日本蘚苔類学会大阪大会が8月7~9日に開催されますが、その関連行事として、下のような観察会と講演会が行われます。
コケ植物を含め、生きものの世界は複雑に絡み合っていますが、今回の観察会と講演会は、ゲッチョ先生をはじめ、いろいろな分野の専門家が集まりますので、中身の濃い会になるのは間違いないでしょう。
自然の豊かな所で、交通の便は少し悪いのですが、車で来られる方には広い駐車場があります。
特にコケに関心のある人は、1日目はコケと他の生物との関係を考え、2日目は室内でコケについて学び、3日目はフィールドでのコケ観察という2泊3日(8月7日~9日)のプランがお勧めです。 夜も楽しいですよ!
2026-06-04
観察会と講演会のおしらせ
2026-05-30
コアミメギボウシゴケ
写真はコアミメギボウシゴケ Grimmia brachydictyon でしょう。 岩上に広がっていました。 上は乾いた状態、下は上と同じ標本を同じ倍率で撮った湿った状態です。
葉の長さは1~2㎜で、あちこちの葉先に無性芽の塊がついています。
上は葉先に無性芽をつけた葉です。 葉縁は中部で多層、下部では1細胞層です。
上の2枚は葉先です。 葉は弱く折り畳まれていますが、葉の上部が溝状になることはありません。
上は葉身細胞です。 細胞壁は厚く、横壁と縦壁はほぼ同じ厚さです。
上は葉の横断面で、中肋背面に翼があります。
葉身細胞は平らで、中部の葉縁は2細胞層です(上の写真)。
(2026.5.16. 京都市)
◎ コアミメギボウシゴケはこちらにも載せています。
2026-05-28
ナガヒツジゴケ
公園の遊歩道脇に、トヤマシノブゴケ、コツボゴケ、コバノチョウチンゴケ、ジンガサゴケ、ヒメタチゴケなどに混じって、ナガヒツジゴケ Brachythecium buchananii がありました。
茎は這い、不規則な羽状に多くの枝を出しています(上の写真)。 ただし・・・
上のような長く伸びた枝だけを見ると、ひも状で、枝分かれが少ないように思ってしまいます。
上は茎葉で、深い縦じわがあります。 中肋は葉の中部または葉長の2/3くらいで終わっています。
2026-05-27
ヒロハツボミゴケ
写真はヒロハツボミゴケ Jungermannia exsertifolia だと思います。 奈良県の洞川産の標本を少し分けていただきました。 所々に造精器がついています。
上は背面から撮っています。 上のような茎の上部では葉はほぼ横についていますが、茎の株では葉は斜めにつきます。
下は上と同じものの腹面です。
仮根は多くありません。
葉は円頭です(上の写真)。
葉身細胞は薄壁です。 葉先近くの細胞には、上の写真のように油体もベルカもほとんど見られませんでした。
上の2枚は基部近くの葉身細胞です。 油体は各細胞に2~3個あり、紡錘形で微粒の集合です。
上は基部近くの葉身細胞の表面にピントを合わせて撮った写真で、ベルカが確認できます。
上は葉腋についた造精器です。 造精器だけを分離して観察してみましたが、精子は未だできていませんでした。
◎ ヒロハツボミゴケはこちらにも載せています。
2026-05-25
ムカシヒシャクゴケ
奈良県の川上村で採集されたムカシヒシャクゴケ Scapania ornithopoides を少し分けていただきました。 北海道、本州の主に亜高山帯や四国などの古生代の地層を有する地域に分布し、絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されています。
上は、葉腋にある鱗片状の毛葉が分かるように、数枚の背片を取り除いています。
Scapania(ヒシャクゴケ属)で、キールが無ければ、つまり背片と腹片がつながっていなければムカシヒシャクゴケに決まりです。 しかしつながっていることは簡単に証明できても、つながっていないことを明確に示す写真は難しい。 上の写真もキールはどこにも無いように見えますが、茎で見えない所もあります。
どうにかしてキールが無いことが分かる写真を撮りたいと、いろいろやっているうちに、背片にも腹片にも裂け目が入ってしまいました・・・。
上は腹片の葉縁です。 腹片にも背片にも葉縁には多くの歯があり、その先端は狭三角形の細胞からなっています。
上は背片の先端近くの細胞で、とても大きなトリゴンがあります。
上は腹片の中央やや基部寄りの細胞です。 今回は腹片にも背片にも明瞭なベルカは確認できませんでした。
◎ ムカシヒシャクゴケはこちらにも載せています。
2026-05-24
トガリゴケ
岩上にあった写真のコケ、トガリゴケ Brotherella fauriei のようです。 2025.9.29.に福岡県の野河内渓谷(標高350m)で見たコケですが、S氏の助けを得て、やっと同定できました。
植物体はやや扁平で、密に分枝しています(上の2枚の写真)。 葉を含めた茎の幅は約1mmです。
葉には中肋が無く、翼細胞は列を作っています(上の写真)。 葉先は比較的短く尖っています。
多くの葉の葉先は、上の2枚の写真のようにねじれています。 葉縁の鋸歯は目立ちません。
翼細胞は大きく、連続した列になっています(上の2枚の写真)。
葉身細胞の多くは、長さ 60~80μmです。
2026-05-21
ヒメフウロ
写真はヒメフウロ Geranium robertianum です。 葉と茎は長い毛に覆われています。 対生する葉は深く3裂-5裂し、茎と葉の端が赤みを帯びます。
本種は山地帯の日当たりのよい石灰岩地質に生える一年草または越年草で、伊吹山、鈴鹿山脈北部の霊仙山などの養老山地北部や、四国剣山の一部地域のみに分布します。 上の2枚は、2010年7月31日に伊吹山山頂で撮った写真ですが、昨年(2025年)8月18日に行った時には、シカの影響だと思いますが、ずいぶん少なくなっていました。
世界的に見れば、本種はアジア、ヨーロッパ、北アメリカなどの北半球の温帯域に広く分布しています。 日本では、この外国産由来のものが山野草として販売され(注1)、それが逃げ出してあちこちで野生化しています。
上は大阪府と和歌山県の境にある紀見峠付近で 2026.5.17.に撮ったものですが、道路沿いにたくさん見られました。 本来が石灰岩地質を好む植物ですから、セメント好きなのかもしれません。
本種は花の色やオシベの数など、種内変異の幅が広いようです。 逸脱種と伊吹山などで見られる自生種とは生育環境も異なるのですが、逸脱種や海外から侵入した植物は、日本の種類と同種であっても、違う形質を示すことがよくあるようです。
下野・姉川(2023)によれば、日本には少なくとも2外来系統が侵入しており,1系統は主に北海道・東北を中心とした冷涼な地域に,もう1系統は東北以南の温暖な地域に分布しているようです。 また、外来系統と在来系統間には稔性のある雑種種子ができるようです。
遺伝的な違いを守るため、逸脱したヒメフウロをブルーリスト(地域本来の生態系や自然環境に影響を及ぼすおそれのある外来種をまとめたリスト)に指定している自治体もあります。
本種には「シオヤキソウ」という別名があります。 10数名の参加による上記の紀見峠での観察会では、本種の茂る間を歩き回るだけで、焼いた塩のようなにおいが漂っていました。
(注1) オランダフウロ属など、本種と別属の園芸種が「姫フウロ」という名で販売されていることもあります。
【文献】
下野嘉子・姉川盤音:絶滅危惧種ヒメフウロにおける在来および外来系統間の生育特性の比較および交雑可能性の評価.然保護助成基金助成成果報告書 32 (2023).
2026-05-06
サツマキジラミ@5月上旬
5月5日、ビルの地上から150mの高さの窓に、肉眼では橙色にみえる体長3㎜ほどの虫がたくさんついていました。 ルーペで見るとキジラミらしいので、宮武先生からいただいた日本環境動物昆虫学会(2014)のキジラミ類の絵解き検索で調べてみました。 この本には156種のキジラミ類が載せられていますが、検索表をたどると、サツマキジラミ Cacopsylla satsumensis に落ちました。
本種の幼虫時代の食樹はシャリンバイで、道路の分離帯や道路脇などにたくさん植えられています。 越冬成虫は早春にシャリンバイ上で交尾・産卵し、5月上旬には多数の羽化した個体がシャリンバイ上に見られます。 この個体が分散する途中で風に巻き上げられたのでしょうが、こんななに高くまで巻き上げられているとは驚きです。
このブログには、これまでサツマキジラミは3回載せています。
・ 12月下旬に見た交尾と幼虫 → こちら
・ 3月上旬の交尾と幼虫など → こちら
・ 3月下旬の幼虫など → こちら
今回見たものはこれらとは体色が少し異なるのですが、これまで見た成虫は冬の寒さを経験した個体(秋型)ですし、今回は羽化して間もなくの個体ですので、その違いだろうと思います。
2026-05-04
イトラッキョウゴケ
写真はイトラッキョウゴケ Anoectangium thomsonii だろうと思います。 (コケ観察会ではなく)植物観察会の担当者としての活動中に少しつまんで持ち帰ったもので、生育状況を示す写真はありませんが、明るい緑の密な饅頭型の群落でした。
これまでに観察したことのあるコケ(こちらやこちら)でしたので同定できましたが、センボンゴケ科は微妙で、検索表にまとめるのが難しく、平凡社のセンボンゴケ科の検索表から同定するのは難しい(具体的には下に書きます)と改めて思いました。
乾くと葉は上の写真のように茎に密着します。 この時、上の写真では少し分かりにくいのですが、葉はキールしています。
葉は狭楕円形~狭披針形で全縁、葉先は鋭尖です(上の写真)。 平凡社の検索表では「ふつう基部付近でもっとも幅広い」を選ばなくてはなりませんが、基部は広くなっていません。 「ふつう」とは“そうでないこともある”と理解しなければなりません。
センボンゴケ科の多くの種では、葉の基部には透明細胞群があるのですが、本種では透明な細胞はほとんどありません。
葉身細胞は方形で厚壁、多数のパピラが密生しているため、細胞の輪郭は不明瞭です(上の写真)。
上は葉先です。 中肋背面には低いパピラがあります。
上は葉の基部です。 基部の細胞は中上部の細胞に比較してやや大きくなり、葉縁部に向かって狭く、短くなっています。
上は葉のほぼ中央の横断面です。 平凡社の検索表の「中肋のステライドは 背面側だけにある/ふつう背腹両面にある」では後者を選ばなくてはなりませんが、ステライドはガイドセルの背面側にあります。 ここでも「ふつう」とは“そうでないこともある”ことを意味します。
上は茎の横断面で、中心束があります。
(2026.4.26. 兵庫県西宮市 武田尾)

















































