2019-11-30

ヒメカモジゴケ



 笠井氏に案内していただいた桜の古木に、ヒメカモジゴケ Dicranum flagellare がついていました。



 上の写真は乾きかけているところで、葉は乾くと巻縮します。 上部の葉の腋に、小さな葉をつけた長さ数mmの小枝状の無性芽をつけます。




 葉は狭披針形で、葉縁は葉先を除いて全縁、中肋は葉の基部で幅の1/5~1/7を占め、葉先近くに達しています。


 葉身細胞は不規則な方形~矩形です(上の写真)。

(2019.11.21. 滋賀県高島市)

2019-11-29

コゴメタチヒダゴケ


 写真はコゴメタチヒダゴケ Orthotrichum amabile です。 これも笠井氏に教えていただいた場所にあったコケで、花崗岩の上にありました。
 なお、上記学名の和名は、平凡社の図鑑などでは、コゴメタチヒダゴケの学名は O. erbescens となっていますが、Orthotrichum(タチヒダゴケ属)の分類は再編成されており(Suzuki,2014)、主に高木の枝に見られるこの学名の種にはアカタチヒダゴケの和名が与えられています。
 ちなみに、両者は酷似しているようですが、一番顕著な違いである蒴歯の長さ(今回は蒴が未熟で蒴歯の観察はできませんでした)以外にも、蒴の基部の様子、葉身細胞の細胞壁の厚さなどでも見分けられそうです(詳細は上記の Suzuki,2014 をご覧ください)。


 よく見られるタチヒダゴケよりずっと小さく、葉の長さは1.5~2mmほどです。


 葉の幅は下部から上部まで、ほとんど変わりません。 タチヒダゴケの葉より明るく見えます。


 上は葉身細胞です。

 以下は蒴に関してです。


 手前の葉を取り除き、蒴柄が見えるようにしてみました。 帽の先端には数本の毛があります。


 上は蒴の断面です。 蒴は基部で急に狭くなって蒴柄に移行しています。 なお、 O. erbescens (旧和名コゴメタチヒダゴケ、現アカタチヒダゴケ)は蒴基部からに徐々に蒴柄に移行します。
 蒴歯が見えるかと淡い期待を持っていましたが、やはり若すぎたようです。


 平凡社の図鑑のタチヒダゴケ属の検索表は、蒴壁の気孔が沈生か表生かから始まります。 上は蒴の表面を撮影したものですが、写真の左に穴のようなものが見えます。 下の写真は上と同じ場所ですが、顕微鏡の調節ねじを操作してこの穴の下にピントを持ってくると・・・


 凹んだ下にピントを合わせると、気孔が見えます。 つまり本種の気孔は沈生です。
 ちなみに、2枚の写真を、色の濃さを調節して重ね合わせると、下のようになります。


(2019.11.21. 滋賀県高島市)

2019-11-28

コアミメギボウシゴケ



 葉先に黒っぽい無性芽をつけたコアミメギボウシゴケ Grimmia brachydictyon です。 笠井氏に案内していただいた渓流の、花崗岩上の乾いた場所に、ゆるい群落を形成していました。
 蒴はつけていませんでしたが、胞子よりも無性芽による増殖がメインである印象を受けました。


 葉の長さは1~2mmほどで、茎の枝分かれはほとんどありません。



 上は無性芽をつけた葉と、深度合成した葉先部分です。


 無性芽をつけていない葉の葉先も拡大してみたのですが、どうやらついていた無性芽が取れた後のようです(上の写真)。 多くの葉がこのような状態でした。

 平凡社の図鑑では、本種の種別の解説は無く、検索表にあるのみですが、その検索表に「葉の中肋背面に翼がある。」とあります。 これを確認するために、数枚の葉で中肋付近の横断面を作ってみたのですが・・・




 上の3枚の写真の赤い円で囲った所など、膨れている所はあるのですが、「翼」というイメージではありません。


 上は Noguchi(1988)に載せられていた本種の図の一部を切り取って整列させたものです。 「中肋背面の翼」とは、この図のようなものを指しているのでしょう。 今回調べた標本は、何らかの理由で“翼の発達”が悪かったようです。


 上は茎の断面です。 中心束はありません。

(2019.11.21. 滋賀県高島市)

2019-11-27

コツノゴケ


 上はコツノゴケ Anthoceros macounii です。 笠井氏に案内していただいた田の畔の側面にたくさん生えていました。
 胞子体の長さの違いで印象はかなり異なりますが、ナガサキツノゴケなどと同じ属です。 上の写真には開裂している蒴も写っていますが、胞子体が短いからなのか、蒴壁が丈夫なのか、開裂してもナガサキツノゴケのようにはねじれないようです。


 上の写真、開裂した蒴壁に黒褐色の胞子がたくさんくっついています。


 上は胞子を求心面から撮っています。 本種の求心面には刺状の突起がたくさんありますが、Y字条溝に沿ってこの突起の無い部分があります。


 上は葉状体から吸汁中のアブラムシの一種です。 口吻が葉状体に刺さっています。

(2019.11.21. 滋賀県高島市)

2019-11-26

オースチンカンムリゴケ


 写真はオースチンカンムリゴケ Micromitrium austinii です。 笠井氏に案内していただき、撮影出来ました。
 平凡社の図鑑には、Micromitrium(カンムリゴケ属)は日本産は2種であるとして、カンムリゴケ M. tenerum と オオミカンムリゴケ M. megalosporum が載せられていますが、本種は 2006年に木口らが日本新産として報告しています(下記参考文献)。


 上の写真で、右の蒴は黒っぽくなっていますが、左の蒴は褐色で、配偶体の色も薄くなっています。 左は何らかの理由で十分生長できなかったのでしょうが、いずれにしても、胞子が成熟するにつれ、蒴は黒っぽくなっていきます。


 感覚的に大きさが分かるように、アゼゴケと一緒に写してみました。 写真右のオレンジ色のものは、“紅葉”しかけているイチョウウキゴケのようです。

 カンムリゴケ属の同定で、オオミカンムリゴケは蒴壁に気孔があり、胞子も大きいのですが、本種とカンムリゴケはどちらも蒴壁に気孔は無く、胞子の大きさもほぼ同じ 20~40μmですので、茎の長さと葉縁で区別します。
   茎の長さ    葉  縁
カンムリゴケ 0.5~4mm ほぼ全縁か上部に不規則な歯
オースチンカンムリゴケ 0.2mm以下 上部に細胞の突起による明瞭な歯


 上の写真で、写し込んだスケールは、全体で1mmですので、茎は0.2mm以下です。


 上が葉です。 そして・・・


 上が葉の上部の拡大です。 細胞の突起による歯が確認できます。


 上は胞子が蒴から出ている状態です。


 上は胞子で、大きさは20~40μmです。

(2019.11.21. 滋賀県高島市)

(参考文献)
木口 博史, 岩月 善之助, 鈴木 直(2006). Micromitrium austinii(オースチンカンムリゴケ,新称)は日本にも産する. 蘚苔類研究9(4).


2019-11-25

オオミカンムリゴケ



 写真は田にあったオオミカンムリゴケ Micromitrium megalosporum です。 配偶体はかなり弱ってしまっている時期のようです。 蒴は橙色ですが、これで胞子は成熟しているようです。 これも笠井氏の案内で撮影できたコケです。


 上の写真の右側のスケールは、端から端までで1mm、最小目盛が 10μmです。


 葉は中肋を欠いています(上の写真)。



 胞子を蒴の外に出し、蒴壁を観察すると、上半分にはあちこちに気孔が見られます(上の写真)。 上の写真で、ゴミのように細胞を隠しているのは、ピントの合っていない残っていた胞子です。


 上は胞子で、表面にはパピラがあり、同属のカンムリゴケやオースチンカンムリゴケに比較するとずっと大きな胞子です。 和名の「オオミ」は「大実」だと思いますが、この「実」は、種小名からして、目立つ色の蒴ではなく、この大きな胞子のことでしょう。

(2019.11.21. 滋賀県高島市)

2019-11-24

カゲロウゴケ


 上はカゲロウゴケ Ephemerum spinulosum です。 写真の右下には蒴をつけている植物体も数個写っています。
 笠井氏に案内していただいて滋賀県高島市の田で撮影できたコケですが、とても小さく、たとえ大きな群落があったとしても、探し方が分からない段階では、いくら探しても見過ごしてしまうことでしょう。


 蒴をつけた植物体を1つ取り出して撮ってみました(上の写真)。 写真の右上は蒴についていた帽です。 蒴柄はとても短く、蒴はほぼ球形です。


 上は帽が取れかかっている蒴をつけた植物体です。 いくら小さいコケといっても透過光で撮ると黒ツブレしている部分が多いのですが、全体の大きさを示すためにスケールをつけて載せておきます。


 上は1枚の葉で、縁には明瞭な小歯があります。 深度合成していますので、フラットな写真になり、中肋は判別できませんが・・・


 中肋は盛り上がった細胞の列として、葉の全長にあります。


 上は土を十分落としきれていない状態の植物体の基部近くで、右下には葉が写っていますが、写真の中央付近に写っているのは原糸体です。 カゲロウゴケは原糸体の生育が旺盛で、配偶体は土上を密に覆う原糸体のマットに基部が埋まるようにして作られます。
 今回観察した蒴も未熟でしたが、多くの場合、蒴は秋から冬にかけて見られ、短期間のうちに胞子を成熟させ、植物体は原糸体と共に消滅するようです。 属名と同じ語源と思われる英語の ephemeral は「つかの間の」という意味ですが、和名もはかない一生を終える昆虫のカゲロウにちなんでつけられています(下記参考文献)。


 上は原糸体です。 原糸体だけを見て種名を同定するのは無理ですが、枝分かれの様子や採集した場所から、たぶんカゲロウゴケの原糸体でしょう。

(2019.11.21. 滋賀県高島市)

(参考文献)
岩月善之助:Ephemerum(カゲロウゴケ属・新称)は日本にも産する.日本蘚苔類学会会報2(4),1978.