上の写真は、木の幹についているコケを、幹を見上げて撮った写真で、写真の上が梢の方向になります。 木の幹を這う一次茎から立ち上がった二次茎は葉を覆瓦状に密につけています。 分枝は少ないようです。
ところで、コケ愛好家の集まりであるオカモス関西は、新型コロナの影響のため、このところビデオチャットサービスであるZoomを使った「コケサロン」を開催しています。 写真のコケの種名が分からなかったので、私もこのコケサロンに参加し、顕微鏡写真など数枚の写真を提示して意見を求めました。 写真からですし、小さな画面で分かりづらいこともあったでしょうが、いろいろ意見をいただきました。 その意見を参考に不足していた観察を追加した結果は、平凡社の図鑑の記載とは少し異なる点もあるのですが、フクラゴケ(ナワゴケ) Eumyurium sinicum だろうと思います。 分布は本州~琉球です。
なお、この属名 Eumyurium は、野口(1947)が、他の Myurium とは色々の点で異なっているとして新属をたてたもので、写真のコケは Myurium hochstetteri ではないかという意見もいただきました。 Myurium属は世界的には広く分布していますが、岩月(1979)は日本の Myurium と思われていたものは Oedicladium であるとしています。(英文からですので、この理解が間違っているかもしれませんが・・・)
Oedicladium属についても調べてみましたが、写真のコケに似たものはあっても、平凡社の記載からは、よく一致するコケはみつかりませんでした。
写真のコケと同種と思われるコケは、あちこちに見られました。 場所によっては上の2枚の写真のように鞭枝状の枝を出しているものもありました。
二次茎の葉は2mm前後で、茎の中上部の葉は縦ひだがありますが、下部につく葉にひだは見られません。
上の2枚は、上が縦ひだのある葉、下はひだの無い葉です。 どちらの葉も広卵形で舟形に深く凹み、先は急に細くなって尖っています。 中肋はとても短く二叉しています。
上の2枚は葉の基部です。 平凡社の図鑑では、「翼細胞は方形で褐色」とあるのですが、茎のどの場所についている葉を見ても、上の記載によく一致する葉は見あたりません。 たしかに他より矩形に近い細胞は少数存在するのですが・・・。 なお、野口図鑑には本種の翼細胞に関する図は載せられていません。
上は右側の葉縁が折れて内側に来ています。 葉はほぼ全縁ですが、上の写真のように葉の上部に小さな歯が見られることもあります。
上は葉身細胞です。 細胞の長さは 50~70μmです。
上は二次茎の断面です。 表面近くは厚壁の細胞が厚い層を成しています。
(2021.3.3. 宮崎県日南市)
◎ フクラゴケはこちらにも載せています。