2020-05-10

コツボゴケの蒴


 上は、乾いて葉が巻いていますが、コツボゴケ Plagiomnium acutum です。


 湿らせると葉を広げました(上の写真)。 写真のいちばん下の横に這っているのは昨年の匍匐茎でしょう。 そこから上に伸びた直立茎は、茎頂に胞子体をつけるとともに、茎の中ほどから今年の匍匐茎を横に伸ばしています。
 コツボゴケはこれまでにも載せていますので(雄器盤などはこちら、1月の様子はこちら)、今回は蒴を中心に観察してみました。


 蒴の長さは 4mm近くあり、比較的大きな蒴です。
 ところで、蘚類は種類によって蒴口に口環(annulus)と呼ばれる組織を持つものがあり、そのような蘚類では、蒴が熟すと口環から蓋が外れます。 上の写真では、光の当て方にもよりますが、口環がとてもはっきり分かります。
 平凡社の図鑑の「用語の解説」では、口環については「・・・厚壁で透明な細胞からできた環(図3d)。」と説明されていて、図3dには1層の細胞が並ぶ写真が載せられています。 たしかに解説には「無色透明で1層の細胞」とは書かれていないのですが、私はそのように思い込み、口環が分からなくなった時期がありました。
 閑話休題。 口環は有色の細胞の場合も多くありますし、多層の場合も多くあります。 本種の口環の顕微鏡写真はいちばん下に載せました。

 下は上と同じ蒴ですが、写す角度を少し変え、蒴歯をもう少し正面近くから見えるようにしました。


 上の写真の左側は蓋がくっついた帽です。 帽は蓋を残して外れる場合が多いのですが、この場合は一緒に外れました。 帽は僧帽形で、長い嘴があります。 外側から見ると、蓋にも何らかの突起があって、この嘴の中に隠れているようにも思えますが、蓋にはそのような突起はありません(いちばん下から2枚目の写真)。
 蒴歯は外蒴歯と内蒴歯が揃っていますが、特に内蒴歯が複雑なつくりをしているようなので、さらに拡大したのが下です。


 内蒴歯には細かい孔があり、先は櫛の歯のようになっているようです。 しかし外側からではよく分からないので・・・


 上は蒴を縦断し、中にあった胞子を捨て、蒴の内側から蒴歯の部分を撮った写真です。 内蒴歯は屏風状にひだになっているようです。


 上は顕微鏡で深度合成したもので、平面的になってしまいましたが、名称をつけてみました(上の写真)。 基礎膜は内蒴歯の基部で歯状に分裂しない部分です。 歯突起は内蒴歯の歯状構造の本体で、基部は基礎膜に連なっています。 間毛は内蒴歯の歯突起の間にあり、多くの場合は毛状または糸状です。


 上は本種の蓋です。 蓋には突起はありません。


 上は口環を蒴の外側から撮った顕微鏡写真です。


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