2024-07-30

ナガバヒゲバゴケ?

 

 写真のコケ、コマノヒツジゴケかと思ったのですが、調べてみると少し違うようです。 ナガバヒゲバゴケ Cirriphyllum piliferum ではないかと思うのですが、決め手に欠けます。 蒴があれば情報量が増えるのですが、本種の蒴は日本では未知のようです。 また、平凡社では「林内の腐葉土上に生える。」とありますが、育っていたのは石灰岩と思われる岩上です。 ただ、上の写真でも分かるように岩全体がいろいろなコケに覆われていて、このコケも半ば他のコケの上に育っていました。

 茎はしばしば小さな葉をつけて長く這います。 枝分かれは多くありません。

 枝は葉を丸くつけています。 茎葉と枝葉で大きさにほとんど差はありません。 乾湿による違いも、殆どありませんでした。


 葉は長さ 2.5㎜前後で、葉身部分は深く凹み、縦じわがあります。 葉の上部は急に細くなり、糸状に長く伸びています。 中肋は葉身部の2/3ほどの長さです。

 上は別の葉の上部です。

 葉の基部には方形の細胞が見られます。

 上は葉身細胞です。

 上は葉の横断面です。 パピラ等はありません。

(2024.7.21. 京都市西京区大原野)

2024-07-29

ヤブデマリ

 ヤブデマリ Viburnum plicatum var. tomentosum の実が美しく色づいていました。 果序は枝の上に並んでいるようにみえます(2024.7.21. 京都市西京区大原野)。
 果実は、完熟すれば黒紫色になり、もうそろそろ完熟した果実が混じる時期だと思うのですが、完熟したものから順に鳥に食べられているのかもしれません。

 ヤブデマリは山の谷筋など、水分の多い所でよく見られます。 葉は対生、果序(花序)は1対の葉をつける短枝に頂生しています。

 花は5~6月です。 よくアジサイの仲間(ミズキ目アジサイ科)と間違えられますが、こちらはマツムシソウ目レンプクソウ科で、系統的にはかなりかけ離れています。
 以下は Part1の2009.6.16.(撮影は2006.6.6.)からの引っ越し記事です(文章はかなり書き改めています)。

 上が花序です。 花序の縁には装飾花として機能している無性花が、中心部には両性花があります。 つまり、虫を引き寄せる役目をもった花と、花粉を媒介してもらって種子を形成する花とに“分業”しています。 この点はガクアジサイなどに似ているのですが、ガクアジサイの装飾花は4枚のガクが大きくなっています(注1)。 これに対し、本種の装飾花は、大きい花弁が2枚と小さい花弁が2枚の、計4枚の花弁を持つように見えますが、よく見ると、もう1枚、たいへん小さな花弁があります(上の写真)。 そして、これらの花弁は基部で互いにくっつきあっています。 つまり、ヤブデマリの花は、切れ込みの深い合弁花です。

 ヤブデマリの装飾花の白い目立つ部分がガクではなく花弁だというのは、花を裏から見ればすぐに分かります。 裏から見れば、ちゃんと小さなガクがついています(上の写真)。 もちろんガクアジサイの装飾花を裏から見ても、さらにガクがあるということはありません。

(注1) ガクアジサイの和名は、4枚のガクが大きく目立つからではなく、装飾花が花序の周囲に額縁のように並ぶからと言われています。

2024-07-28

タチヒラゴケ

 石灰岩上に育っていた上の写真のコケ、タチヒラゴケ Homaliadelphus targionianus かと思ったのですが、以前に見たものより明るい色で、より光沢があるように思ったので、持ち帰り、調べました。

 一次茎は基物上を這い、二次茎は長さ2cm前後で、少数の枝を出しています。(背景は1㎜方眼です。)

 二次茎の幅は葉を含めて約2mmです。 葉は扁平について密に重なっています。

 上は葉で、ほぼ全縁です。 Homaliadelphus(タチヒラゴケ属)の葉は、基部の後ろの縁が小舌片となり、耳状に内側に折れ曲がるのが特徴です。 上の葉もそのようになっていますが、これまでに見たもの(こちらこちら)に比較すると、とても小さな小舌片です。 そして下の写真の葉には小舌片がありません。

 内側に折れ曲がる小舌片があるのは、ヒラゴケ科の中にはみつかりません(タチヒラゴケ属はミヤベゴケ科に移されています)。 小舌片が無い葉があることよりも、小舌片がある葉があることを、つまり他には見られない特徴を重視すべきでしょう。

 上部の葉縁近くの細胞は小さく、方形~矩形です(上の写真)。

 葉身細胞は長さ 10~40μm、厚壁で楕円形です(上の写真)。

(2024.7.21. 京都市西京区大原野)

2024-07-27

イボエチャボシノブゴケになるが・・・

 石灰岩上に育っていた上の写真のシノブゴケの仲間は・・・

 シノブゴケの仲間としては小形です。 茎葉は長さは 0.2~0.3mmで、まばらについています。

 特に茎が緑色の所についている茎葉はいじけていて、茎から離すのも困難です(上の写真)。 ただし、これはこの種の特徴ではなく、生育環境の影響でしょう。

 茎には多くの毛葉があります(上の写真)。 しかし・・・

 毛葉は太い枝には少し見られますが、上の写真のような細い枝にはまったくありません。

 蒴柄の上部にはパピラがあります(上の写真)。 以上の観察結果から、平凡社の検索表をたどれば、イボエチャボシノブゴケ Thuidium contortulum となります。
 平凡社(2001年発行)では、イボエチャボシノブゴケは「新称」となっています。 これは渡辺(1974、日本新産報告)によるものですが、現在ではこの見解を認めないのが主流となっていて、シノブゴケ科の分類学的再検討を行ったTouw(2001)の分類では、チャボシノブゴケとなってしまいます。
 また、この分類学的再検討ではチャボシノブゴケなど従来 Thuidium(シノブゴケ属)とされていた小形のもの(他にはミジンコシノブゴケなど)は、Pelekium(チャボシノブゴケ属)になっています。

 よって、上の写真のコケは、チャボシノブゴケ Pelekium versicolor としておきます。

(2024.7.21. 京都市西京区大原野)

◎ チャボシノブゴケはこちらにも載せています。

2024-07-26

コケ観察に適したルーペは?

 コケは小さな植物です。 小さなコケの小さな違いを見分けるには拡大する必要があります。
 最近はカメラの性能が良くなり、かなり拡大して撮ることのできるカメラもありますが、違いを探しながらいろいろな方向から見るには、やはりルーペが便利です。 ただ単にシャッターを押しても、そのコケの特徴が写っていなかったり、特徴的な場所がピンボケであることはとてもよくあることです。 マクロ撮影するにも、ルーペで観察して撮るべき特徴を見定め、その特徴が分かりやすい方向を決めてから撮影すべきです。

 虫めがね、天眼鏡、ルーペ、みんな同じものですが、ある程度倍率の高いものをルーペと呼ぶ傾向があるようです。 以下、この記事でも倍率の低いものを「虫めがね」、倍率の高いものを「ルーペ」と呼ぶことにします。

 ルーペは基本的には凸レンズの性質を使って拡大する器具です。 

 凸レンズに光軸(レンズの中心と焦点とを結ぶ直線)に平行な光を当てると、光は焦点と呼ばれる1点に集まります(上の図)。この性質を利用して拡大するのですが、焦点は厳密には上の図のように少し幅があります。
 この焦点のずれは、膨らみ方が大きい(「曲率が大きい」と表現します)レンズの方が大きくなります。曲率が大きいレンズの方が大きく拡大できるのですが、そのままでは焦点のずれが大きくなり、像がぼけてしまいます。

 ルーペでは、くっきりした像を得るために、2つの方法を組み合わせています。 1つは、複数のレンズを使って少しずつ拡大することです。 虫めがねに比べてルーペが厚いのは、距離を置いて複数のレンズを使っているからです。 安価なルーペでは2枚の凸レンズを使っていますし、トリプレットレンズは、よりくっきりした像を得るために3枚のレンズを組み合わせています。
 もうひとつは、上の図から分かるように、凸レンズの周辺部からの光は焦点からのずれが大きくなりますから、このレンズの周辺部を切り落とし、中心部だけを使うことです。 高倍率にしようとするほど、多くの部分を切り落とさねばならず、レンズの径は小さくなります。

 小さな穴から広い世界を見るには、目を小さな穴に近づける必要があります。 ルーペを使った観察でも、ルーペの径は小さいので、目に近づけて使うのが基本になります。 さらに言えば、ルーペを持った手を頬(ほお)に押し当てて使えば、ルーペと目の距離が一定に保たれ、観察し易くなります。
 なお、大きい径の方が広い範囲が見えて使いやすいと思う人も多いようで、たしかに倍率も比較的高く、径の大きいルーペも売られています。 これらのルーペを覗くと、視野の周辺ほど像がぼけていて、流れたように見えます。
※ 視野の隅まで像がゆがまずに見えているかのチェックには1mm方眼をルーペで見るのが便利です。

 では、コケ観察には何倍のルーペが適しているのでしょうか。 もちろん倍率が高いほど小さなものが大きく見えます。 しかし倍率が高すぎると、使いこなすのが難しくなります。 まず、倍率が高くなればなるほど、見える範囲は狭くなります。 この“見える範囲”は、面積だけではなく、奥行きも浅くなります。 つまり見たい所にピントを合わせるのが難しくなります。 また、ほんの少しルーペが動くだけで、視野が大きくずれてしまいます。 ルーペの扱いに十分慣れるまでは、10倍程度の倍率のルーペが良いと思います。
※ 日本では倍率は長さで表しますが、中国では面積で表しているようです。 例えば中国製の30倍のルーペは、日本の倍率では 5.4~5.5倍になります。

 最近はLEDライト付きのルーペもたくさん出回っています。 たしかに日の差し込まない渓谷の岩に張り付いたコケを見る時など、自分の頭の影でいっそう暗くなり、ライトの必要性を感じる時もあります。 しかしLEDライト付きのルーペは、電池の重量で本体が重くなりますし、電池交換も面倒です。 充電式もありますが、バッテリーの容量も限られていますし、充電に気を配らねばならず面倒ですし、部品が小さく壊れやすい点も問題です。 また、岩などにくっついているコケの観察などでは、岩に光が反射し、かえって見えづらくなる場合もあります。 価格もライト無しのルーペの方が、その分安くなります。
 これは好みにもよるでしょうが、私はライトが無いものの方が好きで、どうしてもライトが必要な場合に備えて、ルーペとは別に、100均のライトをバックに入れています。

 ルーペを購入する際には、上のようなことを頭に置き、実際にお店に行って手に取って確認するのがいちばんいいのでしょうが、近くにルーペを販売している店が無いなどの人のために、1つだけ、Amazonで購入できるルーペを紹介しておきます。
 トリプレットレンズで倍率10倍のLEDライトのついていないルーペです。無駄な反射を防ぐためのマットブラック塗装をしています。(グランクラフト、¥2,680-)

 上の写真をクリックすると、Amazonに移動します。


2024-07-24

オオツボミゴケ

 小さな渓谷の、水際の岩上に育っていた写真のコケ、平凡社の検索表をたどると、オオツボミゴケ Solenostoma radicellosum になりました。

 この時期の花被は稜のある三角錐です

 上は花被の縦断面です。 ペリギニウムが発達し、最内側の雌苞葉は明らかに造卵器より上についています。

 上は植物体を横から撮っていて、上が腹面、下が背面です。 腹葉は無く、茎の腹面には仮根の束がついています。 仮根の束は、上の写真では茎の腹側が木化したようにも見えますが・・・

 上は茎の横断面で、中央の円い所が茎で、写真の上が背面、下が腹面です。 茎から右上と左上に伸びているのが葉で、茎の腹面の赤い四角内の褐色の部分が仮根の束です。
 下は上の赤い四角の部分の拡大です。

 上の写真のように拡大すると、仮根の束であったことが、はっきりと確認できます。


 上の2枚は背面から撮っています。 茎の幅は葉を含めて約2.5mmです。 この仲間の同定にはこの幅が関係することもあるので、2枚載せておきました。


 上の2枚は葉です。 仮根が葉の基部から出ています。 平凡社の図鑑の検索表では、葉の幅と高さのどちらが長いかが重要になってきます。 オオツボミゴケなら、葉の形が腎臓形で、幅が長さより広い方を選ぶことになるのですが・・・
 葉の幅や高さは、どこをどのように測るのでしょうか。

 私は葉の背縁基部と腹縁基部に接する線分を基準に、上のように測るのではないかと思います。 この測り方で良いのなら、明らかに高さより幅の方が広くなります。

 上は葉縁付近の細胞です。

 上は葉身細胞です。

(2024.7.21. 京都市西京区大原野)

◎ オオツボミゴケはこちらにも載せています。

2024-07-23

前著「コケの国のふしぎ図鑑」と比較して

 前著「コケの国のふしぎ図鑑」は、コケとはどのような植物かを知ってもらうとともに、コケに関心を持ちはじめた人にコケの持つ魅力を伝えたいと思い、作成しました。 「ミクロの世界のコケ図鑑」は、前著の改訂版という位置づけですが、コケをもっと知りたいという人のために、図鑑としての機能をかなり強化しました。
 しかしコケに関心を持ちはじめた人の最初の1冊としては、「コケの国のふしぎ図鑑」はまだその価値を失っていないと思いますので、増刷の予定はありませんが、電子書籍としての販売は続ける予定です。

 ところで、Facebookで、前著「コケの国のふしぎ図鑑」のページががパラパラはずれたので、同じ著者・発行所である「ミクロの世界のコケ図鑑」の購入はしていないという声をお聞きしました。
 今回の改訂で出版社にいちばん強くお願いしたのは、ページが外れないように、ということでした。 前著でページが外れやすかったのは、紙が厚すぎたためのようです。
 今回の改訂では、掲載種数を158種から364種と、倍以上に増やすとともに、解説も詳しくし、それに伴って64ページ増と、改訂版とは思えないくらいに大幅にページ数を増やしているのですが、本の厚さはほとんど変化していません。 つまり紙質はかなり薄くなっています。 また、出版社側でもいろいろと検討いただき、ふつう著者には連絡しないような、印刷所の見解や使用する用紙などについてもお知らせいただきました。 ページが外れることについては、今回は類書並みには大丈夫だと思います。

2024-07-21

キツネノハナガサ

  2024.7.17.に兵庫県西宮市の北山公園でキツネノハナガサ Leucocoprinus fragilissimus を見ました。 これまで何度も見ているので、写真も撮らなかったのですが、帰って過去の記録を見ると、Part1の 2008.9.8.には次のように書いています。
“本などで発生時期を調べると夏から秋とあるのですが、過去の写真を調べてみると、ここ9年間に4回撮っていますが、いずれも9月5日から9月10日の間でした。”
 観察例が少ないので、何とも言えませんが、発生時期が少し早くなってきているのかもしれません。
 以下は Part1からの引っ越し記事です。
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 林の中の落ち葉に生えるキノコ、キツネノハナガサです。 子狐だとしても、花笠にするには少し小さすぎるような・・・ 堺自然ふれあいの森での撮影(2008.9.6.)です。
 キツネノハナガサはハラタケ科に分類されています。 淡黄色粉状の鱗片が全体を覆っていて、きな粉をまぶしたよう。 つばも弱々しく、消えてなくなってしまいがちです。
 下は2001.9.9.に槇尾山で撮った、まだ傘が開いていないキツネノハナガサです。


2024-07-20

ムレコムラサキホコリ?


 朽木の上にあったムラサキホコリ科の変形菌、かなり小さく、フィールドでの撮影の段階で、ムラサキホコリ属(Stemonitis)ではなく、コムラサキホコリ属(Stemonitopsis)だろうと思いました。 柄は子嚢の1/2~2/3ほどの長さです。

 子実体の高さは約3mmです。 子嚢は細長い楕円形~円筒形です。

 上は胞子です。 径は8~9μmで、表面に特記すべき特徴は見当たりません。

 コムラサキホコリ属にも、コムラサキホコリ、セイタカコムラサキホコリ、ダテコムラサキホコリ、ハダカコムラサキホコリ、チャコムラサキホコリ、ムレコムラサキホコリなど、多くの種類があります。 特徴のよくあてはまるものは無いのですが、とりあえず、ムレコムラサキホコリ Stemonitopsis subcaespitosa としておきたいと思います。 この種の柄は子実体の約1/4で、写真のものよりかなり短いのですが、胞子の径がほぼ一致します。

(2024.7.17. 兵庫県西宮市 北山公園)

2024-07-19

クヌギハマルタマフシ


 クヌギの葉にたくさんついていた赤い虫こぶ(2024.7.17. 兵庫県西宮市で撮影)、クヌキハマルタマフシという名がつけられています。 長い名前ですが、ふつう虫こぶの名前は、
   植物の名前+作られる場所+虫こぶの形状+「フシ(附子:こぶのこと)」
 というふうにつけられています。 この場合も、「クヌギ(など)の葉に作られる丸く玉のような附子」という意味を持った名前です。
 作ったのはクヌキハマルタマバチ Aphelonyx acutissimae です。 このハチはクヌギの葉に1つずつ産卵し、成虫が卵と共に葉に注入する物質の作用なのか、幼虫が出す物質の作用なのかは知りませんが、とにかく何らかの物質の作用でクヌギの葉の組織が増殖・肥大し、ハチの幼虫を包み込むような虫こぶとなります。 ハチの幼虫は“部屋付き食べ物付きの独身生活”を送ることができるのですが、虫こぶの外から産卵管を刺してこのハチに寄生するハチや同居するハチもいるようです。
 クヌキハマルタマバチは、単性世代(雌だけが存在し、単為生殖を行う世代)と両性世代(雌と雄が存在し、有性生殖を行う世代)を交互に繰り返します。 どちらの世代の幼虫も虫こぶ暮らしをするのですが、虫こぶの形態は違っています。 写真の虫こぶは単性世代が作ったもので、この虫こぶからは、まもなくオスかメスが出てくるはずです。 この雌雄が交尾し産卵してできる虫こぶは、クヌギハナコケタマフシと呼ばれています。