2016-03-31
クロホシフタオ
上は展翅した標本ではありません。 頭を斜め下に向けて壁にとまっていた生きているクロホシフタオ Dysaethria moza の写真を回転させて頭を上にして、壁のゴミを取り去ったものです。
ツバメガ科フタオガ亜科の「フタオ」とは後翅に2つの尾状に伸びていところが見られるからでしょうが、上の写真の右の後翅はこの「二尾」が重なってしまっています。
このクロホシフタオは年2回発生します。 「みんな蛾」で見ると成虫出現月は5~6月と8~10月となっていますが、この写真を撮ったのは3月29日です。 季節がおかしくなってきていますが、昆虫たちと植物の関係は大丈夫なのでしょうか。 クロホシフタオの食餌植物はガマズミやコバノガマズミなどのレンプクソウ科(旧分類ではスイカズラ科)ですが、産卵し、幼虫が孵化しても食べる葉がまだ展開していないといったことにならないのか、心配です。
(2016.3.29. 堺市南区槇塚台)
※ 夏に撮ったクロホシフタオはこちらに載せています。
2016-03-30
テンダイウヤク
テンダイウヤク Lindera strychnifolia はクスノキ科の常緑低木で、江戸時代に中国から導入されたようです。 漢名は天台烏薬で、根は健胃薬として利用されます。 秋に熟す黒い果実は鳥に食べられ、種子が運ばれ、あちこちで野生化しています。
葉は光沢があり、多くのクスノキ科の木と同様、三行脈が目立ちます。
この時期、テンダイウヤクは新芽を伸ばしはじめ、同時に花を咲かせ始めています。 展開しかけた葉は表裏とも柔らかい毛が密生しています。 この毛は成葉の葉の裏に金色の毛として残存しています。
テンダイウヤクは雌雄異株です。 写真は雄株の花で、雌株は見つかりませんでした。 雄花は花被片が6、オシベは3本ずつが3輪につき、内輪の3本の左右には腺体があります。 上の写真の花では、この腺体の表面が分泌された蜜で光っています。
1本のオシベの葯は2室で弁があり、この弁が上に反り返って開き、花粉が出てきます。 下はオシベをさらに拡大したものです。
(2016.3.28. 堺市南区高倉台)
2016-03-29
ヒョウタンゴケ
写真はヒョウタンゴケ Funaria hygrometrica でしょう。 多くの場合、蒴は初夏につけるようですが、たくさんの蒴をつけていました。
どうしても特徴のある蒴の方が気になります。
葉は茎の上部に集まってついています。 上の写真の葉の長さは3mmほどですが、もう少し長くなる場合もあるようです。
大きな胞子体をたくさんつけて、植物体(配偶体)は弱っていて、葉もみすぼらしくなっていたので、今回の葉の写真は白黒写真に近い偏光で撮ったものにします。
上は葉の上部の拡大です。 本種の葉は全縁で、中肋は葉先に達しています。 なお、本種に近縁のヤマトヒョウタンゴケは葉の上半部の縁に細かい歯があり、中肋は葉先に届きません。
ヒョウタンゴケは重金属を細胞内に取り込む性質があり、その性質を高めた変異株による活用が期待されているようです。
(2016.3.13. 奈良県 川上村)
◎ こちらではヒョウタンゴケの蒴が大きい意味を考察し、その内部の様子などを観察しています。
2016-03-27
2016-03-26
スギバゴケ
雨に濡れたスギバゴケ Lepidozia vitrea 、水滴が絡みついていますし、葉と葉の間隔も少し異なっていることもあって、前に載せたものとは違った雰囲気になっています。
上は背面から、下は、乾燥してきて葉が少し巻きかけていますが、上とほぼ同じところを腹面(地面を向いた側)から撮ったものです。
枝の先端はやや鞭状になっています。 平凡社の図鑑によれば、特に西南日本の渓谷で鞭状になる傾向が強いようです。
腹葉は葉より少し小さいようです。
上は葉を背面から撮ったもので、黒くなっている部分は腹葉がある所です。 葉の裂片は6~15細胞からなり、葉掌部は数細胞高です。 細胞は厚壁です。
(2016.3.9. 京都市 菩提道)
◎ スギバゴケの顕微鏡写真はこちらにも載せています。 また胞子体の様子はこちらに載せています。
2016-03-25
シュンラン
シュンラン( Cymbidium goeringii )の花を見ると、春が来たなと感じます。 しかしこの花を咲かせるために、シュンランは、種子からだと5年以上、生育環境によっては10年以上の時間をかけています。
ほとんどのラン科植物は根に菌類を共生させていることが知られていますが、シュンランは種子が発芽しても数年間は地上に姿を見せず、まるで腐生植物のように菌類から栄養素を得て徐々に大きくなっていきます。このような性質は寒冷地への適応と考えられていて、温帯の Cymbidium属に見られます。
(2016.3.23. 堺自然ふれあいの森)
◎ シュンランの花のつくりなどはこちらに載せています。
2016-03-24
早春のフクラスズメ
堺自然ふれあいの森の室内(「森の館」)に入り込んでいたフクラスズメです。 2頭いたのですが、1頭は飛び回って逃げられ、もう1頭は捕まえると暴れますが、飛ぼうとはしませんでした。 成虫越冬した個体でしょうが、この行動の違いの理由は、雌雄の違いなのか一方が何らかのダメージを負っていたのかなど、いろいろ考えられますが、分かりません。 一歩つっこんで言えば、私は雌雄の外見上の見分け方を知りませんし、交尾は秋に終わっていて越冬するのはメスだけなのか、雌雄共に越冬して早春に交尾するのでしょうか。 どなたか教えてくださ~い。
美しい後翅の模様は飛翔時以外はなかなか見ることができません。 強制的に見たのが上の写真です。
腹面から見ても模様が見えます。
(撮影:2016.3.23.)
◎ 幼虫などはこちらに載せています。
2016-03-23
ハコネシダ
岩の割れ目に沿って茂るハコネシダ( Adiantum monochlamys )、ずっとここで育っていたことは枯葉の多さで分かります。
生えている場所は道を挟んで川に向かい合う斜面ですが、オーバーハングになっていて、雨水は期待できませんし、沁み出る地下水も見当たりません。 水は霧に頼っているのでしょうか。
学名から分かるように、観葉植物として販売されているアジアンタムの仲間で、ハコネシダも観賞価値の高いシダですが、栽培はとても難しいシダです。 ちなみに、鉢物などでアジアンタムとして出回っているのは、熱帯アメリカ原産の Adiantum raddianum とその園芸品種が多いようです。
和名は、江戸中期にエンゲルベルト・ケンペルが神奈川県の箱根山でこのシダを採集し、報告したことによるようです。
上は葉の一部を裏側から見たものです。 葉片は頂縁に鋸歯があります。 ソーラス(胞子嚢群)は各葉片に一つずつつき、葉の先端が裏側に巻いて偽包膜となっています。
(2016.3.13. 奈良県 川上村)
2016-03-22
キヨスミイトゴケ
写真は雨の中のキヨスミイトゴケ Barbella flagellifera です。 同属のイトゴケとそっくりで、顕微鏡を使わない限り、私には両者を区別することはできません。
葉の茎についている様子はこちらに載せていますので、今回は顕微鏡レベルから。
平凡社の図鑑には、小さな目立たない歯が葉先近くの縁にあると書いてあるのですが、上の写真の葉では全周に歯が見られます。 茎の生長の良し悪しなどで変化するのでしょうか。
中肋は光を斜め横から当てるとルーペでも分かるのですが、真下から光を当てる顕微鏡では、かえって分かりづらくなるようです。 そこで同じ葉を直交ニコルの偏光で観察したのが下です。
細い中肋が葉の中央付近にまで達しています。
葉身細胞は線形~長菱形ですが、翼部の細胞は方形~矩形です。
上は葉身細胞で、細胞の中央に1(~2)個のパピラが見られます。 これが最もはっきりしたイトゴケとの違いになります。
(2016.3.9. 京都市 菩提道)
2016-03-21
ヒメアカタテハの蛹に寄生していたアオムシコバチ
写真はコガネコバチ科のアオムシコバチ Pteromalus puparum だろうと思います。
上は宿主となった蛹です。 11月の時点では美しい金色でしたが(下記追記)、今は写真のような色になり、コバチの脱出口があちこちに開けられています。
羽化に気付くのが遅れ、上の写真のように20頭ほどが既に絶命していましたが、20頭ほどが生きていました(逃げられるなどで、正確な数は分かりません)。
上の写真には2種類の個体が写っています。 体色が暗く大きい方は体長が3mmほどで、体色が明るく小さいタイプは体長が 2.5mmほどです。 大きい方がメスで、小さい方がオスだろうと思います。
1枚目の写真のオスはこの後蛹から離れ、3枚目の写真の所を通る時に死んで横向きになっているメスを認識したらしく・・・・
自分も横向きになって、メスの触角をチェックして何かを確認するような行動と、
交尾しようとするような行動を繰り返していました。
以下、生きているメスも載せておきます。 2枚は私の手の上です。
(撮影:2016.3.19-20.)
(以下、2016.3.23.追記)
昆虫写真家の新開孝さんから、蛹はヒメアカタテハのものだろうとのコメントをいただき、訂正しました。 アカタテハの蛹からも同種と思われるコガネコバチが出てきたことがあるそうです。
この蛹は「堺自然ふれあいの森」のスタッフの方が見つけられたもので、たしかに近くにはヒメアカタテハの食草であるヨモギのたくさんある所です。 昨年11月14日の発見当時の金ピカの写真もいただきましたので、下に載せておきます(明るさなどは補正しています)。 寄生されているとは思えない美しさです。
もうひとつ、偶然ですが、昨日久しぶりに街に出て、コメントをいただいた新開孝さんの最近発行された本を購入したところでした。
今年の2月12日発行の「虫のしわざ観察ガイド」(文一総合出版)で、葉の食痕や虫こぶなどから、それを行ったヌシを知る内容です。 昆虫の種類は多く、その昆虫が残した痕跡はきわめて多様で、これまでに類書は無く、私のこれからの観察にも役立ちそうな本です。 発売当初から気にはしていたのですが、近くの書店には置かれず、昨日の購入になりました。
2016-03-20
アオギヌゴケ
写真はアオギヌゴケ Brachythecium populeum だと思います。 岩の上で育っていました。
茎は這い、不規則に分枝しています。 枝葉は1.5mmほどです。 以下はこの枝葉について調べた結果です。 なお、茎葉についてはこちらに載せています。
中肋は葉の先端に届いています。
上部~中部の葉縁にはかすかな歯があります。
翼細胞はやや分化しています。
以下は胞子体についてです。
蒴柄は赤褐色で、1~1.5cmほどの長さです。
蒴柄の上部にのみパピラが見られます。 蒴が少し短めですが、アオギヌゴケの属名 Brachythecium は brachys(短)+theca(箱) に由来します。 この「箱」は蒴のことでしょう。
(2016.3.13. 奈良県 川上村)
◎ アオギヌゴケはこちらにも載せています。