2024-11-13

クサビゼニゴケ

 写真はクサビゼニゴケ Marchantia emarginata subsp. cuneiloba です。 これも今年の苔・こけ・コケ展で見せていただいたコケです。
 葉状体は密集します。 本種は長くトサノゼニゴケに統合されていましたが、鄭・嶋村(2022)により、トサノゼニゴケから分離されました。 トサノゼニゴケはふつう葉状体の中央に細い帯状の暗色部分がありますが、本種にはふつうこの暗色の線はありません。 また、今回は見られませんでしたが、雌器托の裂片の数はトサノゼニゴケより多いようです。

 葉状体の幅はトサノゼニゴケとほぼ同じです。

 杯状体の縁は繊毛状です。

 上は腹面を撮っています。 腹鱗片の付属物の形は、トサノゼニゴケが歯のある三角形から五角形であるのに対し、本種では歯のある卵形です。 上の倍率では歯は分かりませんので、下に顕微鏡写真を載せておきます(ゴミが多いですが・・・)。


2024-11-12

ケハタケゴケ

 今年の苔・こけ・コケ展で見せていただいたケハタケゴケ Riccia pubescens です。 日本産のハタケゴケの中では最も小さい葉状体です。 葉状体の背面と縁に単細胞性の毛が散生することが和名と学名の由来ですが、仮根も多いので、私としては、葉状体全体に毛が多いハタケゴケという印象でした(上の写真には蜘蛛の糸も混じっています)。
 古木(2020)によれば、除草されて踏み固められた地面に生育しているが、既知の産地は関東地方に限られています。 植物体が目立たないので、見過ごされているのかもしれないということです。

【参考文献】
古木達郎:新・コケ百選 第21回ウキゴケ科.蘚苔類研究12(4).2020.

2024-11-06

「苔・こけ・コケ展」のおしらせ

 恒例になった「苔・こけ・コケ展」、今年も実施されます。

◎ 開催日時:2024年11月8日(金)~10日(日) 9:00~17:00(12日は16:30で終了)
◎ 場所:京都府立植物園
 メイン会場は植物園会館ですので、京都市営地下鉄「北大路」駅からが便利です。
◎ 内容:
● 展示:植物園会館1階展示室など
 顕微鏡(8台)やデジタル顕微鏡も置いています。見たいコケを持って来ていただいてもいいですし、いろいろなコケの準備もしています。顕微鏡の操作はお手伝いしますので、顕微鏡の世界を楽しんでください。 “本物”のスギゴケも準備します。 教科書などにあるスギゴケの図は、ほとんどコスギゴケです。 どこがどう違うのか、比較してみましょう!
● ワークショップ:植物園会館2階多目的室など
● 観察会:8日(金)~10日(日) 10:30~12:30
 受付は10:00より植物園会館1階展示室で行います。 雨の場合は実施できませんので、天気予報を見て参加の予定を立ててください。
● 講演会:10日(日) 13:30~15:00
 烏賀陽百合氏「京都を彩る苔庭の魅力」

 

2024-11-05

ムツコネジレゴケ

 写真はムツコネジレゴケ Trichostomum platyphyllum でしょう。 石灰岩上に育っていました。

 湿った時の植物体の径は4㎜ほどでした。 葉は中部がもっとも幅広くなっています。

 茎の高さは約8㎜でした。 茎は古い葉に覆われていますが、これを取り去ると・・・

 茎は黒っぽい色をしています。 なお、同じ属のクチヒゲゴケなら、茎は褐色です。

 乾くと葉は管状になって巻きます。 白く見えるのはほとんどが炭酸カルシウムで、乾くといっそうはっきりしてきます。 石灰岩地帯では、茎や葉についた雨水には炭酸水素カルシウムが溶け込んでいて、これが水の蒸発と共に空気中の二酸化炭素と反応し、炭酸カルシウムとして残ります。


 上の2枚は葉です。 葉の上部~中部は細かい細胞からなっていますが、下部の細胞は矩形で大きく透明な細胞からなっています。

 上は葉先付近です。 葉縁には細かい歯があります。 葉身細胞には4~7個のパピラがあります。

 上は葉の中央付近の腹面を撮っていて、写真中央を斜めに走っている赤褐色の部分が中肋です。 中肋腹面の表皮細胞は葉身細胞と類似していて密にパピラがありますが・・・

 上は葉の中央付近を背面から撮っていて、斜めに走っているのが中肋です。 中肋背面の表皮細胞は葉身細胞よりずっと長い細胞で、パピラは無く平滑です。

 上は葉の基部から1/4ほどの所の中肋の横断面です。 ステライドは背腹両面にあります。

 上は茎の横断面で、表皮細胞の外側の細胞壁にピントを合わせたために、全体がピンボケのような写真になってしまいました。 示したかったのは、茎の表皮細胞が大型・薄壁で透明であることです。
 下も上とほぼ同じ所の横断面です。

 茎には中心束があります(上の写真)。

(2024.11.4. 滋賀県多賀町)

2024-11-01

キリシマゴケ

 岩塊斜面にあったキリシマゴケ Herbertus aduncus です。 乾き気味の岩上で、そのためか褐色が強いようです。 何度見ても蘚類と間違えそうになります。
 乾いていると葉は上のように茎に接していますが・・・

 湿ると葉は開きます。 葉の長さは1㎜ほどです。

 葉(側葉)と腹葉があるのですが、腹葉は少し小さいだけで形は葉とほぼ同じです。

 上は葉で、葉掌部はほぼ方形です。 葉の中央部にビッタ(細長い厚壁の細胞列)があります。 下は上の赤い四角で囲んだ部分の拡大です。

 上の写真の多くはビッタ細胞で、右にあるのが葉身細胞です。 油体は米粒形で、葉身細胞で数個、ビッタ細胞で10~20個あるのですが、しばらく放置していたため、多くの細胞で失われています。

 上は茎の横断面です。 髄細胞のトリゴンは小さく、これもサクライキリシマゴケとの違いのひとつです。

(2024.9.7. 北八ヶ岳)