オオミズゴケ Sphagnum palustre は平凡社の図鑑でも「蒴は稀」とされているのですが、たくさんの胞子体をつけた群落がありました。 この機会に胞子体に関する観察を中心に行いましたが、ミズゴケ科の胞子体は種による違いがほとんどありません。
ミズゴケ科の胞子体は一見長い蒴柄の先に丸い蒴をつけた苔類の胞子体に似ているようにも見えます。 これはミズゴケ科は蘚類の中でも早くに他のグループから別れており、苔類に近いから・・・ではなくて、
ミズゴケの胞子体は球形の蒴の部分のみで、蒴柄はありません。 蒴柄のように見えるのは配偶体の組織で、偽足と呼ばれています。
なお、上の写真を見ても、胞子体をつけている株は、胞子体に栄養分を送ったためか、つけていない株に比較して少し弱々しいイメージがありました。
偽足の基部には、とても長い雌苞葉が見られます(上の写真のA)。 雌苞葉の長さは、たくさんの葉をつけた枝の長さに相当するほどです。
上の写真にはまだ偽足が伸びていない若い胞子体も写っています(B)。
蒴には扁平な蓋があります。 ミズゴケ科の胞子散布時には爆発的に胞子を射出し、蓋はその時に胞子と共に吹き飛ばされます。 上の写真は左が胞子散布後の、右が胞子散布前の蒴です。
※ ホソバミズゴケの胞子射出の様子をこちらに載せています。
上の写真の右のような胞子散布前の胞子体は、透明な薄い膜(組織的には造卵器に由来するカリプトラ)で覆われているのですが、ぴったりと蒴に張り付いてほとんど確認できません。 この薄い膜は、蒴の蓋が容易に外れないように働き、爆発力を高めていると考えられています。
胞子射出時にはカリプトラの一部も破れて飛び散ります。 胞子を射出して細くなった蒴では、残ったカリプトラは蒴から離れ、上の写真の左のように、乾いて白くなった膜として見ることができます。
胞子を射出した後の蒴の断面を作成してみました(上の写真)。 断面を見ても蒴と偽足は別組織で、蒴と蒴柄のようなつながりはありません。
蒴の断面を見ると、胞子は蒴壁と胞子室外壁の二重の壁に守られていたことが分かります。 中央に軸柱があるはずなのですが、胞子が射出される時に蓋と共に飛ばされてしまったようです。
上は胞子です。
以上、生殖に関する部分を見てきましたが、このミズゴケがオオミズゴケであることを以下に簡単に確認しておきます。 なお、平凡社の検索表に基づいた本種の他のミズゴケ類との違いをこちらに載せています。
上は茎の表皮で、螺旋状の肥厚が確認できます。
上は枝葉を背面から撮っています。 枝葉はボート状に深く凹んでいます。
上は背面から撮った枝葉の葉先を拡大しています。 葉先付近の透明細胞の背面には小歯状突起が見られます。
上は枝葉の横断面で、上方が腹面、下方が背面です。 本種の葉緑細胞は横断面で狭二等辺三角形で、底辺は葉の腹面側にあります。
上は、一部折れ曲がったり破れたりしていますが、茎葉です。 本種の茎葉は舌形で舷は無く、葉先はささくれています。
(2022.7.20. 京都市左京区大原野村町)
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