2022-03-30

ジャバウルシゴケの蒴

 ジャバウルシゴケ Jubula hutchinsiae ssp. javanica の蒴が開裂し、胞子を散布していました(2022.3.28. 箕面公園)。

 上は胞子体のついている茎頂付近です。 葉縁にたくさんの長歯があるのは雌苞葉ではないかと思います。

 上は配偶体を腹面から見ています。 腹片はこちらのような円筒形になることも多くあります。 平凡社の図鑑では「背片の縁にはほぼ全縁ないし1-2個の長歯があり,腹葉の縁に1-4個の長歯がある。」とありますが、箕面の群落は全体的に歯が少ないように思います。

 上は葉身細胞です。 油体も変異が大きいようで、上の油体は球形で、所々眼点が見られます(特に眼点がはっきりしている所を赤い楕円で囲みました)。 同様の油体はこちらでも観察していますが、こちらの油体は楕円体です。

 以下、蒴をもう少し詳しく観察しました。

 上の写真では2つの蒴が開裂していて、左下には花被に包まれた胞子体があります。

 上は開裂した蒴を上から撮った顕微鏡写真です。 蒴は4裂し、それぞれの裂片にたくさんの弾糸がついています。

 上は弾糸です。

 上は開裂した蒴にくっついて残っていた胞子です。

2022-03-29

クマノチョウジゴケ

 

 写真はクマノチョウジゴケ Buxbaumia minakatae です。 和名の「クマノ」や種小名は南方熊楠からだと思います。
 胞子体が2本だけ朽木につっ立っていました。 配偶体の葉らしいものは観察できませんでした(左に写っている葉は別のコケです)。 たぶん主に原糸体で光合成を行うのでしょう。


 上の2枚は、胞子体のすぐ近くの朽木の表面を薄く剥ぎ取り、ほぐして顕微鏡で観察した像です。 繊維状のものは、緑色をしているので仮根や木の組織とは考えられず、曲がり方も糸状藻類らしくなく、原糸体ではないかと思います。

 外蒴歯は痕跡的で、上は内蒴歯です。 内蒴歯は膜質で、屏風状の縦ひだがあります。

 上は胞子です。

(2022.3.28. 大阪府 箕面公園)

-----(以下、2022.4.4.追記)---------------------------------------------

 もっと多くの胞子体が確認できないかと探索メンバーを募集し、12名に集まっていただき、4月3日に近くを探したところ、新たに1本の胞子体を確認することができました。
 今回新たにみつかった胞子体は蓋が取れて蒴歯が見える状態でしたので、その様子を下に載せておきます。


こちらにはクマノチョウジゴケの無性芽を載せています。 また、本種はこちらにも載せています。

2022-03-27

ホソミツヤゴケ

 

 写真はホソミツヤゴケ Entodon sullivantii だと思います。 コンクリート製の擬木に張り付いて育っていました。 蒴は成熟に近づいているようです。

 蒴の成熟に向けて栄養分を送り続けた配偶体は、葉の色を見ても弱り気味のようです。 葉はゆるく扁平についています。

 上は茎葉です。 Entodon(ツヤゴケ属)の特徴として、翼部には方形の細胞がたくさん見られます。

 上は葉身細胞です。

 上は枝葉です。

 枝葉の葉先には微歯が見られます(上の写真)。

 上は蒴歯です。 内蒴歯の基底膜は低く、間毛はありません。


 外蒴歯の下部には密に横条があります(上の2枚の写真)。 本種に似たヒロハツヤゴケの蒴歯には、このような横条はありません。

(2022.3.17. 箕面公園)

◎ ホソミツヤゴケはこちらにも載せています。

2022-03-24

コケ植物の用語解説のページを作りました

  コケ植物の用語解説のページを作りました。 「ブログ掲載種一覧」の「コケ植物(蘚苔類)掲載種一覧」から入ることができます。

 ただし、私の主観の入った所もありますので、その点はご注意ください。 


2022-03-23

3月下旬の箕面公園コケ散歩


  右下のアイコンから全画面表示や再生速度の変更などが可能です。

登場するコケ:
 ホソミツヤゴケ、ヒメウスグロゴケ、エダツヤゴケ、ヒメトサカゴケ、ホソバミズゼニゴケ
 コマチゴケ(雌株)、コマチゴケ(雄株)、コバノチョウチンゴケ、ネジクチゴケ
 ノミハニワゴケ、ヤノウエノアカゴケ、ケミノゴケ、スズゴケ

2022-03-22

ケミノゴケ


  写真はケミノゴケ Macromitrium comatum でしょう。 樹幹に育っていました。 ミノゴケではツボの下部に少し帽に覆われない部分があるのですが、本種の帽はツボの下にまで届く長さがあります。

 蒴柄はミノゴケより色濃く短く、長さは2(~3)mmです。


 ミノゴケの葉先円頭~鈍頭で湿った時でも腹側に曲がっていますが、本種の葉先は、変異があるものの、多くは鋭頭で、内曲もほんのわずかです(上の3枚の写真)。

 上は葉身細胞で、長さは 10~13μm、表面は膨らみ、細胞の輪郭は明瞭で、数個の小さなパピラがあります。

 上は蒴の断面です。 蓋を外せず、蒴歯の詳しい観察はできませんでしたが、蒴歯の先端が円い特徴はわかります。

 蒴の頸部付近には気孔が見られました(上の写真の赤い円内)。

 上は気孔と蒴壁の細胞です。

 上は胞子です。 胞子体が若かったのか、本種の本来の胞子より少し小さめです。

(2022.3.17. 箕面公園 )

◎ ケミノゴケはこちらにも載せています。

2022-03-21

ナンヨウトゲハイゴケ

 

 上はナンヨウトゲハイゴケ Wijkia honrnschuchii ではないかと思います。 2021年5月23日に奈良県宇陀市の室生大野で採集したコケですが、同定に自信が無く、しばらく頭を冷やして再検討のつもりが、忘れてしまっていました。

 同定に自信が無かった理由の1つは、平凡社の図鑑では「渓側の湿岩上に生える。」とありますが、上の写真のように流水中で育っていたことです。 しかし増水していたのかもしれませんし、水中で育つ以下の観察結果のようなコケは思いあたりません。

 葉は丸くつき、長さは1mm前後です。 葉先は細く長く尖っていて、葉の幅の最も広い所は上部であったり下部であったり、葉によって異なるようにみえます。


 葉は倒卵形で、中肋はありません(上の2枚の写真)。 葉縁上部には細かい歯があります。

 翼細胞は少数で、大きく薄壁です(上の写真)。

 葉身細胞は長さ100~150μm、幅 7~9μmでした。

こちらには蒴をつけたナンヨウトゲハイゴケを載せています。

2022-03-20

3月中旬のヒメトサカゴケ

 岩上でヒメトサカゴケ Chiloscyphus minor の花被が目立っていました。

 断面を作ると、胚と呼んでいいような小さな胞子体が育ちはじめていました。

 上は顕微鏡写真です。 まだ造卵器の形を残している胚と、その周囲には、生長しなかった造卵器らしきものが複数見えます。

(2022.3.17. 箕面公園)

2022-03-19

キテングサゴケ

 上は、胞子体を伸ばしはじめたホソバミズゼニゴケを調べている時に混生しているのを見つけたスジゴケの仲間です。 このの仲間はよく分からないのですが、キテングサゴケ Riccardia flavovirens ではないかと思います。 左端にはカリプトラから顔を出しかけている胞子体も写っています。

 上は葉状体の断面です。 葉状体の表面は平滑で、葉状体中央部(写真右方)で表皮細胞の大きさは内部細胞の大きさの1/2以下です。 トリゴンは見られません。

 上は葉状体の縁を上から見ています。 翼部は狭く、単細胞層は1細胞幅しかありません。 また表皮細胞の大きさは、下と比較しても、翼部や縁から葉状体中央部まで、ほとんど変わりません。

 上は葉状体の腹面で上方には粘液毛が写っています。 ほぼ1細胞に1個の油体があります。

 油体は大きく、微粒の集合です(上の写真)。 なお、この油体は壊れやすく、すくに微粒に分かれてしまうように思います。

(2022.3.17. 箕面公園)

2022-03-18

ヒメウスグロゴケ

 上の写真、いろいろなコケが混生していますが、すっぽり帽を被った若い蒴を伸ばしている小さな葉をつけたコケは、調べた結果、ヒメウスグロゴケ Leskeella pusilla だと思います。
◎ 上の写真の蒴が胞子を散布している5月下旬の様子をこちらに、散布の終わった状態をこちらに載せています。

 上のようなセメント製の擬木にくっついて育っていました。

 乾いた状態では葉は上の写真のように枝にくっついていますが・・・

 湿ると葉は大きく開きます。 茎はやや羽状に分枝し、葉の長さは 0.5mmほどです。 下は少し乾きかけてきた上の一部を、3枚目の写真と同じ倍率で撮っています。

 背面が褐色の葉が多く、乾くにしたがって褐色が目立ってきます。


 上の2枚は枝葉です。 中肋は葉先近くに達し、葉縁はほぼ全縁です。 葉先の細胞が透明になっている葉が多く見られました。

 葉身細胞は丸みのある六角形で、長さは7~9μmです(上の写真)。

(2022.3.17. 箕面公園)