2023-03-30

イスカシヨウジョウゴケ


 写真はイスカシヨウジョウゴケ Cololejeunea ocelloides のようです。 屋久島の標高 90mほどの所のスギの樹皮に幾重にも重なって育っていました(撮影:2023.3.30.)。 柔らかいコケで、葉は淡い緑で透明感があり、葉の下まで光が通るようです。

 背片はほぼ全縁で円頭です。

 上は腹面から撮っています。 腹葉は無く、腹葉の位置から仮根が束生しています。

 背片は長さ約 0.6mm、基部から中央にかけて2~4列のビッタがあります。 腹片の長さは背片の約1/2です。

 上はビッタとその周囲の細胞の様子です。 この種のビッタは細長い眼点細胞と言っても良さそうですね。

 上は腹片の先です。 背景にビッタがあって分かりにくいのですが、透明細胞が第1歯の基部の細胞のキールと反対側にあり、第1歯はキールの方には曲がらず、第2歯は第1歯と同じように大きくなっています。
 本種とタイワンヨウジョウゴケ C. ocellata はとてもよく似ていますが、平凡社にはこちらの透明細胞は第1歯の基部の細胞の内側にあることになっています。 また、道盛氏から送っていただいた中国苔綱和角苔綱植物属誌の図を見ても、ビッタの並び方や第1歯の形などが微妙に違うようです。

 上は背片の葉身細胞です。 私が使っている顕微鏡は、倍率が高くなると色が変になる傾向があるので、グレースケールに変換してあります。
 各細胞の中央にパピラがあります。 写真は載せていませんが、このパピラは高さと幅がほぼ同じで、先は丸くなっています。

 上の写真、赤い円に花被が、緑の円に雄花序があります。 つまり雌雄同株です。 以下は上の赤い円と緑の円の所の拡大です。

 上は赤い円の所の拡大です。 花被の表面にはパピラは無く、平滑です。

 上は雄花序です。 丸い造精器がたくさん見えています。

2023-03-29

蒴をつけたフデゴケ

  ヤマトフデゴケかもしれません。 もう少し詳しく調べて書き直す可能性大です(2024.3.15.)。

 あまり蒴をつけないフデゴケ Campylopus umbellatus が蒴をつけていました。 蒴をつけた株は群落内に散見され、それらの1本の茎には1~3本の胞子体がついていました。 平凡社の図鑑には「ふつう1茎に3~4本つき,(以下略)」とありますから、もっとたくさんの蒴をつける群落もあるのでしょう。

 上の写真の茎の長さは6cmあります。 平凡社の図鑑にも本種の茎の長さは6~7cmとありますが、もっと短いものをよく見ます。 やはり十分生長した場合でないと蒴をつけないのでしょう。
 なお、本種によく似たヤマトフデゴケは、こんなに長くなりませんし、胞子体は知られていません。

 茎には密に仮根がついています(上の写真)。

 上は葉のほぼ中央を腹側から見ています。 葉は湿ると縁が持ち上がり、丸くなってきます。 本種の中肋は幅広く、上の写真では大部分が中肋で、葉身細胞は縁に近い所の2~4細胞列しかありません。

 上は葉先です。 平凡社では「(葉の)先端は長い透明な芒となり,(以下略)」と書かれていて、多くの場合はそのようになっているのですが(例えばこちら)、上のように透明な芒にはなっていない場合もあります。 生育環境や時期的なものが関係していると思いますが、私の観察した結果では、乾燥気味の所の方がで透明な芒が発達するように思います。

 上は葉の横断面です。 3断面は同じ葉のもので、上から、葉先から1/4の所、葉の中央、葉先から3/4の所の横断面です。
 平凡社の図鑑には、フデゴケの中肋の横断面については「中央の1列のガイドセルをはさんで背腹両側にステライドが発達し,背側には細胞の突出による明瞭な凹凸がある。」と書かれています。 また、ヤマトフデゴケについては「中部以下の中肋の横断面で,中央部の大形のガイドセルをはさんで腹側に1列の大形で透明な細胞があり,背側にはステライドが発達する。」と書かれています。 上の写真を見ると、葉の上部の横断面はフデゴケの特徴が出ていますが、葉の下部の横断面はヤマトフデゴケの特徴が出ています。 もちろん、葉の下部の横断面でも本種の特徴がはっきり出ている場合もあるのですが(例えばこちら)、生育環境や時期によっては、紛らわしいケースもあるようです。

 上は乾いた状態の本種の胞子体です。 本種の蒴柄は、湿った状態では最初の写真のように強く屈曲しているのですが、乾くと上のようにまっすぐに近くなります。 上の写真の蒴柄の長さは、上のような波打った状態でも 12mmあり、まっすぐにすれば、もっと長くなります。 平凡社では「蒴柄は短く5~6mm」と書かれてあるのですが、屈曲した胞子体の高さが書かれてあるのでしょうか?

 帽は僧帽形で下端に毛があり、蓋には長い嘴がありますが、この蓋は壺の長さよりは短いものです。

 蒴歯の内面は密にパビラで覆われています(上の写真)。 これは本種の属する Campylopus(ツリバリゴケ属)の特徴で、よく似た Bryohumbertia(ツリバリゴケモドキ属)の蒴歯の内面は平滑です。

(2023.3.9. 屋久島)

2023-03-27

オオタニワタリ

 屋久島で見たオオタニワタリ Asplenium antiquum です(2023.3.11.撮影)。 日本南部の暖地から台湾にかけて分布する常緑のシダ植物で、植物園の温室などではお馴染みですが、園芸目的などの採集圧で、自生している姿を見る機会は少なくなりました。
 葉は放射状に出て、新しい葉は斜め上に伸びるので、全体としてはロート形になり、落ち葉などが株の中心部にたまります。 茎の側面から出たたくさんの根がこの落ち葉を保持し、落ち葉は次第に、腐葉土化し、肥料となっていきます。

 タニワタリの仲間には何種類かありますが、本種の胞子のう群は主軸から葉縁近くまで伸びた細い直線状で、多くの場合、この胞子のう群が1つおきの葉脈ごとに(=隙間を作って)たくさん並びます(上の写真)。

 熱帯や亜熱帯では樹木の幹や枝に着生している場合が多いのですが、それより冷涼な所では岩上や地上で生育するものが多くなるようです。 和名はそのたくさん生育している様子を「シダが谷を渡っている」ととらえたところからのようです。

2023-03-26

Wijkia deflexifolia

 

 上の写真、少しブレていますが、ヒメタチゴケに囲まれ、マキノゴケの上に広がっているのはコモチイトゴケ科の Wijkia deflexifolia のようです。 上は、屋久島の標高 700mあたりの朽木と言って良いような倒木の上で、強い金属様の光沢に惹かれて撮った写真です(撮影日:2023.3.8.)。
 本種に和名はありませんが、珍しいコケではなく、屋久島では標高 1,000mを超えるあたりからは普通に見られるコケのようで、西村ら(2007)の屋久島の蘚苔類目録(蘚苔類研究9(6))にも載せられていますし、中村・須賀(1995)の屋久島の針葉樹林における倒木上のコケ群落の遷移を調査した報文(日本蘚苔類学会会報6(7))には次のように書かれています。

 倒木の腐朽の度介いを手がかりとして,以下のような遷移系列がみいだされた.倒伏間もない段階ではクチキハイゴケやタカネハネゴケが優占し,生木の樹幹着生の種も多くみられる,倒木に樹皮がなくなり材が露出するようになるとフクロヤバネゴケ優占の群落がみられる.この群落は,材の腐朽が進むにつれ Wijkia deflexifoIia 優占の群落に取って代わられる.この段階になると草本種の生育もみられる.さらに腐朽が進むにつれハリヒノキゴケ優占の群落に移行し,多くの草本種や木本種も生育するようになる.(ボールドはブログ管理者)
 平凡社の図鑑等に記載が無いのは、この仲間は分枝系統樹的にも微妙な位置にあり、研究が進んでいないからのようです。 秋山(2019)は新・コケ百選 第19回(蘚苔類研究11(12))で「屋久島には W. deflexifolia とされる種があるが,その正体はよく分かっていない」としています。

 上は湿った状態です。

 上は乾いた状態です。


 茎葉は卵形で、葉先は急に細くなりますが、同じ茎につく葉でも、大きさにも違いがありますし、もっと幅の広い葉や幅の細い葉など、変異があります。 ほぼ全縁で翼部は明瞭に分化しています(上の2枚の写真)。

 上は翼部です。 翼細胞は透明(たぶん若い葉)または上のような有色です。

 上は葉身細胞です。


 上の2枚は枝葉です。 葉の大きさは茎葉とほとんど同じですが、 あまり葉先が細長くならず、葉の上部に小さな歯が見られる場合が多くありました。

 上は枝葉の翼部ですが、茎葉とほとんど同じです。

2023-03-25

伸びはじめたアズマゼニゴケの雌器托

 雌器托が伸びだしたアズマゼニゴケ Wiesnerella denudata です。 私的にはこの頃が一番かわいいように思います。 屋久島の標高 900mほどの所で 2023.3.10.に撮影しました。

 雌器托を下から見ると、包膜をとおして胞子体が見えています。 ちなみに胞子体の色は、緑色 → 褐色 → 黒色 と変化します。

◎ 本種については、これまで何度も載せていますので、下に整理しておきます。
 雌器托の変化に関しては、受精したばかりで柄が伸びていない状態をこちらに、上より前の、伸び始めたばかりの状態をこちらに、胞子を飛散し始めている状態をこちらに載せています。
 また、こちらには蒴の裂け方と弾糸のつくりについて載せていますし、こちらには本種の気室孔や鱗片の付属物の様子を載せています。

2023-03-23

コツブクチキゴケ

 写真はコツブクチキゴケ Odontoschisma zhui だと思います。 屋久島の標高 700m付近の樹幹についていました(2023.3.8.撮影)。
 分子系統学的研究成果を基に2012年から2014年にかけてヤバネゴケ科の大幅な再編成が行われ、本種も Aranda et al.(2014)により新たに記載された種です(片桐・古木,2015)。 したがって、もちろん平凡社の図鑑などには載っていません。 分布は中国と日本(新潟~屋久島)で、従来はクチキゴケと同一視されていたのだと思います。
 なお、日本に分布するOdontoschisma(クチキゴケ属)は7種になっています。

 上は背面から撮っています。 葉は深く凹んでいます。 葉を含む茎の幅は 0.5~1mmです。

 上は腹面から撮っています。 小さな腹葉があり、比較的分かり易い所に名称を入れておきました。 枝は茎の腹面から出ています(赤い円の所)。 大きな葉は弱く鎌状に曲がっています。 緑のラインで示した所は、腹面正面から見ると鎌状に曲がっているのがよく分かる所だったのですが、うまく撮れませんでした。

 上は葉です。

 上は葉身細胞です。 本種は、特に葉が鎌状に曲がっていない場合は、クチキゴケによく似ていますし、上の細胞の写真も、スケールが無ければクチキゴケの細胞(こちら)によく似ています。 しかし、クチキゴケの葉身細胞が 20~30μmであるのに対し、本種の葉身細胞は 13~18μmで、この細胞のサイズの違いで両者を明瞭に区別することができます。 和名の「コツブ」も、葉身細胞が小さいことにちなんでいます。

 上は葉縁近くの細胞の様子です。

 上は腹葉の顕微鏡写真です。

 今回も道盛さんに文献の存在を教えていただきました。 感謝します。

【参考文献】
片桐知之・古木達郎(2015).日本産タイ類・ツノゴケ類学名情報1.クチキゴケ属Odonto-
schisma.蘚苔類研究11(5).

2023-03-22

イボテングサゴケ

 土の斜面に育っていた上の写真の葉状体苔類、葉状体の表面にベルカがあることなどから、当初カネマルテングサゴケ Riccardia crassa としていたのですが、再検討の結果、イボテングサゴケ Riccardia tamariscina に変更します。 写真の左上には胞子体も写っています。

 上の写真は、右も左も本種です。 この仲間を外見で同定することが困難であることは、上の写真からも分かります。



 顕微鏡で観察すると、背面も腹面も、葉状体表面には著しいベルカ(微小な突起)があります。 平凡社では「ゴミを散らしたようである。」と表現されています。
 油体は各細胞に1(~2)個で微粒の集合です。


 上の2枚は葉状体の断面です。 表皮細胞と内部細胞との大きさ等の比較のために撮りましたので、ベルカにはピントが合っていません。

(2023.3.10. 屋久島)

2023-03-21

フォーリームチゴケ

 

 写真はフォーリームチゴケ Bazzania fauriana だと思います。 スギの樹幹にコケシノブの仲間(キヨスミコケシノブ?)と一緒についていました。 日本での分布は、平凡社の図鑑によると、四国~琉球となっています。

 上は腹面から撮っています。 葉は鎌状に曲がり、長さ 2.5mm、葉先に3歯があります。 葉を含めた茎の幅は約 4.5mmです。

 上の写真も腹面からですが、乾くと葉は上のように著しく腹方に偏向します。 この偏向の程度は、よく似たヤマトムチゴケなどよりかなり大きいと思います。

 上は葉です。

 上は葉の葉身細胞です。 油体はほぼ均質です。

 腹葉は葉と合着していません(上の写真)。

 腹葉は 1/4~1/3まで不規則に多裂しています(上の写真)。

 上は腹葉の葉縁です。 平凡社の図鑑には、検索表にも種別の解説にも「(本種の腹葉は)薄壁の細胞で縁取られる。」と書かれていますが、そんなにはっきりした特徴でもないように思います。

(2023.3.9. 屋久島)