2023-08-30

シダレゴケ

 


 写真はシダレゴケ Chrysocladium retrorsum (別名ソリシダレゴケ)でしょう。 岸壁から垂れ下がっているものも、岩の割れ目に生える木の枝から垂れ下がっているものもありました。

 上は枝を1mm方眼紙に置いて撮っています。 枝は不規則な羽状に分枝し、葉を丸くつけて長いひも状に伸びています。 若い葉は黄色みが強いのですが、次第に褐色になっていきます。

 葉は長さ2~3mmで、葉先の多くは毛状に伸びています。

 葉の基部は耳状になって茎を抱いていますので、プレパラートにすると、よく上の写真のように折りたたまれてしまいます。 葉縁全周に歯があり、細い中肋が1本あります。

 葉身細胞は長い菱形で、中央に1個のパピラがあります。

(2023.7.14. 神戸市北区道場町)

◎ シダレゴケはこちらこちらにも載せています。

2023-08-29

9月16日にコケ観察会

9月16日(土)に、コケ観察会を実施します。
 この観察会は、4月からNHK文化センター京都教室で行っている講座「ミクロで楽しむコケの不思議」(全6回)の最終回になりますが、教室を離れての現地での観察会ですので、今回のみの参加も受け付けることにしました(NHK文化センター京都教室からの案内へ)。 場所は京都府立植物園で行います。
 コケは図鑑で名前を調べようとしても、なかなか分かりにくいもので、やはり実際のコケを見るのがコケを知る近道だと思います。
 なお、NHK文化センターは会員制のカルチャースクールですが、今回は【 こちら 】の10月からの講座を体験してみることを兼ねますので、参加費は会員外の方も会員と同額の 3,300円です。

◎ 参加申し込みや問い合わせは、NHK文化センター京都教室(Tel. 075-254-8701)へお願いします。

2023-08-28

ヒナノシャクジョウ

 

 堺市南区城山台にヒナノシャクジョウ Burmannia championii があると聞き、お願いして案内していただきました。 分布は関東以西から四国・九州、屋久島と沖縄本島です。 花は7月下旬頃がピークだったようで、ほとんど終わっていましたが、まだたくさん残っていました(2023.8.28.撮影)。
 写真から分かるように、本種は光合成を止めた植物で、緑色をした葉は無く、鱗片状の葉が少しあるだけです。 栄養はアーバスキュラー菌根菌に寄生して得ている菌従属栄養植物です。 アーバスキュラー菌根菌は樹木と共生していて、リンや窒素を土壌から吸収して樹木に渡し、かわりに樹木の光合成産物を分けてもらっていますから、ヒナノシャクジョウは樹木が光合成で作った有機物を菌経由で得ていることになります。

 花は花被片が基部で融合し、筒状になっています。 ヒナノシャクジョウ科は単子葉植物で3数性ですので、筒状部も三稜があります。 筒の先端に3枚の小さな花弁とそれより大きな3枚のガク片があるのですが、上の写真では花が閉じていて、ほとんどガク片しか見えていません。 あちこち探したのですが、咲いている花を見つけることはできませんでした。

2023-08-25

昆虫の脚はなぜ6本か

 以下は Part1の 2012.7.25.に載せていたものを、一部書き換えてこちらに引っ越しさせた記事です。

 2012年7月23日のNHKラジオ第一放送の「夏休み子供科学電話相談」で、昆虫の脚はなぜ6本なのかという小学生の質問に対して、昆虫担当の先生は、昆虫の体は頭、胸、腹に分かれていて、脚は胸から生えているが、その胸が3つに分かれていて、そのそれぞれから1対の脚が生えているから、というような内容を答えられたということでした。
 私は直接ラジオを聞いたわけではなく、上の話はブログ友達のブログに書かれてあったことですので、誤解があるかもしれませんが、質問した小学生はこの答で満足したのでしょうか。 短い時間に明瞭に答えなくてはならないことは分かりますし、答の内容は間違っているとは言えませんが、下に書くように原因と結果を逆にしているように思います。 それに、小学生は6本生えている意義を聞きたかったのではないでしょうか。 私たちの足は2本、犬や猫の足は4本。 なのにどうして昆虫は6本なの? 足は多い方がいいの? 少ない方が便利なの? そんなことを聞きたかったのではないかと思います。 それに対する答が、脚のつく場所が6ヶ所だから、では、私なら不満です。 それなら、なぜ昆虫の胸は3つに分かれてなければならないのでしょうか。 もし、脚が8本の方がいいのなら、4つの節の胸にすればいいのです。

 節足動物はミミズのようなたくさんの節からなる生物から進化しました。 原始的な節足動物の各節はほぼ“平等”で、脚もほぼ全ての節についています。 それが進化の過程で各節の“分業”が進みました。
 昆虫はエビやカニなどの甲殻類から分かれて進化してきましたが、脚や翅などでの移動を担当する胸部は3節でなければならない必然性はなかったはずです。 胸部が3節だから脚が6本あるのではなく、脚は6本の方がいいから胸部は3節になったと考える方がいいのではないでしょうか。
 なお、昆虫の翅は4枚で、中胸と後胸に1対ずつついています。 もし脚が犬や猫のように4本の方がいいのなら、なにも胸部が3節だからといって、脚を6本にする必要は全くありません。 2本を退化させれば済むことです。 なお、これらの胸部と翅や脚の位置関係については、 Part1のこちらこちらなどに載せています。
 では、なぜ6本がいいのか。 その前に確認しておきたいのは、上にも書きましたが、節足動物の脚はたくさんあるものから、整理されて減少する方向に進化してきたということです。 Simple is Best ということでしょうか、カニは10本にまで減り、陸に上がって節足動物の中で最も進化していると考えられている昆虫では6本にまでなり、その状態がいろいろと都合がいいので、そこで減少を止めたと考えられます。
 では、なぜ6本がいいのか。 私は「6」は「3+3」としても「2+4」としても使えるからだ、と思っています。
 その説明に入る前に、これからの話をしやすくするために、脚に下のような番号をつけることにします。 ●が頭で、①~⑥が脚です。 ①と②が前脚、③と④が中脚、⑤と⑥が後脚です。

      ②  ④  ⑥
   ●
      ①  ③  ⑤

 まずは「3+3」から。 三輪車を想像すると分かりやすいと思いますが、地面上の物体が安定して存在するためには、三角形を構成する最低3つの支点が必要です。 上の図の脚を、①④⑤のグループと②③⑥のグループに分けると、どちらか一方のグループの脚を上げたままでも体は安定です。
 下は走って逃げているオサムシの一種を撮ったものです(だからピントは合っていません)が、脚に注目すると、②より①が、③より④が、⑥より⑤が前に来ています。 つまり写真の状態は①④⑤グループの脚を前に持ってきた状態と言えるでしょう。 

 いつも体を安定な状態に保っておけることは、忍び足でゆ~っくりと進む時などにも、とても有効でしょうね。 なお、上の話は、『ふしぎの博物誌』(河合雅雄編:中公新書1680)をヒントにしています。

 次に「2+4」についてです。 昆虫の体は左右ほぼ対称です。 移動する時の脚は左右非対称に動かしますが、左右にしか無い脚で対称性を守ったまま、安定した静止姿勢を保つためには脚は最低4本必要です。 4本脚の机を想像してもらうといいかもしれません。 では、6本の脚の残った2本は? 餌を捕えたり顔を掃除したりなど、「手」として使えるのです。 例えばカマキリのようにあまり素早く走る必要の無い昆虫では、前脚の2本は、他の4本とは異なった形態になってしまっています。 また、静止している時には4本の脚しか使わない昆虫はたくさんいます。 このことに関しては、 Part1に次のような記事を載せてきました。
 タイワンウチワヤンマ(トンボの足は何本?)
 4本の足で止まる①(コシアキトンボ、チョウトンボ)
 4本の足で止まる②(ヒメアカタテハ、ナシイラガ)

 最後に、6本の脚がそんなにいいのなら、なぜ哺乳類の足は4本なのかも、少し考察しておきます。 もちろん私たち人間も4本です。
 昆虫の脚と哺乳類の足は出発点が違います。 上に書いたように、節足動物はたくさんの脚を持つものから減少させる方向に進化してきました。 ところが脊椎動物のスタートは、魚類のように足が0からのスタートです。 陸に上がる時に、体を安定して支えるためにも移動のためにも足が必要になり、左右対になっている胸鰭と腹鰭を工夫して4本の足を作りました。 これ以上足にする“元”もありませんし、4本あればどうにかやっていける、ということなのでしょう。 なお、4本足のゆっくりした移動では、やはり体を支えるために3本の足を使いますので、足は1本ずつ動かすことになります。

 進化という過去の歴史を経て現在の生物があります。 歴史を見ないと現在を見誤ります。 虫の歴史も無視できません v(^_-)

 最初のラジオの質問、私なら次のように答えるかな?

Q こんちゅうの足は、なぜ6本なんですか?

A 足はね、3本あると体が安定するんだよ。 足の不自由なお年寄りがツエを使っているのを見たことがあるでしょ。 3本の足で体を支えると、残りの3本の足は進みたい方向などに動かせるよね。 このようにすると、いろんな動きをするのにとても便利なんだ。 それにね、カマキリのように、4本の足をふんばって体を支えて2本を手のように使うことだってできるんだよ。

2023-08-23

ツルチョウチンゴケ

 

 雨に濡れたツルチョウチンゴケ Orthomnion maximoviczii、直立茎の多くは雄器盤をつけています。

 葉は波打っています。 透明感があって美しい葉です。

 上は匍匐茎で、土についた茎の先から仮根が出ています。 葉の長さは5~6mmです。

 上は雄器盤の断面です。 造精器は精子を出してしまった後でした。

 上は雄器盤から離れた造精器と側糸です。

(2023.7.16. 京都市北区雲ケ畑)

こちらには様々な時期の胞子体の様子などを、こちらには葉の横断面などを載せています。

2023-08-21

イヌノハゴケではなく・・・

 写真は8月20日に大阪市立自然史博物館で行われた行事「標本の名前を調べよう」でKさんに見せていただいたコケで、当初はイヌノハゴケ Cynodontium polycarpum またはその近縁種だろうとして、このブログに載せていました。 ところが、Kさんが遺伝子をしらべてもらったところ、なんと、タマゴケ Bartramia pomiformis だったことが分かりました。 両種は分類学的にはかなり離れた位置にありますが、下に書くように配偶体だけを比較すると、とてもよく似ています。
 当初からイヌノハゴケと言い切れずに、その近縁種かもしれないとしていたのは、1つには蒴が無いのでよく分からない点があること、もうひとつは、平凡社では高地となっていますが、採集地が奈良県宇陀市の標高250m付近であることでした。

 上は乾いた状態で、葉は緩くねじれています。

 葉は線状披針形です。

 上は葉先です。 当初、葉縁には細かい歯があり、葉身細胞は矩形、中肋は葉先に達しているとしていました。 タマゴケであれば葉縁の歯は双歯ですし、中肋は葉先から少し飛び出しているのですが、その違いはわずかで、確認できていませんでした。 また、葉身細胞や以下の特徴は、とてもよく似ています。

 翼部の細胞は分化していません。

 葉身細胞には1個の三角形のパピラがあります。 これは上のように葉が折れ曲がって細胞を横から見ることができる所で、はっきりと確認できます。

 上は葉の横断面です。 葉縁は2細胞層です。 ガイドセルがあり、その腹側にステライドがあります。

2023-08-17

エゾヤノネゴケ?

 

 上は2023.7.16.に京都市北区の雲ケ畑で撮った写真です。 今日はこのコケを調べました。

 茎葉と枝葉の大きさが、かなり異なります。 シノブゴケ科のようにも見えますが、毛葉はありません。 枝は次第に細くなっています。 茎葉は約2mmの長さです。

 上は茎葉です。 ①葉の基部は広く茎に下延しています。 ヤノネゴケに似ているのですが、⑤翼細胞が明瞭な区画を作っていません。

 ②中肋背面の先端は歯で終っています(上の写真)。

 葉縁は全周にわたり細かい歯があります(上の写真)。

 ③葉身細胞の背面上端には小さな突起があります(上の写真)。

 上は枝葉です。

 上は茎の断面で、④中心束が分化しています。

 以上が観察結果ですが、①~④は Bryhnia(ヤノネゴケ属)の特徴ですが、⑤からヤノネゴケとするには疑問が残ります。
 平凡社のヤノネゴケ属の検索表にはエゾヤノネゴケという種が載せられています。 この種をNoguchi(1991)で調べると、翼部は明瞭ではなく、茎葉の長い中肋が葉頂付近まで伸びていることでヤノネゴケと区別できるが、同じ地点から採集された植物でも、中肋が葉の先端よりもずっと下で終わることがあると書かれています。
 エゾヤノネゴケである可能性もありそうですが、京都府のレッドデータブックには

「全国的に稀な種で、府内でもこれまでただ1ヶ所だけから知られている。この産地では何度も調査が行われているが、初発見以来報告はなく、その存続が憂慮される状態である。」

とあります(最初に書いたように、採集地は京都市北区です)。

 エゾヤノネゴケの学名は、平凡社では Bryhnia tokubuchii となっていますが、現在はアオギヌゴケ属に移され、Brachythecium noesicum となっています。 アオギヌゴケ科は似た種が多く、このように属も種小名も変わるなど、まだ落ち着いた状態とは言えません。 上記の報告が無いというのも、そのことと関係しているのかもしれません。

 こちらにもエゾヤノネゴケ(別名ムツヤノネゴケ)を載せていますが、いろいろ異なる特徴もあり、個体変異なのか別種なのか、悩ましいところです。

 

2023-08-16

ケビラゴケ科掲載種の検索表

 ケビラゴケ科の同定によく迷うことがあり、頭の整理のために、このブログに掲載しているケビラゴケ属( Radula )の検索表を作成してみました。 もちろんこのブログに掲載されていない種は検索表に載せていませんが、よく見られる種はだいたい入っていると思います。

1 背片は鋭尖。油体は各細胞に2~3個。 …… コウヤケビラゴケ R. kojana
1 背片は円頭。油体はふつう各細胞に1個。 …… 2

2 茎の皮層は髄層より厚壁。花被は短枝につく。 …… オオケビラゴケ R. perrottetii
2 茎の皮層は髄層の細胞と同じ。花被は茎に頂生。 …… 3

3 尾状枝を生じる。 …… チャケビラゴケ R. brunnea

3 尾状枝を生じない。 …… 4

4 腹片の長さは背片の4/5以上。 …… オオシタバケビラゴケ R. cavifolia

4 腹片の長さは背片の2/3以下。 …… 5

5 葉身細胞にトリゴンがある。キールは弓形に膨れる。 …… 6

5 葉身細胞のトリゴンはほとんど無い。キールは直線に近い。 …… 7

6 腹片の長さは幅の約4倍、先がしばしば突出。茎の先端がひも状になることがある。
   …… オカムラケビラゴケ R. okamurana

6 腹片の長さは幅の約2倍。茎の先端はひも状にならない。背片はしばしば早落。
  葉身細胞表面にベルカあり。 …… ヒメケビラゴケ R. oyamensis
 

7 背片の縁に無性芽がある。 …… クビレケビラゴケ R. constricta

7 無性芽は無い。 …… 8

8 雌雄同株で、花被の直下に雄苞葉がつく。背片の背縁基部にしばしば突起を持つ。
  低地の湿った岩上など。 …… ミヤコノケビラゴケ R. tokiensis

8 雌雄異株。 …… 9

9 植物体は黄緑色。茎は葉を含めて幅2mm以上。キールは茎から30~60°。
  紀伊半島、四国、九州の太平洋沿岸。 …… シゲリケビラゴケ R. javanica
9 植物体は青緑色。茎は葉を含め幅1.5mm以下。キールは茎から60~80°直線状(~弓状)。
   …… ヤマトケビラゴケ R. japonica

2023-08-15

ニブハタケナガゴケ


 写真はニブハタケナガゴケ Ectropothecium obtusulum(別名 キノクニイチイゴケ)だと思います。 兵庫県宝塚市の山際の溝と呼んでいいようなコンクリート三面張りの川の流水中にありました(2023年6月25日)。
 ところで、この和名はどういう意味なのでしょうか。 水中や湿地に育つコケですので、「ニブ(地名?)+畑+長いコケ」だとすると「畑」が納得できないなどと思っていたところ、矢作川研究所のHPにヒントとなるようなことが書かれていました。 そのヒントを元に私なりに考えると、この和名は「ニブハ(光沢が?にぶい葉)+タケナガ(人名)ゴケ」となりそうです。 しかし、蘚苔類の研究者らしいタケナガという人物を探し当てることはできませんでした。

 上は葉です。 下は上の葉の翼部の拡大です。

 平凡社の図鑑では、「翼部には大形で透明な薄壁の細胞が1個ある。」と書かれています。 たしかに葉身細胞より少し大きな細胞はあるのですが、特に目立つ大きな細胞が1個あるわけではありません。

 何枚かの葉の翼部を観察しましたが(上はそのうちの1枚)、やはり特に目立つ大きな細胞が1個あるわけではありません。

 葉を茎から外す時に大きな細胞が茎に残っている可能性も考え、茎についたままの葉の基部も観察してみました。 上は何枚も観察したうちの1枚で、いちばん平凡社の記載に近そうなものです。

 上は葉身細胞です。

◎ ニブハタケナガゴケはこちらこちらにも載せています。

2023-08-14

ホソヤスデゴケ

 上は岩上にあったホソヤスデゴケ Frullania densiloba を腹面から撮っています。 花被は3稜です(写真の中央上に写っています)。

 円筒形の腹片は先が少し茎側に傾いています。 腹葉は幅が茎より少し広く、ほぼ全縁で、先が1/3まで2裂しています。

 上は背面から撮っています。 背片の基部に3~4個の眼点細胞が列に並んでいます。 この眼点細胞は、腹面から見ると、腹片に隠され、ほとんど見えません。 なお、アオシマヤスデゴケは本種に似ていますが、眼点細胞は1~2列で8~16細胞長です。

 上はスチルス(柱状細胞)にピントを合わせて撮っています。

 葉(側葉)を切り離しました(上の写真)。 背片は卵形です。

 背片だけにすると、眼点細胞がはっきりします。

 上は葉身細胞です。

 上は腹葉です。

(2023.7.14. 神戸市北区道場町)

◎ ホソヤスデゴケはこちらにも載せています。