2019-10-31
ヤハズハネゴケ
樹幹に生えていた写真のコケはヤハズハネゴケ Plagiochila furcifolia だと思います。 平凡社の図鑑には検索表にしか載っていませんが、保育社の図鑑の記載とはほぼ合致します。 分布は保育社では関東地方以南の低山地となっています。 上の写真では、樹幹にぴたりと張り付いた茎(はっきり写っていません)から枝が斜上していますが・・・
多くは枝を出しながら長く伸び、樹幹に張り付くようにして育っていました。
葉を含めた茎の幅は2~2.5mmほどです。
上は湿らせて葉を十分広げた状態で、この状態では、葉はやや重なっています。 葉は中ほど近くまで2裂しています。 多くの葉の上半部がなくなっていますが、無性生殖のために折れ易くなっているようです。
上は背面から撮っています。 葉が瓦状についているのはハネゴケ科の特徴の1つです。
葉の裂片には歯が見られます(上の写真)。
上は葉身細胞です。 薄膜でトリゴンは大きく、油体は紡錘形で小粒の集合です。
腹葉は痕跡的です(上の2枚:1枚目の左は気泡です)。
(2019.10.30. 奈良市春日野町)
◎ ヤハズハネゴケの美しい群落の写真をこちらに載せています。
2019-10-30
胞子体をつけたシッポゴケ
胞子体をつけたシッポゴケ Dicranum japonicum がありました。
胞子体はどこにつくと言えばいいのでしょうか。 配偶体の横についているように見えますが、頂生しているすぐ横から新しい枝が伸び出しているようにも見えます。
上は蒴歯で、シッポゴケ科の蒴歯は1列です。 蒴歯は中部まで基本的には2裂しているのですが、どこもきれいに2裂ということでは無さそうです。 パビラの上半部にはパピラが、下半分には縦の条があるのですが、特に縦の条は上の倍率ではあまりはっきりしないので、さらに拡大してみると・・・
かなりコントラストを強調しましたが、これくらいの倍率にすると、縦の条がはっきりします。
葉の様子も少し見ておきます。 上の写真は葉の下部です。 狭披針形の葉にしては中肋は細く、葉の幅の1/7ほどです。
シッポゴケの中肋上部の背面には鋭い歯のある2~3列の薄板があります(上の写真の場合は3列)。
上は葉の上部の横断面です。葉の上部は強度を保つ工夫なのか、溝状になっています。 上の写真の場合は、中肋背面の薄板は2列です。
(2019.9.13. 北八ヶ岳)
◎ シッポゴケはこちらにも載せています。
2019-10-29
フサゴケ
コケモモの間から伸び出している写真のコケ、フサゴケ Rhytidiadelphus squarrosus だろうと思います。
茎は赤褐色、葉先は反り返っています。
上は茎葉で、先は長く漸尖しています。 中肋は2本で、葉長の1/5~1/4の長さです。
本種はコフサゴケによく似ていますが、コフサゴケの葉先はここまで長く伸びないでしょう。
上は茎葉の葉先です。 茎葉の葉縁上部には細かい歯があります。
上は茎葉の葉の基部で、右に2本の中肋が写っています。 翼部の細胞は、あまり分化していませんが、褐色の区画をつくっています。
上は茎葉の葉身細胞です。 細胞壁のくびれがあちこちに見られます。
上は枝葉です。 卵形で長く尖り、2本の中肋は葉長の1/3~1/2で終わっています。
上は茎の断面で、中心束が見られます。
(2019.9.14. 北八ヶ岳)
◎ フサゴケと思われるコケを、こちらにも載せています。
2019-10-27
クシヒゲホシオビコケガ
岩壁にクシヒゲホシオビコケガ Aemene altaica がとまっていました。 50cmほど上にもう1頭いましたし、新鮮なようですので、この近くで羽化して間もなくではないかと思います。
本種の幼虫は地衣類を食べて育つと言われていますが、周辺は蘚類ばかりでした。 蘚類に混じって地衣類が隠れているのでしょうか?
本種は開張2.5cmほどで、これまではホシオビコケガ A. altaica と呼ばれていましたが、最近になって、クシヒゲホシオビコケガと クシナシホシオビコケガ A. takahashii とに分けられました(日本蛾類学会発行の機関誌「蛾類通信285号」.2018)。
上は1枚目の写真に赤い楕円を書き込んだものです。 クシナシホシオビコケガでは、この楕円で囲った所に小さな黒斑が3個並んでいるようです。
(2019.9.11. 兵庫県宝塚市 最明寺滝)
2019-10-26
テガタゴケ
葉は細かく切れ込み、その葉に比較して大きな花被がたくさん目立っている写真のコケ、以下に書くように調べてみると、テガタゴケ Ptilidium pulcherrimum でした。
花被を拡大してみました(上の写真)。 上部には数稜があり、口部には白い長毛が見えます。
葉の長さは、内曲していてよく分かりませんが、1mmほどはありそうです。
上は腹面から撮っています。 腹葉の葉掌部は膨れています。
葉は3~4裂し、各裂片の縁には長毛があります。 上の2枚の写真は、いずれも右側が腹側で、腹側の方が切れ込みが深くなっています。
胞子体の様子も見るため花被の手前を切り除きました(上の写真)。 胞子体の内部が空のように見えますが、ぎっしり詰まっていた胞子が切断時にあふれ出し、うまく観察できなくなったので、洗い流しました。
胞子は褐色でした。 苔類の胞子体は胞子が成熟してから蒴柄を伸ばします。 もう上の写真の段階で、胞子はほぼ成熟を終えているようでした。 下がその胞子と弾糸です。
(2019.9.13. 北八ヶ岳)
◎ テガタゴケの胞子を飛散し終えた胞子体の様子などはこちらに載せています。
2019-10-25
ウロコゼニゴケの造卵器・造精器
写真はウロコゼニゴケ Fossombronia foveolata var. cristula です。 粘土質の土の塊の上に乗っかるようにして育っていました。
接写すると、軟らかそうな丸いものがあちこちに見えます。 本種に無性芽は知られていませんから、これは造精器でしょう。
上の写真の中央には、何かを隠し守るように葉状体が他より混み合っている所があります。 葉状体をほぐしてこの中を見ると・・・
造卵器の中で、胚が大きく育っているようです。 なお、本種は雌雄同株です。
顕微鏡で観察すると、未授精の卵細胞(たぶん)を持つ造卵器と造精器が確認できました(上の写真)。
上は葉身細胞です。 油体は各細胞に 20~30個ほどあり、微粒の集合です。
(2019.9.13. 長野県茅野市豊平)
◎ ウロコゼニゴケの胞子体や胞子の様子などはこちらに載せています。
2019-10-24
ホソバミズゴケの胞子体
ホソバミズゴケ Sphagnum girgensohnii がたくさんの胞子体をつけていました。 ミズゴケの仲間の胞子体は球形で、蓋は扁平、多くの蘚類の蒴柄のように見える所は配偶体の組織で、偽足と呼ばれています。
これを瓶の中に入れておいたところ・・・
胞子体が胞子を射出し、勢いよく飛び出た胞子がガラス瓶の壁にへばりついています。 丸かった胞子体は一瞬にしてスリムな姿に“変身”します。 なお、蒴歯は存在しません。
上は自然環境下で胞子を出し終えた胞子体の集団です。
(2019.9.14. 北八ヶ岳)
2019-10-23
ミズタマカビ
上はミズタマカビ属( Pilobolus )の一種です。 本種は糞生菌で、上の写真はシカの糞の上に生えているところです。
上の写真で、透明感のある白く伸びているのは胞子のう柄で、その先についている黒く平たい円盤型をしたものが、胞子が詰め込まれている胞子のうです。 胞子のうのすぐ下が大きく膨らんできていますが、まもなくこの膨らみが破裂し、その勢いで胞子のうを飛ばします。 胞子のう壁は丈夫で、円盤形の形のまま打ち出されます。 上の写真の右下には、どこかから飛んできた胞子のうがくっついていますし、ピントがあっていないのではっきりしませんが、下中央の黒いものもそうかもしれません。
上の写真では飛ばされた胞子のうが糞の上にくっついてしまっていますが、打ち出された胞子のうが草の葉などにくっつき、その草が草食動物に食べられることで、胞子は消化管を経て糞に混じって排出されるというしくみのようです。
上の写真も1枚目の写真と同様ですが、右下にトゲトビムシの一種が写っています。 少し引いた写真で、シカの糞の直径の見当がつくことと併せ、大きさの見当がつけやすいかと思い、載せておきます。
(2019.9.14. 北八ヶ岳)
2019-10-22
モンクチビルテントウ
写真はモンクチビルテントウ Platynaspidius maculosus だと思います。 横にスケールを置く前に逃げられてしまいましたが、体長3mmほどの小さなテントウムシです。 ヨツボシテントウによく似ていますが、上翅の黒紋が大きく、横長です。 顔面は、上のような褐色の個体の他、黒い個体もいるようです。
元来は台湾、中国やベトナムなどに分布していたテントウムシですが、1998年に沖縄への侵入が確認され(松原ら、月刊むし)、その後、日本国内で北上を続けています。
テントウムシの仲間は、一般に体表に毛がめだたない種は肉食で、毛の目立つ種は植物食と言われているのですが、本種の仲間は肉食のようです。
(2019.10.17. 大阪市 鶴見緑地)
2019-10-21
ミドリゼニゴケ
写真はミドリゼニゴケ Aneura pinguis だろうと思います。 写真でリアルな色を表現するのは、なかなか難しいのですが、一緒に写っているゼニゴケより明るい黄緑色です。 少し濡れていて光っていますが、表面は平滑です。
上は腹面を撮っていて、葉状体の中央に仮根が見えています。 和名に「ゼニゴケ」とついていますが、スジゴケ科のコケですので、仮根はそんなに多くはないようです。
葉状体の縁近くを透かして撮ってみました(上の写真)。 いちばん縁の細胞は1層ですが、少し内側に入ると細胞が重なっているのが分かります。 よく似たミズゼニゴケモドキは、この単細胞層の翼部は5細胞幅以上です。
葉状体の先に袋状のものがついていました(上の写真)。 下はその拡大です。 粘液毛状の腹鱗片でしょうか。
(2019.10.9. 奈良県宇陀市)