2023-02-27

ナガサキツノゴケの葉状体

 ナガサキツノゴケ Anthoceros punctatus がありました。 “ツノ”を伸ばすのはこれからのようでしたが、これまで胞子体に関心が向かい、あまり葉状体を観察してこなかったので、今回は葉状体について観察しました。

 葉状体はロゼット状で波打ち、縁は不規則に切れ込んでいます。 葉状体はニワツノゴケほどには大きくならず、径はふつう1~1.5cmです。

 上は葉状体の一部を切り取り、腹面から撮っています。 濃い緑色の斑は共生しているラン藻の塊です。 中肋部と翼部に分けるのは行きすぎかもしれませんが、葉状体は中央部は厚く周辺部は薄くなっています。

 上は周辺部の薄い所の断面です。 本種の葉状体の内部には大きな細胞間隙があります。

 上は中央部の厚い所から薄くなりかけている所です。 大きな細胞間隙があることは同じです。 色の濃い所はラン藻が集まっている所です。

 ラン藻を散らしてみました(上の写真)。 本種の細胞に比較して、ラン藻の大きさはとても小さいことが分かります。

 本種の細胞の葉緑体は各細胞に1個です(上の写真)。

こちらには本種の胞子体や胞子の様子などを、こちらには開裂した蒴の様子などを載せています。

2023-02-25

ナミスジヤナギゴケ


 写真はナミスジヤナギゴケ Amblystegium varium のようです。 湿地に生えていました。

 茎葉の中肋は上部で多少屈曲しています。 和名はこれを“波筋”としたのではないかと思います。

 翼部はあまり明瞭な区画を作っていません(上の写真)。

 上は葉身細胞です。


2023-02-23

シロハイゴケ

 写真はシロハイゴケ Isopterygium minutirameum でしょう。 奄美大島の町のすぐ近くの林の朽木の上で育っていました。 暖地性のコケで、このブログにはこれまで2度載せていますが(こちらこちら)、いずれも大阪付近の温室の中で、自然環境下での撮影は初めてです。

 上は乾いた状態、下は湿った状態ですが、違いはあまりありません。

 枝の幅は葉を含めて約1mmです。

 葉は長さ1mm前後、披針形で、漸尖して細く鋭頭、葉先近くにかすかな目立たない歯があります。 中肋はあるような無いような・・・


 翼細胞はあまり分化せず、翼部に大形の透明細胞はありません(上の2枚の写真)。

 葉身細胞は線形です(上の写真)。

 偽毛葉は1細胞列で糸状です(上の写真)。

2023-02-22

チャボゴヘイゴケ

 写真のコケ、平凡社の検索表をたどるとチャボゴヘイゴケ Spruceanthus polymorphus のようです。 朽木上にありました。 分布は紀伊半島以南です。
 種小名の polymorphus がどこのどんな特徴からつけられているのか知りませんが、同じ株の中でも葉形などの変異が比較的大きな種だと思いました。

 上は腹面から撮っています。 腹片は背片の1/3~2/5長で、ピントが合っていませんが、茎径の3~4倍の腹葉があります。
 上の写真の背片はほぼ全縁で、比較的急に鎌状になっていますが・・・

 上の写真の背片は緩やかに鎌状に曲がり、写真の左側の背片の腹縁は大きく波打っています。

 上の写真の背片の葉先には歯があります。

 大きく見れば背片は卵形、円頭で、背縁基部は耳状になっていないことは、どの背片にも言えます。

 腹片も最初から2枚目の写真では2歯があるように見えますが・・・

 上の腹片は丸みを帯びた第1歯があり、第2歯は不明瞭です。

 上の腹片の第1歯は数細胞からなる三角形で、第1歯と同時にピントを合わすことはできませんが、明瞭な第2歯もありました。

 腹葉の葉縁に関しても、上の写真ではほんの少しの鋸歯状ですが・・・

 上の腹葉の葉縁には鋸歯があります。

 上は葉身細胞です。 油体は楕円体で均質です。

 上は花被で、腹面から撮っています。 透けて見えている胞子体が赤いのはTG-6のノイズです。 花被は茎に頂生しています。 [雌苞葉のすぐ下から新枝が1本出ていた]のですが、この枝が花被を隠していたので、上の写真はこの新枝を取り去って撮っています。

 上は花被の先を背面から少し拡大して撮っています。 花被の口部は何かに食べられたか破れたかで、かなり凸凹していますが、本来はもっと滑らかなはずです。 数本の稜があります。

2023-02-21

花被をつけたヤマトクロウロコゴケ

 

 上は樹幹に育っていたコケ群落の写真です。 光沢を帯びた黒褐色のaはヤマトクロウロコゴケ Lopholejeunea zollingeri だったのですが、この結論に達するまでには、なかなか大変でした。 今回はこのことについて書くことにします。
 ちなみに、bはナミゴヘイゴケ、cはゴマダラヤスデゴケ、dはセンボンゴケ科で種名は不明(蒴が無いのであきらめています)、eは地衣類です。

 上がaのコケです。 背片の先端は円頭で、内曲しています。 腹葉は大きく、横広の腎臓形です。 以前観察したもの(こちら)と同様の特徴を持っており、ヤマトクロウロコゴケに違いないと思いました。
 ところが、観察していると花被をつけている所があって・・・

 上が花被です。 花被は4稜で翼があり、稜や翼には歯があります。 花被の周囲には葉や腹葉より大きな雌苞葉と腹苞葉があります。 上の写真では雌苞葉は反っていますから縁の様子は分かりませんが、雌腹苞葉の縁には歯があります。 上は花被にピントを合わせていてはっきりしませんので、下に雌腹苞葉にピントを合わせた写真を載せておきます。

 あまりうまく撮れなかったので雌苞葉は載せませんが、雌苞葉にも小さな歯がありました。

 以上で観察を終わり、さあブログにまとめようと平凡社の図鑑を確認すると、検索表にもヤマトクロウロコゴケの種別の解説文にも、雌苞葉と雌腹苞葉は全縁である(キッパリ)と書かれてあるではありませんか!
 2種が混じっているのではないか、慎重に調べましたが、そのような様子はありません。 ヤマトクロウロコゴケに似た別種ではないか、調べなおしです。

 1枚の葉を取り出してみました(上の写真)。 著しく膨れた特徴のある腹片の先は3~4細胞幅で背片の面と癒合しています。

 上は腹葉です。 腹葉は葉より大きいことも小さいこともあります。

 背片の縁は内曲しているので、上は腹片の縁近くの細胞です。 油体は楕円体で均質です。 葉縁の細胞は外側の細胞壁が薄く、この部分は凹む傾向が見られます。

 葉も腹葉も細胞の様子も、やはりヤマトクロウロコゴケの特徴を示しています。

 ここでギブアップ。 M氏に助けを求めたところ、下の文献を送っていただきました。

  水谷正美:Lopholejeunea zollingeri について.蘚苔地衣雑報9(1).1981.

 これを読むと、ヤマトクロウロコゴケはいろいろと変異があり、雌苞葉と腹苞葉に小さな縁歯があるものは東南アジアによく見られるとのことでした。

2023-02-20

ゴマダラヤスデゴケ

 写真はゴマダラヤスデゴケ Frullania pseudoalstonii でしょう。 いろんなコケが混生している中に少し混じっていました。

 上は背片にピントを合わせています。 背片には眼点細胞が散在しています。 下は上と同じ場所で、ピントをずらし、腹片にピントを合わせています。

 腹片は長さが幅の 1.5倍ほどの釣鐘型で、嘴があります。 腹片の上部は少し茎側に傾いています。

 腹葉は長さの1/2~1/3まで2裂し、裂片は三角形てす。 細長く、幅は茎より少し大きい程度で、腹葉どうしは接するか、少し重なっています(上の写真)。

(2023.1.17.)

◎ ゴマダラヤスデゴケはこちらにも載せています。

2023-02-18

ヒリュウシダ

 

 奄美大島 マテリヤの滝への道にあったヒリュウシダ Blechnum orientale です(2023.1.17.に撮影)。 亜熱帯から熱帯に分布する大形のシダ植物で、日本では屋久島以南に分布します。

 葉を裏から見ると、主脈の大部分が黒々としています(上の写真)。 この部分を拡大すると・・・

 胞子は散布された後ですが、主脈上には胞子のうが集まっています。 このような主脈に沿ってソーラスが長く伸びるシダはそんなに多くないと思います。

2023-02-17

ナゼゴケ

 

 上はシゲリケビラゴケとシダレヤスデゴケが絡み合って枝から垂れ下がっている所に、ほんのわずか着生していたコケです。


 上の2枚の写真を見ると、側葉と、それより小さな腹葉が見られます。 側葉では舷がわずかに分化しています。
 葉の形や側葉と腹葉の分化が見られることからクジャクゴケ科だろうと思い、平凡社の図鑑の検索表などを調べたのですが、分かりません。 Facebookに載せたところ、秋山先生から、発達の悪いナゼゴケ Lopidium nazeense だろうと教えていただきました。 特に、下の写真のような苔類のものを思わせる細胞の形状は他には見られない特徴だということです。

 本来のナゼゴケは、最初の写真でも枝分かれしていますが、不規則な羽状に枝をまばらに出し、長さ2cmになるようです。 側葉は中肋が葉先から短く突出し、葉先や葉基部を除き1~2細胞列の舷があり、腹葉の中肋は葉先から長く突出するとのことです。

2023-02-16

ヌカボシクリハランとクリハラン

 上は奄美大島で見たヌカボシクリハラン Microsorum buergerianum です(2023.1.17.撮影)。 ツル性のシダ植物で、木によじ登っていました。 和名の「ラン(蘭)」は美しい植物の代名詞ですから、「クリハラン」は栗に似た葉の美しい植物という意味になるのでしょう。

 葉を裏から見ると、星をちりばめたように、丸いソーラス(胞子のう群)がついています。 このソーラスを拡大すると・・・

 たくさんの小さな胞子のうが集まってソーラスを形成しています。 和名の「ヌカ(糠)」は、この胞子のうのことでしょう。

 上は大阪府の槇尾山にあったクリハラン Neocheiropteris ensata です。 こちらの方が栗の葉に似ていますね。 葉の裏を見ると・・・

 上の写真を見ると、主側脈ははっきりしていますが、ソーラスの様子はやはり“ヌカボシ”のように見えます。 が、じつはクリハランの若いソーラスは盾状の鱗片に覆われていて、たくさんの胞子のうが集まっている様子は見えません。 一方のヌカボシクリハランにはこのような鱗片はありませんので、若いうちからずっと“ヌカボシ”です。 ということで、両者は属も異なります。