2023-02-21

花被をつけたヤマトクロウロコゴケ

 

 上は樹幹に育っていたコケ群落の写真です。 光沢を帯びた黒褐色のaはヤマトクロウロコゴケ Lopholejeunea zollingeri だったのですが、この結論に達するまでには、なかなか大変でした。 今回はこのことについて書くことにします。
 ちなみに、bはナミゴヘイゴケ、cはゴマダラヤスデゴケ、dはセンボンゴケ科で種名は不明(蒴が無いのであきらめています)、eは地衣類です。

 上がaのコケです。 背片の先端は円頭で、内曲しています。 腹葉は大きく、横広の腎臓形です。 以前観察したもの(こちら)と同様の特徴を持っており、ヤマトクロウロコゴケに違いないと思いました。
 ところが、観察していると花被をつけている所があって・・・

 上が花被です。 花被は4稜で翼があり、稜や翼には歯があります。 花被の周囲には葉や腹葉より大きな雌苞葉と腹苞葉があります。 上の写真では雌苞葉は反っていますから縁の様子は分かりませんが、雌腹苞葉の縁には歯があります。 上は花被にピントを合わせていてはっきりしませんので、下に雌腹苞葉にピントを合わせた写真を載せておきます。

 あまりうまく撮れなかったので雌苞葉は載せませんが、雌苞葉にも小さな歯がありました。

 以上で観察を終わり、さあブログにまとめようと平凡社の図鑑を確認すると、検索表にもヤマトクロウロコゴケの種別の解説文にも、雌苞葉と雌腹苞葉は全縁である(キッパリ)と書かれてあるではありませんか!
 2種が混じっているのではないか、慎重に調べましたが、そのような様子はありません。 ヤマトクロウロコゴケに似た別種ではないか、調べなおしです。

 1枚の葉を取り出してみました(上の写真)。 著しく膨れた特徴のある腹片の先は3~4細胞幅で背片の面と癒合しています。

 上は腹葉です。 腹葉は葉より大きいことも小さいこともあります。

 背片の縁は内曲しているので、上は腹片の縁近くの細胞です。 油体は楕円体で均質です。 葉縁の細胞は外側の細胞壁が薄く、この部分は凹む傾向が見られます。

 葉も腹葉も細胞の様子も、やはりヤマトクロウロコゴケの特徴を示しています。

 ここでギブアップ。 M氏に助けを求めたところ、下の文献を送っていただきました。

  水谷正美:Lopholejeunea zollingeri について.蘚苔地衣雑報9(1).1981.

 これを読むと、ヤマトクロウロコゴケはいろいろと変異があり、雌苞葉と腹苞葉に小さな縁歯があるものは東南アジアによく見られるとのことでした。

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