2017-12-31

タマゴケの四季



 上は 12月13日に京都の貴船で撮ったタマゴケ Bartramia pomiformis です。 胞子を出し尽くして褐色になり、破れてボロボロになった蒴は、その後に伸びた茎につく新しい葉に隠されようとしていて、その傍らには新しく伸びてきた細い胞子体があります。

 今日は大晦日、テレビからもいろいろと総集編が流れたりしていますので、このブログでもタマゴケの蒴の変化を追いかけてみました。



 2月中旬、タマゴケの蒴が膨れはじめています。 まだ細いままの蒴が混在しているということは、蒴は比較的短時間のうちに膨れるということなのでしょう。 (2015.2.19. 和歌山県 上古沢)


 3月上旬、タマゴケの蒴はすっかり丸くなっていました。 蒴全体が明るい緑色で、帽の取れてしまった蒴もたくさんあります。 上の写真はタマゴケの蒴と水玉の共演を強調するために、少しコントラストを強めてあります。 (2016.3.9. 京都市北山 菩提道)


 蒴の壺の色は濃くなり、蓋には少し透明感が出て来たようです。 (2016.3.13. 和歌山県 川上村)


 蓋に色が付き始めました。 蓋が壺から外れるにあたり、落葉前の紅葉と似たしくみが働いているのでしょうか。 想像を逞しくすれば、蒴歯も死細胞からできていますから、蒴歯が濃い色になるのも同様のしくみかもしれません。 (2016.3.29. 岩湧山)


 蓋と壺の色の差は、ますます明瞭になってきました。 この頃がいちばん“目玉おやじ”でしょうか。 5月上旬ですが、標高が1,000mほどの所ですので、低地より季節の進行が少し遅いようです。 (2015.5.2. 金剛山 山頂)


 5月中旬、蓋は無くなり、蒴歯が見えていて壺には縦じわが現われはじめています。 もう胞子が出はじめているようで、下は上と同じ日の少し離れた場所ですが・・・ (2017.5.10. 高槻市出灰)


 胞子を出すにつれて壺は縮まり、縦じわが深くなります。


 7月中旬、蒴全体がすっかり褐色になっています。 膨れてツヤツヤなのは雨に打たれて水を含み、表面も水の膜に覆われているからでしょう。 (2016.7.13. 京都市 西芳寺川)


 7月下旬、春の遅い標高 2,000m前後の北八ヶ岳でも、褐色でからっぽになったタマゴケの蒴を見る事ができました。

こちらこちらではタマゴケの配偶体を観察しています。 またこちらでは胞子体の生じる位置などを載せています。

こちらには原始的な担子菌の1種である Eocronartium muscicola に寄生されたタマゴケを載せています。

2017-12-30

ハモリダニの一種


 出かけたついでに、ちょっと寄り道。 上はケヤキの幹にいたハモリダニの一種 ANYSTIDAE Gen. sp. で、体長は 1.3mm、立ち止まっていると思ったら食餌中でした。
 ハモリダニは「葉守りダニ」で、葉を食害する虫を捕食してくれるダニです。


 上はケヤキの樹皮裏で越冬中の個体で、体長は 1.4mmでした。 なかなか美しいダニですが、これもハモリダニの一種でしょうか。

(2017.12.30. 堺市南区 大蓮公園)

2017-12-29

オタルヤバネゴケの無性芽と花被



 上はオタルヤバネゴケ Cephalozia otaruensis です。 小さい粒が集まったような球状のものは無性芽で、白っぽいつっ立ったような三角形のものが花被です。
 花被が目立ちだすと生殖関係にエネルギーを費やすのか、新しい茎や葉が作られないのは時期的なものなのか、とにかく美しい植物体はみつからなかったので、茎や葉は前に載せた9月の状態(こちら)を見ていただくことにして、今回は無性芽と花被を中心に見て行くことにします。


 右が無性芽です。 無性芽は徒長した茎の先についています。


 上は花被を破いて中を撮ったものです。 カリプトラの中には受精卵が細胞分裂を繰り返してできた胚があります。


 苞葉と葉とを入れてカリプトラの部分を撮ってみました(上の写真)。 苞葉は 1/2まで2裂し、裂片は狭三角形です。 花被も大きいのですが、苞葉も葉に比較してかなり大きいですね。


 上はカリプトラに保護されている胚を拡大したものです。 胚の緑色の濃い部分が蒴に、そこから下に伸びている部分が蒴柄になっていくのでしょう。

(2017.12.13. 京都市 貴船)

◎ 上記の胚が熟した胞子体となり、胞子を飛散させる様子はこちらに載せています。


2017-12-28

ナミガタタチゴケ


 蒴をつけたナミガタタチゴケ Atrichum undulatum がありました(2017.12.13. 京都市 貴船にて撮影)。
 ナミガタタチゴケは 前に一度載せたきりで、スギゴケ科の特徴である薄板の様子も、葉の断面では載せていませんでした。 また、8月にナミガタタチゴケの葉を撮影したままになっている写真もありますので、この機会に葉についてもう少し詳しく載せることにしました。
 以下は 2017.8.11.に堺市南区豊田にあったナミガタタチゴケで撮ったものです。




 少し拡大して見ると、葉にたくさんの波状の横しわが見られます。 和名の「ナミガタ」はこの横しわに由来するのでしょう。


 上が葉の断面です。 ナミガタタチゴケの薄板は中肋上に4~6列あり(上の写真では5列)、高さは3~4細胞です。
 一般に蘚類の中肋は多層の細胞からなっています。 中肋の各部の名称も併せて入れておきました。 ガイドセルは水分を導く役割を持っていると考えられています。 ステライドは厚壁の細胞からなる組織で、平凡社の図鑑等にはその役割の記載はみつかりませんが、強度を保っているのでしょう。


 上は葉を横やや斜め下から撮ったものです。 葉縁には対になった歯が並んでいます(葉縁と重なっている所は分かりにくいのですが、赤い円で囲った所などではよく分かります)。 また葉の裏(背面)には横じわに沿って歯が並び、中肋背面にも葉の上部を中心に歯が見られます。


 上は葉の背面の横じわに沿った歯です。


 上は葉の上部の中肋背面の歯を撮ったものです(3枚の写真を深度合成しています)。

◎ 本種は雌雄同株(異苞)で、こちらにはその様子を載せています。 また、こちらには本種の蒴歯の様子などを載せています。

 

2017-12-27

12月中旬のヨツバゴケ


 前に10月中旬に撮ったヨツバゴケを載せましたが(こちら)、同じ地域の、時期的にはほぼ2ヶ月後になるヨツバゴケです。


 上はヨツバゴケの蒴です。 4つの歯(蒴歯)の隙間から胞子が出ています。



 1枚目の写真でも所々茶色になった所がありますが、この茶色になった場所のほとんどは、無性芽が入っていたカップ状になった部分です。 前回は緑色でたくさんの無性芽が見られましたが、無性芽ができたことで役割を終え、枯れていくようにプログラミングされているのでしょうか。

(2017.12.13. 京都市 貴船)

2017-12-26

チュウゴクネジクチゴケ


 岩上で放射状に広がったような姿のハイゴケ、造形的になかなか面白い姿だと思い近寄ったところ、ハイゴケの間に生えているコケが目につきました。 今後のハイゴケとの勢力争いも気になるところですが・・・


 ハイゴケの間に生えているのは上のようなコケでした。 少し持ち帰って調べてみると・・・



 茎は褐色、葉は針状披針形で、よく伸びた葉の長さは 1.5~2mmです。


 上は葉先近くの腹面を撮ったものです。 葉身細胞は丸みのある方形で、大きなパピラがあります。 奥に中肋がありますが、中肋の表皮細胞も同様です。

 このような葉は以前見たことがあるのですが、それ以上は思い出せず、蒴も無く、この段階で同定はギブアップ。 写真を送ってお聞きしたところ、センボンゴケ科フタゴゴケ属だろうとの回答をいただきましたので、平凡社の図鑑のフタゴゴケ属の検索表で調べることにしました。


 検索表のスタートは「茎の断面は三角形・・・/ 葉の断面は円く・・・」となっていますが、後者の「葉」は「茎」の誤植でしょう。
 「茎には中心柱がある」から「葉の基部は耳状にならない」「中肋腹面の表皮細胞は方形~卵形」「茎はほとんど分枝せず、葉腋には芽がない」「中肋は葉頂に達する」と進むと、次は「葉上部の葉縁は2細胞層 / 1細胞層」となりますので、葉の上部の断面作成です。


 葉縁は1細胞層で、葉が披針形ですので、検索表からはチュウゴクネジクチゴケ Didymodon vinealis に落ちました。


 チュウゴクネジクチゴケの種別の解説に書かれてある「葉縁は狭く反曲」などの特徴も、ほぼ一致します(上の写真)。 上の写真では斜めに切れた部分で葉の細胞が数層になっているようにも見えますが、中肋を除いて葉の細胞は1層です。 なお、本種は褐色で球形の無性芽をつけることもあるようです。

(2017.12.13. 京都市 貴船)

◎ 蒴のついているチュウゴクネジクチゴケはこちらに載せています。

2017-12-25

アオハイゴケの蒴


 数日前に載せたケネジクチゴケミジンコシノブゴケなどと同じ岩上に育っていたアオハイゴケ Rhynchostegium riparioides です。 上の写真でも分かるように、水飛沫を浴びて濡れています。
 アオハイゴケは前にも載せていますが(こちら)、前回は蒴がありませんでしたし、葉形も少し違っているので、再登場です。


 古い葉は暗緑色で、新しく伸びた枝についている葉は明るい黄緑色と、ずいぶん色が異なります。 蒴は古い枝の途中から出ていて、長い蒴柄があります。


 葉形は、2枚目の写真や前に載せたアオハイゴケでは広卵形が多いのですが、上の写真のようにほぼ円形のものもあります。 葉形に違いがあっても、全周に小さな歯が並ぶことや、中肋が葉長の 2/3~3/4に終わることなどは共通です。 翼部は不明瞭ですが、他よりも幅のある細胞で形成されているようです。


 上は葉身細胞です。


 内蒴歯と外蒴歯はそれぞれ16本です。 帽や蓋の残っている蒴はありませんでした。



 上は内蒴歯、外蒴歯と胞子です。

(2017.12.13. 京都市 貴船)

◎ 帽を持った若い蒴をつけた本種をこちらに載せています。 またこちらには水中で繁茂していた本種を載せています。


2017-12-24

ヒメカガミゴケ


 上はヒメカガミゴケ Brotherella complanata でしょう。 平凡社の図鑑では生育地は「山地の岩上」となっていますが、スギの倒木の幹に生えていました。


 茎は不規則な羽状に分化しています。


 枝は扁平に葉をつけています。 上は乾いた状態ですが、葉は展開しています。


 枝葉は狭卵形で、漸尖しています。 上部の葉縁には目立たない歯があります。


 翼部には大形の細胞が1列に並びます。


 葉身細胞は線形で、65~85μmほどの長さです。


 蒴は円筒形で、蓋には長い嘴があります。

(2017.12.13. 京都市 貴船)