写真はシワタケ Phlebia tremellosa だと思います。 大阪府民の森くろんど園地の遊歩道の階段に埋め込まれていた材に発生していました(10月29日撮影)。 半背着生の白色腐朽菌で、傘の表面は白色の軟毛を密生しています。
上は傘の内側です。 管孔部は縦横の皺により、角ばった浅いシワ穴状になっています。 和名もこの皺に由来するのでしょう。
11月19日(日)に、コケ観察会を実施します。
この観察会は、10月からNHK文化センター京都教室で行っている講座「身近なコケの不思議な世界」(全6回)の2回目になりますが、教室を離れての現地での観察会のみの参加も受け付けることにしました。 実施場所は京都府立植物園です。 9月に実施した体験講座と同じ所ですが、広い植物園ですので、違う所で違うコケを観察します。
コケは図鑑で名前を調べようとしても、なかなか分かりにくいもので、やはり実際のコケを見るのがコケを知る近道だと思います。
参加申し込みや問い合わせは、NHK文化センター京都教室(Tel. 075-254-8701)へお願いします。 参加費は 3,300円です。
タイトルは学名(Salvia leucantha)をカタカナにしたもの。 アメジストセージなど、いろいろな名前も持っています。 中央アメリカ原産で、大阪付近では屋外で冬越しできます。 秋から晩秋にかけて咲く花は、花穂は長くみごとなのですが・・・
上の写真は咲いている花の多い所を狙って撮ったのですが、ひとつひとつの花は小さく、目立っている多くの部分は、花冠のなくなったガクや、ガクに覆われたツボミです。 花は短命で左下には枯れかけた花が写っています。 写真の品種は花冠もガクに似た紫ですが、種小名を見ると、野生種の花冠は白色だと思います。
花冠の先は他のシソ科同様上唇と下唇に分かれていますが、花冠の下(腹側?)が段になっています。 気になったので断面を作ってみたのが下です。
上の写真の上は花の外観、下が花の断面です。 メシベは1本で柱頭は2裂しています。 オシベは2本あるのですが、手前のオシベは断面作成時に無くなっています。
オシベは丁字形をしていて、花冠の腹側の段になっている所でくっついています。 このつくりの意味を考えてみました。
上は分かりやすいようにメシベも取り去り、(片側の)オシベだけにしています。 虫(またはハチドリの長い舌?)が花の奥の蜜を求めて花の中に入ってきます。 それを水色の矢印で表現しました。 花の形から、奥へ進もうとするとオシベのaの所にぶち当たり、aの所を上に持ち上げることになります(黄色の矢印)。 結果として、やじろべえのようなつくりになっているオシベのbの所(葯)を押し下げ、花粉を水色で表した虫の背中またはハチドリの舌にくっつけることになります。
茎の断面も観察してみました。
上が茎の断面です。 気泡が抜けるのを待ちきれず撮ったので、グレースケールに変換しました。 茎の中央部が濃くなっていますが、気泡のせいで、実際は薄膜の大きな細胞からなる均一な柔組織です。
シソ科の茎は断面で四角形のことが多く、それぞれの角にいろいろな組織が集中しています。 下は上の赤い四角で囲った所の拡大です。
恒例となりました京都府立植物園の「苔・こけ・コケ展」、今年も11月10日(金)~12日(日)の予定で開催されます。
主催:京都府立植物園、岡山コケの会関西支部(オカモス関西)
後援:日本蘚苔類学会
内容:コケ関係の展示や販売、講演会、講習会、観察会など
京都府立植物園へは、京都市営地下鉄「北山」駅すぐですが、メイン会場は正門から入ってすぐ右の「植物園会館」ですので、コケ展が主目的の場合は、地下鉄「北大路」駅からの方が便利です(徒歩10分)。
北海道の阿寒の森で見たベニタケ科ベニタケ属の3種です。 色は違いますが、同じ属だけあって、形はよく似ています。 いずれも9月10日の撮影です。
ベニタケ科のきのこは球状の細胞でできているため、少し力を加えると、ぼろぼろと崩れてしまいます。
● クサハツ Russula foetens
傘の表側は褐色~黄土色で、中心部がやや濃い色になっています。 周辺部には放射状の溝線があり、隆起部は粒状の突起が並んでいます。
和名を漢字にすると「臭初」で、不快な臭いがします。 なお「初」は、初秋に多く発生するハツタケ(初茸)の仲間(同属)であるところからでしょう。
ひだは乳白色~淡黄褐色で、次第に褐色のしみができてきます。 若いうちは上の写真のように、ひだから透明の水滴を分泌します。
● クサイロハツ Russula aeruginea
和名は初茸の仲間で草色をしているところからでしょう。 カワリハツの緑色タイプと似ていますが、FeSO4水溶液をつけると淡い桃色に変色します。
やはり傘の周辺部には溝線があります。
● チシオハツ Russula sanguinea
同じ属のドクベニタケに似ています。 違いをまとめると、下のようになります。
チシオハツ | ドクベニタケ | |
傘の色 | やや落ち着いた鮮桃赤色 | 鮮やかな赤 |
古くなると | 斑紋状に退色 | 全体的に薄く退色 |
傘の表皮 | はがれやすい | はがれにくい |
柄の色 | やや赤みを持つ | 真っ白 |
上はバンダイゴケ Rauiella fujisana だと思います。 北海道~九州に分布しています。
育っていたのは、北海道の阿寒湖のほとりで、上の写真の黄色い矢印の所です(9月9日に撮影)。 平凡社では「産地の木の根元などに生える。」となっています。
長さ2~3mmの枝を羽状に出しています、 茎葉は長さ 0.4~0.5mmです。
上は茎葉です。
上は枝葉です。
葉身細胞には先の分かれたパピラがあります(上の写真)。
上は枝についている毛葉です。 茎にも枝にも毛葉がついています。
蒴は、最初の写真では直立しているようにもみえるのですが、持ち帰って少し時間が経ったものでは、どの蒴も上の写真のように明瞭に傾き、蒴の形もやや非相称でした。 蓋には短い嘴があります。
◎ こちらとこちらには胞子散布を終えた蒴をつけた本種を載せています。
写真はオオトリゲモ Najas oguraensis です。 トチカガミ科の沈水性の一年草で、本州の宮城県以西と四国に分布しています。 葉は線形で、対生または3輪生し、葉縁には多数の鋸歯があります。
Najas(イバラモ属)は互いによく似ています。 本種は和名のとおりこの仲間では最大ですが、特にトリゲモとは、葉の長さの変異が大きいこともあり、外観ではほとんど見分けがつきません。 この2種を確実に同定するためには、雄花の葯室の数を調べ、1室ならトリゲモ、葯室の数が4室なら本種なのですが、残念ながら雄花は撮れませんでした。 帰宅後に調べたところでは、雄花は数が少ない上に頂芽付近に埋もれているので針を使って丁寧に取り出さねばならないようです。 とにかく、写真のものは水草の専門家が同定したものなので、オオトリゲモであることは間違いはないでしょう。
和名の「鳥毛(とりげ)」は、大名行列などで指物 (さしもの) の竿の先や槍の鞘などを羽毛で飾ったもののことで、枝先に葉が密集している姿を例えたのでしょう。
上は雌花です。 柱頭は2裂しています。
北海道・阿寒の森の樹幹下部についていた写真のコケ(9月9日撮影)、蒴が無くてはっきりしませんが、ナガエタチヒラゴケ Homalia trichomanoides だろうと思います。
分布は北海道~九州です。 平凡社ではヤマトヒラゴケの母種となっていて、分布はヤマトヒラゴケより北寄りです。
湿らせて、丸まっていた葉を広げてみました(上の写真)。 二次茎は葉を扁平につけ、不規則な羽状に分枝しています。
上の赤い格子は1mm方眼です。
葉は非相称で葉先は広く尖り、基部の片側の縁は内曲しています。 中肋は細く不明瞭ですが、葉の中部に達しているようです。
葉先近くの細胞は菱形です(上の写真)。 縁に細かい歯がありますが、この歯はほぼ全周に見られます。
上は葉の中央部の葉身細胞です。
写真はバクチノキ Laurocerasus zippeliana です。 常緑の高木で、関東以西の暖地に分布します。
上は京都府立植物園で10月15日に撮った写真で、たくさん花をつけていました。 ちょうど1週間前にもこの木の前を通ったのですが、その時は花は全く咲いていませんでした。 今年の夏は異常に暑く、開花が遅れていたようで、少し涼しくなるのを待ちかねていたような咲き方です。
本種はバラ科で、サクラの仲間と近い関係にあります。 花はソメイヨシノのガク筒を広げて平らにしたようなつくりになっています。
樹皮はよく目立つ色をしています。 和名の由来は、上のラベルにもあるように、博打(ばくち)に負けて身ぐるみ剝がされた姿に例えられたものとされています。
京都府立植物園の生態園で、シモバシラ Collinsonia japonica のちょうど見頃の花を見ることができました(10月8日撮影)。
本種は関東地方以南の本州から九州にかけて分布するシソ科の多年草で、日本固有種です。 茎はやや水平の向きに曲がる性質があり、そこから出る花序の軸はほぼ真上に伸び、花は偏ってついて上のような姿になります。
多年生の草本ですので、冬になれば地上部は枯れます。 しかし本種の根はそれからもしばらくは活動を維持する性質があり、やや木質化した茎の道管に水を押し上げ続けます。 そして外気温が氷点下になり、道管内の水が凍ると、茎を突き破って氷が茎の外に次々と出てきて、美しい氷の造形美を見せてくれます。 和名はそのことに由来します。
上は花です。 オシベ4本は2本ずつ上と下に分かれて長く花外に突き出しています。
写真は大阪府の能勢町で咲いていたキガンピ Diplomorpha trichotoma です(9月24日撮影)。 開花期は夏ですので、花はほとんど終わりかけていました。 本種はジンチョウゲ科の落葉低木で、同じ属のガンピの葉は互生ですが、本種の葉は対生しています。
本種もガンピも、その樹皮はとても良質の和紙の材料になるのですが、栽培が難しく、大量の製紙の材料にすることができません。
上の写真の花を見ると、ガクが無いように見えます。 じつはガクが無いのではなく、花弁が無く、花弁のようにみえるのがガクです。 オシベも4本のようにみえますが、じつは8本あり、4本は少し下にあって、見えていません。
身近な所で普通にあるコケでも、アオギヌゴケ属を筆頭に、ルーペレベルでの同定の難しいコケはいっぱいあります。
エダツヤゴケくらいはルーペで自信を持って同定できるようになりたいのですが、生育環境によっても時期によっても変異が大きく、ツヤゴケ属であることを翼部で確認しようと思ってもルーペでは無理で、なかなか難しいものですね。
エダツヤゴケ Entodon flavescens はこれまで何度も載せていますが、具体例を多く見て脳の抽象化処理に期待するしかないかと思い、また載せます。
上は湿った状態、下は乾いた状態です。 目盛りは1mmです。
エダツヤゴケのルーペレベルでの特徴は、特に湿った状態ではツヤがあること、枝が多く、そこからさらに小枝を出すことが多くあること、その結果として、小さな葉から大きな葉まで、葉の大きさがかなり異なることなどが挙げられます。 しかし、茎から枝の出る角度はさまざまですし、枝の粗密も場所によって異なりますから、見た印象も見る場所によって異なります。
いちおう本種であることの確認のために茎葉を調べましたが、平凡社の記載より小形です(上の写真)。 葉の大きさも生育環境などで変化するようです。
上は翼部です。
葉身細胞は長さ 50-65μm、幅約5μmです(上の写真)。
(2023.10.9. 奈良県 川上村)
◎ こちらやこちらには新しい茎を伸ばし始めた春先の姿を、こちらには細い蒴をつけた9月の様子を、こちらには太くなった蒴をつけた11月の様子を載せています。