2021-08-31

コムラサキホコリと、見た目からの変形菌のグループ分け

 

 上はコムラサキホコリ Stemonitopsis hyperopta だと思います。 柄の上に細長い子嚢をつけています。 2021.8.25.に兵庫県西宮市の北山での撮影です。

 このブログに載せている変形菌を分類別に整理した一覧をこちらに載せていますが、目(もく)によって、特に細毛体の様子は大きく異なっています。 本種の属するムラサキホコリ目の細毛体は子実体の形を保つ骨組みとして機能しています。

 上は胞子が飛散して無くなった状態の本種の子嚢を顕微鏡で観察したものですが、左下から上中央に伸びているのが軸柱で、細毛体が網の目に張りめぐらされています。

 ところで、上記の分類とは別に、変形菌では下のような見た目の姿からのグループ分けも整理や同定に役立っています。

単子嚢体
 変形菌のもっとも一般的な形状です。 本種のように子実体は1個の子嚢を持っています。 柄は種によってあったりなかったりします。

擬着合子嚢体
 複数の単子嚢体が密着してできています。 具体例はこちらをご覧ください。

着合子嚢体
 変形体が集合して塊になったり絡まり合ったりしてできた構造で、単子嚢体の姿はどこを探してもみつかりません。 キフシススホコリなどがこれです。

屈曲子嚢体
 子嚢は細長く、脈状~網状になります。 ヘビヌカホコリなどがこれです。

アシナガアミホコリ・コモチクダホコリ・アカハシラホコリ

 

 上は、中央のダニが主役のような写真になってしまいましたが、アシナガアミホコリ Cribraria microcarpa だと思います。 写真の右には胞子が出てしまって空になった子嚢の表面の“網”が写っています。
 本種は柄がとても長いのですが、このような1個の子嚢を持つタイプを「単子嚢体」と呼んでいます。

 上はコモチクダホコリ Tubifera dimorphotheca だと思います。 子実体がくっつきあって束のようになり、子嚢は共通の太い柄のような部分(これを擬柄と呼んでいます)の上についています。 このような単子嚢体が密着してできているタイプを「擬着合子嚢体」と呼んでいます。
 上の写真でも擬柄の表面が凸凹していますが、和名の「コモチ」は、擬柄にできる小さな子嚢を子に見立てたものでしょう。

 上はアカハシラホコリ Dictydiaethalium plumbeum f. cinnabarinum だと思います。 擬着合子嚢体ではないようにも見えますが、写真後ろの断面を見ると、柱状節理のような縦の筋が見えていて、やはり単子嚢体がとても密に密着していることが分かります。 和名の「ハシラ」もこのことに由来するのでしょう。
 擬着合子嚢体は Tubifera(クダホコリ属)や Dictydiaethalium(ハシラホコリ属)などに見られます。

(2021.8.25. 兵庫県西宮市 北山)

2021-08-30

ウツクシミズゴケ

 

 写真は、以下の観察結果から、ウツクシミズゴケ Sphagnum pulchrum だと思います。

 育っていたのは上のような場所で、イボミズゴケなどと混生していました。 高層湿原の周辺など、いつも水に浸かるような所に生育するようです。

 上は開出枝と下垂枝です。

 上は開出枝の葉です。 下は上の葉先の拡大です。

 腹面から撮っています。 枝葉の先端は狭く、鋸歯があります。

 上は開出枝の葉の断面です。 葉緑細胞はほぼ正三角形で、背面に広く開き、腹面は透明細胞の高さの半分程度にまでしか達していません。

 上の2枚は、下垂枝の葉とその葉先です。 葉先は急に尖っています。

 上は枝葉を取り去った開出枝です。 写真中央上のレトルト細胞の先端はほとんど突出していません。

 上は茎葉です。 茎葉は舌状三角形で、先端はささくれています。

 上は茎葉の先端です。 葉縁の舷はほぼ先端まで達しています。 茎葉先端の透明細胞に貫通する孔はありません。

 上は茎の横断面(一部)です。 表皮細胞はあまり分化せず、木質部との境ははっきりしません。

 観察しての感想 : 和名に「ウツクシ」とありますが、他のミズゴケと比較しても、特に美しい姿とは思いません。 美ヶ原など、どこかの地名に由来しているのでしょうか。

(2021.7.15. 長野県 栂池自然園)

2021-08-29

ヘビヌカホコリ

 

 腐木の上にあった変形菌、ヘビヌカホコリ Hemitrichia serpula だと思います。 子実体はふつう上のような屈曲子嚢体ですが、稀には単子嚢体の姿にもなるようです。
 上の写真のものはまだ未熟で、子嚢壁を破ると、ドロッとした内部が出てきましたが、すぐ横にあった成熟したものの子嚢壁を破ると、細毛体がむくむくと広がり、たくさんの胞子も出てきました。 下はその細毛体を顕微鏡で撮った写真です。

 細毛体は黄色で、らせん紋とトゲがあります。 あちこちに見える丸いものは胞子です。

 上は胞子です。 表面には荒い網目模様があります。

(2021.8.25. 兵庫県西宮市 北山)

2021-08-28

アカモジホコリ・シロモジホコリ・アオモジホコリ

 2021.8.25.に兵庫県西宮市の北山で見た変形菌のうち、モジホコリ科モジホコリ属の3種です。 3種とも朽木に群生していました。

アカモジホコリ Pysarum roseum

 おもに梅雨から夏に見られ、よく目立ちます。 上の写真では子嚢の上部が少しへそ状に凹んでいるものが混じっていますが、これがもっと明瞭になるものには、var. racemosum という変種名が与えられています。

シロモジホコリ Pysarum nutans

 子嚢は白色~灰色で、柄は上部が白く下部は黒色です。 子嚢壁は石灰に覆われ、多くの場合、上のように亀甲状に割れて胞子を散布しますが、基部は残ります。

 細毛体は子嚢の基部から放射状に出ます(上の写真)。

アオモジホコリ Pysarum viride

 和名の「アオ」は未熟時の色が緑色だからで、成熟した子嚢は写真のように黄色です。 柄は上部が淡黄色で、基部は残留物を含んでいるため暗色になります。 成熟した子嚢は亀甲状にひびが入りますが、基部は開裂せず、上の写真の左下のように花弁状になります。

 子嚢の基部はへそ状に凹んでいます。

 上は顕微鏡写真で、細毛体、石灰節、胞子が写っています。 石灰節は紡錘形で黄色です。

◎ アオモジホコリはこちらこちらにも載せています。

シワホネホコリ

 

 写真はシワホネホコリ Diderma rugosum だと思います。 コンクリート上に育つコケの上にややまばらに群生していました。 子嚢は白色~灰色で、隆起した多角形の裂開線があります。 柄は黒色です。 比較的温暖な地域でみつかる傾向があるようです。

(2021.8.25. 兵庫県西宮市 北山)

2021-08-27

アミホコリ

 写真はアミホコリ Cribraria tenella だと思います。 腐木上で群生していました。 子嚢と柄の接点を見ると、杯状体は小さなものがあったりなかったりのようです。

 上の写真では胞子が出てしまって子嚢が空になり、子嚢表面の壁網の節が黒い点として確認できます。

 上は子嚢表面の壁網です。 壁網の節は、2~3本の連絡糸で互いにつながっているほか、数本の遊離端を出しています。

(2021.8.25. 兵庫県西宮市 北山)

◎ アミホコリはこちらにも載せています。

2021-08-26

チョウチンホコリ


 立ち枯れて腐りの進んだ木についていた変形菌のチョウチンホコリ Physarella oblonga です。 子嚢に大きなへそ状の凹みがあり、柄は赤い色をしています。 暖帯から熱帯に多い種で、日本ではおもに盛夏に出現します。

 成熟したチョウチンホコリの子嚢は、子嚢壁が花のように裂けます。 上の写真はそれを柄のついている側から撮っています。
 本種の細毛体は、通常のものとは別に、石灰質のトゲのような細毛体が子嚢壁に付着します。 石灰節は小さく黄色です。

 上は子嚢壁の裂けた面を上にして撮っています。 裂ける前のへそ状の陥入部は擬軸柱のような形で残っています。

 上は子嚢壁に付着していた石灰質のトゲのような細毛体です。

 上は顕微鏡で観察した(通常の)細毛体、胞子と石灰節です。

 上は(通常の)細毛体と胞子がほとんど無くなった状態です。


(2021.8.25. 兵庫県西宮市 北山)

2021-08-25

テリカワキゴケ

 

 岩上に育っていた写真のコケ、テリカワキゴケ Bucklandiella nitidula だと思います。

 葉の長さは2~3mm、胞子体の長さは7mmほどです。

 上は葉です。 中肋ははっきりしていて、葉先に届いています。

 葉の先端は透明尖になっています。 透明尖にバピラなどはありません。

 葉縁基部には波状に肥厚しない数個の細胞が1列に並んでいます。 細胞にパピラはありません。

 上は葉先近くの葉の断面です。 葉身は1細胞層です。 細胞間の細胞壁が少し膨れているのは偽乳頭でしょう。

 上は蒴です。 蒴歯は短く、壺の長さの1/7ほどしかありません。

 蒴歯は糸状で、細かいパピラに覆われていて、所々不規則に2~3裂しています。

 従来のシモフリゴケ属( Racomitrium )は5属に分割されていることはこちらに書きました。 結果として非常にすっきりした印象を受けます。 本種も一昨日載せたトカチスナゴケと同じ属( Bucklandiella:クロカワキゴケ属)であることは、顕微鏡を使えば、よく分かります。

(2021.7.15. 長野県 栂池自然園)

◎ テリカワキゴケはこちらにも載せています。

2021-08-24

シモフリゴケ類について

  平凡社の図鑑に記載されている日本産シモフリゴケ属(Racomitrium)は、最近の研究をまとめると5属に整理できるようで、出口ら(2020)が属の検索表を「日本産シモフリゴケ類の分類の現況」として蘚苔類研究12巻3号に載せられていることは知っていました。 しかしどの種がどの属に分類されたのかは分からないままで、そのままにしていました。
 最近、スナゴケの仲間を観察していて、平凡社の図鑑や野口をみても分からないところがいろいろ出てきたのでM氏に相談したところ、2019年の蘚苔類学会で各属に含まれる種の発表もあったことを教えていただき、平凡社の図鑑と対比する形で、下のようにまとめてみました。 それぞれの属の特徴は上記検索表に書かれています。

クロカワキゴケ属(新称) Bucklandiella
 B. laeta トカチスナゴケ
 B. macounii ssp. alpina フトスジスナゴケ(仮称)
 B. microcarpa 
 B. nitidula テリカワキゴケ
 B. sudetica ヒメスナゴケ
 B. vulcanicola コモチシモフリゴケ
エゾスナゴケ属 Niphotrichum
 N. barbuloides コバノスナゴケ
 N. canescens ssp. latifolium ヒロハスナゴケ
 N. ericoides 
 N. japonicum エゾスナゴケ
 N. muticum 
シモフリゴケ属 Racomitrium
 R. lanuginosum シモフリゴケ
チョウセンスナゴケ属(新称)Codriophorus
 C. acicularis マルバスナゴケ
 C. carinatus チョウセンスナゴケ
 C. mollis ヤワラスナゴケ
ミヤマスナゴケ属(新称)Dilutineuron
 D. brevisetum コエノスナゴケ
 D. canaliculatum ナガエノスナゴケ
 D. corrugatum クネリバスナゴケ(仮称)
 D. fasciculare ミヤマスナゴケ

 ボールドは平凡社の図鑑には載せられていない種です。 一方で、下の3種は平凡社には載せられているのですが、上では無くなっています。
 R. aquaticm ナミカワスナゴケ
 R. brachypodium ハリスナゴケ
 R. heterostichum クロカワキゴケ

2021-08-23

トカチスナゴケ

 

 岩上でたくさんの蒴をつけた写真のコケ、平凡社の検索表をたどるとトカチスナゴケ Bucklandiella laeta (学名は平凡社から変更しています)になりました。


 新しい葉は光沢の無い緑色で、次第に褐色に近い緑色になっていくようです。 葉の長さは約3mm、蒴柄は6~7mm、蒴の壺は1.5mmほどです。


 葉は狭披針形で漸尖し、葉先は透明尖となっています。

 透明尖にパピラなどはありません。


 葉縁基部には波状に肥厚しない細胞が10個以上1列に並んでいます(上の2枚の写真)。

 上は葉の断面です。 少しポコポコしているように見えますが、これはパピラではなく、細胞の境の細胞壁が肥厚した偽乳頭だと解釈しました。

 上は蒴です。 帽にしわは無く、蒴柄にパピラはありません。 シモフリゴケ類の多くは蒴歯が長く、例えばエゾスナゴケの蒴歯は壺と同じくらいの長さがあります(こちら)。 それらに比較すれば、本種の蒴歯はシモフリゴケ類の中では短いと言って良いでしょう。

 上は蒴を縦に切って胞子を外に出し、蒴の内側から撮っています。 蒴歯は糸状です。
 下は上の一部の拡大です。

 口環が発達しています。 蒴歯の表面は小さなパピラに覆われています。 蒴歯は不規則に2~3裂しているように見えます。

 上は胞子です。

(2021.7.15. 長野県 栂池自然園)

◎ トカチスナゴケはこちらにも載せています。

 平凡社のシモフリゴケ属は、現在では5属に分割され、種の整理も進んでいます。 明日はこのことについて書く予定です。