2017-08-31

ツマアカクロバチ



 自宅の中にいたツマアカクロバチ Tachypompilus analis です。 アシダカグモを幼虫の餌とするハチですので、アシダカグモを求めてどこからか家の中に侵入してきたのでしょう。
 おとなしいハチです(ただし刺されるとかなりの痛みがあります)ので、さっそく捕まえて写真のモデルになってもらった後、庭に追放しました。

(撮影:2017.8.25.)

2017-08-30

ミヤマチリメンゴケ



 上は昨年も記事にしたミヤマチリメンゴケ Aquilonius plicatulum ですが、昨年は自生地の様子を載せていませんでした。
 生育環境による違いがあるのは植物の常ですが・・・


 上のように密に生えていると違ったコケに見えてしまいます。 また、蒴は乾くと2枚目の写真のように明瞭な縦じわができることがミヤマチリメンゴケの特徴の1つですが、上のような若い蒴では、それもわかりません。


 平凡社のハイゴケ属( Hipnum )は約20種とされていますが、平凡社の図鑑のハイゴケ属の検索表のスタートは、茎の横断面で表皮細胞が分化して大型で外壁の壁が薄くなっているか、表皮細胞が分化せずに外側の壁が厚いかです。
 上は3枚目の写真の茎の断面の一部で、切片を作る段階で欠けてしまった細胞壁もありますが、大型で外壁の壁が薄くなっている表皮細胞が写真の左側に見られます。



 葉は曲がっていて長さの測定は正確には難しいのですが、茎に上記のような表皮を持ち、植物体が小型で茎葉の長さが1mm前後のものはミヤマチリメンゴケしかありません。

(2017.6.14. 北八ヶ岳)

◎ ミヤマチリメンゴケはこちらにも載せています。

2017-08-29

クスベニヒラタカスミカメの成虫と幼虫

 私が最初にこのカメムシをみつけたのは 2015年12月で、その時にカメムシの専門家に問い合わせていただくと、この1年ほど大阪府南部などあちこちで見つかっている外来種のカメムシだが、学名等は不明だということでした(こちら)。 それが昨年(2016年)になると、外来種で天敵がいないためなのか、あちこちでたくさんみつかるようになりました。
 今年はさらに増えるのではないかと心配されてもいますので、近所の堺市南区鉢ヶ峯寺にあるクスノキを何本か見て回りました。


 ほとんどの大きなクスノキの葉には、クスベニヒラタカスミカメ Mansoniella cinnamomi に吸汁されたと思われる痕がありました(上の写真)。


 上は1枚目とは別の場所のクスノキの落葉です。 落葉にもたくさんの吸汁痕が見られます。



 クスベニヒラタカスミカメの成虫もあちこちで見られました。 体長は翅の端までで6mmほどです。

 昨年は秋口に大量発生が見られました。 それならば今くらいの時期に幼虫が見られるのではないかと探してみると・・・



 上がクスベニヒラタカスミカメの幼虫です。 体長は3mmでした。 小さくて、体色が透明感のある緑色ですから、葉の裏に動かないでいると、肉眼ではほとんどその存在は分かりませんが、成虫より多くの個体数がいるように思いました。 齢は分かりませんが、大きさからして、若齢の幼虫だと思います。
 体が濡れていますが、アブラムシの甘露に似た液を分泌して体表を覆い、乾燥から身をまもっているのではないかと思います。

(2017.8.29. 堺市南区鉢ヶ峯寺)

2017-08-28

オオモンシロナガカメムシ

 堺自然ふれあいの森で、たくさんのオオモンシロナガカメムシ Metochus abbreviatus をみつけました。 落ち葉の積もった地面に少し振動を与えると、表面に出てきて逃げまどうのですが、素早く走り回ってすぐに落ち葉の下に潜り込むので、撮影は容易ではありません。 朽木の樹皮の上などに上がったところを素早く撮影です。
 生活環はよく分かりませんが、今回は成虫も観察できたものの、幼虫の方が多く見られました。(以下の成長の順に並べた5枚の写真は全て 2017.8.22.の撮影です。)


 上は翅原基の小さな、触角に白い斑も出ていない幼虫です。



 少し成長して触角の白い斑がはっきりしてきました。


 翅原基がかなり大きくなってきています。


 上は成虫です。 翅の白い紋がよく目立ちます。

こちらには奈良の春日山原始林で撮ったオオモンシロナガカメムシを載せています。 おもに照葉樹林の林床で見られるカメムシとされていますが、その後の私の観察記録を見なおしてみると、たしかに林の中またはその周辺で観察していますが、地面に落ちた果実や地下茎などの汁を吸って餌としているようで、照葉樹林とは限らないようです。

2017-08-27

オオヒラツボゴケ


 このコケも大阪市立自然史博物館の特別行事「標本の名前を調べよう」で教えてもらったコケで、川の縁の岩上に育っていたハイゴケ科のオオヒラツボゴケ Ectropothecium zollingeri です。 上の写真の左上の褐色の部分は落ち葉です。 平凡社の図鑑では「山地のぬれた岩上に多い。」とあるのですが、ネットで検索してみると、いろんなリストには名前が挙げられていますが、写真入りで取り上げている所は見つけられませんでした。 コケの専門家でないと同定が難しいのでしょうか。





 翼部と茎や枝との境に大型で透明・薄壁の細胞が1個あります。 これはこの属の特徴のようですが、観察するのはなかなか難しく、平凡社の図鑑には、「(葉を茎につけたままのほうが調べやすい)」と、図鑑には珍しい観察方法まで書かれています。 上の3枚の写真はそのようにして撮ったのですが、葉が重なっている所は見えませんし、葉のついている角度によっても見えなくなります。


 ハイゴケ科の葉は歯を持つものが少ないのですが、オオヒラツボゴケの上部の葉縁には細かい歯があります。 中肋は2叉し、葉長の1/2以下です。


 葉身細胞は線形で、長さは 50~80μmです。

(2017.8.5. 堺自然ふれあいの森)

2017-08-26

スギハラクモバチ



 スギハラクモバチ Leptodialepis sugiharai コアシダカグモを運んでいました。 巣の場所を確認しようと追跡していると・・・


 コアシダカグモを咥えたままコナラの木を登りはじめました。

 高さ5mほどのところで、枝の陰になって数秒ほど姿が見えなくなった後、飛び立つのが見えました(写真記録はできず)。
 飛び立った理由は
【仮説1】 姿が見えなくなった所に営巣していて、そこにクモを置き、産卵し、次の獲物を求めて飛び去った。
【仮説2】 大きな獲物を咥えたままでは地上から飛び立つことは不可能で、移動距離を稼ぐために高い所から滑空した。

 ちなみに、咥えていたクモを落としてしまって、諦めて飛び去ったとは考え難いようです。 というのは、じつは木を登り始めて1mほどの所でいちどクモを落としてしまっています。 人の目には枯葉などと区別できず落ちたクモを見つけることはできなかったのですが、スギハラクモバチはすぐに地面に舞い戻り、数秒間探し回ってクモを発見し、再び木を登りはじめました。

 現地では【仮説2】のように思っていました。 しかしスギハラクモバチの生態を調べてみると、京都府レッドデータブック(2015)によれば、「アシダカグモやコアシダカグモなど大型の徘徊性クモを狩り、朽ちた切株や樹洞内の腐朽材に営巣する。」とあり、【仮説1】の可能性が高くなりました。 しかし、そんなに短時間で産卵を済ませて飛び立てるのかという疑問が残ります。 また【仮説2】については、クモバチのそのような行動に関する記載は見つけられませんでした。

(2017.8.22. 堺自然ふれあいの森)




2017-08-25

タチツボミゴケ


 これも 2017.6.14.に北八ヶ岳で採集し、大阪市立自然史博物館の特別行事「標本の名前を調べよう」で教えてもらったコケで、タチツボミゴケ Solenostoma erectum です。 平凡社の図鑑には検索表にあるだけで分布は近畿~九州となっていますし、保育社の図鑑には種名すら記載されていません。


 植物体は小さく、茎の幅は葉を含めて1mmを少し超える程度です。 仮根は葉の基部から出ています。


 小さすぎて断面を作るのは断念しましたが、ペリギニウムが著しく発達し、雌苞葉は造卵器のあった位置より上についていることは容易に予想できます。


 葉は長さと幅がほぼ同じで、円頭です。 葉縁の細胞は他の細胞とほぼ同じです。


 葉身細胞はトリゴンが非常に大きく、油体は微粒の集合です。

2017-08-24

オオアオイトトンボ(メス)


 上はオオアオイトトンボ Lestes temporalis のメスの、下の写真の赤い四角で囲った部分の拡大です。 オオアオイトトンボはこちらにも書いていますが、頭部の背面付近を拡大するとこんなにおもしろいとは思いませんでした。


(2017.8.22. 堺自然ふれあいの森)

2017-08-23

ハクモウコモチゴケ

 8月20日に大阪市立自然史博物館の特別行事「標本の名前を調べよう」がありました。 この行事は、甲虫、ハチ、キノコ、コケ、化石などなど各分野の専門家に標本を同定していただけるというもので、私も名前の分からなかったものや同定に自信が無かったものなどを数点持って行きました(特にコケは顕微鏡を使ったり、同定に時間がかかるもので、マナー的には一人5点まででしょう)。 ここに載せたハクモウコモチゴケも、そこで同定していただいたものです。


 上は6月13日に北八ヶ岳で撮影したもので、乾いた状態です。 ハクモウコモチゴケ Iwatsukiella leucotricha は亜高山帯以上の針葉樹に着生するコケです。


 茎に丸くついた葉は湿らせてもほとんど開きませんでした(上の写真)。 黒い背地にすると、葉の白く長い鋭尖部がよく目立ちます。


 枝の幅は葉を含めて 0.2mmほどです。


 葉は凹んだ卵形~広卵形の部分は 0.3mmほどですが、先端は急に細くなり、透明な鋭尖部を含めると、上の写真では 0.8mmほどになっています。


 葉身細胞は楕円形~丸みのある六角形で、長さは8~15μm、厚壁です(上の写真)。

2017-08-22

ヤブキリ


 写真は藪(やぶ)に棲むキリギリス、ヤブキリ Tettigonia orientalis です。 背面には頭頂から翅の先まで褐色の筋が見られます。
 写真はオスで、メスは真っ直ぐに伸びる長い産卵管を持っています(こちら)。


 樹上生活で枝から枝へと渡り歩くのに適した長い後脚、獲物を捕らえるのに適した鋭い刺を持つ前脚と中脚、それに活動は夜が中心ですから、長い触角は夜の闇を探るのに役立つのでしょう。


(2017.8.22. 堺自然ふれあいの森)

2017-08-21

検索表に基づくミズゴケの仲間の同定例


 奈良県大和郡山市産のミズゴケ(上の写真)の同定を依頼されましたので、検索表に書かれている語句の解説も兼ねて同定の道筋を記事にまとめてみました。 使用したのは「滝田謙譲:北海道におけるミズゴケの分布及びその変異について」の中にある検索表(下はその一部で、今回の同定に使った部分のみ)です。 タイトルは「北海道における」となっていますが、日本産のミズゴケのほとんどの種が扱われていて、それぞれの種についての図も多く、ミズゴケを調べるにはとても便利です。 なお、平凡社の図鑑にある検索表も使ってみましたが、同じ同定結果になりました。


 平凡社の図鑑では、日本産のミズゴケは1属で約35種となっています。 このように1つの属の中に多くの種が含まれる場合、属と種の間に「節」という階級を設けることがあります。

 検索表に従えば、まず茎や枝の表皮細胞を調べることになります。


 茎から枝が出ますが、横に伸びる開出枝と下に伸びる下垂枝の2種類の枝があるのがミズゴケの仲間の特徴です。 葉も、開出枝に鱗片状についている枝葉と茎についている茎葉とは、ずいぶんと形態が異なっています。
 上は乾いた状態の写真です。 茎の表面が白っぽく見えるのは、茎の表皮に空気が入り込んでいて、そのために乱反射しているためでしょう。 茎のあちこちが黒っぽくなっているのは、写真の状態にするために茎葉を取り去った跡です(茎葉も後に調べます)。
 この表皮を剥がして顕微鏡で観察します。 ちなみに湿った状態にすると茎葉にも茎の表皮にも水が浸み込んで半透明になって判別し難くなり、柔らかくなって剥がしにくくなります。


 上が表皮を剥がした後です。 このミズゴケの表皮の無くなった茎は茶褐色~黒褐色をしています。


 上は茎の表皮を顕微鏡で観察した像です。 特に写真の下の方がゴチャゴチャしているのは、表皮が多層になっているからです。
 表皮細胞には細いらせん状の肥厚が見られます。 このらせん状の肥厚はミズゴケ節を他の節から区別できる特徴になります。
 乾いた表皮に水を落として検鏡していますので、たくさんの気泡が入っていますが、写真の上の方の気泡はレンズの役割をしてらせん状の肥厚を強調してくれています。

 次に枝葉の細胞に注目です。


 ミズゴケの枝葉は細長い葉緑体を持った細胞(葉緑細胞)と、水を蓄えておく大きな透明細胞が交互に並んでいます(上の写真)。 透明細胞は強度を保つために線状肥厚を持っています。 この葉緑細胞と透明細胞の接する壁に多くの乳頭または突起があればフナガタミズゴケまたはイボミズゴケになるのですが、上の写真のようにこの壁が平滑であればムラサキミズゴケまたはオオミズゴケということになります。
 ムラサキミズゴケにはふつう紅色の部分がありますから、ここで調べたミズゴケはオオミズゴケだろうということになりますが、念のために枝葉の横断面を観察しました(下の写真)。


 上の枝葉の断面では、写真の上方が腹面(枝に面している側)で、下方が背面になります。 葉緑細胞と透明細胞が交互に並んでいますが、葉緑細胞は狭二等辺三角形で、その底辺は腹面側にあります。 このような特徴はオオミズゴケのもので、ムラサキミズゴケの葉緑細胞は楕円形で、透明細胞の間に埋まったようになり、葉の背面にも腹面にも出ていません。

 以上、検索表に基づいて調べてきましたが、もう少しオオミズゴケであることの確認を兼ねて、葉の特徴を見ておきます。


 上は茎葉です。 色の濃くなっている所は葉が皺になって折り重なってしまった場所です。 一般に、ミズゴケの仲間はその茎葉に特徴がよく出ます。 オオミズゴケの茎葉は舌型で、縁に舷はありません。


 上は枝葉の先端付近を腹面から撮ったものです。 先端は僧帽状となり、葉縁は内曲しています。 下は上の赤い四角で囲った部分の拡大です。


 先端付近の背面には赤い丸で囲ったような小歯状突起が見られます。

こちらには蒴をつけたオオミズゴケを載せています。 また、オオミズゴケはこちらにも載せています。 形態的に少し異なったように見えるところもありますが、個体差や生育環境の違いによるものでしょう。