2023-05-31

蒴のあるクビレケビラゴケ

 

 樹幹に蒴のあるクビレケビラゴケ Radula constricta が育っていました。

 背片は広卵形で円頭、葉縁には無性芽がついています。 腹片は上の写真ではよく分からないので、深度合成したのが下の写真です。

 腹片はほぼ方形で、上部の角はやや尖っています。 茎側の縁はやや耳状になりますが、茎を超えることはありません。

 上は背片の葉身細胞です。

 上は花被の基部近くから出ている枝を取り去って撮っています。 裂けた蒴には弾糸がたくさん残っていて、糸くずのように見えています。

 上は弾糸です。

 上は茎の横断面です。 表皮細胞と内部の細胞とはほとんど違いがありません。

(2023.5.13. 愛知県設楽町 標高1200m付近)

◎ クビレケビラゴケはこちらこちらにも載せています。

2023-05-30

ケシゲリゴケ

 写真はケシゲリゴケ Nipponolejeunea pilifera です。 樹幹の小さなこぶについていました。

 よく見ると、あちこちの葉先に長毛があります。

 長毛は背片の葉先にあるだけではなく、腹片の歯も長毛状になっている場合がしばしば見られます 腹葉は茎径の4~6倍幅です。

 上は葉(背片と腹片)です。 Nipponolejeunea(ケシゲリゴケ属)は、平凡社ではクサリゴケ科に分類されていますが、現在ではヒメウルシゴケ科にされています。たしかに全体の姿はクサリゴケ科に似ているのですが、ヒメウルシゴケ科らしい形態として、蒴の形質と共に、葉の茎への付着線が短いことが挙げられます。 上の写真に茎への付着線の両端を赤い線で示しておきました。

 腹片は切頭で2歯があります(上の写真)。 歯はいつでも長毛状であるわけではありません。

 上は背片の葉身細胞です。 平凡社では、本種の葉身細胞は薄壁でトリゴンが大きいとなっていますが、上の写真ではそのようにはなっていません。 だからといって、ケシゲリゴケ以外の種は考えられません。 似た種に同属のタカネシゲリゴケがあるのですが、これは分布が亜高山帯以上ですし、次に書く腹葉の形も違います。 生育環境などによって、本種の細胞にはこれくらいの変異があると理解すべきだと思います。

 腹葉は広卵形で、1/5~1/4まで狭く2裂しています(上の写真)。

(2023.5.13. 愛知県設楽町 標高1200m付近)

こちらには蒴をつけた本種を載せています。

2023-05-28

ヒラハイゴケ


 ヒラハイゴケ Hypnum erectiusculum は前にも載せていますが(こちらやこちら)、本種の特徴がよく分かる美しい群落がありましたので(上の2枚の写真:2023.5.3. 奈良県宇陀市にて撮影)、3度目の登場です。

 上の写真では途中で切れていますが、茎は長く這って長さ 10cm以上になります。 この時期は、その茎から新しい枝が上方に伸びています。

 茎葉の長さは、上の写真で約3mm、平凡社では 2.7~3.2mmとなっています。

 茎葉の基部は心臓形です(上の写真)。 翼部の細胞は方形~矩形で、あまり分化していません。

 葉縁上部にはふつう明瞭な歯があるのですが、上の場合は、あまり目立ちません。

2023-05-26

タラダケヤスデゴケ

 上はタラダケヤスデゴケ Frullania taradakensis のようです。 愛知県設楽町の標高1200m付近の樹幹についていました(2023.5.13.撮影)。 色は緑褐色~赤褐色、九州以北に分布し、樹幹または稀に岩上に育つヤスデゴケです。 和名と種小名は佐賀県の多良岳に由来します。
 今回もM氏に助けていただき同定したのですが、平凡社ではヤスデゴケ属は48種とされていて、似たものも多く、それぞれの種の変異の幅が分からない者にとっては、平凡社の図鑑だけでは、絶対に本種にたどり着けなかったと思います。 同定に至る経緯は最後に簡単にまとめましたが、今回の同定で最も重視したのは上村(1961)でした。


 上の2枚は腹面からの観察です。 ヤスデゴケとしては中形で、上村(1961)では葉を含めた茎の幅は 0.9~1.2mmとなっていますから、それより少し大形です。  腹片は大きく、背片の長さの1/3以上、茎の径の 1.5~2倍の幅があります。 腹葉は茎の径の4~5倍の幅があり、腹片のかなりの部分を覆っています。


 背片は卵形、全縁、円頭で、背片背縁基部は半円形に膨らんでいます(上の2枚の写真)。

 上は腹葉を取り去って腹片を撮っています。 腹片はヘルメット状で、嘴が発達しています。 湯澤(2001)では背片は幅よりやや長いとなっていますが、上村によると、上の写真のように、そうではない場合もあるようです。

 本種のスチルス(苔類の腹片の基部に見られる糸状のもの)は、湯澤では4~5細胞列、上村では3~4細胞列となっています。 上は茎頂に近い葉で撮った写真ですが、近くの他の葉でも、スチルスは8細胞列前後の長さがありました。 しかしこのような長いスチルスを持つ種をヤスデゴケ科の中で探しても、みつけることはできませんでした。

 腹葉は長さよりやや幅広く、先端は明瞭に2裂し、裂片は広三角形です(上の写真)。 上村も湯澤も 1/5まで2裂となっていますが、上の写真のように、それより浅い場合もあるようです。
 平凡社では、腹葉は基部で最大幅となっていて、たしかにそのような腹葉も多くあるようですが、今回採集したものの中には、そのような腹葉はみあたりませんでした。

 上は葉身細胞です。 細胞壁の中間肥厚はあるのですが、ヤスデゴケ科の中では少ない方だと思います。

 花被は西洋ナシ形で3褶、表面にいぼは無く平滑です(上の写真)。 なお、湯澤の図では、中央の褶が幅広くなっています。

 上は雌腹苞葉(左)と雌苞葉(右)です。 雌苞葉背片は長卵形で全縁、円頭、雌苞葉腹片は狭三角形で全縁です。 雌腹苞葉の縁には歯があります。

【 参考文献・参考図書 (重視した順に並べています) 】
 上村登:日本産ヤスデゴケ科モノグラフ.服部植物研究所報告第24号.1961.
 湯澤陽一:日本のヤスデゴケ属(ヤスデゴケ科,苔類)Ⅱ.自然環境科学研究 Vol.14,2001.
 福島県苔類誌.湯澤陽一自費出版.2017.
 日本の野生植物コケ.平凡社.2001.

(同定に至る経緯)
 採集品を手元にある平凡社の図鑑と福島県苔類誌で調べましたが、平凡社のヤスデゴケ属は検索表にあるのみの種も多く、福島県苔類誌は福島県で確認されたものですので、迷うばかり。 M氏に困っていることを伝え、湯澤(2001)を送っていただきました。 これと上記2冊を併せて調べると、可能性のあるのは次の3種のように思いました。
 ・オンタケヤスデゴケ F. schensiana(以下オンタケ)
 ・カゴシマヤスデゴケ F. kagosimensis(以下カゴシマ)
 ・タラダケヤスデゴケ F. taradakensis(以下タラダケ)
 しかし、どの種もぴったりとはあてはまりません。 オンタケは腹片の嘴が長くありませんし、スチルスは3細胞列で、腹葉は茎の3倍幅で、先端は1/4まで2裂となっています。 カゴシマの分布は宮城県以南の暖地の低山地ですし、腹葉の湾入部が広いはずです。 タラダケは上記のように、平凡社によると腹葉は基部が最も幅広いはずですし、湯澤の図では花被の中央の褶が幅広くなっていますし、特に私が気になったのは、腹片が幅より長さが長いことでした。
 そうこうしているうちに、M氏も並行して調べていただいたようで、タラダケだろうとの連絡をいただきました。 そこで上記の疑問を伝えたところ、追加資料ですと、上村(1961)を送っていただきました。 この図ではタラダケの花被の中央の褶の幅は狭くなっていますし、腹片にも腹葉にもかなりの変異があり、今回観察したような腹片や腹葉の図も描かれています。

2023-05-25

ユガミミズゴケ

 写真はユガミミズゴケ Sphagnum subsecundum だと思います。 2023.5.12.に愛知県設楽町の標高800m付近で撮影しました。

 ミズゴケとしては小形~中型です。

 上は茎の先端近くの枝です。 平凡社では、枝は4~6本束になり、(そのうちの)2~3本が下垂枝となっていて、上の写真でも、2本が下垂枝、2本が開出枝です。
 平凡社には、和名は枝葉や(特に茎の先端の)枝が湾曲する特徴を捉えたものと書かれていて、たしかに枝は上の写真のように湾曲していますが、枝葉の湾曲はよく分かりませんでした。 下は上の写真の一部の拡大です。

 枝葉は強く凹んでいます。

 上の写真は枝葉(上)と茎葉(下)です。


 上の2枚は枝葉をメチレンブルーで染色し、背面から撮った写真です。 1枚目は葉の上部、2枚目は葉の下部ですが、いずれの写真でも(つまり葉全体で)透明細胞の接合面に沿って孔が連続的に配列し、その他の場所には孔はほとんど見られません。
 下は倍率を上げた写真です。

 孔の縁は肥厚しています。

 上は枝葉(の中央部)を腹面から撮っています。 腹面からだと孔は見えません。 葉緑細胞の幅が腹面で広くなっていて、孔は葉緑細胞に隠されて見えないのでしょう。 このことを確認するために、枝葉の横断面を作ってみました(下の写真)。

 上の写真には3枚の葉の横断面が写っています。 葉緑細胞は背面にも腹面にも出ていますが、わずかに腹面の方が広くなっています。

 上は茎の横断面(一部)で、皮層は1~2層です。

2023-05-24

腹片が袋状のチヂミカヤゴケ雄株

 樹幹についていた上の写真の苔類、ヤスデゴケの仲間か、ケビラゴケの仲間かと調べてみると、チヂミカヤゴケ Porella ulophylla の雄株でした。
 チヂミカヤゴケは、雌株の葉は和名のとおりよく縮みますが(こちら)、雄株の葉はあまり縮みません。


 上の2枚は腹面から撮っています。 本種の腹片は三角形ですが(こちら)、しばしば上の写真のように袋状になります。 袋状になった腹片も前に載せていますが(こちら)、みごとな袋状でしたので、再度載せることにしました。

 上は背片の葉身細胞です。

 上は腹葉です。

(2023.5.13. 愛知県設楽町 標高1200m付近)

2023-05-21

イチヨウラン

 写真はイチヨウラン Dactylostalix ringens です。 漢字で書くと「一葉蘭」で、ヒトハランの別名もあります。
 冷涼で明るい林内に生育するランで、写真は 2023.5.12.に愛知県設楽町の標高800m付近の散策路脇で撮りました。

 花は、側花弁は淡緑色で紫色の斑点があります。 唇弁は白色で紫色の斑点があり、ほぼ中央で側裂片と中裂片に3裂しています。 中裂片は基部に2条の隆起線があり、縁はやや波状になっています。

2023-05-20

アカヤスデゴケ

 

 上は、赤くありませんが、アカヤスデゴケ Frullania davurica です。 樹幹についていました。 よく見るカラヤスデゴケより大形ですが、ヤスデゴケの樹幹についている姿(背面から見た姿)は、写真にするとあまり変わらないので、今回は載せません。 しかし上の写真のように腹面から見ると、腹葉の先端が2裂せず、腹片が腹葉に隠れてほとんど見えないなど、本種の特徴が現れます。

 透過光で見ると、腹片の姿がシルエットになって現れます(上の写真)。

 上は腹葉を取り去って腹片を撮った写真です。 腹片の幅は長さとほぼ同じです。

 上は腹葉です。

 上は背片の葉身細胞です。

(2023.5.13. 愛知県設楽町 標高1200m付近)

◎ アカヤスデゴケはこちらにも載せています。