2025-04-16

ホソエヘチマゴケ

 上はマイマイツボミゴケの所に出した写真の再掲です。  今回は細長い葉のコケの方で、ホソエヘチマゴケ Pohlia proligera だと思います。 茎の上半部の葉腋に,多数の無性芽があふれるようについています。

 少し動かすだけで無性芽がパラパラと落ちます。 上の写真のものでも無性芽は落ちてしまい、かなり少なくなっています。
 上の写真で茎の長さは約2cm、平凡社では1~2cmとなっています。 上の写真の無性芽は黄緑色ですが、褐色の場合もあるようです。

 上は無性芽で、ケヘチマゴケの無性芽などよりずっと細い糸状です。 秋山・山口(2008)によれば、本種の無性芽先端の葉原基は2個で、この点で通常3個以上の葉原基を持つ他種とは異なっているとのことです。 たしかに上の写真でも、土の無性芽の先も2本の“角”が飛び出しています。 なお、本種の無性芽は上の写真のようなものを茎の上部につけるだけで、茎の下部に違った形の無性芽をつけたり、仮根に無性芽をつたたりすることは無いとのことです。

 葉はほぼ平らで、上の写真の葉の長さは 2.5㎜です。 下は上の葉の葉先付近です。

 中肋は葉先近くで終わっています。 上部の葉縁には微歯があります。

 上は葉身細胞です。

 上は仮根で、パピラがあります。

(2025.4.5. 京都府南丹市美山町 標高約500m)

【 参考文献 】
秋山弘之・山口富美夫:無性芽を有するヘチマゴケ属(ハリガネゴケ科,蘚類)の研究 1,日本産キヘチマゴケとその近縁種の再検討.蘚苔類研究9(9),2008.

2025-04-15

フサゴケ


 岩上に広がる写真の大形のコケ、フサゴケとコフサゴケはとてもよく似ているのですが、たぶん前者の  Rhytidiadelphus squarrosus だろうと思います。

 茎は赤褐色、葉は著しく背側に反り返っています。 コフサゴケはこれほど著しく反り返ることは無いと思います。

 上は茎葉ですが、撮影の都合上、小さめの茎葉で、少し枝葉的な形も混じっています。 葉は反り返っていて、上の葉でもまだ葉の形がよく分かる方です。 コフサゴケは、葉先がもっと急に細くなり、葉の基部はもっと狭まると思います。

 翼部の細胞は大きく、褐色の区画をつくっています(上の写真)。

 葉身細胞は長楕円形~線形です。 葉縁の歯は、上部では少し大きくなりますが、ほぼ全周に細かい歯がありました。

(2025.4.5. 京都府南丹市美山町 標高約500m)

◎ フサゴケはこちらこちらにも載せています。

2025-04-14

蒴をつけたヤマトチョウチンゴケ

 ヤマトチョウチンゴケ Plagiomnium japonicum が蒴をつけていました(2025.4.5. 京都府南丹市 美山にて撮影)。
 昨年同じ場所で採集した本種をこちらに載せていますので、今回は上の1枚の写真だけにしますが、直立茎の高さは4~6cmでした。

2025-04-12

ヒメツボミゴケ

 たくさんの胞子体を伸ばした苔類の群落、調べてみると、2種類の苔類が混生していました。

 上の写真のピントの合っているコケはマイマイツボミゴケだと思いますが、今回はその後ろにある少し小形のヒメツボミゴケ Solenostoma emarginatum です。 同定には今回もM氏に助けていただきました。

 花被は葉より大きな雌苞葉に覆われていて、上の写真では見えません。

 上は雌器の縦断面です。 ペリギニウムはよく発達しています。 花被は円錐形で、稜はありません。


 茎の幅は葉を含めて1~1.5㎜、葉は茎に斜めにつき、円頭~凹頭です(上の2枚の写真)。

 茎についたままだと葉の形はよくわかりません。 上のように切り離してみると、多くの葉は、丸みを帯びた四角形で、葉先は浅く湾状に凹んでいます。 葉のサイズは、平凡社では長さ、幅とも、1~0.75㎜となっています。 Solenostoma(ソロイゴケ属)では他にこのように葉先が椀状に凹む種はありませんから、見分ける良いポイントになります。

 上は葉身細胞です。 トリゴンは無いか小さく、油体は各細胞に1~3個です。

 仮根は淡い赤褐色でした(上の写真)。

(2025.4.5. 京都府南丹市美山町 標高約500m)

2025-04-10

マイマイツボミゴケ

 

 湿岩上でマイマイツボミゴケ Solenostoma torticalyx がたくさん胞子体をつけていました(上の写真)。 胞子体に栄養を取られたためか、時期的なものか、あまり緑色は残っていません。 なお、上の写真で混生しているのはホソエヘチマゴケだと思います。

 最初の写真では茎の上部しか見えていませんが、茎は斜上~直立しています。 花被は紡錘形でひだがあり、上部はねじれています。


 葉は茎に斜めについてゆるく重なっています。 茎は葉を含めて幅 1.5㎜以上あります。 仮根は少なく、束になって茎に沿って流下する様子は見られません。

 上は胞子体を包み込んだ花被の縦断面で、ペリギニウムが発達しています。 緑色の円内で花被と最内側の雌苞葉が分かれていて、造卵器の位置はこれより明瞭に下に位置します。


 葉は円形で、全縁、円頭です(上の2枚の写真)。 葉縁の細胞が他の細胞より厚壁になることはありません。

 上は葉身細胞です。 薄膜でトリゴンは小さく、油体は各細胞に0~3個、楕円形でブドウ房状です。

 仮根は赤紫色です(上の写真)。

 上は胞子と弾糸です。

(2025.4.5. 京都府南丹市美山町 標高約500m)

◎ マイマイツボミゴケはこちらにも載せています。

2025-04-09

イヌムクムクゴケ

 上はイヌムクムクゴケ Trichocoleopsis sacculata を腹面から撮っています。 いろいろな蘚苔類が混生している群落にほんの少し混じっていました。 コケ群落を持ち帰って調べている時に見つけたので、生態写真はありません。 本来はもう少し緑色をしているコケですが、他のコケに覆われていたためか、時期的なものか(たぶん両方)、緑色は枝の先端に少し残っているだけです。
 和名はムクムクゴケの仲間に似ている所からでしょうが、葉はムクムクゴケの仲間ほどには細裂していません。

 もう少し拡大してみました(上の写真)。 たくさんの小さな袋状のものが並んでいます。 同じ科のサワラゴケは第3、4番目の枝につく葉が袋状の裂片を持ちますが、本種は全ての葉に袋状になった裂片があります。


 上の2枚は葉です。 葉は不等に2裂し、背側の裂片が大きく、腹側の裂片の腹縁が内巻きして袋状になっています。 各裂片の縁には長毛があります。

 上は葉身細胞です。


 腹葉も2裂し、長毛があります(上の写真)。

(2025.4.5. 京都府南丹市美山町 標高約500m)

2025-04-03

「苔類だけのコケ展」のおしらせ

 私たち(生物学的意味の)消費者は食べないと生きていくことはできません。 生産者である植物が海から陸上に上がってきてくれたからこそ、人類も誕生できたと言えるでしょう。 その上陸した光合成できる植物にいちばん近いのがコケ植物だと言われています。 そこからいろいろな植物が進化し、それらを食べるいろいろな動物が生まれ、現在の生態系が生まれました。 まさにコケ植物は「大地の母」と言えるのではないでしょうか。
 現在地球上で見られるコケ植物は、蘚類と苔類、それにごくわずかの種数のツノゴケ類に分かれますが、よく目立つのは蘚類で、コケテラリウムなどに使われているのも多くは蘚類です。 苔類も身近な所にもたくさんの種類が生活しているのですが、小さなものが多く、比較的大きなゼニゴケの仲間以外はあまり知られていません。 しかし苔類は遺伝子的には蘚類よりも上陸した最初の植物に近いとされていて、植物の進化を知る上でも大切なコケですし、その形質の多様性は蘚類以上かもしれません。
 近年はコケ展もあちこちで開催されるようになってきましたが、展示されるコケは蘚類中心です。 そのような状況にあって、苔類だけに限ったコケ展で苔類のおもしろさを知ってもらおうと、「苔類だけのコケ展」が計画されました。 

 このコケ展は、(公財)京都市都市緑化協会主催の「春の和の花展」の一環として、2025年5月9日(金)~5月11日(日)の3日間、梅小路公園の「緑の館」で開催されます。 開催場所の梅小路公園は、JR京都駅から約1km西に位置し、市バスもありますが、山陰本線「梅小路京都西」駅で下車するとすぐ前です。
 生きた苔類を100点以上展示し、それらを顕微鏡でも観察できる機会は貴重です。 拡大写真などでの解説も充実していますし、展示のガイドツアーも行います。 コケテラリウムのような作る楽しみや観賞には向いていませんが、知れば知るほどおもしろい苔類の沼にはまってみませんか?
 なお、「緑の館」に隣接する「朱雀の庭・いのちの森」では蘚苔類の観察会も行います。 こちらもコケ植物について知る良い機会になると思いますので、ぜひお立ち寄りください。

◎ 朱雀の庭・いのちの森の庭園ミニツアーや室内展示ガイドツアーについての詳細は、京都市都市緑化協会のイベント案内をご覧ください。

2025-03-28

よく見られるクラマゴケモドキ属の検索表

 平凡社の図鑑では日本産クラマゴケモドキ属全15種の検索表が載せられています。 腰を据えてきちんと調べるにはこの検索表を使うべきでしょうが、初心者にはなかなか使いにくいのも事実です。 例えば、この検索表ではキールの有無から始まっていますが、キールの有無は分かりにくく、確認に光学顕微鏡が必要な場合もあります。
 クラマゴケモドキ属は、植物体の大きさや色、光沢などが種によって異なり、外観で判別できる場合も多いのですが、大きさも見慣れていれば分かりますが、初心者にとっては、2種を並べればどちらが大きいかは分かりますが、1種だけで大きいか小さいかの判断はできません。 色や光沢の違いも、経験があってはじめて分かることでしょう。
 そこで、よく見られるクラマゴケモドキ属に限り、初心者でもできるだけルーペで見当がつけられる(と思われる)検索表を作成してみました。 もちろん、クラマゴケモドキの仲間だと見当がつけられ、背片、腹片、腹葉が分かり、湿らせて観察することが前提ですが・・・。
 使ってみての感想やご意見をいただければ幸いです。


【 検索表 】

1 背片は全縁で円頭。 ・・・・・ オオクラマゴケモドキ
1 背片の先は歯または長毛があるか尖る。 ・・・・・ 2

2 背片の縁にも歯がある。石灰岩地。 ・・・・・ カハルクラマゴケモドキ
2 背片の縁はほぼ全縁。 ・・・・・ 3

3 腹片は比較的よく目立ち、全縁または先端に1~2歯がある。 ・・・・・ 4
3 腹片は比較的よく目立ち、長毛または長歯がある。 ・・・・・ 5
3 腹片は細長く、茎に接するように存在し、あまり目立たない。 ・・・・・ 7

4 腹葉は円頭で全縁。 ・・・・・ シゲリクラマゴケモドキ
4 腹葉は円頭で先端に1~2歯がある。 ・・・・・ サンカククラマゴケモドキ
4 腹葉は切頭で歯がある。背片の先は長く漸尖する。 ・・・・・ ヒメクラマゴケモドキ

5 背片の先はほとんど曲がらない。背片の先にも腹片にも腹葉にも長毛がある。
   ・・・・・ クラマゴケモドキ
5 背片の先は内曲する。背片の先にも腹片にも腹葉にも歯がある。 ・・・・・ 6

6 腹葉は基部が最大幅、ブナ帯以下。 ・・・・・ ニスビキカヤゴケ
6 腹葉は中ほどが最大幅、ブナ帯以上。 ・・・・・ ケクラマゴケモドキ

7 背片と腹片の接続部(キール)はごく短い。 ・・・・・ ヤマトクラマゴケモドキ
 (本州の埼玉県以西と四国の石灰岩地にはよく似たタカキクラマゴケモドキがある)
7 背片と腹片の接続部(キール)は明瞭。 ・・・・・ トサクラマゴケモドキ


2025-03-27

ホソウリゴケ

 場所からも雰囲気からもホソウリゴケ Brachymenium exile だと思った写真のコケ、これまで蒴は観察したことが無く、古い蒴がついていたので持ち帰って調べました。 育っていたのは街の道路の隅です。


 上の2枚は乾いた状態で、乾くと葉は縮れず、茎に接着します。
 平凡社などでは、ホソウリゴケの茎の長さは5㎜以下となっていますが、上の2枚の写真では1cm前後の高さがあります。 これはホソウリゴケではないのでは? と心配になってコケサロンで聞いたところ、「5㎜以下」というのは緑色をした元気な所の高さだろうということでした。 たしかに上の写真の白い線を引いた所でとても切れやすくなっていて、線以下の所は色も少し異なり、前年の(枯れた?)部分のようです。

 上は葉で、長さは平凡社では 0.6~1㎜となっています。 中肋は葉先から短く突出します。

 葉身細胞は狭菱形~狭六角形、 葉縁の細胞は細長くなっていますが、舷と呼べるほどではありません(上の写真)。

 仮根の表面には、多くの細かいパピラがあります(上の写真)。

 最初の写真でもよく見ると、あちこちの葉腋に無性芽がついているのが写っていますが、いろいろ観察していると、無性芽がポロポロ落ちます。 それを集めて撮ったのが上の写真です。

 最初の写真にも写っていますが、上のような若い胞子体もありました。 時期的に、まだ造卵器も見られるのではないかと思い、探してみたところ、やはりありました。

 造卵器は上の白い円で囲った膨らみの中にありました。

 上は苞葉を取り除いて撮った雌器で、造卵器と側糸が写っています。

 本種は雌雄異株です。 ですから卵細胞と精子が出会いにくく、胞子体があまり作られないのでしょう。 しかし、この群落では胞子体ができています。 雄株も混じっているのではないかと探したところ、造精器もみつけることができました。

 上の茎頂の膨らみが造精器の入っていた所です。

 上のバナナのようなものがが造精器です。 もっとたくさんあったのですが、葉を取り去る過程で外れてしまいました。

(2025.3.8. 滋賀県野洲市 市街地の道路の端)

◎ ホソウリゴケはこちらこちらにも載せています。