2019-12-31
シナチヂレゴケ
写真はシナチヂレゴケ Ptychomitrium gardneri です。 本種は石灰岩やセメント上で見られるコケで、上の写真も石灰岩の上で育っていたものです。
帽はひだがあり、蒴の中ほどまでを覆っています。
蒴は頂生、蒴柄は基部が葉に隠れていますが、長さは7mmを少し超えていました。 葉は長さ4.5mmほどです。
上の写真では、枝分かれもしていますし、古い蒴が側生しているように見えます。 これは頂生している蒴の横から新しく茎が伸びたことを、つまり茎は何年も伸び続けることを示しています。 平凡社の図鑑には、「体は高さ5cmに達する。」と書かれています。
葉は上部に鋸歯があり、中肋は葉頂に達しています。
葉の上部の鋸歯は数細胞からなっています。 この属の葉の上~中部の葉身細胞は丸みのある方形で厚壁です。
(2019.12.27. 岡山県井原市)
◎ こちらにはシナチヂレゴケの胞子を飛散させた後の姿を載せています。
2019-12-30
キュウシュウホウオウゴケ
写真はキュウシュウホウオウゴケ Fissidens closteri ssp. kiushuensis のようです。 上部が閉ざされた林の、適湿状態を維持しているような地上で、 配偶体の下部が原糸体に埋まるように疎生していました。 配偶体はとても小さく、配偶体に比較して大きな胞子体をつけている配偶体の多くは葉が褐色になるなど、かなり弱っているように見えました。 この様子を見ると光合成の主体は原糸体のように感じました。
上のスケールの最小目盛は 0.1mmです。 配偶体は、茎はほとんど無く、小さな数対の葉がついています。 蒴柄の長さは、上の写真では約2mm、平凡社の図鑑では 1.3~4.0mmとなっています。
葉は二つ折れになって蒴柄の基部を両側から挟んでいます。
上は1枚の葉です。 舷は無く、葉縁の細胞に分化は見られません。 中肋は太いのですが葉先には達していません。
上の写真の葉は基部から中央部にかけて折れ曲がっています。 ホウオウゴケ科の葉は腹翼、上翼、背翼に分けられますが、腹翼と上翼の境が折れ曲がっている所の少し葉先側にあるようですが、はっきりしません。 葉は卵円形の基部から披針形に伸びています。
上は帽のついた蒴(左)と蒴歯(縮れています)の見えている蒴(右)です。 蒴は直立し、相称です。
上は蒴歯です。 蒴そのままでは厚すぎるので、蒴の手前は切り落としてあります。
上は帽です。 平凡社の図鑑には「帽の細胞の上端にパピラがある。」と書かれてあるのですが、焦点を慎重にずらしてみても確認できませんでした。 もっと拡大してみると・・・
帽では細胞と細胞の境が少し盛り上がっているようです(上の写真)。
植物体の周囲にある原糸体は宿存性か否か、気になって原糸体を観察したところ、上のように原糸体は短いものばかりで、消える方向に向かっているようでした。
(2019.12.27. 岡山県井原市)
2019-12-29
カハルクラマゴケモドキ
写真はカハルクラマゴケモドキ Porella stephaniana でしょう。 石灰岩地に育つコケで、垂直に近い石灰岩の崖にありました。 和名の「カハル」は福岡県の香春岳に由来するようなのですが、この山の正式名称は「かわらだけ」です。
濡れていて少し分かり難いですが、植物体の色は灰緑色です。
茎は不規則に分枝していますが、分枝は多くありません。
上は背面から撮っています。 背片は広卵形で先端は尖り、幅は約1mm、長さは約2mmです。
上は腹面からの写真です。 背片の背縁は先端部を除き全縁、腹縁は内曲して歯が目立ちます。 腹片は舌形です。 腹葉は茎にくっついていて、上の写真でははっきりしません。
腹片とは腹片の幅の3/4ほどのキールでつながっています。 腹片の腹縁基部はほとんど下延していません。
腹葉は腹片に似て、幅は少し広いようです。 複葉にも腹片にも縁には歯があります。
上は葉身細胞です。
(2019.12.17. 岡山県西部の石灰岩地)
2019-12-22
ツチノウエノハリゴケ
前に笠井氏にツチノウエノハリゴケ Uleobryum naganoi の写真をいただいたことを書きましたが(こちら)、今回は同じ場所で 2019.11.15.に採集された蒴のある標本を送っていただきました。 それを湿らせて撮ったのが上の写真です。 混生しているのはカゲロウゴケです。
上は蒴の手前の葉を取り除いて透過光で撮っています。 蒴の中で胞子はまだ作られていないようです。
乾いている状態の本種(左)とコゴケ属の一種(右)を並べてみました(上の写真)。 後者の葉は内側に巻いていて、乾いている方が違いがはっきりするようです。
葉の様子は前に載せていますが、再度葉の全体と葉先付近を上に載せておきます。 葉は線状披針形、葉身細胞にはパピラがあり、中肋は葉頂に達するか、わずかに突出しています。 中肋背面の表皮細胞は線形です。
上は蒴です。 平凡社の図鑑には、「(蒴の)上半分に気孔がある。」と書かれてあるのですが、2個の蒴で探してみても気孔はみつかりませんでした。
蒴には上の写真のような帽がついています。 大きさは蒴の径の1/3ほどです。
2019-12-20
ミヤマタチヒダゴケ
上の写真はミヤマタチヒダゴケ Orthotrichum alpestre とタチヒダゴケ O. consobrinum の混生です。 笠井氏が今年の1月に滋賀県高島市マキノ町の風倒木で採集されたものを分けていただきました。 和名に「ミヤマ」とありますが、採集地は琵琶湖に近い所で、標高はそんなに高くありません。
蒴がたくさんついていますが、採集後に時間が経過しているため、まだ若い蒴が水分を失って縮み、ほとんどの帽が取れてしまっています。 また葉の色も緑色がうすれています。
ミヤマタチヒダゴケは平凡社の図鑑にも野口の日本産蘚類図説にも記載はありません。 従来ヨーロッパ、北アメリカやインドなどに分布することが知られていたコケですが、日本では、私の知る範囲ではタチヒダゴケ属の分類が再編成された Suzuki(2014)には記載があります。 それまでは他の種と混同されていたのか、新しく海外から入ってきたのかまでは調べていません。
上の写真は、中央の2つがミヤマタチヒダゴケの帽、その左右にあるのがタチヒダゴケの帽です。 前者の帽には毛があり、後者の帽に毛はありません。 今回はこれを目印に群落の中からミヤマタチゴケを選んで以下の観察を行いましたが、毛の付き方には違いがあるものの、帽に毛があるタチヒダゴケ属は他にもたくさんあります。
上は湿った状態で、帽の毛はくっついてしまい、見えません。 上部の葉の長さは 2.5~3mmです。
葉は狭楕円状披針形で全縁です。 中肋は葉先近くに達しています。
葉が折れ曲がって細胞を横から見る事ができるようになっている所を観察すると、低いパピラが確認できます(上の写真)。
上の2枚は、1枚目は葉の上部の、2枚目は葉の基部付近の葉身細胞です。
上は蒴を縦に2分割し、蒴の内容物を外に出して透過光で観察できるようにしたもので、黒く見えている所には、下に拡大するような気孔が存在しています。 気孔は蒴の中央部以下に集中しています。
上は気孔付近を撮ったもので、下は上とは別の気孔付近をさらに拡大して撮っています。 気孔は沈生で、写真の穴の奥にあります。
蒴の気孔が沈生か表生かはタチヒダゴケ属の同定に大切で、平凡社の図鑑のタチヒダゴケ属の検索表も、気孔が沈生か表生かから始まっています。
2019-12-19
ギボウシゴケ
写真はギボウシゴケ科のギボウシゴケ Schistidium apocarpum です。 ケギボウシゴケはいろんな岩上によく見られますが、本種は石灰岩上に見られます。
茎はよく分枝します。 葉の長さは2~2.5mmで、葉先はふつう透明尖になっています。 本種はシズミギボウシゴケ属ですが、この属名は蒴が雌苞葉に沈み込んでいることによります。 上の写真の場合も、複数の蒴があるのですが、特に蓋の落ちてしまっている時期は、よく発達した雌苞葉に隠されていて、ほとんど見えません。 比較的よく分かる蒴の場所を黄色の円で囲っておきました。
葉は披針形で全縁です。
上は葉の背面の拡大で、写真の左下から右上に伸びているのは中肋です。 中肋の背面は平滑です。
葉縁基部の細胞は方形~短い矩形で、縦壁と横壁はほぼ等しく肥厚しています(上の写真)。
上は葉の横断面です。 葉身の細胞はは所々2層になっています。 また葉縁も2層の細胞です。
中肋は一部が欠けてしまったので、下に改めて載せておきます。
中肋にはガイドセルもステライドも見られません。
上は蒴の手前にある雌苞葉や葉を取り除き、蒴が見えるようにして撮影しています。 短い蒴柄も確認できます。
上は蒴を縦に切断した片方で、カバーガラスで押さえていますが、うっすらと縦皺の存在が分かります。
蒴歯は単列で、上の写真では8本が写っていますが、全体では16本です。
蒴壁の表皮細胞は薄壁で、縦長の矩形です。
蒴歯の表面は微小なパピラで覆われています。 なお、上の写真の丸いものは胞子です。
上は胞子です。 表面に突起などはありません。
上は茎の断面で、中心柱が存在します。
(観察したギボウシゴケは7月に彦根市で採集されたもので、笠井氏に提供いただきました。)