2025-04-30

イボヒシャクゴケ?

 この記事は当初マルバコオイゴケとして載せていましたが、[こちら]に載せたイボヒシャクゴケ Scapania verrucosa の可能性のあるコケと同じ所で採集したものなので、再度観察したところ、やはり上と同種のようです。 後ろに写真を3枚追加し、記事も書き改めました。 

 写真は岩上の斜面に育っていたコケで、古い茎は斜面に沿い、新しい茎は立ち上がっているので、背面も腹面も写っています。

 ヒシャクゴケ科は腹片が背片より大きいのが特徴です。 葉を含めた茎の幅は1~1.5㎜でした。

 上は腹面から撮っていますので、背片はほとんど見えていません。 分枝している所を見ると、側面から分枝しています。

 葉は基部が茎を抱くように圧接し、中部で鎌状に曲がっていますが、茎と圧接している所は透過光では暗くなり、観察が難しくなります。

 背片も腹片(上の写真ではボケています)も葉縁は鋸歯状で、葉先は円頭です。

 上は葉です。 背片の長さは腹片の1/2~2/3です。 ビッタ(注1)はありません(ビッタがあれば、この倍率で分かります)。

 上は背片の基部近くで、写真上方がキールの方向です。 葉先近くの細胞は整然と並んでいますが、基部近くでは細胞の配置が乱れています。

 上は腹片の基部近くで、やはり写真上方がキールの方向です。 背片以上にキール近くの細胞は細長くなっていますがこれはビッタではありません。 ビッタが明瞭なシロコオイゴケを見ると、ビッタは背片腹片それぞれの中央にあり、周囲の細胞と明確に異なります。

(注1) ビッタ:苔類の葉基部中央部にある長軸方向に伸長した細胞

------(以下、5月31日追記)-----------------------------------

 4月30日に上の記事を書いた時には気づかなかったのですが、 倍率を上げて焦点の合う深さを浅くすると、細胞表面にいぼ状のパピラのあることが確認できました(上の写真)。 下は同じ場所で焦点を少しずらし、細胞に焦点を合わせた写真です。

 いぼ状パピラは、葉の場所によっては、はっきりしない所もありました。 これが株による違いなのか、採集してから時間が経っているからなのか、分かりません。


 パピラのある無性芽も確認できました(上の写真)。

(2025.4.19. 京都市右京区京北上弓削町)

2025-04-28

ミドリゼニゴケの蒴

 朽木上にミドリゼニゴケ Aneura pinguis が育っていました(上の写真:2025.4.5. 京都市の京北上弓削町にて撮影)。 若い胞子体をつけていたので(上の写真の黄色の円内)、持ち帰って育てていたところ・・・

 4月26日に蒴が開裂しました。 飛散した胞子や弾糸が隣の若い胞子体にたくさんくっついています。
 蒴は、多くのタイ類同様、4裂しています。

 上は開裂した蒴です。 スジゴケ科の蒴の各裂片の先端には長い弾糸柄があります。

 上は弾糸柄です。 弾糸柄の上半部には、まだたくさんの弾糸が残っていました。

 上は胞子と弾糸ですが、左上のように弾糸になりきれていない細胞も散見されました。 このような細胞が散見されるのは、ミドリゼニゴケの性質なのか、栽培下の条件による異常なのかは分かりませんが、弾糸のでき方を示してくれ、おもしろいと思いました。

 上は開裂した蒴の裂片の内面を撮った写真です。 構成している細胞には、弾糸にも似た細胞壁の肥厚が見られます。

 上は開裂した蒴の中央です。 この細胞の糸状に伸びているようにみえる細胞壁の肥厚も弾糸と関係あるのかもしれません。

◎ ミドリゼニゴケの葉状体については、こちらに載せています。

2025-04-27

ヒメテングサゴケ

 上の写真、胞子体をつけているのはヒメテングサゴケ Riccardia planiflora でしょう。 水の滴る岩上でツガゴケなどと混生していました。

 和名のとおり、Riccardia(スジゴケ属)のなかでは小形です。(上の写真のスケールの数字の単位は ㎜ です。)

 上の枝はシュートカリプトラに包まれた若い胞子体をつけていますが、赤い丸印で囲った所は造精器腔の存在する場所だと思います。 本種は雌雄同種で、写真の枝は両性枝ということになるのでしょう。 平凡社には「(本種の場合は)両性枝がほとんどで,雌枝や雄枝は稀。」とあります。

 上は透過光で見ています。 油体は各細胞に0~4個ありますが、平凡社では2~7個となっています。

 上は葉状体の横断面です。

 葉状体の横断面で、単細胞層の翼部はほとんどありません(上の写真)。

 葉状体の横断面で、表皮細胞の細胞壁は厚く、内部細胞にトリゴンがあります(上の写真)。

(2025.4.19. 京都市右京区京北上弓削町)

2025-04-26

ツキヌキゴケ?

 水の滴る岸壁に垂れ下がる写真のコケ、2025.4.19.に京都府右京区京北上弓削町の標高500m付近で撮影しました。 Calypogeia(ツキヌキゴケ属)にも似たものが多く、消去法でツキヌキゴケ Calypogeia angusta としたのですが、平凡社では「亜高山帯以上の腐植土か倒木上にふつう。」とあり、疑問が残ります。

 葉は半円形~広舌形で円頭です(上の写真)。

 上は腹葉の基部が下延している所に焦点を合わせていて、腹葉全体はぼんやりと写っています。 腹葉は茎に湾入してついていますので、全体にピントを合わすことができません。
 腹葉は下延し、その腹縁基部の細胞は他の細胞より細長い矩形です。

 上は腹葉ですが、下延部は切れてしまっています。 腹葉は1/3ほどまで広く2裂しています。

 上は葉身細胞です。 油体は、平凡社では「変化に富み,各細胞に3~15個,球形~楕円体,均質~ブドウ房状。」とあります。 「変化に富み」が悩ましいところですが、フソウツキヌキゴケの油体には眼点があり、写真とは異なります。

2025-04-24

ホラゴケモドキ

 写真はホラゴケモドキ Calypogeia azurea です。 2月の岡山コケの会関西支部の観察会で、朽木上に生育していたらしいのですが、私は見逃してしまい、それを持ち帰って育てている人から少し分けていただきました。 小さいコケですのでプレパラートにしたのが上の写真ですが、どうしても気泡が取れず、まずい写真になってしまいました。
 植物体は青みがかった緑色で、特に先端は青みが強いのですが、写真で色の違いを表現するのは難しいですね。 葉を含めた茎の幅は約2㎜でした。

 葉先はほぼ円頭ですが、時には2歯があようです。

 腹葉は茎径の2~3倍幅で、湾入してついています。 両縁基部は細胞がほぼ正方形で、下延していません(上の写真)。

 上は葉身細胞です。 油体はブドウ房状で青色です(これが分かりやすい特徴になります)。

2025-04-23

ロゼットツボミゴケ

 上はロゼットツボミゴケ Solenostoma rosulans でしょう。 近畿地方以西の本州と九州の低地の、やや湿りがちの所に生育するのだと思っています。
 平凡社の図鑑では、ツボミゴケ科のツボミゴケとして載せられています。 和名が変更されたのは、「ツボミゴケ」は科名にも属名にもあり、種名と区別がつかず、混乱を避けるためだと思います。 新しい和名の「ロゼット」は種小名に由来し、種小名はバラ(Rosa)またはロゼット(rosette)に由来するのでしょう。 「ロゼット」はバラの花冠状の配列をいい、植物では葉などが短い茎から水平に八方に出ることをいうのですが、たしかに上の写真の葉は、この仲間の他種に比して横に近い斜めについています。

 葉は斜めに開出し、重なっています。

 葉は円形、円頭で全縁です(上の写真)。 長さは平凡社では 1.4~2㎜となっています。

 葉身細胞は薄壁で大きなトリゴンがあります(上の写真)。 油体は多く(平凡社では各細胞に2~10個)、球形~楕円体で、微粒の集合です。

 仮根は紫色で、束になり、茎を流下しています(上の写真)。

(2025.4.19. 京都市右京区 標高約500m)

2025-04-22

ツムウロコゴケ

 赤くなるコケはいろいろありますが(注1)、上の写真の崖を赤く染めるコケはツムウロコゴケ Solenostoma fusiforme でした(2025.4.5.に京都府右京区京北上弓削町にて撮影)。 北海道~九州の山地帯の湿った崖や土手などに生育するコケで、児玉(1971)の『近畿地方の苔類(第1部)』には、サイシュウソロイゴケの名前で、「決して普通なものではないが,京都付近や丹波高原には多い.」と書かれています。

 濡れていることもありますが、冬を越した部分は透明感のある美しい赤い色です。 そこから伸びだす新しい枝の葉にも透明感があります。

 茎の長さは1cm以上あります。 葉は斜めにつき、やや開出して接在しています。 仮根は多くありません。

 葉は卵形で、上の写真ではゴミで少し分かりにくくなっていますが、背縁基部がやや下延しています。 葉縁は大きな細胞で縁取られています。

 上は葉身細胞です。 トリゴンは小さく、油体は各細胞に1~3個あり、球形~楕円体で、ブドウ房状です。

(注1) このブログでは、シタバヒシャクゴケキブリツボミゴケゴレツミズゴケなどの赤くなるコケを載せています。

2025-04-16

ホソエヘチマゴケ

 上はマイマイツボミゴケの所に出した写真の再掲です。  今回は細長い葉のコケの方で、ホソエヘチマゴケ Pohlia proligera だと思います。 茎の上半部の葉腋に,多数の無性芽があふれるようについています。

 少し動かすだけで無性芽がパラパラと落ちます。 上の写真のものでも無性芽は落ちてしまい、かなり少なくなっています。
 上の写真で茎の長さは約2cm、平凡社では1~2cmとなっています。 上の写真の無性芽は黄緑色ですが、褐色の場合もあるようです。

 上は無性芽で、ケヘチマゴケの無性芽などよりずっと細い糸状です。 秋山・山口(2008)によれば、本種の無性芽先端の葉原基は2個で、この点で通常3個以上の葉原基を持つ他種とは異なっているとのことです。 たしかに上の写真でも、土の無性芽の先も2本の“角”が飛び出しています。 なお、本種の無性芽は上の写真のようなものを茎の上部につけるだけで、茎の下部に違った形の無性芽をつけたり、仮根に無性芽をつたたりすることは無いとのことです。

 葉はほぼ平らで、上の写真の葉の長さは 2.5㎜です。 下は上の葉の葉先付近です。

 中肋は葉先近くで終わっています。 上部の葉縁には微歯があります。

 上は葉身細胞です。

 上は仮根で、パピラがあります。

(2025.4.5. 京都市右京区 標高約500m)

【 参考文献 】
秋山弘之・山口富美夫:無性芽を有するヘチマゴケ属(ハリガネゴケ科,蘚類)の研究 1,日本産キヘチマゴケとその近縁種の再検討.蘚苔類研究9(9),2008.