2022-02-27

チクシトゲアリの巣

 下は 2014.2.24.に大阪府岸和田市神於町で観察し、同日に Part1に載せていたのですが、一部書き換え、こちらに引っ越しさせた記事です。

 高さ1mほどの所で、ヤツデの葉に引っかかっていたヤツデの枯葉をそっとはずしてみると、チクシトゲアリ Polyrhachis moesta の集団がいました。

 ひっかかっていたヤツデの枯葉をそっと開いてみると、そこにもチクシトゲアリの集団がいました。

 この集団は、単に寄り集まって越冬しているだけではないようです。 チクシトゲアリは樹上性のアリで、幼虫の吐いた糸で葉を綴って巣を樹上に作りますから、ヤツデの枯葉と生葉とを組み合わせた巣を、私が知らずに壊したことになるのでしょう。

 低温のために動きは緩慢ですが、よく見ると幼虫を咥えて移動させようとしているものもいます(上の写真)。
 女王アリもいるはずですが、働きアリが上を覆っているのか、ざっと見たところでは発見できませんでした。

 顔をアップで撮ってみましたが、この働きアリは左の触角が途中からありません。

◎ 6月の動きまわっているチクシトゲアリの様子はこちらに載せています。 また、本種と同じ属のトゲアリはこちらに載せています。

2022-02-18

ヒメハイゴケ

 

 10月に蓼科の標高1350m付近で撮った上の写真、同定できずに放置していたのですが、調べ直したところ、ヒメハイゴケ Calohypnum oldhamii だと思います(他の種も少し混生しています)。
 ヒメハイゴケは主として暖温帯~冷温帯に広く分布していて、ハイゴケの仲間としては、低地ではハイゴケに次いで普通に見られる種ですが、配偶体・胞子体とも、大きさや形態に変異がかなり著しい種のようです。

 育っていたのは木の上で、上の写真の中央が本種を中心とする群落です。 本種がよく見られるのは岩上ですが、上のように樹幹や朽木上でも見られ、稀には地上で生育することもあるようです。

 規則正しく羽状分枝しています(上の写真)。 写真のものは本種としては小形のようです。

 上は茎葉です。 三角状披針形で、中肋は不明瞭、葉先は長く細く伸びています。 葉は強く渦巻状に曲がっているので、カバーグラスで押さえて変な形になってしまいました。


 上の2枚の写真は、茎葉計4枚の翼部です。 翼部は明瞭な区画を作り、下部に薄膜透明の大きな長方形の細胞があり、その上に小さな方形の細胞があります。

 葉先近くには細鋸歯があります(上の写真)。

 葉身細胞は膜が厚く、長さ40~80μmです(上の写真)。

 枝葉は長楕円状披針形です(上の写真)。

 枝葉では翼細胞はあまり発達しませんが、最下端に長楕円形で薄膜透明の大きな細胞が1(~2)個あります。

 上は茎の断面です。 表皮細胞は小さく、中心束があります。 上の写真では中心束の様子がよく分かりませんので、拡大した写真を下に載せておきます。

◎ ヒメハイゴケはこちらにも載せています。

2022-02-14

クダアザミウマ科ツノオオアザミウマ属の一種

 下は 2014.1.31.に採集し、Part1の2014.2.11-12に載せていたものをまとめた引っ越し記事です。

 写真はアザミウマ目クダアザミウマ(有管)亜目クダアザミウマ科ツノオオアザミウマ属 (Bactrothrips) の一種だと思います。 体長は 4.8mm、ヤツデの枯葉にいました。
 冷蔵庫で冷凍死させて深度合成しようとしたのですが、1日半ほど冷凍庫に入れっぱなしにしておいても、しばらくすると動きだしました。 その時の冷凍庫の温度を赤外線温度計で測定してみると、虫を置いたあたりの温度は-10℃ほどでした。 こんなに低温に強いとは・・・。
 というわけで、今回は深度合成を諦め、通常撮影です。

 ツノオオアザミウマ属は前にも載せています (こちら) ので、今回は腹側からも撮影してみました。

 上は頭部付近を拡大したものですが、胸部に近い場所で赤っぽい所が口です。 口と眼はずいぶん離れていて、ショウリョウバッタオンブバッタの顔を連想しました。
 上の写真では脚の先端にも注目です。 歩行時に何かに引っ掛けるような爪は見当たらず、風船のような膨らみが見られます。 この部分でくっついて歩行しているようです。

 ところで、Hepotaさんのブログに、岡島先生によるBactrothirips属の検索表が紹介されています(こちら)。 この検索表 (Hepotaさんのブログより下に引用:青字の部分) でこのオオツノアザミウマの同定を試みてみました。

Bactrothirips属
大型の種で、常に長翅型。雄の第6腹節背板側部に1対の角状の突起がある。
近縁のMegalothirips属とは小腮刺針が短く、左右の刺針が広く離れることで容易に区別できる。
主に広葉樹の枯れ葉に生息し、次の7種が分布する。

1. 脛節の大部分は暗褐色で、後脛節は基部と先端部のみ黄色みを帯びる … 2
 - 脛節は黄色と暗褐色に色分けされ、後脛節の少なくとも先端 1/3 は黄色みを帯びる … 3

2. 複眼は腹面で後方に伸びる。本州;台湾に分布するが、やや局地的で、おそらく西南日本に広く分布するものと思われる。
アラカシの枯れ葉に限って生息するようである。
体長:雌 4.1-6.0mm 雄 3.8-5.4mm … B. flectoventris Haga & Okajima

 - 複眼は腹面で後方に伸びない。本州・九州(対馬)に分布するが、前種同様西南日本に広く分布するものと思われる。
本種もアラカシの枯れ葉に限って生息するもののようで、本州では全種に混じって採集されることが多い。
体長:雌 4.1-5.9mm 雄 4.7-6.3mm … B. carbonarius Haga & Okajima

3. 中脛節の先端1/3以上は黄色みを帯びる … 4
 - 中脛節の大部分は暗褐色、基部と先端部のみ黄色みを帯びる … 6

4. 前胸の後側板副刺毛はよく発達し、後側板刺毛のほぼ半分の長さ;
触角第3・4節の先端膨瘤部は淡褐色を呈し、明らかに第2節よりも色彩は淡い。
本州・九州(対馬)・琉球列島(奄美大島・沖縄本島・石垣島);
台湾に分布し、西南日本に広く分布するものと思われる。
アカガシの枯れ葉に限って生息するようである。
体長:雌 4.8-6.3mm 雄 4.1-5.8mm … B. Pictipes Haga & Okajima

 - 前胸の後側板副刺毛は短く、少なくとも後側板刺毛の1/3以下の長さ;
触角第3・4節の先端膨瘤部は暗褐色を呈し、第2節とほぼ同色 … 5

5. 頭部は複眼部の幅の2.1倍より長い;
触角第3節は雄で頭部の 0.70-0.74倍、雌で 0.66-0.70倍の長さ;
雄の第6腹節の角状突起は内側に湾曲する;
雄の亜生殖板は細長い。
関東以西の西南日本;台湾;中国に広く分布し、本属中最も普遍的に見られる。
ブナ科やクスノキ科の常緑広葉樹の枯れ葉に生息する。
体長:雌 5.7-7.9mm 雄 5.6-7.7mm … B. brevitubus Takahashi

 - 頭部は複眼部の幅の2.0倍より短い;
触角第3節は雄で頭部の 0.65-0..67倍、雌で 0.61-0.63倍の長さ;
雄の第6腹節の角状突起は外側に湾曲する;
雄の亜生殖板は舌型。
本州・九州に分布し、おそらく日本の温帯地域に広く分布するものと思われている。
クリやクヌギなどブナ科の落葉樹の枯れ葉に生息する。
体長:雌 4.6-6.2mm 雄 4.2-6.2mm … B. quadrituberculatus (Bagnall)

6. 頭部は複眼部の幅のほぼ2倍の長さ; 複眼は頭長の1/3より僅かに短い;
触角第3節の感覚錘はよく発達し、第3節のほぼ半分の長さ;
前胸の後側板副刺毛はやや長く、通常後側板刺毛の1/3よりかなり長い;
雄の第6腹節の角状突起はほぼまっすぐか弱く外側に湾曲する。
関東以西の西南日本に広く分布する。スダジイやアカガシなどブナ科の常緑樹の枯れ葉に生息する。
体長: 雌5.1-7.0mm 雄 4.9-6.9mm … B. honoris (Bagnall)

 - 頭部は複眼部の幅の 1.67-1.88倍の長さ; 複眼は頭長の1/3より僅かに長い;
触角第3節の感覚錘は短く、第3節の1/3より短い;
前胸の後側板副刺毛は通常短く、少なくとも後側板刺毛の1/3より短い;
雄の第6腹節の角状突起は内側に湾曲する。
本州(山梨県・長野県)の山地帯から知られ、ミズナラの枯れ葉から発見される。
体長: 雌 5.4-7.2mm 雄 4.4-6.8mm … B. montanus Haga & Okajima

 1から検索をはじめます。

 1から3へ、そこから4へ進みます。

 前胸後側板の刺毛はよく分かりませんが、近くにアカガシはありませんし、触角から5へ進みます。

 5で困りました。 頭部 (長さ 0.55mm) は複眼部の幅 ( 0.3mm) の 1.8倍、触角第3節 (長さ 0.35mm) は頭部の 0.67倍で、体長は 4.8mmのメスです。 しかし、私の撮った写真からの測定では、0.1mmレベルでは誤差が大きくなってきます。 長いものほど誤差は少ないでしょうから、最も信頼できる値は体長、その次には頭部の長さと幅の比でしょう。 ということで、写真のオオツノアザミウマ属は B. quadrituberculatus ということになりました。

 前回撮ったツノオオアザミウマ属は、体節ごとに赤い色が見られます 。 これもいつか、この検索表で同定しようと思います。

2022-02-10

クックソニアからコケ植物について考える

 大阪市立自然史博物館で、2022年1月14日~4月3日の予定で、特別展「植物 -地球を支える仲間たち-」が開催されています。 植物を総合的に紹介する大規模な展覧会で、次の5つのコーナーからなっています。
  1.植物という生き方
  2.地球にはどんな植物が存在しているか?
  3.植物の形と成長
  4.植物はどのように進化してきたか?
  5.本当は怖い植物たち
  6.生命の源、光合成
 いずれも見どころ満載の展示ですが、その中からクックソニアについて少し書いておきます。

 上がクックソニア・バランディ Cooksonia barrandei です。 目に見える大きさの化石としては、いまのところ最古の植物化石で、しかも世界初公開です!

 下はその復元模型です。

 ところで、最初の陸上植物はどのようなものであったのか。 初期の陸上植物の化石としてみつかるのは、クックソニアのような二又分岐をする胞子嚢をつけた植物です。 体制の簡単なものから複雑なものへと進化すると考えるとコケ植物でしょうが、コケの胞子体は分枝しません。
 最初の陸上植物はコケ植物だったが、体が柔らかくて化石になりにくかったのでしょうか、それともコケ植物は単純な形になるように進化したのでしょうか。

こちらに、蘚類の胞子体は枝分かれできないのではなく、枝分かれしないように抑制されているらしいことを書きました。 またこちらこちらでは、小さく単純な体のメリットについて考察しています。

 いずれにしても、最初の陸上植物について検討されているのは胞子体についてです。 しかし進化は有性生殖があってこそ成り立つものです。 最初の陸上植物がどのように有性生殖をしていたのかも重要なポイントだと思います。 配偶体はどのようなサイズだったのでしょうね。 造卵器も造精器も顕微鏡レベルの大きさですし軟らかですから、どこかで初期の陸上植物の有性生殖に関係する化石がみつかることを期待するのは難しいことでしょうが・・・。
 主な進化の道筋は、突然変異の後の遺伝的浮動と自然選択によるとされています。 2n世代の方が変異した遺伝子を保存し易く(=遺伝的浮動が容易で)、進化の速度が速くなることは分かります。 しかし蘚苔類が現在まで栄えている姿を見ると、コケ植物のような生活をするには配偶体を発達させた方が有利だった理由がどこかにあるのではないか、そんな気もします。

 

2022-02-08

メダカチビカワゴミムシ

 下はPart1の2014年2月5日からの引っ越し記事です。

 写真の体長4.5mmのメダカチビカワゴミムシ、どこにいたのか分かりません。 気がつくと、私の服の袖を歩いていました。 たぶん樹皮をめくっていた時に飛び出したのではないかと思いますが、いろんな樹皮をめくっていたので、どの木にいたのか不明です。
 とにかく捕らえて持ち帰り、家で撮影したのですが、タタタと走り、瞬時止まったかと思うと、また走り出します。 その走りの速いこと! 姿も走り方もハンミョウに似ていますが、ハンミョウのようにすぐ飛ぶことはありませんでした。

 メダカチビカワゴミムシはオサムシ科ミズギワゴミムシ亜科に分類されています。 名前に「カワ」とついていて、河原の石の下などでもみつかりますが、春~秋の活動期でも朽ち木や樹皮下にもいるようです。
 食性についてはよく分かっていないとのことですが、口の様子からすると、小さい虫を捕食しているのかもしれませんね。

 メダカチビカワゴミムシ属(Asaphidion)には3種が知られていますが、エゾメダカチビカワゴミムシは北海道以北の分布ですし、メダカチビカワゴミムシは、下の写真(クリックで拡大します)の赤い矢印のように、前胸の側縁と後角に剛毛が見られますが、テンリュウメダカチビカワゴミムシは後角の剛毛を欠くということですので、写真はメダカチビカワゴミムシ(Asaphidion semilucidum)で間違いないでしょう。

(2014.1.24. 堺市南区豊田)

2022-02-06

ハネヒツジゴケ

 

 写真はハネヒツジゴケ Brachythecium plumosum でしょう。 やや朽木状になった木製の階段についていました。
 葉は大きくは開出せず、光沢があります。 蒴柄は赤褐色です。

 上は乾いた状態ですが、葉は開いたままで、縮れてもいません。

 蒴柄の上部には低いパピラがあります。 上の写真では全体に光が回っているので、ざらついた感じはしても、個々のパピラをあまりはっきり確認できませんが、片方からの光にすると、実体双眼顕微鏡ではっきりと確認できました。

 上は茎葉で、長さは約2mmです。 中肋は葉長の半分より長く伸びています。 葉縁には上の写真を拡大するとどうにか確認できるほどのかすかな歯があります。

 葉身細胞は長さ 30~80μm、幅は3~5μmです(上の写真)。

 上は枝葉です。

(2022.1.27. 箕面公園)

◎ ハネヒツジゴケは変異が大きいので、下のように何度も載せています(下は観察した日付で、月日の順に並べています)。
  2020.11.8.  2021.12.23.  2017.1.15.  2016.2.12.    
  2022.6.1.(秋田県 標高 1,150m 雪が解けたばかり)

 改めて見直すと、いずれもたくさんの蒴をつけています。 この仲間は同定が難しいので蒴をつけていないと採集しないこともありますが、よく蒴をつける種だと言って良いのかもしれません。 また、いずれも寒い時期です。 受精の時期など、ライフサイクルがきちんと決まっている種なのかもしれません。

 

2022-02-01

キダチヒラゴケ

 

 岩を覆うキダチヒラゴケ Homaliodendron flabellatum、見えているのは二次茎です。 このブログではこれまで二次茎は載せてきましたが・・・

 基物上を這う一次茎(の一部)からたくさんの二次茎が立ち上がる様子を見ると、とても大きいコケだと分かります(上の写真)。

 茎葉も大きく、約3mmです。

(2022.1.27. 箕面公園)

◎ 本種の顕微鏡写真などを含む葉の様子などはこちらに、胞子体の様子などはこちらに載せています。