖し鋭頭、全縁に小さな歯があります。 葉の中央部はあまり凹んでいません。 翼部は、上の写真ではちょうど葉の曲がり具合と光のせいで明瞭な境があるようにも見えますが、細胞の形に注目して見ると、翼部は不明瞭と言って良いと思います。 なお、翼部はほとんど下垂していません。
 中肋は1本で、葉長の2/3あたりにまで達しているのですが、弱くて、しわと紛らわしく2叉しているように見える場合も多くあります。 このような中肋の傾向は、同属のコカヤゴケの場合にも見られました(こちら)。

 上は茎葉の葉身細胞です。 細胞の長さは、ほとんどの細胞が 110μm以下で、それより長い細胞も少数ありますが、その場合でも 120μmを越えることはありませんでした。


 上の2枚は枝葉です。 葉先は鋭頭で、コカヤゴケのように長く尖ってはいません。

 上は茎の断面で、下はその中央部分の拡大です。 中心束が分化しています。

 以下、胞子体の観察です。

 上は若い蒴で、帽がついています。 帽は僧帽状で平滑です。

 上は帽の取れた蒴で、蓋には長い嘴があります。 乾いた標本を撮影しましたので、蒴の曲がりは生品より強くなっています。

 上は蓋も取れた蒴で、少し写真が小さいですが、ほぼ同じ長さの内蒴歯と外蒴歯が揃っています。 蒴柄は赤色で、長さは2cmほどあります。 顕微鏡で確認したところ、蒴柄は平滑で、パピラはありませんでした。

 上の写真のように、蒴壁の下部にはたくさんの気孔がありました。

 以下、蒴歯を顕微鏡下で観察しようとプレパラートを作成していたところ、うまく外蒴歯と内蒴歯を分離させることができました。

 上は外蒴歯です。 上部には微細なパピラがあり、下部には横条があります。

 上は内蒴歯です。 普段は外蒴歯に邪魔されてなかなかうまく観察できない内蒴歯ですが、よく分かる写真が撮れましたので、名称をつけておきました。
 やや高い基礎膜があります。 間毛はよく発達していて、本来は歯突起とほぼ同じたかさがあるはずですが、途中で折れてしまっているようです。 歯突起や冠毛には微細なパピラがあります。

(2020.11.8. 六甲山)

◎ カヤゴケはこちらこちらにも載せています。

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