ギンリョウソウ
Monotropastrum humile はベニタケの仲間の菌糸に寄生する菌従属栄養植物です。 旧分類ではイチヤクソウ科に分類されていましたが、APG体系ではツツジ科になっています。
以下は古い写真を寄せ集めたギンリョウソウのフェノロジーです。(写真には撮影日と撮影場所をつけていますが、撮影の年はいろいろです。)
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4月1日 兵庫県丹波市金山 |
大阪周辺では4月になるとギンリョウソウが出はじめます。
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4月14日 兵庫県三田市 |
和名を漢字で書くと「銀竜草」で、薄暗い林の中で銀色に輝いています。 この白さは、紫外線を含む光を全反射することで生じているようです。
ギンリョウソウは虫媒花で、種子を作るためには、虫を呼んで花粉を運んでもらわねばなりません。 田中肇・森田竜義によれば、暗い森の中で咲くギンリョウソウは、全反射することで昆虫の目にも花の存在が分かるようにしているのだということです(花の自然史―美しさの進化学:北海道大学図書刊行会)。
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5月10日 大阪府 槙尾山 |
下向きだった花が横を向きはじめると、竜の顔を連想させる姿になります。 マルハナバチの仲間などが花を訪れる時期です。 茎も葉も、ガク片も花弁も白色ですが、花を覗くと、青い大きな柱頭が中央にあり、その周囲を黄色いオシベの葯が囲んでいます。 蜜は花の奥にありますから、蜜を求めて口吻を差し込んでいるうちに受粉されるのでしょう。
なお、このギンリョウソウとよく似た
ギンリョウソウモドキ(別名アキノギンリョウソウ) Monotropa uniflora の柱頭は黄褐色です。
下はこの時期の花の断面です。
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5月25日 大阪府 槙尾山 |
メシベの基部には大きな子房があります。 子房の中の種子は、上の写真ではまだ熟しておらず、はっきりしませんが、子房の断面に見える小さなプツプツが種子で、1つの子房に入っている種子は数百個になります。
なお、このように茎を切り取ると、ギンリョウソウはどんどん黒くなってしまいます。 美しい白い色を楽しむには、自然の状態で鑑賞するしかありません。
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7月21日 北八ヶ岳 |
上は標高 1,000mを越える所で、春が遅い所ですが、それでもかなり傷んできています。 子房はしっかりしていますから、種子は成熟に向かって順調に進んでいるのでしょう。
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6月29日 大阪府 槙尾山 |
茎も黒っぽくなり、元気そうなのは子房の部分だけで、この部分の外見はほとんど変化していませんが、もう果実と呼んでいいでしょう。 茎が朽ちると果実は地面に落ちます。 果実は液果で、種子はその中に入ったままです。
種子はどのように散布されるのか。 2017年、熊本大学大学院先端科学研究部のグループはモリチャバネゴキブリがギンリョウソウの果実を齧り、その糞にギンリョウソウの種子が混じっていることを発表しました(
こちら)。 しかしモリチャバネゴキブリが分布しない所でもギンリョウソウは育っているので、他にも種子散布を行っている何者かが存在するのでしょう。