2020-04-30

イトコミミゴケの腹片に入り込んでいたヒルガタワムシの一種


 上はイトコミミゴケ Lejeunea parva でしょう。 和名にあるように糸のような細いコケで、葉を含めた茎の幅は 0.3~0.4mmほどです。


 上は背面から撮っています。 背片をとおして腹片が見えています。


 同定には腹葉や腹片の特徴も大切になってきます。 上は腹片です。 本種の歯牙は長楕円形の1細胞からなり、キールの先端部の細胞が膨れています(こちら)。 あちこちの葉でその様子を確認していると・・・


 腹片は少し膨れていますので、背片との間に隙間ができています。 この隙間は水を貯めておくのに役立っていると思っているのですが、小さな生物がこの隙間を利用しているのもよく目にします。 今回はヒルガタワムシの一種がこの隙間を利用していました(上の動画)。
 ヒルガタワムシは繊毛を動かして水流を作り、その流れに乗せて餌となるものを口に近づけようとしています。 ワムシの仲間は、体は小さいのですが、多細胞生物です。 上の動画では体の多くの部分を腹片と背片の隙間に入れて身を守っていますが、腹片をとおして内蔵の動きが見えます。

◎ ヒルガタワムシはこちらにも載せています。

2020-04-29

リュウキュウハリヒノキゴケ


 上の写真の細長い葉の蘚類は、リュウキュウハリヒノキゴケ Pyrrhobryum spiniforme var. ryukyuense またはその母種(基本種)のハリヒノキゴケでしょう。 上は屋久島で撮っていますが、屋久島には両者の分布が確認されています。 両者は共に雌雄同株ですが前者は異苞、後者は同苞であり、苞葉の形も違うのですが、上の写真の場合は群落としても若いようで、植物体のサイズも小さく、胞子体をつけていませんでした。 つまり上の写真は、両者のいずれかよく分からないのですが、野口(1989)の葉形の図から、とりあえず前者としておきます。 国内での分布は、琉球列島、伊豆七島と屋久島です。
 なお、近畿地方でも見られるヒロハヒノキゴケもハリヒノキゴケの変種です。


 ヒノキゴケの場合は茎の中部にまで仮根が見られるのですが、仮根は茎の基部にしか見られません。 葉は茎の下部では小さく、上部では6mmに達しています。


 上は葉の一部を拡大した写真で、葉縁の中~上部には鋭歯が並んでいます。 下は同じ場所のピントを少しずらした写真で・・・


 葉の中~上部の中肋の背面にも鋭歯が並んでいます。


 上は葉を少し傾けて葉縁の歯を観察しています。 歯は対になったものと単独のものが混じっています。


 上は葉の断面で、葉縁は2細胞層になっています。 たくさんの裂け目が入ってしまい、堅くもろい葉のようですが、この性質が若い葉にもあてはまるのかは、確認していません。


 葉身細胞は厚壁です(上の写真)。


 上は茎の横断面で、中心束がよく発達しています。 下は中心束付近の拡大です。


(2020.3.2. 屋久島)

2020-04-28

オガサワラクサリゴケ



 写真はオガサワラクサリゴケ Lejeunea anisophylla だろうと思います。 本種の分布は静岡県以南とされています。 写真は屋久島でキハネゴケカクレゴケの葉の間など、いろんなコケにくっついていたものです。


 腹片の第1歯は単細胞で鈍頭です。 上の写真は、腹片全体がはっきりするように深度合成していますが、立体的には腹片全体が膨れていて、第1歯はその奥に位置しています。


 腹葉は長さと幅がほぼ同じで、茎径の約2倍幅です。(最初から2枚目の写真も上の写真も、茎はぼやけて実際よりも太く写っています。) 葉先は1/2~2/3まで深く2裂し、裂片は三角形です。 また、側縁は角張る傾向があるようです。
 なお、ヤマトコミミゴケも本種も変異があり、場合によってはよく似ていますが、ヤマトコミミゴケの腹葉は横に広くなっています。


 上は背片を背面から撮っています。本種の葉身細胞の表面にはベルカと呼ばれる微小突起があり、それが光の当たり方で黒色または白色の小粒として写ります。 なお、ヤマトコミミゴケの細胞表面は平らです。
 平凡社の図鑑では、「葉身細胞は薄壁,トリゴンが小さく,・・・」とあります。 上の写真で薄壁と言えるかどうか・・・少し心配です。
 本種はリボン状の無性芽を葉縁につけ、Lejeunea(クサリゴケ属)で他にこのような無性芽をつけるものは無いことから、あれば同定に自信を持つことができるのですが、残念ながら無性芽は見つけられませんでした。

(2020.3.3-4. 屋久島)

2020-04-27

ヨウジョウゴケ

 屋久島の夜、ホテルで撮らせてもらった顕微鏡写真で、写真は2枚のみです。 平凡社の図鑑の解説とは少し違うところもあるのですが、ヨウジョウゴケ Cololejeunea goebelii ではないかと思います。


 背片は卵形で円頭、背縁の細胞にはパビラがあってボコボコしています。 腹片は、平凡社の図鑑では背片の2/3長となっていますが、2/5ほどの長さしかありません。 なお、Cololejeunea(ヒメクサリゴケ属)に腹葉はありません。


 腹片の第1歯は2細胞からなり、第2歯は単細胞です。 平凡社の図鑑では、第2歯は「尖る」とありますが、写真の第2歯を尖っていると言えるのかどうか・・・

(2020.3.4. 屋久島)

◎ ヨウジョウゴケはこちらにも載せています。


2020-04-26

ヒメサンカクゴケ


 写真はヒメサンカクゴケ Drepanolejeunea angustifolia だと思います。 分布は本州~琉球列島です。 前に載せたキハネゴケに絡んでいました。 背片は披針形です。


 背片の先端は内曲しています。 腹片は卵形、背片の1/2ほどの長さで、歯牙は「く」の字形をしています。 葉のキールの背面はマミラ状です。
 腹葉は茎径とほぼ同長で、方形の掌部の先で 1/2まで広くU字形に2裂しています。 上の写真の腹葉の裂片は基部が2細胞幅ですが・・・


 上の腹葉の裂片は1細胞幅です(長さは3細胞)。
 ところで、上のポケット状の腹片の中に虫が巣を作っていたらしく、その巣の出入り口が写っています。 他の苔類でも腹片を棲家としている虫はよく見かけます(例えばこちら)。



 上の2枚は腹片のついている葉を背片側から撮っています。 赤い円で囲った所は眼点細胞だと思いますが、採集後に時間が経っていて、色は抜けてしまっています。

(2020.3.3. 屋久島)

◎ ヒメサンカクゴケはこちらにも載せています。


2020-04-25

ホウロクイチゴ

 この記事は、Part1の 2013.6.16.からの引っ越し(一部変更)に、屋久島の内容を加えたものです。


 ホウロクイチゴ Rubus sieboldii は、暖地の海岸近くに生える大きく広がる常緑低木で、伊豆と紀伊半島以西に分布します。 写真は 2013.6.16.に和歌山県の友ヶ島で撮っています。


 茎はどんどん横に伸び、地面に接した所で根を出します。 上は茎の先端付近です。 写真ではフユイチゴに似ているようにも見えますが、葉はフユイチゴよりずっと大きく、いかにも潮風に対しても水分を奪われにくい丈夫な印象を受けます。


 上は茎の先端付近を拡大したものですが、茎にも葉柄にも褐色綿毛が密生し、棘がたくさん生えています。 上の写真では分かりませんが、葉の裏にも葉脈上に棘が並んでいます。 友ヶ島にはタイワンジカが野生化しているのですが、これだけ棘があれば、シカも食べるのをためらうのでしょう。


 花は主に4~5月で、6月中旬ではほとんど花は残っていませんでした。 上は果実とわずかに残っていた花です。 果実の周囲のモジャモジャしたものは、枯れたオシベです。 上の写真では、果実と花の後に花の終ったガク筒も写っています。 果実が熟すのをガク筒が保護しているのでしょう。


 果実を横から見ると、丈夫そうな大きなガク筒がほぼ水平に開いて残り、果床を形成しています。 ガク筒に接して後に苞があり、これも補強に役立っているように見えます。 果実を食べてみると、少しねっとり感があり、甘い味がしました。
 和名にある「焙烙(ほうろく)」とは、食材を炒ったり蒸したりするのに用いる底の浅い素焼きの土鍋の一種ですが、ホウロクイチゴの名前は、果実を果床から外した様子が焙烙に似ているところからだと言われています。

 このホウロクイチゴが屋久島でも見られました。


 上が屋久島で撮ったホウロクイチゴです(撮影:2020.3.3.)。 屋久島では道路沿いに海岸からかなり離れた所まで分布していました。
 上記のように本種には枝や葉柄や葉の裏面に棘がありますが、ふつう葉の表には棘はありません。 ところが、屋久島のホウロクイチゴには葉の表にも棘があります。 上の写真でも葉脈上に小さな点として棘が写っています。


 上は葉の表の棘です。 かなり鋭い棘ですが、たぶんヤクシカの食圧に対抗するための一種の生態形なのでしょう。


2020-04-24

ヨコグラハネゴケ


 写真はヨコグラハネゴケ Plahiochila parvifolia でしょう。 学名については、平凡社の図鑑等では P. yokogurensis となっていますが、片桐らの「日本産タイ類・ツノゴケ類チェックリスト2018」に従いました。 分布は宮城県以南です。
 本種の葉は途中から折れ易いのですが(こちら)、上の写真の場合は全くと言っていいほど折れていません。 たぶん時期的な問題なのでしょう。


 上は腹面から見ています。 ハネゴケ科の葉は瓦状についていますので、葉の腹縁(腹側の縁)は茎頂方向の縁になります。 なお、葉のつき方を説明する時によく使われる「瓦状」や「倒瓦状」は、腹面から見た時の葉のつき方です(タイ類は腹面が大切です)。
 葉先は切頭で数歯があり、背縁はやや外曲(茎と反対の方に巻き込む)し、歯はわずかです。 腹縁には多くの歯があり、腹縁基部はやや耳状に張り出して短く下延しています。 背縁基部の様子は上の写真では隠れていて分かりませんが・・・


 背縁基部は長く下延しています。


 特に大きく見える葉があったので長さを測ってみたところ、約3mmありました(上の写真)。 多くの葉は平凡社の図鑑にある 1.5~2.5mmの長さです。
 上の写真以下、色が赤っぽくなっています。 これは本種については前にも載せていることから後回しにして、50日近く乾燥標本の状態で放置していたためです。


 本種は雌雄異株です。 上の写真も腹面からですが、花被があったので、その合わせ目にピンセット差し込んで開いてみたところ、造卵器が見えました(上の写真)。 花被は扇形で1/3まで2裂し、口部には鋸歯があります。


 上は顕微鏡で見た造卵器ですが、背後に花被があるので光が十分届かず、手前の葉も除去しきれていないので、分かりづらく、造卵器の頸部だけの写真になってしまいました。



 上の2枚は腹葉です。 腹葉は痕跡的で形は様々ですが、基本的には線形で、大きく2裂しています。


 上は葉身細胞です。長らく放置していたので油体は消えています。 緑の残っている所との境を撮ってみたのですが、褐色になるのは主に葉緑体のようです。

(2020.3.3. 屋久島)

◎ ヨコグラハネゴケはこちらにも載せています。

2020-04-23

ナガバムシトリゴケ


 屋久島で撮ったスギの枯れた枝葉、いろいろなコケがついていますが、赤い楕円で囲った所がナガバムシトリゴケ Colura tenuicornis です。 国内の分布は本州(紀伊半島)~九州、小笠原です。
 ちなみに、屋久島のスギの葉はヤクシカの被食圧のため、葉先がとても鋭くなっていました。


 ナガバムシトリゴケを拡大しました(上の写真)。 葉は著しく背側に偏向しています。
 以下、顕微鏡レベルで詳しく、としたいところですが、標本がありません。 次から次へと写真を撮っているうちに採集し忘れたのか紛失したのか、とにかく、これまでこのブログに載せなかったのはそのためです。
 しかしせっかくの絶滅危惧Ⅰ類に指定されている貴重なコケの写真ですので、載せることにしました。 ただ、上の写真だけでは何が何だか分かりませんので、図を報文から借用しました。 下は、林 達紀, 長谷川 二郎:尾鈴山(宮崎県)で発見されたナガバムシトリゴケ(蘚苔類研究7巻11号,1997)の図に私が名称等を書き加えたものです。


 腹片は背片より長く、基部を除いて袋状になっています。 和名はこの袋状の部分が補虫嚢を連想させるところからでしょうが、実際に虫を捕らえているのかどうかは疑問です。
 腹葉は葉1枚につき1枚あり、基部までV字形に2裂しています。

(2020.3.3. 屋久島)

2020-04-22

ギンリョウソウ

 ギンリョウソウ Monotropastrum humile はベニタケの仲間の菌糸に寄生する菌従属栄養植物です。 旧分類ではイチヤクソウ科に分類されていましたが、APG体系ではツツジ科になっています。
 以下は古い写真を寄せ集めたギンリョウソウのフェノロジーです。(写真には撮影日と撮影場所をつけていますが、撮影の年はいろいろです。)

4月1日 兵庫県丹波市金山

 大阪周辺では4月になるとギンリョウソウが出はじめます。

4月14日 兵庫県三田市

 和名を漢字で書くと「銀竜草」で、薄暗い林の中で銀色に輝いています。 この白さは、紫外線を含む光を全反射することで生じているようです。
 ギンリョウソウは虫媒花で、種子を作るためには、虫を呼んで花粉を運んでもらわねばなりません。 田中肇・森田竜義によれば、暗い森の中で咲くギンリョウソウは、全反射することで昆虫の目にも花の存在が分かるようにしているのだということです(花の自然史―美しさの進化学:北海道大学図書刊行会)。

5月10日 大阪府 槙尾山

 下向きだった花が横を向きはじめると、竜の顔を連想させる姿になります。 マルハナバチの仲間などが花を訪れる時期です。 茎も葉も、ガク片も花弁も白色ですが、花を覗くと、青い大きな柱頭が中央にあり、その周囲を黄色いオシベの葯が囲んでいます。 蜜は花の奥にありますから、蜜を求めて口吻を差し込んでいるうちに受粉されるのでしょう。
 なお、このギンリョウソウとよく似たギンリョウソウモドキ(別名アキノギンリョウソウ) Monotropa uniflora の柱頭は黄褐色です。

 下はこの時期の花の断面です。

5月25日 大阪府 槙尾山

 メシベの基部には大きな子房があります。 子房の中の種子は、上の写真ではまだ熟しておらず、はっきりしませんが、子房の断面に見える小さなプツプツが種子で、1つの子房に入っている種子は数百個になります。
 なお、このように茎を切り取ると、ギンリョウソウはどんどん黒くなってしまいます。 美しい白い色を楽しむには、自然の状態で鑑賞するしかありません。

7月21日 北八ヶ岳

 上は標高 1,000mを越える所で、春が遅い所ですが、それでもかなり傷んできています。 子房はしっかりしていますから、種子は成熟に向かって順調に進んでいるのでしょう。

6月29日 大阪府 槙尾山

 茎も黒っぽくなり、元気そうなのは子房の部分だけで、この部分の外見はほとんど変化していませんが、もう果実と呼んでいいでしょう。 茎が朽ちると果実は地面に落ちます。 果実は液果で、種子はその中に入ったままです。
 種子はどのように散布されるのか。 2017年、熊本大学大学院先端科学研究部のグループはモリチャバネゴキブリがギンリョウソウの果実を齧り、その糞にギンリョウソウの種子が混じっていることを発表しました(こちら)。 しかしモリチャバネゴキブリが分布しない所でもギンリョウソウは育っているので、他にも種子散布を行っている何者かが存在するのでしょう。

2020-04-21

オオキゴケ



 写真は屋久島で目立っていた地衣類で、オオキゴケ Stereocaulon sorediiferum だと思います。 分布は関東以西です。


 擬子柄は直立し、先端付近で多少分岐し、その先端に子器をつけています。 棘枝は擬子柄にほぼ均等につき、多くの場合、その先端に粉芽をつけています。 擬子柄の下部には頭状体がついています。 本種の地衣体は緑藻を共生藻としていますが、この頭状体には藍藻が入っているということです。

(2020.3.2. 屋久島)