2018-10-31
10月のコツクシサワゴケ
写真は、まだ球形になっていない若い蒴をつけたコツクシサワゴケ Philonotis thwaitesii だと思いますが・・・
あちこちに芽がちぎれたような無性芽がついていました。 いろいろ調べてみたのですが、コツクシサワゴケに無性芽がつくという記載をみつけることはできませんでした。
(2018.10.10. 京都府立植物園)
◎ 丸くなった蒴をつけた4月のコツクシサワゴケはこちらに載せています。
2018-10-30
2018-10-29
2018-10-28
ヌルデミミフシとヌルデシロアブラムシ
ヌルデ Rhus javanica の葉が緑のうちは目立たなかったヌルデの虫えい(ちゅうえい=虫こぶ)が目立つ季節になってきました。 この虫えいにはヌルデミミフシという名前が付けられていますが、生薬としては五倍子(ごばいし)と呼ばれています。
この虫えいはヌルデシロアブラムシ Schlechtendalia chinensis が寄生することにより作られます。 ヌルデは寄生されると、防御のためにタンニンを作ります。 我々人間は、タンニンが豊富に含まれているこの虫えいを、皮なめしに用いたり、黒色染料の原料としてきました。 明治時代以前の既婚女性などの化粧法であったお歯黒も、鉄漿水(かねみず)と呼ばれる酢酸に鉄を溶かした溶液と五倍子の粉を交互に塗ることで、鉄イオンがタンニンと結合して黒変することを利用したものです。
ヌルデミミフシの形成は、春に1匹のヌルデシロアブラムシが口からヌルデの葉に“虫こぶ形成物質”を注入することから始まります。 この個体は多くの個体の元となるところから、幹母(かんぼ)と呼ばれます。 この物質を注入されたヌルデの葉の組織は幹母を包み込むように隆起します。 葉の組織に閉じ込められた幹母は“家つき食事つき”の生活を保証され、無性生殖でどんどん仲間を増やします。 この頃のヌルデシロアブラムシは無翅型ですが、秋になりヌルデの葉が落葉する頃になると・・・
上は10月27日に堺自然ふれあいの森でヌルデミミフシを切って中を撮ったものですが、ワックスでまぶされた有翅型の個体がひしめきあっていました。
自然の状態では、これらの有翅型のヌルデシロアブラムシは虫えいの一部に開いた穴から飛び立ち、冬の間はチョウチンゴケの仲間に寄生して暮らします。
チョウチンゴケにたどりついた有翅型は無性生殖で無翅型を産み、これが越冬します。 越冬したヌルデシロアブラムシは翌春に有翅型となって(注1)ヌルデに移り、無性生殖でメスとオスを産み、この雌雄が有性生殖で産んだ卵が孵化したものが幹母となります。
ところで、ヌルデシロアブラムシは、なぜこんなめんどうな暮らす場所の変更をするのでしょうか。 落葉樹のヌルデには冬季に寄生はできないでしょうが、年中緑であるチョウチンゴケで年間を通して暮らすことはできないのでしょうか。
最近、コケ植物は退行進化的に小さくなることで寄生を防いでいるのではないかという考えも出てきました(注2)。 ヌルデシロアブラムシは口吻を植物に突き刺して吸汁するのですが、チョウチンゴケの葉は1層の細胞でできていて、口吻を突き刺そうとしても突き抜けてしまうのかもしれません。 また、茎に口吻を突き刺しても、維管束の無いチョウチンゴケからは効率よく吸汁できないでしょう。 ヌルデシロアブラムシは、気温が低く活動が低下する冬季に限り、どうにか生きていけるギリギリの食料を得る場所として、チョウチンゴケを選んでいるのかもしれません。
(注1) その可能性の高い有翅虫の様子をこちらに載せています。
(注2) こちらではそのことをもう少し詳しく書いています。
2018-10-27
卵嚢を守るオオヒメグモ
写真は卵嚢を守るオオヒメグモ Parasteatoda tepidariorum のメスです。 名前にオオ(=大)とついていますが、小さな種の多いヒメグモ科のなかでは大型ということで、メスの体長は5~8mm程度です。 成熟したメスは、背甲は濃褐色、腹部はほぼ球形で、その背面は黄褐色の地色に個体によって様々な模様が見られます。
上の写真でも卵嚢が2つありますが、メスは夏を中心に年に数回産卵します。
人家で普通に見られるクモで、衛生害虫を捕らえてくれる半面、網は不規則網ですから、すす払いなど清掃の対象となる、いわゆる“汚い網”です。
(2018.10.27. 堺自然ふれあいの森)
2018-10-26
エゾミズゼニゴケ
これも北八ヶ岳産をコケサロンでいただいたもので、エゾミズゼニゴケ Pellia neesiana です。
上の写真の中央の膨れた部分は、若い胞子体を包み込んでいる包膜でしょう。 この膨れた部分の断面を作ると・・・
赤い糸くずが入ってしまいましたが、包膜の中にはカリプトラで守られた若い胞子体がありました。
上の写真の中肋周辺にたくさん見られる小さな盛り上がりは雄器だと思うのですが、エゾミズゼニゴケは雌雄異株です。 雌株と雄株が混生しているのだと思うのですが・・・
下はこの雄器らしきものの断面ですが・・・
雄器らしきものの断面をつくると、中は空洞でした。 胞子体ができていますから、受精は過去のもので、空洞でも不思議は無いのですが・・・
上は葉状体の断面です。 仮根が切断面にくっついてしまいましたが、写真の中央付近に細胞壁の厚い細胞が集まっています。 これが肥厚帯と呼ばれているものだと思います。 肥厚帯はホソバミズゼニゴケには見られません。
下は上と同じ断面ですが、ピントを少しずらし、明るさを下げて撮っています。
上の写真の赤い楕円で囲んだ所に2細胞性の粘液毛が見られます。 粘液毛はホソバミズゼニゴケでは腹面にのみ存在しますが、エゾミズゼニゴケでは腹面にも背面にも存在します。
◎ こちらには本種の成熟した胞子体で、カリプトラや胞子・弾糸などの様子を載せています。 また、こちらにはこれから造精器が作られると思われる時期の雄株の様子を載せています。
2018-10-25
ヨシナガムチゴケ
写真はヨシナガムチゴケ Bazzania yoshinagana です。 北八ヶ岳で採集したものをコケサロンでいただきました。 同じ北八ヶ岳で採集したものをこちらに載せていますが、その時はあまり詳しい観察を行っておらず、再度載せることにしました。
ちなみに、種小名にもなっている「ヨシナガ」は、明治時代に日本におけるコケ類研究の端緒を開いた吉永虎馬の名に由来しています。
乾くと葉は腹側へ垂れるように曲がります。
上は腹面から撮っています。 多くの葉の先には3歯があります。 複葉は幅が茎の幅の 1.3倍程度で、葉と腹葉は基部で合着しています。 上の写真で、腹葉の縁が色濃く見えるのは・・・
上は腹葉を拡大して撮っています。 腹葉の縁は著しく外曲しているために、縁が重なって見える場合は色濃く見えます。
上の2枚の写真は腹葉で、周辺特に先端部には鋸歯があります。 茎についた状態では縁が外曲して巻き込んでいるため、この鋸歯はほとんど見えません。 腹葉全体がほぼ同色で、ムチゴケやコムチゴケなどのように、多くの葉緑体を持たない細胞で構成されている様子はありません。
上は腹葉の細胞です。 比較のために葉の葉身細胞の様子を下に載せておきます。
2018-10-23
トサカゴケ
トサカゴケ Chiloscyphus profundus とヒメトサカゴケ C. minor はとてもよく似ています。 平凡社の図鑑では、前者は無性芽をつけず雌雄同株で、後者は無性芽をつけて雌雄異株であることで区別できるとなっています。 また出現頻度については、前者は「ふつう」に、後者は「もっともふつう」に見られることになっています。
上の写真のコケは、生殖器官は見あたらず、雌雄同株か雌雄異株かは不明ですが、無性芽をつけていないので、トサカゴケということになります。
無性芽の有無だけでは心配なので、『伊勢神宮宮域産苔類図鑑』(服部,1964)の両者の記載を比較すると、前者は後者より大形で、葉を含めた茎の幅は前者が 2.5mm、後者は 1.5mmということです。 写真のコケで測定してみると、1.5mmでした。 生長の悪いトサカゴケなのか、ヒメトサカゴケも必ず無性芽をつけているとは限らないのか、ますます分からなくなりました。
しかし、伊勢図鑑を詳細に読み直すと、微妙な記載の違いがありました。 腹葉の幅は、前者が茎の1~1.5倍であるのに対し、後者は茎の1~1.3倍となっています。 また葉身細胞の図を見ると、トリゴンは前者の方が小さそうです。
このこれらのことを念頭に、このコケを調べていくと・・・
育っていたのは上のような切り株の上でした。 1枚目の写真は上の写真の中央上の黄色い四角で囲った部分です。 十分育っていない群落のようです。
なお、このコケを指で擦ってにおいを嗅ぐと、ヒメトサカゴケのにおいがしましたが、トサカゴケでも同様のにおいがするのか否か、調べたのですが、これに関する記載は見つけられませんでした。
上は腹葉です。 前に載せたヒメトサカゴケ(こちらやこちら)に比較して、側歯が発達していて、茎の径の 1.5倍はありそうです。
上は葉身細胞です。 これも前に載せたヒメトサカゴケよりトリゴンは小さいようです。
以上の結果から、タイトルは
(2018.10.3. 金剛山)
-------(以下、10.25.追記)------------------------------------------------
下は上のすぐ近くの朽木で撮ったコケで、上と同種でしょう。
トサカゴケは朽木や倒木上でよく見られ、ヒメトサカゴケは樹幹でよく見られるという話もお聞きしました。
◎ こちらではトサカゴケの胞子体やその関連機関を中心に載せています。
2018-10-22
ヤノネグサ
ヤノネグサ Persicaria nipponensis は水分の多い所に生えるタデ科の1年草です。 堺自然ふれあいの森では水が入ったり干上がったりする沼地に生えていました。
和名は葉の形から「矢の根」つまり鏃(やじり)に由来するようです。
上は10月初旬の撮影です。 咲いている花の花弁に見えるのは、じつはガク片です。 そして、その周辺にあるのは、ほっそりしたものはツボミですが、少しふっくらしたものは中に果実が入っています。
10月も下旬になると、ヤノネグサでも上の写真のように紅葉した葉が見られるようになります。 そしてその頃の花序(果序)を見ると・・・
一見2枚目の写真とあまり違わないように見えますが、上の写真ではあちこちガク片が齧られていて、その中に見えるのは褐色の果実です。
イヌタデ属のガク片は花後も残り、上の写真のように内部の果実を保護します。
2018-10-20
ネズミノオゴケ
写真はネズミノオゴケ Myuroclada maximowiczii です。 山道のコンクリートでできた擁壁の表面で育っていました。
枝は基物の表面を這う茎から出ています。 枝は葉が密に覆瓦状について円柱状です。 鼠の尾に似ているのは、この枝です。
葉はほぼ円形で、椀状に凹んでいるため、カバーグラスをかけると、少し破れてしまいました(上の写真)。
葉身細胞は菱形~長菱形です(上の写真)。
(2018.10.3. 金剛山)
上のケースでは蒴は見られなかったので、蒴をつけたネズミノオゴケも下に載せておきます。 2018.5.31.に奥入瀬渓流で撮った写真です。
◎ ネズミノオゴケはこちらにも載せています。
2018-10-19
ヤノネゴケ
ヤノネゴケ Bryhnia noesica は変異の大きいコケですが、写真のものもヤノネゴケのようです。 茎は不規則に分枝しています。 枝の幅は、葉を含めて1mm前後です。
枝が一方に寄っているのは、育っていた場所(下の写真)で垂れ下がっていたためでしょう。
上の写真は左下隅に流れが見えます。 ヤノネゴケはコンクリート製の溝の壁いちめんを覆っていました。
上は枝葉です。 中肋はかなり上まで伸びていて、全周に細かい歯があります。 翼細胞は茎葉ほどはっきりしていません。
◎ 茎葉はこちらに載せています。
葉身細胞は細長い六角形~線形で、背面の上端に小さな突起があります。
上は蓋のついている蒴と帽です。 蒴柄は基部まで全面にパピラがあります。
(2018.10.3. 金剛山)