2025-08-11

ヌマゴケ

 写真はヌマゴケ Pohlia longicollis だと思います。

 上の背景は1㎜方眼です。 茎の長さは1cmあまり、蒴柄の長さは約 1.5㎜、蒴の長さは約4㎜でした。

 葉は平凡社では長さ2~3.5㎜となっています。 葉縁は弱く反曲している所があります。

 茎の上部で、葉が密に集まってふっくらとしている所があったので、生殖器官を保護しているのではないかと思い、手前の葉を取り除いてみると・・・

 上は同じものを方向を変えて撮った写真を合成しています。 蒴になる部分が作られかけていました。 頂には造卵器の頸であった所が褐色になって残っています。 蒴柄になる部分はまだ確認できませんでした。 褐色になった造卵器がたくさんあります。
 この写真のヌマゴケは、①褐色になりはじめたばかりの若い蒴の胞子体と、②受精して間もない胞子体とをつけていることになります。

(2024.8.25. 北海道 然別湖)

こちらには10月上旬の、上に載せた①の蒴が胞子を散布し、②の蒴が姿を見せ始めた状態を載せています。 またこちらには、その中間の時期である9月上旬の、ほほ成熟したと思われる蒴をつけた状態を載せています。

2025-08-05

イヌビワシギゾウムシの産卵

 下はPart1の2011年6月4日に載せていた記事を中心に加筆改変し、こちらに引っ越しさせたものです。

 ゾウムシの仲間のうち、鳥のシギのくちばしのように口吻が特に細長いものをシギゾウムシと呼んでいますが、今回はイヌビワシギゾウムシ Curculio funebris の産卵の様子です。
 観察したのは、高さ1.5mほどの横に枝を広げたイヌビワでしたが、イヌビワシギゾウムシはこの木で、交尾中のものが1組(これは枝が邪魔をして撮ろうとしているうちに逃げられました)、産卵中のものが3頭、歩き回っているのが1頭いました(堺市南区岩室 2011年6月4日17時すぎ)。


 イヌビワの花嚢(かのう)に口吻を根元まで差し込み、穴をあけて・・・

 口吻を引き抜いた後に反転し、産卵管を差し込み、産卵します。 花嚢の壁は硬いので、口の所から産卵するのだと思いますが・・・

 上のようなケースもありました。 花嚢が小さいうちは壁が柔らかいからでしょうか。


 8月上旬、花嚢を割ると上のようなイモムシがいました。 イヌビワシギゾウムシの幼虫ではないかと思います(2012年8月11日 堺自然ふれあいの森)。

2025-08-04

イヌビワとイヌビワコバチ(とイヌビワオナガコバチ)

 Part1からの引っ越しを兼ねて、今の時期に見られるイヌビワとイヌビワオナガコバチとの関係などを、昔撮った写真を使って書いてみました。 

 イヌビワ Ficus erecta は関東以西に自生するイチジクの仲間です。 上は2015年8月7日に富田林市の錦織公園で撮った果嚢(いわゆる“イチジク”)で、黒く熟し、あふれ出た密が垂れていて、その蜜を求めてアミメアリが集まってきています。 この果嚢は、私たちが食べても美味しいものですが、鳥などに食べられ、種子が運ばれます。
 ところが・・・

 上も1枚目と同じ頃に撮った写真ですが(2012年8月11日に堺自然ふれあいの森で撮影)、美味しくなさそうですし、実際鳥も食べません。 果嚢の先が乱れていますが、ここからイヌビワコバチ Blastophaga nipponica という小さな蜂が出てきます。

 イヌビワには雌株と雄株がありますが、多くの種子植物の雌株・雄株とはかなり意味合いが違います。 雌株は種子ができる株で、最初の写真が雌株です。 雄株は種子になる部分がハチに食べられてしまい、種子ができませんが、果嚢の中には雌花も雄花も咲きます。 2枚目の写真が雄株です。

 イチジクは漢字では「無花果」と書きます。これは花を咲かせずに実をつけるように見えることからですが、実際には、花嚢の中に小さな花が咲きます。 これはイチジク属(Ficus)全体に言えることで、イヌビワにもあてはまります。
 イヌビワの雌株の花嚢内でも雄株の花嚢内でも雌花が咲きますが、この雌花の花柱の長さは雌株と雄株で異なっています。
 イヌビワコバチのメスは、イヌビワの花嚢に潜り込み、雌花の柱頭から産卵管を差し込み、子房に卵を産み付け、ふ化した幼虫は子房を食べて成長します。 ところが、イヌビワの雌株に咲く雌花の花柱は長く、イヌビワコバチの産卵管は子房に届きません。 ですから雌株の花嚢ではイチジクコバチが育たず、種子ができます。

 上は高槻市にあるJT生命誌研究館のHPからお借りした図です。 イヌビワの雌株と雄株の雌花の違いが分かりやすく書かれてあるのでお借りしたのですが、図の左のようにイチジク属の植物には雌雄同株も存在します。 この場合は、1つの花嚢の中に2種類の雌花が咲き、種子もできるし、コバチも育ちます。

 イヌビワの雄株は雌花の子房を食べさせてイヌビワコバチを育てているとも言えます。 一般に、花は同種の花粉をメシベにつけてもらわないと意味がありません。 イヌビワコバチはイヌビワの花嚢の中でしか育ちませんから、メスは必ずイヌビワに産卵に向かいます。

 上もJT生命誌研究館のHPからお借りした図で、イチジク属の繁殖システムを示す模式図です。 イヌビワは雌雄異株ですから図の右側です。
 この時期、雄株の花嚢内の出口付近には、たくさんの雄花が咲いています。 雄株の花嚢の中ではイヌビワコバチのメスとオスが成虫になっています。 交尾を終えたメスは花嚢から脱出しますが、その時、花嚢の入口付近に咲いている雄花の花粉が体に付きます。 オスは花嚢の外に出ることなく、短い成虫の暮らしを終えます。
 この時期イヌビワには、雌株にも雄株にも若い花嚢ができています。 花粉を体につけて花嚢を出たイヌビワコバチのメスは、この若い花嚢に潜り込みます。 花嚢に潜り込んだメスは産卵のために若い花嚢内を動き回りますが、その時に体に付いていた花粉がメシベの柱頭に付きます。 そしてメスは産卵しますが、その結果は、雄株の花嚢内ではイヌビワコバチが育つものの、雌株の花嚢内では育つことができず、受粉した雌花には種子ができます。

 最初から2枚目に載せたイヌビワの雄株の花嚢を割ってみました(下の写真)。

 上の写真の丸くみえるのは子房の膨らみですが、その中には種子ができておらず、イヌビワコバチが育っています。 ちょうどそのうちの1つから、イヌビワコバチのメスが子房壁を破って脱出しようとしています。

 上は子房から出て翅も広がったイヌビワコバチのメスです。

 上はイヌビワコバチのオスです。

 上のようなハチもいました。 これは羽化したばかりのイヌビワオナガコバチ Goniogaster inubiae のメスで、長い産卵管を持っています。 このハチは花嚢から出た後、イヌビワコバチの居そうな新しいイヌビワの花嚢の外側から産卵管を刺し込み、生まれた幼虫はイヌビワコバチの幼虫を食べて成長します。

 上はイヌビワオナガコバチのオスです。 イヌビワコバチのオスと比較すると、頭部が大きく、立派な牙を持っています。 このオスも花嚢内で交尾し、花嚢から外に出ることはありません。

 上は産卵場所を吟味中のイヌビワオナガコバチ(メス)で、3頭います。 2012年7月22日に堺自然ふれあいの森で撮影しました。

2025-08-02

テラニシシリアゲアリ




 上はテラニシシリアゲアリ Crematogaster teranishii でしょう。 1枚目は2014年6月28日にクサカゲロウの仲間の死骸に集まっている所を、2・3枚目は 2013年7月19日に、4枚目は 2015年9月4日に、いずれも堺自然ふれあいの森で撮影しました。
 本州以南で普通に見られる樹上性のアリで、上の写真も全て、樹木の観察用に高い所に設置された木道で撮影しています。 体長は2~4㎜、攻撃的なアリで、威嚇の態勢に入った時には、先がとがった腹部を前方に突き出します。
 同属のハリブトシリアゲアリ(C. matsumurai)とよく似ていますが、本種はより濃い黒色で、前伸腹節にあるトゲが鋭く尖っています(ハリブとシリアゲアリのトゲは短く、つぶれたような形です)。

◎ 本種もアブラムシなどと保護するかわりに甘露を求めるという共生関係をつくります。 こちらにはタケノアブニムシとの関係を、こちらにはオオワラジカイガラムシの幼虫との関係を載せています。

 

2025-08-01

アブラニジモントビコバチ

 下はPart1の2013年1月25日に載せていたものを、大幅に書き換え、こちらに引っ越しさせたものです。 


 上はアブラニジモントビコバチ( Cerapteroceroides fortunatus )だろうと思います。 堺市南区岩室で 2013年1月25日に撮影しました。 体長は1.0mm、翅端までは1.2mmでした。
 本種は高次寄生蜂で、アブラムシに寄生するアブラコバチに寄生します。 体はずんどうでやや扁平、中脚が長くなっているのはトビコバチ科の特徴です。 触角は扁平で、見る角度によって、厚さが全く違って見えます。
 冬に見られるコバチの仲間は、ほとんどが秋に交尾を済ませたメスで、産卵する春まで寒さに耐えているようです。 オスは交尾を終えると死んでしまい、今見られるオスがいたら、それは今が交尾期の種だろうということです。 ですから、この写真のものもメスで、雄は翅の斑紋もなく雌とはだいぶ異なった姿をしているようです。

こちらには長さにして本種より2倍大きいニジモントビコバチを載せています。

 

2025-07-31

ヒメコバチ科 Euplectrus sp. の2種

  下はPart1の2013年1月の20日と27日に載せていたものを、大幅に書き換え、こちらに引っ越しさせたものです。


 上はヒメコバチ科の Euplectrus sp. だと思います。 11月30日に大阪城公園で撮影しました。 体長は2.2mmでした。
 Wikipedia(英語版)によると、Euplectrus属は世界的に広く分布するハチですが、種間の形態的な違いはわずかで、識別には困難が伴う属です。 他の属とは、後脛節の距がとても長いことや、前伸腹節(propodeum)の中央に一本の強い稜があることで区別できるのですが、これは帰宅後に調べたことで、上の写真ではどちらの特徴もよく分かりません。
 Euplectrus属のハチは、チョウ目の幼虫に外部寄生します。 寄生されたイモムシは食餌や活動を続けますが、産卵時に注入された毒液によって成長と脱皮は止まり、ハチの幼虫がサナギになる頃に死んでしまいます。

 下も上と同じEuplectrus属の別種でしょう。 12月21日に堺自然ふれあいの森で撮影しました。 これも体長は2.2mmでした。


 下も一見よく似ていて、たぶんヒメコバチ科でしょうが、背面の様子も違いますし、産卵管が突き出しています。 たぶん別の属でしょう。 体長は 1.7㎜、2013年1月23日に堺市南区岩室で撮影しました。




2025-07-30

Heterospirus sp. (コマユバチ科オナガコマユバチ亜科)

※ Part1の 2012年12月21日からの引っ越し記事です(追記しています)。 



 写真は2012年12月21日に堺自然ふれあいの森で撮影したコマユバチ科の一種で、体長は 2.5mm、翅端までは 3.2mmでした。 しかしそれ以上は分からず、藤江さんに見ていただいたところ、腹部背面や後翅翅脈などが見えないため、なかなか難しいが、顔の形状からはオナガコマユバチ亜科かコマユバチ亜科あたりに絞れ、下口隆起線や後頭隆起線(下記 注)がありそうなところから、おそらくオナガコマユバチ亜科で、Heterospirus属あたりかもしれないとの回答いただきました。

(注)
・ 下口隆起線(Hypostomal carina)
 頭部の後方、口の近くにある隆起線で、大顎の後方の関節部から後頭孔(foramen magnum)に向かって走る線です。口の周囲の構造を補強したり、筋肉の付着点になったりします。
・ 後頭隆起線(Occipital carina)
 頭部の後ろ側にある半円状の隆起線で、頭頂部(vertex)と複眼の後縁、後頭孔の間を囲むように走っています。この線は、頭部の後方の輪郭を形成し、分類学的にも重要な特徴です。


2025-07-29

ハラビロクロバチ科 Leptacis属の一種

 ※ Part1の2013年12月28日からの引っ越し記事です。

 2013年12月25日に堺自然ふれあいの森のヤツデの葉の裏で見つけたスマートな蜂、体長は、体を真っ直ぐにすれば、1.7mmほどになります。 見慣れない姿で、最初は調べる手がかりも思いつかなかったのですが、頭を思いっきり下げている姿や、脚の脛節の端が膨れているところなどから、黒くはありませんがハラビロクロバチ科かもしれないと思い、検索してみると、tukikuiさんのところ(こちら)に似たものが載せられていました。 この記事へのコメントを寄せられたKurobachiさんによれば、この属はたくさんの種を含んでいるそうで、同種かどうかは分かりませんが、同じ属であることは間違いないでしょう。 タマバエ類の幼虫に寄生するそうです。
 撮影を始めるとすぐに動き出したので、家に持ち帰りました。 しばらく冷凍庫に入れて動きを鈍くして撮影するつもりが、細い体には無理だったようで、短時間で絶命してしまいました。 それを横から撮ったのが下の写真です。

 小楯板の先端には1本の鋭い棘があります。 前脚と絡み合っていて分かりにくいのですが、触角は長く、上の写真ではZ状に折りたたまれています。 翅には毛が生えています。

 上の写真では、口のあたりがよく分かりませんし、触角の出ている所ももう少し分かりやすくならないかと思い、ピンセットで絡み合っていた前脚と触角を分け、CombineZP で深度合成してみたのが下です。 レンズは手元にあった28mm広角レンズ( もう少し焦点距離の短いレンズがほしいところですが・・・)を逆向きにし、カメラとの間に接写リング(PK-13)を挟みました。


2025-07-28

キコミミゴケ(ヤマトコミミゴケとの比較)

 写真はキコミミゴケ Lejeunea flava のようです。 分布は本州以南です。 7月25日に載せたヨシナガクロウロコゴケに混じっていたもので、当初はヤマトコミミゴケ(以下ヤマト)かと思ったのですが、どこか違うような気がしてM氏にお聞きしました。
 キコミミゴケは黄緑色で柔らかい群落を形成し、ヤマトは行儀の悪い群落(私のイメージ)で、きらきらした光沢があるのですが、わずか2本の植物体からでは、群落の様子は分かりません。

 上は腹葉です。 本種の腹葉は、背片よりは小さいものの、茎径の3~4倍幅と大きく、腹片が隠れてしまう幅ですし、どちらかと言えば幅より高さの方が高い傾向があります。(ヤマトの腹葉は高さより幅が広い。)


 上の2枚は腹片です。 歯牙が1細胞なのはヤマトなどと同じですが、ヤマトほど腹片の変異は大きくありません。

 上は葉身細胞です。 油体は各細胞に3~15個です。 ヤマトの油体は各細胞に 20~50個あります。

◎ キコミミゴケはこちらにも載せています。

2025-07-27

パンダアリ

 上は大阪市立自然史博物館で現在開催中の特別展「昆虫MANIAC」で撮影したパンダアリです。 虫ピンの太さからも分かるように、小さな昆虫です。 撮影はガラスに触れないように注意しながら接写し、トリミングしています。
 このパンダアリ、「パンダみたいなアリ? 実はハチ」のキャッチコピーもあって注目されていますが、頭部にこんなに毛があることもおもしろく、少し調べてみました。
 パンダアリの学名は Euspinolia militaris で、南米チリの沿岸部に分布するアリバチ科の1種です。 アリ(アリ科)もハチ(ハチ目)の1グループですが、本種はアリ科ではありませんから、たしかにアリではありません。
 食性は、親は花の蜜や小さな昆虫で、幼虫は親が産卵した地中性のハチの幼虫などに外部寄生します。
 アリバチ科(Mutillidae)のハチは、オスには翅がありますが、メスには翅がありません(だからアリのようにみえます)。 アリバチ科のハチは体に鮮やかな色を持つものや目立つ模様を持つものが多いのですが、護身用に強力な毒針を持っていて、体の色や模様は捕食者に警告する警戒色のようです。 また、体の一部をこすり合わせて高周波音を発し、捕食者を追い払うこともします。
 アリバチ科のハチは全世界に分布しますが、特に熱帯地域で多様性が高く、日本でも九州、沖縄、奄美諸島、屋久島などの南西諸島で多くの種が確認されています。

2025-07-26

ヨシナガクロウロコゴケ

 写真はヨシナガクロウロコゴケ Acanthocoleus yoshinaganus でしょう。 これも毎月第4火曜日に開かれているオカモス関西の顕微鏡観察会にK氏が持参されたコケで、大台ヶ原のふもとで採集されたものです。 また同定にはM氏の力をお借りしました。
 学名は、平凡社(2001)では Dicranolejeunea yoshinagana となっていますが、片桐・古木(2018)では上記のように変更されています。 acantho- はギリシャ語の「棘」を、-coleus はラテン語の「袋」を意味し、花被の側稜上に刺があるところからでしょう。 また、和名は本種を初めて探集された高知の吉永虎馬氏を記念したものです。
 背片は全縁で円頭~鈍頭、長さは約1㎜です。 分布は平凡社では本州(宮城県以南)~九州の落葉樹林帯の湿岩上となっています。


 腹葉は全縁で円形、円頭ですが、先が少し凹んでいるものもありました(上の2枚の写真)。


 腹片は切頭で、1細胞性の2歯があります(上の2枚の写真)。

 葉身細胞は薄壁で、赤い円で囲った所などで中間肥厚が見られ、大きなトリゴンがあります。