2025-11-20

タカサゴキリゴケ?

 上の写真の樹幹のコケ群落(2025.11.15. 貝塚市にて撮影)、ナガハシゴケやオカムラケビラゴケなどが混生していますが、群落をほぐし、左端に少し写っているナガハシゴケより少し大きな葉のコケを取りだして撮ったのが下の写真です。

 枝先が尾状に起き上がっています。 蒴が未熟で、蒴歯の特徴などは確認できず、あまり自信は無いのですが、タカサゴキリゴケ Sematophyllum subpinnatum ではないかと思います。
 蒴柄は長く平滑、蒴はほぼ相称で、少し傾いています。 蓋は、帽に覆われていてよく分かりませんが、長い嘴がありそうです。

 上は茎葉で、長さは1~1.5㎜です。 中肋は無く、翼部が分化し、葉縁は所々狭く反曲しています。

 上は葉の中央付近の葉身細胞です。 細胞の長さはかなりの違いがありますが、40~50μmのものが多いようです。 幅は6~8μmです。

 葉頂付近の細胞は菱形で、長さは葉の中央付近の細胞よりかなり短くなっています(上の写真)。


 上の2枚は翼部です。 翼細胞は主に横に並んでいます。

2025-11-19

オカムラケビラゴケのひも状の茎

 写真はオカムラケビラゴケ Radula okamurana でしょう。 茎の先がひも状になって立ち上がり、その先に小さな葉をつけています。 11月15日の貝塚市でのオカモス関西の観察会で、枝分かれした木の股で育っていました。

 上はひも状になっていない茎を背面から、下は同じ茎を腹面から撮っています。スケールの最小目盛は 0.1㎜です。

 本種はヒメケビラゴケとよく似ていますが、本種の方が少し大形で、よく分枝し、葉は密生し、葉の頂端が内曲します。 また、腹片はより長大で横によく伸び、基部は茎を覆って膨らみ、頂端が三角形になって突出する傾向があります。 また、茎の先端部が起き上がって伸び、ひも状になる性質は、山田(1994)によると、ヒメケビラゴケには見られない性質です。
 分布は、平凡社によれば、ヒメケビラゴケが宮城県以南であるのに対し、本種は三重県以西となっています。

 上は這う茎が立ち上がる所をカバーグラスで押さえて平らにして撮った写真です。 立ち上がった茎では、鱗片状になった小さな葉が茎に圧着しています。
 この鱗片状の葉ですが、上の写真を見ると、鱗片状の葉は色の濃い部分と透明に近い部分からなっているようにみえます。 私は以前、これは腹片と小さくなった背片だと思っていました。 しかし最初の写真やこちらの反射光で見た写真を見ると、この鱗片状の葉は葉先が尖っています。 背片はこのように尖らないでしょう。
 山田(1994)や平凡社は、この鱗片状の葉は背片が落ちて残った腹片であるとしています。 上の写真の2つの部分の違いは、腹片の基部と頂端部の違いのように思います。 
 立ち上がった茎では、葉の性質が変わるようで、腹片は少し形が変化して茎に圧着し、背片は小さく円くなり、すぐに落ちてしまいますが、立ち上がった茎の先端の作られたばかりの新しい葉にだけ背片も残っているのだと思います。 上の写真の黄色の矢印で示した所では、ちょうど這う茎から立ち上がる茎への境で、背片の形質もその中間を示し、小さく円くなっていますが、落ちずに残っているのではないでしょうか。
 山田(1994)にも平凡社にも、この落ちた背片については書かれていませんが、無性生殖に使われるのだろうと思います。

 上は立ち上がる茎を伸ばし始めた状態だと思います。 茎の先には、できたばかりの小さな葉を含めて数枚の葉が重なるようについています。 まもなく離れるであろう背片の葉縁付近の一部の細胞は長く伸びはじめています。 仮根に分化していくのでしょうか。

 上は落ちた背片と思われるものです。

 本種の葉身細胞などはこれまで何度も載せているので、今回は省きます。 なお、こちらには花被などに守られた若い胞子体(胚)などを、こちらには開裂した蒴などを載せています。

【参考文献】
山田 耕作:オカムラケビラゴケとヒメケビラゴケについて.日本蘚苔類学会会報6(4),1994.

2025-11-17

イボヒメクサリゴケ

 写真はイボヒメクサリゴケ Cololejeunea macounii でしょう。 11月15日に貝塚市で行われたオカモス関西の観察会でみつけました。 平凡社には樹幹に着生とありますが、岩上に点々と小さな群落を作っていました。

 背片は重なり、円頭です。 植物体の多くの部分の細胞には大きなパピラがあり、上の写真では、それが小さな円に見えています。 腹葉はありません。

 背片は卵形です。 腹片は背片の約1/2長で基部は凸面状、第1歯は金槌形で2細胞長、第2歯は狭三角形で尖っています(上の写真)。

 上は背片の葉先で、左下に腹片の第1歯が写っています。 各葉身細胞の中央には、先の丸い大きなパピラがあります。

 上は背片背面の葉身細胞です。パピラの基部と上部が重なり、二重円のように写っています。

 腹片基部の細胞にはパピラはありません(上の写真)。 細胞壁に中間肥厚が見られます。

◎ イホヒメクサリゴケはこちらにも載せています。

2025-11-11

チチブハネゴケ

 写真はチチブハネゴケ Plagiochila flexuosa でしょう。 三重県松阪市で採集されたものをいただきました。 関東以西の暖帯~温帯の湿度の高い渓谷の岩上に育つコケです。
 上の写真の植物体の長さは約8cm(スケールは1目盛が1㎜)、他の茎を見ても分枝はほとんどありません。

 上は腹面から撮っています。 葉は矩形で、長さは幅の2倍以上あり、背縁は直線状で、腹縁はやや膨らみ、葉先に5個以上の歯をつけている葉が多く見られます。

 稀に上のようなハネゴケ型分枝(茎の側面からの有襟分枝)が見られます。


 上の2枚は葉です。 背縁は茎に長く下延しているのですが、切れてしまい、その部分まで取り出すことはできませんでした。

 上は葉先です。

 小さな腹葉があります(上の写真)。

 上は葉身細胞です。 細胞壁に波状の中間肥厚は見られません。

2025-11-01

エゾトサカゴケ

 写真はエゾトサカゴケ Cryptolophocolea compacta だと思います。 これもSJさんが剣山の標高1500m付近で2025年8月に採集された標本です。 北海道~九州の亜高山帯以下の倒木や湿土壌に生育するコケです。 トサカゴケなどに似ていますが、植物体は大きく、葉は円頭~浅く2裂しています。

 腹葉は、上の写真では茎と重なって少し分かりにくいのですが、茎径より大きく、2/3まで2裂し、側縁に歯があります。

 上は葉身細胞です。

2025-10-30

サケバムチゴケ

 写真はサケバムチゴケ Bazzania tricrenata でしょう。 昨日に続いて“苔ミタロ”でいただいたコケで、SJさんが剣山の標高1900m付近で2024年7月に採集されたものです。 北半球の冷温帯に分布するコケで、葉は接在し、先端が内曲しています。

 上は湿らせた状態で腹面から撮っています。 湿った状態でも葉は内曲しています。 腹葉は開出し、茎径の約2倍幅です。

 葉は長さ1~1.5㎜で、先端に2~3歯があります(上の写真)。 ところで、和名の「サケバ」は何なんでしょうね。 「裂け葉」だとすれば、この葉先の様子しか無いと思うのですが、他のムチゴケの仲間と比較しても、深く裂けているとは言えないと思います。


 上の2枚は腹葉です。 腹葉は円状方形で、先端は深波~鋸歯状です。

 上は葉身細胞です。 三角形のトリゴンが多く見られます。 油体は米粒形で大きな眼点があるはずですが、1年以上前に採集された標本ですので、消えてしまっています。

2025-10-29

オンタケヤスデゴケ

 写真はオンタケヤスデゴケ Frullania schensiana のようです。 剣山の標高1750m付近で2024年7月に採集されたもので、10月28日の顕微鏡観察会(注1)でSJさんが持って来られたものを少し分けていただきました。 写真は採集されてから1年以上経っていて少し変色していますが、本来の色は黄褐色~赤褐色のようです。
 写真のコケは、平凡社に従えばホシオンタケヤスデゴケ F. schensiana var. punctata となるのですが、現在ではオンタケヤスデゴケの異名とされています(片桐・古木:2018、古木2020)。

(注1) 岡山コケの会関西支部(略称 オカモス関西)では、原則毎月第4火曜日に大阪市立自然史博物館の1室をお借りし、顕微鏡を使った蘚苔類の観察会(愛称 苔ミタロ)を実施しています。 どなたでも参加できます。


 背片は卵形で全縁、円頭、腹片は帽状で、嘴の先は丸くなり、内曲しています。 腹葉は卵形で離在し、茎の約3倍幅、全縁で、浅く2裂しています。

 上は葉を1枚外して腹葉と腹片を拡大しています。 腹葉や下の背片には眼点細胞らしいものが写っています。 上で平凡社に従えばホシオンタケヤスデゴケになると書きましたが、和名の「ホシ」はこの眼点細胞らしいものに由来します。
 この眼点細胞らしいものについては、真の眼点細胞(ocellus)ではなく,ocellus-like cell(眼点のような細胞)とそこから生じる gemma(無性芽)とされています(古木:2019、古木:2020)。 なお、このような“眼点のような細胞”のあるタイプは、無いものに比較して、産地は限られているようです。

 上は背片で、背縁基部はやや耳状に膨らんでいます。

 上は背片の葉身細胞です。 1年以上前の標本で、油体は消えています。

【参考文献】
片桐知之・古木達郎(2018).日本産タイ類・ツノゴケ類チェックリスト,2018.Hattoria9:53-102.
古木達郎(2019).ホシオンタケヤスデゴケ Frullania schensiana var. punctata の眼点細胞.蘚苔類研究12(1):31.
古木達郎(2020).オンタケヤスデゴケ Frullania schensiana の無性芽.蘚苔類研究12(3):76-78.

2025-10-27

タカサゴサガリゴケ

 写真はタカサゴサガリゴケ Pseudobarbella levieri でしょう。 福岡県・古処山の山頂に近い登山堂脇の枝から垂れ下がっていました。 屋久島ではたくさん見たコケですが(こちら)、屋久島以外では初めて見たと思います。 分布は平凡社では本州(神奈川県箱根以西)~琉球となっています。

 イトゴケやキヨスミイトゴケなどと比べると、葉は茎に対して90°に近い角度でついています。 上の写真では少し乾き気味でねじれてはっきりしませんが・・・

 湿った状態では葉は茎や枝の先まで見かけ上扁平についています(上の写真)。

 葉は卵形の下部から漸尖し、葉先は細く糸状に伸びています(上の写真)。 葉縁はほとんど波打たず、ほぼ全縁に歯があります。 中肋は1本で、葉の中央部以上に達しています。

 葉身細胞は線形で、中央に1個のパピラがあります(上の写真)。

2025-10-26

ヒメカガミゴケ

 オオウロコゴケなどの苔類の隙間からたくさんの蘚類の胞子体がを突き出ています。 蒴は少し傾き、長い蒴柄があります。 胞子体は古いものが目立ちますが、よく見ると新しい胞子体がたくさん伸びてきています。 蘚類の配偶体はわずかしか見えていませんが、オオウロコゴケと比較して分かるように、小さなコケです。

 上は最初の写真に接した所で、胞子体は少ないのですが、配偶体の様子はよく分かります。 持ち帰って調べた結果、このコケはヒメカガミゴケ Brotherella complanata だろうと思います。


 茎の幅は葉を含めて1㎜以下で、不規則な羽状に分枝しています(上の2枚の写真)。

 上は茎葉(のはず)です。 野口の図や平凡社の記載に比較すると、少し幅が広すぎるようなのですが、Brotherella(カガミゴケ属)は変異が大きいようです。



 翼部には黄褐色の細胞が並んでいます(上の3枚の写真)。

 葉の上部には目立たない歯がまばらにありました(上の写真)。

 上は葉身細胞です。 平凡社では葉身細胞の長さは 65~85μmとなっていますが、それより長く、90~120μmでした。

 蒴の長さは約 2.5㎜、蒴柄の長さは1cmを超えています。

 上は蒴歯を蒴の内側から見ています。 蒴歯は外蒴歯と内蒴歯の2列で、内蒴歯には1本の短い間毛があります。

 上は蒴壁を蒴の内側から見ていて、右が蒴口の方向、左が頸部の方向です。 平凡社には本属の特徴の1つとして、蒴壁の細胞は縦方向の壁だけが厚いと書かれています。 縦方向と横方向の壁の厚さの違いはよく分かりませんが、縦方向の壁が、特に上の写真よりも低倍率では、よく目立っていました。 なお、蒴壁を外側から見た場合も同様でした。

(2025.9.29. 福岡県 野河内渓谷)

◎ ヒメカガミゴケはこちらにも載せています。