オオハリガネゴケ Bryum pseudotriquetrum が蒴をつけていました(雨の中、2023.6.23.に長野県茅野市の標高1540m付近で撮影)。 蒴は下垂し、頸部は比較的明瞭です。 蒴柄は赤褐色で、長さは 2.5cmでした。
配偶体の様子は下記のように何度も載せていますので、今回は上の写真のみにしておきます。
葉の横断面など → こちら
無性芽など → こちら
仮根の様子など → こちら
紅葉の様子など → こちら
2023-07-31
蒴をつけたオオハリガネゴケ
2023-07-30
オオフサゴケ
上の写真のコケ、持ち帰って調べてみるとオオフサゴケ Rhytidiadelphus triquetrus でしたが、今まで見たもの(注1)とは印象が異なりました。
今まで見たものと印象が異なったのは、雨に濡れたせいで、ルーペで見ると半透明の茎葉が茎を美しく覆っていたことや、これも水滴の重さのせいかもしれませんが、垂れ下がっていたこととなどが原因のようです。
乾くと以前見たことのある姿です。
上は茎葉です。
上は葉の背面上部で、多くの細胞の上端が刺状に突出しています。
(注1) オオフサゴケは下の日付の所にも載せています。
2019年9月19日 2021年9月21日 2022年12月3日
2023-07-29
オオキンシゴケ
上の写真(2023.6.24. 北八ヶ岳にて撮影)、苔類はコオイゴケですが、蘚類はオオキンシゴケ Ditrichum crispatissimum だと思います。 今回は後者の観察記録ですが、このコケ、樋口・古木(2018)の「八ヶ岳の蘚苔類チェックリスト」にはあるのですが、平凡社の検索表にあるのみで、どういうわけか、野口もありませんし、検索してもヒットしません。 JSTORを見ると、D. gracile (これも野口にも無し)のシノニムになっています。
茎の長さは7cmに達しています。
観察していると、葉がどんどん落ちてきます。 落ちた葉で栄養体生殖を行っているようです。
葉は卵形の鞘部から急に細くなり、長さは約7mm、葉身は大部分が中肋に占められています。
葉先は中肋が突出しており、平滑または上の写真のように小さな歯が見られる場合もあります。
上は葉の中部です。 葉は溝状になっていて、葉縁には矩形の細胞が並んでいます。
葉鞘部では中肋の左右に透明で大きな細胞が見られます。 この細胞は、多くの葉ではほんの少しなのですが、上の写真の葉では比較的大きな面積を占めていました。 この細胞を拡大すると・・・
上の写真(グレースケールに変換しています)のように細胞壁にくびれが見られました。
上の写真は葉の横断面で、下が葉鞘部の、上は葉の中部の断面です。
2023-07-28
ヤクシマクサリゴケ
写真はヤクシマクサリゴケ Lejeunea eifrigii だと思います。 先が鋭頭気味の背片があります。 背片の先が鋭尖~鋭頭であれば、本種である可能性が高くなるのですが・・・。
腹片の長さは背片の長さの1/3~1/4です。
腹葉は基部がわずかに耳状で、切れ込みはV字形、裂片の先は鋭尖にはなっていません(上の写真)。
葉身細胞はトリゴンが小さく、小さな油体がたくさんあります。
2023-07-26
イワセントウソウ
上は 5月12日に愛知県設楽町の標高800m付近で撮った写真です。 茎の先から花柄が放射状に出ています。 葉は裂片がとても細い腹葉です。
長い花柄の先に白く小さな花が1つ・・・と思ってよく見ると、2(~3)個の花がついている所もあります。 長い花柄の先から短い花柄が複数出ていますので、複散形花序です。
セリ科の植物だと思いますが、思い当たるものがありません。
花を拡大してみました(上の写真)。 花弁は5枚、オシベ5本、花の中心部から短い花柱が伸びています。
なかには上の写真のように、セリ科らしい果実をつけているものもありました。
図鑑で調べても、それらしい植物はみつかりません。 ところが・・・
6月23日に北八ヶ岳の湿った谷間で、上の写真のような葉をつけた本種に出会いました。 花が咲いた後に上の写真のような葉を広げる植物だったようです。
図鑑で調べると、イワセントウソウ Pternopetalum tanakae のようです。 分布は岩手県以西の温帯域です。
2023-07-24
コツボゴケ(雄株)
コツボゴケ Plagiomnium acutum (雄株)の雄器盤がまるで花のようです。 雄器盤のすぐ下から複数の匍匐茎を出しています。
茎の高さは約45mmでした。
枝が雄器盤のすぐ下に集中しているようにも見えるので、ユガミチョウチンゴケなどコバノチョウチンゴケ属ではないことの確認のため、葉も顕微鏡観察しました。 舷があり、歯は単生ですし、上には載せていませんが、葉形からもコバノチョウチンゴケに間違いなさそうです。
いずれにしても、匍匐茎の多少や出る位置は、ほんとうにいろいろですね。
上は雄器盤の断面です。
(2023.7.16. 京都市北区雲ケ畑)
◎ こちらにはまだ若い雄器盤をつけた雄株を、こちらには伸び始めた蒴をつけた雌株を、こちらには成熟間近の蒴をつけた雌株を載せています。
2023-07-23
ツツソロイゴケ
写真はツツソロイゴケ Liochlaena subulata でしょう。 花被がたくさんついています。 朽木の上で育っていました。
上の写真の中央やや右では、徒長した茎の先に無性芽がついています。
葉は斜めについて広く開出し、長さは約1.5mmでした。 ペリギニウムはあまり発達していないようです。 花被の先は切頭で、少し嘴状に尖っています。 大きな花被ですが、断面を作成して中を観察した結果は、まだ造卵器でした。
葉は卵状舌形です(上の写真)。
上は葉身細胞です。 トリゴンは大きく、油体は微粒の集合です。
(2023.7.16. 京都市北区雲ケ畑)
◎ ツツソロイゴケはこちらにも載せています。
2023-07-21
ムジナモ
牧野富太郎博士の人生をモデルとしたNHK連続テレビ小説「らんまん」、7月24日からの第17週は「ムジナモ」ですが、上がそのムジナモ Aldrovanda vesiculosa です。
本種はユーラシア大陸やアフリカに分布していましたが、生育できる条件が限られており、自生地の多くで水質汚濁や埋め立てなどで絶滅しています。
日本では江戸川河川敷の用水池で牧野富太郎が発見し、彼が描いた花の解剖図は、開花が見られなかったヨーロッパにおいて文献に引用され、牧野の名を世界に広める事になりました。 その後、日本各地で自生地が見つかりましたが、やはり魚やアメリカザリガニなどによる食害や水質汚染などで多くの自生地で絶滅しています。 幸いにも栽培に成功していた個体があり、種としての絶滅は免れており、各地で育てられています。
本種は浮遊性の水草で、根は発芽時に幼根がみられるだけです。 茎の各節に捕虫葉が輪生し、全体の姿は円柱形をしています。
牧野はその姿をタヌキの尻尾にたとえようとしましたが、既にタヌキモという植物があったため、タヌキの別名であるムジナから「ムジナモ」と名付けられたようです。
上は茎の1節を切り取り、輪生している捕虫葉の様子を撮った写真です。 捕虫葉は葉柄の先に二つ折れになった葉身がついています。 葉身は横向きに開いていますが、開いている向きは、どの葉も同じです。
上に書いたように葉身は二つ折れになっていて、左右の葉身で挟まれた部分はふっくらと膨れています。 その膨らみに虫が入ってきて感覚毛に触れると、素早く葉が閉じて虫を閉じ込め、消化します。 その膨らみを葉身部分の横断面を作って示そうとしたのですが、葉身部分は薄く(1層の細胞?)、牧野の図にあるような写真は撮れませんでした。 また、今回撮影したムジナモでは、殆どの葉が既に閉じていました。 撮影のために容器を入れ替えたり手で触ったりしたことが刺激になってしまったのでしょうか。
主脈の左右の葉身部分はそれぞれ主脈に近い部分(a)が葉縁に近い部分(b)より少し厚くなっていて、aとbの境は上の写真のようにはっきりしています。 写真の中央の葉では左右の葉身がほとんど重なっていますが、写真の下の葉では少しずれていて、①と③が手前の葉身、②と④が奥の葉身です。
閉じた葉の内側を観察しようとしたのですが、開いた葉の状態のプレパラートを作成することは困難で、しかたなく破った葉の断片を観察しました。
上は感覚毛で、左端の色の濃い部分は主脈です。 上にも粒の集合体のようなものが少し写っていますが・・・
上の粒の集合体のようなものが葉身の中央付近にたくさん見られました。 牧野のムジナモの図にも描かれているのですが、この図の説明が入手できていません。 消化酵素が入っているのでしょうか?
葉縁には内向きの刺状の歯が並んでいます(上の写真)。 捕らえた虫が逃げられないようにしているのでしょうか。
上の写真の中央左下には染色体のような形をしたものが写っています。 これも牧野の図に描かれているのですが、どのような働きをしているものなのか、分かりません。
上の写真の中央左は染色体のような形をしたものと同じでしょう。 右の楕円が二つつながったようなものもたくさんありました。 これも牧野の図にも描かれていますから、ゴミや微生物などではなく、ムジナモの葉に特有の何かでしょう。
2023-07-19
オオミハタケゴケ
写真はオオミハタケゴケ Riccia beyrichiana です。 葉状体の背面は側部が丘のように盛り上がり、溝は幅広く、縁にはたくさんの白い毛があります。
ハタケゴケの仲間は、胞子体が葉状体(配偶体)の組織に囲まれて成熟し、その後、組織が崩れて胞子が散らばります。 上の写真の赤い円で囲った孔は、胞子が散らばった後です。
上は胞子体を含む葉状体の横断面です。 胞子の多くは断面作成時に外れてしまいましたが、周囲の細胞に比較して、胞子がとても大きいことが分かります。 なお、ハタケゴケ亜属の葉状体には気室がありません。
上は胞子で、直径は古木2020(新・コケ百選.蘚苔類研究12(4))では約 75‒105μmとなっていて、上の写真でも 80μmほどあります。 本種の和名を漢字で書くと「大実畑苔」となり、この「大実」は大きな胞子に由来します。
(2023.7.14. 神戸市北区道場町)
◎ オオミハタケゴケはこちらにも載せています。
2023-07-17
2023-07-15
オニヤスデゴケ
写真はオニヤスデゴケ Frullania nepalensis です。 岩上にありました。 分布は、平凡社によると、埼玉県以西となっています。
上の写真のような背面からみただけでヤスデゴケの仲間を同定することは、私にとっては全く不可能ですが、M氏には見当がつくようです。
上は腹面からです。 上の写真からわかる本種の特徴としては、腹葉の基部が耳状になっていることや、腹片の先が著しく内曲していることなどが挙げられます。
上は背片です。 背縁基部には大きな付属物があります。 下は上と同じ倍率で撮った腹葉です。
上にも書きましたが、腹葉の基部は耳状になっています。
上は腹片ですが、背片を取り去った背面から撮っています。 腹片の先は著しく内曲し、嘴の先は丸くなっています。
上は葉身細胞です。
(2023.7.14. 神戸市北区道場町)