2023-01-31

キジノオゴケ

 写真はキジノオゴケ Cyathophorum adiantum です。 一次茎は岩上を走り、写真はそこから立ち上がった二次系です。 二次茎の基部は仮根が密に絡まりあっていました。 二次茎の枝分かれはほとんどありません。
 上の写真で、二次茎の先が細く褐色になっています。 この部分は無性芽をたくさん作る部分で、その役割を終えて枯れてきているのだと思います。


 本種の葉は左右に広がる側葉と腹面にある腹葉とからなります。 上の2枚の写真は腹面から撮っています。

 上は側葉です。 長さは約4mmですが、平凡社では5~6mmとなっていて、少し小さいようですが、株全体が少し小さめです。
 短い中肋があるのですが、上の写真では光って分かりにくくなっています。 葉縁には刺状の長い歯があります。
 下は上と同じ葉ですが・・・

 葉は乾くと上のようにねじれます。

 上は葉縁の刺状の歯です。

 葉身細胞は細長い六角形で、長さは 80~110μmです(上の写真)。 細胞壁の所々が黒ずんでいますが、その部分を拡大すると・・・

 接する細胞の細胞壁が同じ所で薄くなり、細胞壁と細胞壁との間に隙間ができています。 たぶん細胞間の物質交換に役立っているのだと思います。

 上は腹葉です。 中肋はありません。

 上は無性芽です。 ここで見た群落では、主に無性芽を作る茎の上部が既に枯れかけているようだと書きましたが、それに続く葉をめくると、まだたくさんの無性芽がついていました。

(2023.1.16. 奄美大島)

◎ 造精器をつけた本種の雄株をこちらに載せています。


2023-01-30

リュウキュウシノブゴケ

 写真はリュウキュウシノブゴケ Thuidium glaucinoides だと思います。 一次茎は岩上を這っていました。
 上の写真は雨に濡れていて、枝がしわのある葉のようにも見えます。

 葉は小さいのですが、植物体としては大形です。

 枝は平らに、茎から2~3回羽状に分枝しています。

 茎や太い枝には多くの毛葉があります。

 上は茎葉ですが、葉先が失われています。 葉縁は上部を除き反曲する傾向にあるようです。 上の写真では毛葉もくっついてきています。

 上は茎葉の上部です。 茎葉の先は鋭頭で、透明尖はありません。 中肋は1本で、葉先近くに達しています。 先端の細胞は鈍頭です。

 上は茎葉下部の葉縁に近い所の細胞です。 葉身細胞には1個のパピラがあります。 多くのパピラは先が分かれていません。

 上の写真は、毛葉と、左上には茎葉の一部が写っています。 毛葉は長さ10細胞以上あり、曲がったり枝分かれしたりしています。 毛葉の細胞は短く、中央にパピラがあります。

 上は枝先です。 枝葉の中央は深く凹んでいます。

 細い枝には毛葉はほとんどありません(上の写真)。

 上は枝葉です。

(2023.1.16. 鹿児島県)

◎ リュウキュウシノブゴケはこちらにも載せています。

2023-01-29

ヒスイカズラ

 写真はヒスイカズラ Strongylodon macrobotrys です。 葉は3小葉です。 大阪市の「咲くやこの花館」によると、例年3月と4月下旬に咲くが、1月の開花は珍しいとのことです。 自生地はフィリッピンですが、森林の伐採などで自生のものは全滅寸前とのことです。

 じっくり見ればたしかにマメ科の花ですが、大きな総状花序や花の色からは、マメ科のつる植物とは思えません。

 ガクの歯は幅広く鈍頭です。 属名はギリシア語の strongylos(丸い)と odoys(歯)に由来し、ガクの形態にちなんでいます。
 コウモリ媒花で、オオコウモリが蜜を求めて竜骨弁につかまると、その重さで隠れていた雄しべと雌しべが現れてオオコウモリの頭に触れるしくみのようです。 これも共進化の例でしょう。

(2023.1.20. 咲くやこの花館)

2023-01-28

ウニバヨウジョウゴケ

 コツボゴケの葉の上にウニバヨウジョウゴケ Cololejeunea spinosa が点々とついていました。 下は上の赤い楕円部分の拡大で・・・

 上のウニバヨウジョウゴケは花被をつけています。 本種の和名は「ウニのような棘のある葉を持つ葉上に育つコケ」という意味でしょうが、よく見ると、花被にも棘のようなパピラがあります。
 この花被を顕微鏡で観察するためコツボゴケの葉から離そうとしたのですが、コツボゴケの葉は乾くと強く捲縮してウニバヨウジョウゴケを隠してしまい、湿らせるとウニバヨウジョウゴケがとても柔らかくなり、触っているうちにつぶれてしまいました(-_-; したがって、以下は葉の観察のみです。

 葉は卵形で、背側にやや偏向しています。

 上は背片をほぼ背面から撮っています。 各細胞の中央には高さ 12~18μmの円錐形のパピラがあります。

 上は腹面から腹片をとおして背片基部の細胞にピントを合わせています。 背片基部の赤い楕円で囲った所にスチルス状の細胞がありますが、この様子は葉によって一定しません。

 上は腹面から腹片の腹面にピントを合わせています。 腹片の腹面にパピラはありません。 油体は各細胞に数個あり、均質です。

 上は腹片の歯牙にピントを合わせています。 第1歯は1細胞幅で2細胞長、第2歯は横に長い単細胞からなり、先端がやや尖っています。

(2023.1.17.)

◎ ウニバヨウジョウゴケはこちらにも載せています。

2023-01-27

蒴をつけたヒメウルシゴケ

 

 上は2023.1.17.に鹿児島県で撮ったヒメウルシゴケ Jubula japonica ですが、蒴をつけています。 右下と、焦点が合っていませんが上中央に開裂した蒴があり、左上には花被や、もうすぐ花被から出るであろう黒い蒴が見えます。
 大阪付近でもこの時期に蒴をつけるのか、気になります。

 上は腹面から撮っています。 背片の縁には長歯があります。

 腹葉の縁にも長歯があります。 長歯の数は、背片も腹葉も平凡社の図鑑よりも少ないのですが、いろいろなケースがあるようです(こちらこちら)。
 腹葉の基部は長く下延しています。

 上は葉身細胞です。 油体には眼点がありました。


 上の2枚は胞子体を横から撮っています。 胞子体の高さは約3mmでした。 胞子体のすぐ下から新しい枝が出ています。

 開裂した蒴には多くの弾糸がくっついています。 開裂した蒴の径は、弾糸を含めず、約1mmです。

 上は弾糸です。

2023-01-26

オカムラケビラゴケのひも状の茎は何をしているのか

 茎の先がひも状になったオカムラケビラゴケ Radula okamurana を1月22日のこのブログに載せましたが(こちら)、Facebookにも上の写真を載せました。 そして、コメントでこのひも状の茎は先端に少し大きな葉をつけ、その葉に無性芽をつけるのではないかと書いたところ、いろいろなレスポンスをいただきました。 そこで、もう少し詳しく、このひも状の茎について観察することにしました。


 通常の葉をつけている茎からひも状になっている茎への移行部を見ると、背片と腹片がそろって小さくなったと思われる葉が見られます(上の写真)。 また、ひも状になった茎についている鱗片状の葉も、よく見ると浅く2裂していて、背片と腹片に分かれていた“名残り”を感じます。 そして茎の先端に近づくにしたがって腹片が次第に大きくなり、茎の先端近くになって急に鱗片葉より大きな葉をつけているように見えます。
 山田(1994)は、このひも状の茎は葉上片(本稿では「背片」としています)が脱落したもので、よく似たヒメケビラゴケと識別する良い特徴の一つとしていますが(下記参考文献)、今回の観察では、上記のように背片の脱落は認められませんでした。

 上は腹面からひも状の茎の先端部を撮っています。 ルーペレベルの観察では茎先端の葉は2枚と思っていたのですが、上の写真のように何枚もの葉が密着して重なりあっています。(上記山田(1994)には1枚と3枚の図が載せられています。) また、この葉は腹側から背側へと次第に大きくなっているようです。
 そして・・・

 ひも状になった茎を何本も観察しているうち、上の写真のような状態の茎をみつけました。 この茎の写真を撮っていると、立ち上がったようになっている葉がぽろっと外れました。 下がその葉です。

 以上の観察結果から、オカムラケビラゴケは、最初に書いたようなひも状の茎の先端の小さな葉に無性芽をつけるのではなく、茎の先端で小さな丸い葉を発生させ、これを飛散させることで無性生殖を行っているのではないかと思います。 現地で育っている所を撮った写真をよく見ると、上記のように考えると納得できるような写真もありました(下の写真)。

 下記参考文献を紹介いただき、観察のポイントを示していただいた秋山弘之先生に深く感謝いたします。

【参考文献】
山田 耕作:オカムラケビラゴケとヒメケビラゴケについて.日本蘚苔類学会会報6(4),1994.


2023-01-25

ヒカゲヘゴ

 奄美大島で見たヒカゲヘゴ Cyathea lepifera です(撮影:2023.1.17.)。 山中を車で走っていると、点々と生えていました。 分布は奄美大島以南となっています。
 大型の常緑木生シダで、高さは 10mにも達し、日本では最大のシダ植物です。 このような高さになるのは、他には小笠原諸島に知られるマルハチだけです。

 葉は古くなると枯れ落ち、後には上の写真のような葉痕が残ります。 紀伊半島南部や四国・九州などにも分布するヘゴも、5mほどの高さになりますが、枯れた葉の基部が残り、上のような逆八の字形の葉痕は見られません。

◎ こちらには西表島で撮ったヒカゲヘゴを載せています。

2023-01-24

アマノウロコゴケ

 写真はアマノウロコゴケ Heteroscyphus aselliformis でしょう。 樹幹に張り付いていました。

 上は背面から、下は横から撮っています。 葉は密に重なり、背側に強く偏向しています。

 葉の先は2裂して長毛状になっています。

 葉の幅は約 2.5mmです。 腹面には腹葉があります。

 上は葉で、茎にやや斜めに長くついています。 上の葉先の長毛状になった部分は途中で折れていますので、下に折れていないものを載せておきます。

 長毛状になっている所の細胞の形は葉身細胞とは異なっています。

 上は腹葉です。 1/4ほどまで2裂し、側縁に2~3歯があります。

 上は葉身細胞です。 トリゴンは大きく、油体は各細胞に4~7個、楕円体でブドウ房状です。

(2023.1.17.)