2015-04-30
ミミナグサ、オランダミミナグサ
上は「堺自然ふれあいの森」で撮ったミミナグサです。 変な名前ですが、漢字で書くと「耳菜草」で、葉の形をネズミの耳に見立てたのだとか・・・。 花だけ見れば同じナデシコ科のハコベの仲間にも少し似ていますが、花が終われば、子房は下の写真のように長く伸びてきます。
ミミナグサは在来ですが、この植物もイヌノフグリほどでは無いにしても、ミミナグサと同じ属で明治時代に帰化したと思われるヨーロッパ原産のオランダミミナグサに押されて、少なくなってきています。
下がそのオランダミミナグサです。
多くの場合、オランダミミナグサはミミナグサに比較して茎は太く、花数が多く花柄が短いために花序は混み合って見えます。 しかし日陰などで生育の悪いオランダミミナグサはミミナグサに似た姿にもなります。
下の写真は、左がオランダミミナグサで、右がミミナグサです。 条件次第ではこのようにミミナグサの方が逞しく見えることさえあります。
上の写真で、ミミナグサの方が少し赤っぽい色がついています。 このような色の違いの傾向はありますが、決め手はやはり柄の長さです。
上の写真では、ミミナグサにもオランダミミナグサにも、口が開いて種子を飛ばしてしまった果実が写っています。 ミミナグサでは、果時に柄はガク片より長いのですが、オランダミミナグサの果時の柄の長さはガク片より短いのが、両者を区別するいちばんのポイントとなるでしょう。
もう少しミクロな違いも載せておきます。 上の写真は左がオランダミミナグサで右がミミナグサです。 オランダミミナグサの方が腺毛が多い傾向があり、オランダミミナグサの茎を持つと、手にくっつく感じのすることがあります。
2015-04-29
2015-04-28
イヌノフグリ
写真は、明治初年に日本に帰化し急速に広まったオオイヌノフグリではなく、古くから日本にあったイヌノフグリです。 こんなふうに書くのは、「イヌノフグリ」と書いてオオイヌノフグリの写真を載せているブログなどが散見されるからです。 それほど“本物”のイヌノフグリはマイナーな存在になってしまいました。
上の写真の場所では比較的たくさん生えていましたが、このような場所は稀になってしまいました。 他の植物に追いやられたイヌノフグリの落ち延びた先は・・・
上は吹き溜まりになっていて、たくさんの落ち葉がありますが、イヌノフグリの生えているのは人工的に組まれた石と舗装とのわずかな隙間です。 下も階段のほんのわずかな隙間に生えています。 花が少ないのは花の盛りの時期が過ぎているからです。
上の写真のように、イヌノフグリはほとんど立ち上がらず、地表を這います。 また、イヌノフグリは小さな植物です。 花もタチイヌノフグリの花(下の写真の左)より少し大きい程度です。
タチイヌノフグリ(左)とイヌノフグリ(右) |
地面を這う小さなイヌノフグリは、多くの植物が元気に育つような場所では、上を覆われ、光合成が十分できなくなり、弱ってしまいます。
以前は定期的に草刈りされた畑の畦などにもよく見られたようですが、そのような場所では近縁で似た生活をして大型で逞しいオオイヌノフグリとの生存競争に負けてしまうようです。
しかし3枚目や4枚目の写真のような僅かな隙間しか無い場所では、他の植物の種子が入り込む確率は低く、ここにイヌノフグリの種子がうまく入り込めば、他の植物に上を覆われる心配なく育つことができます。 しかしそのような場所にイヌノフグリの種子が入り込む確率は高いのでしょうか?
上はイヌノフグリの果実です。 上の写真のものは左右の球形の大きさが少し異なりますが、オオイヌノフグリの果実よりは、ずっと陰嚢に近い形でしょう。 2つの球形がくっついたような形だからといって、それぞれに1つずつの種子が入っているわけではありません。
上は果実が熟して割れたところです。 多くの種子はこぼれ落ちてしまっていますが、右側にはまだ少し種子が残っています。
上は種子です。 イヌノフグリの種子には大きな窪みがあり、その窪みの中にエライオソームと呼ばれる蟻が好む物質(上の写真の白いクシャクシャのもの)が付いています。 この種子を蟻が見つけると、蟻はエライオソームを(=種子を)巣に持ち帰ろうと運びます。 つまり小さな隙間に蟻が種子を運び入れてくれる可能性もあるわけです。 ただし、オオイヌノフグリの種子も、イヌノフグリと似た種子で、エライオソームを持っています。
イヌノフグリが生活できる隙間があっても、そこにイヌノフグリが生えるわけではありません。 イヌノフグリの種子は風で遠くに飛んで行けるような種子ではありませんから、近くに種子供給源となるイヌノフグリがなければなりません。 また蟻の協力を得るには、蟻が生活できる環境でなくてはなりません。 さらに、石などの隙間に種子が入り込む競争相手もいます。 特に、イヌノフグリの仲間で、これも明治初期に帰化してイヌノフグリとよく似た生活をするフラサバソウは、種子も大きく、蟻の種類(大きさ)にもよるでしょうが、蟻はフラサバソウの種子をより好んで運ぼうとするようです。
イヌノフグリの生活は、草地ではオオイヌノフグリに負け、石垣の隙間などではフラサバソウに負けるという苦しい状況にあるようです。 イヌノフグリは1年生草本ですから、毎年どこかで生活の場所を確保し子孫が存続し続けることができなければ、その地域からイヌノフグリの姿が消えてしまいます。
2015-04-27
ムナキルリハムシ
写真はスイバの葉にいたムナキルリハムシ( ムナキナガツツハムシ )です。 食餌植物はヤナギやカンバ類ということですので、飛来してたまたまいたのでしょうか。 体長は5.5mmでした。
写真を撮った時には、なぜこんなにじっとしてくれているのか、疑問に思いながらも、それ以上は考えませんでした。 帰宅後、PCで写真を拡大してみて、後脚が写っていないことに疑問を感じました。 そして・・・
横からの写真を見ると、お尻から何かが出ていて、後脚でそれを挟んでいるようです。 ムナキルリハムシの幼虫は糞の殻をシェルターにして生活するのですが、メスは産卵時に卵を糞で包む作業を行い、上はその作業中のようだと気づいたのは帰宅後で、後の祭り。 BABAさんのところでは、産卵時に卵を糞で包んでいる様子が動画で紹介されています。
(2015.4.22. 堺自然ふれあいの森)
2015-04-26
ヒメクジャクゴケ
上の写真はヒメクジャクゴケ Hypopterygium japonicum を上から見たものです。
上は横から見たものです。 直立茎の上の方から多くの枝がほぼ同じ平面に出ています。 浅い緑色のものは、伸びたばかりの直立茎で、まだ枝を伸ばしていませんが、直立茎の下の方にもほとんど仮根は見られません。
上は胞子体の様子です。 蒴歯は2列(外蒴歯と内蒴歯)です。 蒴柄は、クジャクゴケの褐色~赤褐色とは異なり、わら色です。
上で枝がほぼ水平に出ると書きましたが、上の写真はその枝を下から(地面側から)見たものです。 枝を上から見ると葉( 側葉 )が左右2列に並んでいるように見えますが、下から見るともう1列の葉( 腹葉 )があります。
上は側葉を拡大したもので、2細胞列の舷があります。 この状態では側葉が重なって細部がよく分からないので、側葉を1枚だけ取り出してみました(下の写真)。
中肋は側葉を左右不等に分け、ほぼ葉先に達しています。 葉の中ほどより先端側の葉縁には歯があります。
上は腹葉です。 腹葉は先が細く尖ります。 舷は腹葉にも見られます。
(2015.4.15. 石山寺)
◎ ヒメクジャクゴケの群落をこちらに載せました。
2015-04-25
2015-04-24
ウマスギゴケ
写真はスギゴケと同じ属のウマスギゴケ Polytrichum commune でしょう。 スギゴケの仲間の中でも大きなコケで、オオスギゴケとほぼ同じかそれ以上の大きさになります。 ちなみに、オオスギゴケが半日陰を好むのに対し、ウマスギゴケは水分の多い日の当たる場所を好むようです。
上の写真のものでもウマスギゴケとしては小さな方で、大きい植物体では、この4倍ほどの長さになります。
上は乾燥した状態です。 ウマスギゴケの葉は乾燥しても茎に圧着するだけで、縮れません。
上は蒴の様子です。 帽にはたくさんの毛が認められます(左)。 和名はこの毛を馬のたてがみに見立てたところからのようです。
右はこの帽を引っ張って除去したもので、蒴は当然未熟ですが、角柱形であることは熟した蒴でも同じです。
※ もう少し蒴が育った6月の様子はこちらに載せています。
上は葉の断面です。 薄板がぎっしり並んでいて、葉緑体は薄板の部分に集中しています。 このようなつくりは、薄板の間に水を溜めるとともに、葉緑体のある層を厚くすることで、光合成能力を高めることを狙っているのでしょう。
上の写真は、切片が厚くて透過光での撮影は無理でしたので、周囲から光を当てて撮っています。
2015-04-23
ヒラタハバチ科の一種
ノキシノブにつかまって、じっとしていた蜂、体の模様は前に載せたハバチ科のキモンハバチ属にも似ているのですが、顔を見ると、かなり様子が異なります。
日本環境動物昆虫学会編の「絵解きで調べる昆虫」の「ハバチ・キバチ類」で科を検索すると、下のようになりました(フローチャートを文章にしているため、本の表記を変えています)。
ハバチ・キバチ類
→ 触角は複眼下縁より上方で生じる
→ 触角第3節が特別発達することはない
→ 触角は通常7~36節で糸状
→ 頭盾は頭部と融合、上唇を覆い隠す
→ ヒラタハバチ科
上の写真で、たしかに上唇が見えていません。
次に属への検索ですが、残念ながら検索に必要な爪などの形態が写真に写っていませんでした。 あちこちのブログに掲載されているヒラタハバチ科の写真の絵合わせでは、Pamphillius属のような気もするのですが、日本産のこの属だけでも37種が記載されていて、お手上げです。
2015-04-22
フモトスミレ
写真はフモトスミレでしょう。 和名は山の麓によく見られるということなのでしょうが、様々な環境に分布しているようです。
花は白く、距や花柄は紫色を帯びています。 唇弁は他の花弁より小さい傾向があり、紫色の筋が入っています。 また側弁の基部には毛が密生しています。
上の写真のように上弁を反転させて咲いている花が多いようです。
花柱の上部の形はスミレ類を見分ける時の大切なポイントの1つです。 フモトスミレの花柱の上部は膨らんでいて、カマキリの頭のような形をしています(上の写真)。
葉の裏は紫色を帯びていて、シハイスミレの色によく似ています。
2015-04-21
コゲチャオニグモ(オスの亜成体)?
壁でじっとしていたクモ、脚で頭を保護して脚の隙間から外部を見ている、よく見るポーズ。 しかしこれではよく分からないので、軽く突いて、脚を伸ばしてもらいました。
コゲチャオニグモのオスの亜成体ではないかと思うのですが、コゲチャオニグモも色彩の変化が大きく、よく分かりません。
(2015.4.4. 堺市南区鉢ケ峯寺)
※ コゲチャオニグモのオスの成体はこちらに載せています。
カラヤスデゴケ
写真は樹幹についていたカラヤスデゴケ Frullania muscicola です。 上から見ると、卵形の葉が次々と倒瓦状に重なって長く伸びています。 カラヤスデゴケは変化の幅が大きいということですが、写真のものの幅(左右の葉+茎)は、広い所で 1mmほどでした。
ヤスデゴケの仲間は、ほとんどの場合、写真のように赤味を帯びています。
カラヤスデゴケは雌雄異株で、写真のものは雌株です。 上は1枚目の写真の胞子体をつけている部分を拡大したものです。 蒴は長さも幅も 0.5mmほどでした。
上は既に蒴が割れている1つの胞子体を拡大したものです。 蒴は4裂します。 割れた蒴の内側に見える糸状のものは弾糸でしょう。
(裂開した蒴の深度合成した写真をこちらに載せています)
上は腹面から見たものです。 カラヤスデゴケの葉は背片と腹片から成り、腹葉があります。 腹葉は1/3まで2裂しています。
ところで、上の写真は、それまでの写真に比較して緑色が強くなっていますが、その理由はこちらで考察しています。
上は腹片の形態を理解するために、5枚の顕微鏡写真を深度合成したものです。 写真には腹葉も写っているのですが、いろんな位置の細胞にピントが合っているために、区別がつかなくなってしまっています。
※ カラヤスデゴケ(雄株)の雄花序やさまざまな腹片の形態などはこちらに載せています。 また、こちらでは苔類一般の腹片についてや、カラヤスデゴケのさまざまな形態をとる腹片の相互関係などについて書いています。