2022-09-30

ムラサキミゾゴケ


 上はフォーリーイチョウゴケとムラサキミゾゴケの混生だと思います。 今回はこのうちのムラサキミゾゴケ Marsupella sphacelata の観察結果です。

 平凡社のこの仲間の検索表では植物体の長さが5mm以上か以下かで分けられていますが、本種は写真のように5mm以上あります。

 濡れていて少しわかりにくくなっていますが、横から見ると、葉は基部では茎に圧着し、中部以上は反り返っています。


 葉にはキールはありません。 葉縁の外曲はわずかです。

 上は葉身細胞です。 細胞の大きさより明らかに小さいトリゴンがあります。

(2022.9.5. 北八ヶ岳)

2022-09-29

ナンジャモンジャゴケ

 写真はナンジャモンジャゴケ Takakia lepidozioides です。 前に見たときは岩の横についていて垂れ下がっていましたが(こちら)、今回は岩と土の境に育ついろいろなコケ(多くは枯れたコケ)に絡まるようにして上を向いて育っていました。
 葉は棒状で、多くは2本ずつ対になっています。


 茎の下部からは鞭枝が出ています。 茎の下部や鞭枝のあちこちに少し土やゴミなどがついていますが、その部分を拡大すると・・・


 茎の下部や鞭枝のあちこちには、粘液細胞が束生しています。

 上は葉の一部の拡大です。 葉緑体を持った細胞の周囲を透明な細胞が包み込んでいるように見えます。

(2022.9.5. 北八ヶ岳)

2022-09-28

ツブツブヘチマゴケ

 写真はツブツブヘチマゴケ Pohlia drummondii でしょう。 無性芽をつけています。
 秋山ら(下記参考文献)によれば、報告は少ないものの、日本の冷温帯に広く分布しているようです。

 葉腋の無性芽は必ず単生です。 無性芽の色は若い時は薄緑色で、次第に赤みを帯びはじめて・・・


 黒みを帯びた赤色の塊茎状の無性芽になります。

 上は無性芽を横から見ていて、左下が基部になります。 無性芽は実体双眼で撮るには小さすぎ、光学顕微鏡で撮るには厚すぎて真っ黒になってしまいますので、上のようなぼやけた写真が精一杯です。
 無性芽の鱗片状の葉(じつは葉原基)は無性芽の中央より基部側にもついています。 このことがマルミノヘチマゴケの無性芽との良い識別点になります。


 葉は披針形で長さ 1.5~2cm、基部は下延しています。 葉先が少し鎌状に曲がる傾向があるようです。

 葉先近くの葉縁には鋸歯があります。 中肋は葉先に終わっています。

 上は葉の基部です。 中下部の葉縁は外曲する傾向にあるようです。

 上は葉の中央の葉身細胞です。

(2022.9.4. 北八ヶ岳)

【参考文献】
秋山弘之・山口富美夫:無性芽を有するヘチマゴケ属(ハリガネゴケ科,蘚類)の研究1.日本産キヘチマゴケとその近縁種の再検討.蘚苔類研究9(9).2008

2022-09-27

ダチョウゴケ

 

 写真はダチョウゴケ Ptilium crista-castrensis です。 蒴もついていました。

 上の茎の長さは 13cm、大形のハイゴケ科です。 規則的に密に羽状分枝しています。
 上の写真にも蒴が写っています。 蒴柄の基部は茎に隠されて分かりませんが、蒴柄の長さは3cmほどでした。

 茎葉も枝葉も密につき、強く鎌形に曲がっています。 、葉は重なり、葉の基部は茎や枝に密着していますので、葉の形は取り出さないと分かりません。

 上は茎葉です。 深い縦じわがたくさんあります。 中肋は2本で短いか、不明瞭です。

 上は茎葉の翼部です。

 葉身細胞は厚壁で、長さは35~50μmです(上の写真)。

 上は蓋のある蒴です。 蓋には短い嘴があります。

 上は古い蒴です。 内蒴歯が見えていませんが、蒴歯は完全です。

(2022.9.5. 北八ヶ岳)

◎ ダチョウゴケはこちらにも載せています。

2022-09-26

カオジロヒゲナガゾウムシ

 

 少し腐りかけたコナラの伐採木にいた逃げ回る小さな虫、最初上の写真を撮った時は、何の仲間か見当がつきませんでした。 ところが横から撮ってみると・・・

 白っぽくて細長い顔が下に伸びています。

 カオジロヒゲナガゾウムシ Sphinctotropis laxus はヒゲナガゾウムシ科に分類されています。 成虫は6月~9月に見られます。 幼虫は朽木の中で育つので、産卵のためでしょうか、成虫は枯れ木に集まるようです。

★ 上は 2013.9.26.に「堺自然ふれあいの森」で撮影し、Part1の 2013.10.3.に載せていた記事を、少し追加訂正のうえ、こちらに持ってきました。

2022-09-25

フトスジニセオキナゴケ

 上は北海道の泉田さんが2022.9.19.に支笏湖近くの林道で撮影された写真で、倒木上に育っていたコケです。 調べた結果は、フトスジニセオキナゴケ Paraleucobryum enerve のようです。 分布の中心は高山帯で、北海道と本州に分布します。
 属名は Leucobryum(シラガゴケ属)に似ているところからで、平凡社の図鑑にも、“どことなくシラガゴケに似た白っぽい色をしている。”と書かれてあるのですが、上の写真を見ても実物を見ても、「どことなく」であり、そんなに白い色ではありません。

 比較的大型で、全形はシッポゴケ属に似ています。 葉は落ちやすく、長く伸びた茎では所々葉の無い所があります。 観察中もよく葉が落ちました。 下の写真でも、よく見ると茎から離れた葉が引っかかっています。

 茎には仮根が密生しています。 葉は長さ5~8mmで、葉先はあまり曲がっていません。 写真の左下を見ると葉からも仮根が出ているように見えますが、混んでいてよく分かりません。葉を1枚取り出して確認すると・・・

 葉の上部から仮根が出ています。

 上は葉の基部です。 本種の種小名 enerve は「無脈の」という意味で、たしかに中肋がはっきりしません。 これは中肋が無いのではなく、下の葉の断面で分かるように、葉身部の大部分が中肋です。 和名の「フトスジ」の「スジ」も中肋のことでしょう。 なお、同属で本種に似たナガバノシッポゴケは、もう少し中肋の幅が狭くなっています。

 上は葉の基部から1/5ほど葉先に進んだ所の葉の断面です。 葉はU字形で、背面は平滑です。 大部分が中肋ですが、中肋にはガイドセルもステライドもありません。 これが Paraleucobryum(ナガバノシッポゴケ属)の大きな特徴です。

 上は葉先です。 葉縁は葉全体をとおして全縁です。

2022-09-24

オゼヒシャクゴケ


  かわいい頭を並べたようなコケ、そのように見えるのは、コケ群落のなかで直立しているからでしょう。 ちなみに、周囲に写っている無性芽をつけているのはタカネイチョウゴケだと思います。(2022.9.5.北八ヶ岳にて撮影)
 観察結果から平凡社の検索表をたどるとオゼヒシャクゴケ Scapania curta になりました。 平凡社には検索表のみで種別の解説は無いのですが、尼川の図などとも大きな矛盾は無いと思いますし、樋口・古木2018の八ヶ岳の蘚苔類リストにも載っています。 花被があれば、もう少し自信を持って同定できるのですが・・・。

 横から見るとヒシャクゴケの仲間であることがよく分かります。 上部はピンクがかっていますが、全体的には褐色がかっています。


 腹片も背片も全縁です。 腹片は長楕円形で幅は長さの 3/4以下、円頭です。 背片の長さは幅の 1.5倍以下です。 2枚目の背片は一見長く見えますが、茎の組織がついているためです。

 上は腹片の葉身細胞です。 比較的整然と細胞が並んでいるようです。

 上は腹片の縁です。 平凡社の検索表には「腹片は縁がやや厚壁な細胞で縁取られる。」とあり、上の写真はそれに当てはまると思うのですが、どうでしょうか。

2022-09-23

カギハイゴケ

 上は北八ヶ岳の岩上で育っていたカギハイゴケ Sanionia uncinata です(2022.9.5.撮影)。 本種はハイゴケの仲間によく似ていますが、ハイゴケ科ではなく、葉先近くに達する中肋があり、ヤナギゴケ科に分類されていることは知っていました。 しかし、この中肋は縦じわに紛れてルーペではなかなか分かりませんでした。

 茎は不規則な羽状に分枝しています。 蒴はやや傾き、円筒形です。 上の蒴は蓋がついていますが、こちらでは蓋が取れた蒴や蒴糸の様子を観察しています。

 枝は葉を含めて径約1mm、茎葉は渦巻き状で長さは2~4mmです。

 上は茎葉です

 上は茎葉の基部です。 ここまで拡大すると、やっと細い中肋もはっきりしてきます。 翼細胞は分化し、大きく透明です。

 上は葉先です。

 上は茎の断面です。 少しわかりにくいのですが、中心束があります。

 茎の表皮細胞の外側は薄壁です。