「ミクロの世界のコケ図鑑」の発行日が近づいてきました。 今回は本書の特徴を、少し専門的な面から紹介したいと思います。
① 蘚類・苔類・ツノゴケ類の扱いについて
多くのコケ図鑑では、「コケ植物は蘚類・苔類・ツノゴケ類に大別できる」趣旨のことが書かれています。 本書では「コケ植物または蘚苔類とは、蘚類・苔類・ツノゴケ類をまとめた名称だ。」と書きました。 この違い、分かっていただけるでしょうか?
蘚苔類のことを勉強しはじめ、体のつくりにも目を向け始めると、その多様さに驚かされ、初心者にはとても難しいものに感じてしまうようです。 しかしそれは蘚類も苔類もツノゴケ類もみんな同じ蘚苔類として理解しようとするためではないでしょうか。 蘚類・苔類・ツノゴケ類はそれぞれ別の植物だとして、蘚類は蘚類として、苔類は苔類として理解しようとすると、初心者にも案外すんなりと理解できるように思います。
最近の分類体系では、蘚類・苔類・ツノゴケ類のそれぞれを「門」とする考えが主流になってきています。
② 蘚類・苔類・ツノゴケ類より、まず配偶体・胞子体
多くのコケ図鑑では、蘚類・苔類・ツノゴケ類のそれぞれの説明の中で、配偶体と胞子体について解説しています。これに対して、本書ではまず配偶体と胞子体の関係を分かり易く解説し、それを踏まえて蘚類・苔類・ツノゴケ類のそれぞれについて解説しています。蘚苔類共通の特徴(というより陸上植物の本質)を先に説明することで、スムーズな流れで説明できていると思います。
③ 配列順序
種の並べ方は、多くの図鑑では、蘚類 → 苔類 → ツノゴケ類 の順になっています。これは蘚類が最も多く、次いで苔類が多いことから、ある意味当然の順序でしょう。
本書では、ツノゴケ類 → 葉状体苔類 → 茎葉体苔類 → 直立性蘚類 → 匍匐性蘚類 の順に並べました。 これは、COLE T.C.H. ら(2023)の「コケ植物系統樹ポスター」をはじめ、最近の研究では、緑藻の仲間から分かれて陸上植物となった初期にまずツノゴケ類が分岐し、続いて苔類と蘚類に分かれ、現在に続いているとする考えが主流になってきていること、さらには茎葉体苔類は葉状体苔類から分岐したものであり、匍匐性蘚類は直立性蘚類から分岐したものであるとする考えが主流になってきていることを踏まえてのことです。 なお、蘚類と苔類とは進化的にどちらが進んでいるのかは分かりませんが、ツノゴケ類と葉状体苔類との配偶体の外見上の類似性に着目しています。 つまり、本書の種の配列順序は、大きく見れば、ほぼ進化の順に並べたことになります。
④ ゼニゴケの扱いについて
コケ植物の全般的な説明をする際、多くのコケ図鑑では苔類の代表としてゼニゴケを扱っています。 たしかにゼニゴケは大形で、身近に見られるという意味では、苔類の代表としてふさわしいでしょう。 しかしゼニゴケの仲間(ゼニゴケ目)は、苔類全体の中では特殊な方向に進化し、その進化の方向が“成功”し、栄えているグループです。特殊な例で一般的なことがらを説明するのは混乱の元です。本書ではゼニゴケを苔類の代表とはせず、特殊な苔類として取り扱っています。
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