2019-06-29
ヤマトケビラゴケ
樹幹に、花被をたくさんつけたヤマトケビラゴケ Radula japonica がありました。
花被に保護されている胞子体を反射光で撮ろうとしたのですが、花被をピンセットで破るには小さすぎました。しかたなく透過光で(=顕微鏡で)撮ってみたのですが、上のように、胞子体はシルエットしか分かりません。 しかしヤマトケビラゴケの花被はヘラ形であることは分かります。
◎ 上のような胞子体が生長し、胞子を飛散させて蒴が裂けた本種の様子をこちらに載せいてます。
背片は重なっていて、全縁で円形、腹片は方形で、背片のほぼ 1/2の長さです。 キールは直線状です。
腹片の基部は茎をわずかに覆っています。 ケビラゴケ科には腹葉はありません。
上は葉身細胞で、ケビラゴケ科の多くは各細胞に大きな1個の油体を持っています。 トリゴンはほとんどありません。
(2019.6.12. 神戸市北区 道場)
◎ ヤマトケビラゴケはこちらにも載せています。
2019-06-27
カモジゴケ
木の根元に、フトリュウビゴケ、ヒロハツヤゴケなと、いろいろなコケが混ざった群落があり、その中にカモジゴケ Dicranum scoparium もありました。
カモジゴケは前にも載せていますが(こちら)、あまり細かい所をチェックしておらず、再度載せておきます。
乾いた状態では、葉は茎の片側に偏ります。
葉は狭披針形で、葉身上部の縁には歯があります。
上は葉の上部です。 中肋は葉先に届いています。 葉先が中肋のみになることはありません。 上の写真でも葉先は2つ折れになりかけていますが・・・
上は別の葉で、2つ折れになっていて、左上が葉縁、右下が中肋です。中肋にも歯があり、よく見ると、中肋の歯は数列になっているようです。
翼細胞は褐色で、少し大形です。
葉身細胞の細胞壁にはくびれが見られます(上の写真)。
(2019.5.26. 京都府 芦生研究林)
2019-06-26
ミヤマサナダゴケ
土の斜面に複数のコケが混生していましたが、長い若い蒴が目立つコケがありました。 蒴の付いているコケだけを選り分けると、下のようなコケでした。
乾いた状態では、葉は縮れています(上の写真)。
蒴の長さは頸部から帽のツノの先まで入れると5mm近くにもなります。
葉は湿らせると上のようになります。
中肋は2本で、長い方は葉の中ほどに達しています。 上の写真でも葉身細胞が大きいことは分かりますが・・・
葉身細胞は長い六角形~狭菱形で、長さは 60~100μm、幅も 20μm前後あります(上の写真)。
以上の観察結果から、このコケはミヤマサナダゴケ Plagiothecium nemorale のようです。
(2019.5.26. 京都府 芦生研究林)
◎ ミヤマサナダゴケはこちらにも載せています。
2019-06-25
イトコミミゴケ
岩に垂れ下がる小さなコケ、イトコミミゴケ Lejeunea parva のようです。 枝分かれは多くありません。
背片は三角形に近い形で鈍頭、ほとんど重なっていません。 平面的な写真になってしまいましたが、湿った状態では背片が背方に偏向していることは葉の向きで分かります。
腹片は背片の1/2ほどの長さです。 上の写真では腹葉は暗い部分と重なってほとんど分からなくなっています。
腹葉は長さも幅も茎径の2倍ほどで、2/5ほどV字形に2裂しています。 上の写真では腹片の歯牙の様子はよく分からないので、そのあたりを拡大して撮影すると・・・
上は軽く深度合成して歯牙周辺をはっきりさせたものです。(深度合成で背後まではっきりさせると、よけいに分からなくなります。) しかしこれでもまだ分かりにくいので、一部細胞のアウトラインを加筆したのが下です。
歯牙は1細胞からなっています。 長楕円形の歯牙細胞に続く赤い線で示した細胞も歯牙を形成している細胞かとも思ったのですが、これは画面奥に続く腹片の縁を形成する細胞の1つのようです。
歯牙細胞から始まりキール側に向かう腹片の縁は「C」の字形のカーブを描いています。 また、キール先端部の葉の細胞は大きく膨らんでいます。
第2歯牙もあるはずですが、上記の第1歯牙の後ろに位置することになり、このような方向からの撮影では見えません。
上は葉身細胞です。 油体は各細胞に4~10個、楕円形~紡錘形で、微粒の集合です。
(2019.6.12. 神戸市北区 道場)
◎ イトコミミゴケはこちらにも載せています。
2019-06-24
ウキウキゴケ
従来ウキゴケと呼ばれてきたコケは、複数の種が混同されていたようで、このうち、上の写真の Riccia fluitans の和名はウキウキゴケとされるようになってきました。 清流によく育っているこのコケを見ると気分がウキウキするかもしれませんが、そのことは和名とは関係なく(^_-) 水面近くの水中に浮いて育つウキゴケなので「浮きウキゴケ」です。
上のウキウキゴケは水深のとても浅い所で育っていて、一部は水中に育ち、一部は空気中に出ています。 水中にある茎葉体の先端部からは光合成の結果できた泡がたくさんくっついています。
葉状体の断面を作ってみました(上の写真)。 葉状体内部にはたくさんの気室が見られます。 これが浮くためのしくみでしょう。
ウキウキゴケは二叉状に分岐しながら生長しますが、古い葉状体で、通常の生長方向とは 90°異なる方向に枝を伸ばしているように見える所がありました(上の写真)。
(2019.6.12. 神戸市北区 道場)
◎ ウキウキゴケはこちらにも載せています。
2019-06-22
コハイヒモゴケ
写真はコハイヒモゴケ Meteorium buchananii ssp. helminthocladulum です。 岩上に育っていました。
上は乾いた状態で、茎の幅は葉を含めて1mm前後あります。 葉は覆瓦状に茎に密着していて、基部まで見えていませんが、葉先の細く伸びた部分を含めて、1mmはありそうです。
葉は舌形で、葉先は急に細くなっています。 葉面は深く凹んでいますが、縦じわはほとんどありません。
葉身細胞は細長い菱形で厚壁、中央に1個のパピラがあります(上の写真)。
同属でよく似たハイヒモゴケと比較してみました(上の写真)。 上は左がハイヒモゴケ、右がコハイヒモゴケです。 和名のとおり、後者の方が茎の幅がほんの少し狭く、葉は少し小さく、葉先の細く伸び出している部分も後者の方が短いようです。 葉の縦じわは前者の方がはっきりしています。 なお、前者は2016年10月の標本のため、緑色の色素が少し少なくなっています。
コハイヒモゴケとハイヒモゴケの翼部を比較してみました。 上がコハイヒモゴケで、下の写真がハイヒモゴケです。 倍率は同じにしています。
コハイヒモゴケの翼部の細胞は小さい長楕円形、ハイヒモゴケの翼部の細胞は線形で、平凡社の図鑑に書かれていることが確認できました。 全体的にもハイヒモゴケの細胞の方が少し大形のようです。
コハイヒモゴケ:2019.6.12. 神戸市北区 道場
ハイヒモゴケ :2016.10.12. 貴船(詳細はこちら)
2019-06-21
2019-06-20
コウヤケビラゴケ
写真はコウヤケビラゴケ Radula kojana のようです。 湿った崖に育っていました。 背片は長さ 0.6~0.7mmほどで、ゆるく重なり、全縁で鋭く尖っています。
上は腹面から撮っています。 キールが弓型に張り出しています。 無性芽は見られませんでした。平凡社の図鑑には、「無性芽は葉縁に豊富。」と書かれていますが、生育環境や時期的なものも関係しているのかもしれません。
腹片の基部は茎を覆っていません。
上は葉身細胞です。 多くのケビラゴケ属の油体は各細胞に1つですが、本種の油体は各細胞に2~3個見られます。
(2019.6.12. 神戸市北区 道場)
◎ コウヤケビラゴケはこちらにも載せています。
2019-06-19
交尾中のアオマダラタマムシ
写真はアオマダラタマムシ Nipponobuprestis amabilis です。 交尾中のためか路上で動かず、楽に撮影できました。
アオマダラタマムシの幼虫は、衰弱した広葉樹の材を食べ、2年かけて育ちます。 荒れた林が増えたために増加しているような気もします。
(2019.6.12. 神戸市北区 道場)
2019-06-18
ヒメミノゴケ
オーバーハングぎみの岩に張り付いていたヒメミノゴケ Macromitrium gymnostomum です。
乾くと上のように葉が巻縮します。
ミノゴケと比較してみました。 上の写真は上がミノゴケ(2018.8.29.堺自然ふれあいの森にて採集)、下が本種です。 長く這った茎から出た短い枝に多くの葉がついていることも、その多くの葉が乾くと巻縮して球状に集まることもよく似ています。
乾いた状態では、上の写真のように、本種の方が少し小さく見えます。 しかし、下の写真のように湿らせると・・・(上の写真と下の写真は同じ倍率です。)
上は湿った状態での比較です。 ミノゴケの枝葉は舌形で、本種の枝葉は狭披針形と、葉形は異なります。 しかし、ミノゴケの葉先が腹側に曲がっていることもありますが、見た目の葉の長さは、ほとんど変わりません。
平凡社の図鑑では、枝葉の長さは 1.3~2.4mmとなっていて、上の写真の枝葉もその範囲内です。
上は枝葉です。 中肋は葉先に達しています。 葉身細胞は丸みのある方形~六角形で、多くのパピラがあって暗く、葉の基部の細胞は線形で、パピラは見られません。
ヒメミノゴケは無性芽をつけます。 上は葉と並んだ無性芽です、無性芽を形成しているのは、葉身細胞よりかなり大きな細胞です。 写真の無性芽は短い方で、これの3倍ほどの長さの無性芽がたくさん見られました。
この無性芽は葉身上に形成されます。 無性芽の始原細胞は葉身細胞内に内生的に発生し、それが葉身細胞外に伸長して糸状の多細胞性無無性芽となります(伊村・畦,1986)。 このような内生無性芽は、蘚苔類では非常に稀です。
上は 伊村・畦 からお借りした図で、葉の断面から無性芽が生じてくる様子を示しています。 私もこのような所を写真に撮ってやろうと、採集してきたものをいろいろ探してみました。 しかし、時期的なものか、無性芽はとてもたくさん落ちているのですが、葉上に作られている所はとても少なく、下のような写真を撮るのがやっとで、そこを狙って葉の切片をつくることはできませんでした。
(2019.6.12. 神戸市北区 道場)
【参考文献】
伊村智・畦浩二:ヒメミノゴケ(タチヒダゴケ科・蘚類)の内生無性芽について.植物研究雑誌61(2),1986.
◎ ヒメミノゴケの蒴の様子はこちらに載せています。