2021-05-01

コツボゴケから吸汁するミドリハシリダニ科の一種を見て考えたこと

 上はコツボゴケの上を走り回るミドリハシリダニ科の一種です。 コケテラリウムのガラス越しに撮影しましたので、画像はイマイチですが・・・。 ダニは種類も多く、このダニは植物からの吸汁だけで人に対する危害は心配ありません。
 小さい体のわりには速く動きます。 胴体は黒色に近い深緑色で、肢が赤く、なかなか美しいダニなのですが、夏季には土に潜って休眠しますので、見られるのは春と秋です。 今年もそろそろ見納めです。
 体のつくりについてはこちらに載せています。

 コツボゴケの上をしばらく動き回っていましたが・・・

 上の写真の場所で動かなくなりました。 吸汁しているのでしょう。 口吻を差し込んでいる場所は葉の基部の中肋です。

 生態学的に見るなら、コケも緑色植物であり、地球上に有機物をもたらす生産者です。 消費者はこの有機物を見逃すはずはなく、実際にコケを食料とする生物もいろいろみつかりだしています。 このブログでも最近載せた記事ではクロミツボシアツバがありますし、上のミドリハシリダニもそうです。 しかし生産者も食べられるばかりではたまらず、何らかの防衛策を取るはずです。

 ここで話を大きく飛躍させますが、コケはなぜ小さく単純な体のつくりなのかを改めて考えてみたいと思います。 従来は最初に陸上に上がった緑色植物だからだと考えられてきました。 しかし化石で見られる最初の陸上緑色植物は、クックソニアなどの枝分かれした体を持つ前維管束植物です。
 最近になって、コケの胞子体には枝分かれを抑制する遺伝子が働いていることが分かってきたことをこちらに書きました。 つまりコケは自ら小さく単純化する進化の道筋を歩んだ植物である可能性も出てきました。 もしそのように進化したとするなら、小さく単純化するだけの何らかのメリットがあるはずですが、そのうちの1つとして、被食圧を減じる意味があるのではないでしょうか。

 上の写真の場合、ミドリハシリダニは吸汁する場所を探してウロウロしていました。 1層の細胞からなる葉からは、ミドリハシリダニのような小さな生物でも口吻が突き抜けてしまい、吸汁できないのではないでしょうか。 また、茎には口吻を差し込むことはできるでしょうが、差し込んでも維管束は無く、被害は差し込まれた周辺の細胞に限定されるように思います。 こちらではミドリハシリダニは造精器からの吸汁を狙っているようですし、吸汁可能な場所は意外と限られているのかもしれません。

 従来コケの研究は分類に主眼が置かれ、我々アマチュアも種名を知ることに熱心で、生産者と消費者の関係という視点では、あまり観察されてきませんでした。 しかしコケ植物も生態系の一員であり、このような視点を持ってフィールドで観察すれば、いろいろ楽しい発想が生まれてきます。
 例えは岩にぺったり張り付いている薄い苔類に対しては、口吻を差し込むことも齧り取ることも困難でしょう。 私はスギゴケの仲間の帽にたくさん生えている毛も、環境によっては蒴を齧られることから守るのにおおいに役立っているのではないかと思っています。 触覚に頼る生物には毛を嫌うものがたくさんいるようです。

こちらでも葉が1層の細胞になるように進化した可能性を書いています。

 

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