2020-09-30
カラスシキミ
上は北海道・苔の洞門のすぐ近くで、2020.8.31.に撮ったカラスシキミ Daphne miyabeana です。 本州の鳥取県大山以東の日本海側と北海道に分布するジンチョウゲ科の常緑小低木です。 花はジンチョウゲによく似た形の白い花で、ジンチョウゲ同様、花弁に見えるのは4裂したガク片です。
上の2枚は京都府北部で、2019.5.26.に撮った写真ですが、花は既に終わって青い小さな実になっていますが、その上に4裂したガク片が張り付いています。 写真の地域の花期は5~6月のはずで、探せば花をみつけられたかもしれませんが・・・。
ところで、和名の由来はどのように理解すればよいのでしょうか。 高木になるシキミ(マツブサ科)は、花は白色ですが形は異なりますし、果実も全く似ていません。 ですから、木の大きさや花の大きさの違いを「カラス」で表したと書かれてあるものを目にしますが、賛成できません。 これでは「カラス」が「小さい」ことを意味するようになってしまいます。
ここでのシキミは、花の様子は異なりますが同様に白い小さな花が咲き赤い実をつけるミカン科のミヤマシキミやツルシキミのことではないでしょうか。 そしてこれらのミカン科の「シキミ」と似ていて違うものであることを「カラス」で表したものだと思います。 「カラス」は黒っぽいものを現すのによく使われますが、この場合は、頭がよくて人が予想出来ないこともする(結果的にだまされることもある)ところからではないでしょうか。
2020-09-29
ゴマシジミ
北海道・ウトナイ湖畔の自然観察路で撮ったゴマシジミ Maculinea teleius です(撮影:2020.9.2.)。 幼虫は3齢まではナガボノシロワレモコウ、ワレモコウ、カライトソウなどの花穂を食べて育ち、4齢になるとクシケアリの巣に入り込み、アリの幼虫や蛹を食べて越冬し、7月中旬ごろに羽化するというおもしろい生活史を持っています。
3齢までの食べ物は、主に東北地方以北ではナガボノシロワレモコウ、それ以外の地域ではワレモコウで、飛騨山脈や白山ではカライトソウを食べているようです。 地域によって変異の大きなチョウですが、その理由の1つは、3齢までに何を食べて育つかではないかと考えられています。
また、アリは一般に攻撃性の強い昆虫ですが、ゴマシジミの幼虫はクシケアリと似たにおいを分泌するため、アリは仲間だと思い込むようです。 しかしにおいのある蛹の殻を脱ぎ捨てて羽化すると、とたんにアリの攻撃を受けることになり、巣から逃げるように飛び立つそうです。
上に書いたように、北海道では3齢まではナガボノシロワレモコウの花穂を食べて育つようです。 下は同じウトナイ湖の自然観察路で咲いていたナガボノシロワレモコウです。
2020-09-28
チャシッポゴケ
2種類並んだ上の写真のコケ、どちらもシッポゴケ科のようです。 右側の大きい方はカモジゴケだと思うのですが、今回は左側の小さい方を調べてみました。 調べた結果はチャシッポゴケ Dicranum fuscescens だと思うのですが、今回は最初に写真を並べ、その写真を使って平凡社の検索表をたどった経過を、写真の下に書いてみました。
Fig1 乾いた状態 |
Fig2 乾いた状態 茎に褐色の仮根がある |
Fig3 蒴(壺の下が少し虫に齧られています) |
Fig4 葉先 |
Fig5 葉の中央付近の横断面 |
Fig6 葉の基部 |
Fig7 葉の基部の横断面 中央に中肋が、両端に翼部がある |
Fig8 翼部の横断面 |
【属の検索】
シッポゴケ科にはたくさんの属があり(平凡社では24属)、まず属を絞ります。
A.蒴の蓋は分化する(Fig3)
B.蒴の頸部はないか、もしあっても壺よりずっと短い(Fig3)
C.葉縁に舷がない(Fig4、Fig6)
D.雌苞葉はあまり長くない(Fig1:葉に隠れて目立っていない)
E.葉は卵状披針形~線状披針形(Fig2)
F.中肋は太くても葉基部の幅の2/3以下、横断面でガイドセルがある(Fig6、Fig5)
G.葉の翼部の細胞はよく分化し、大きくてふつう薄壁(Fig6)
H.帽は平滑で下端に毛はない(Fig3)
I.中肋の横断面でステライドは明瞭(Fig5)
J.蒴柄は湿っても屈曲しない。葉は鞘部か披針形~線状披針形に漸尖し、葉身部の大半が中肋で占められることはない
(蒴柄は濡らして変化の無いことを確認、Fig5では中肋は葉の幅の 1/9)
→ シッポゴケ属
【シッポゴケ属の種の検索】
A.蒴は傾き非相称、葉の翼部は断面で2細胞層以上の厚さがある(Fig1、Fig7、Fig8)
B.葉に横じわがない(Fig2、Fig4)
C.蒴柄はふつう1茎に1本。葉身背面は平滑
(蒴をつけているのは2茎のみだったが、どちらも1本。 葉身背面はFig5)
D.葉先は細長く尖る(Fig4)
E.葉は乾くと開出し、鎌状に曲がるか、巻縮する(Fig2)
F.葉身下部の細胞は方形~矩形、細胞壁は内腔より薄い(Fig6)
G.葉身上部の細胞は丸みのある方形~矩形、壁は一様に肥厚、中肋上部の背面に薄板はない
(Fig4:中肋上部の背面には歯があるが薄板はない) → チャシッポゴケ
◎ チャシッポゴケはこちらにも載せています。
2020-09-27
ホソホウオウゴケ?
湧水が葉の上を流れ落ちるホウオウゴケ属のコケ、大きなホウオウゴケ属ですが、枝の長さに比して幅が狭く、スリムな印象を受けました。 以下の観察結果をこちらと比較してもホソホウオウゴケ Fissidens grandifrons だと思うのですが、平凡社の図鑑では北海道には分布しないことになっています。
上は乾燥してきて葉先が巻いてきていますが、横から見ると枝分かれの多いことが分かります。
葉の長さは5mmほどです。 スリムに見えるのは葉の茎につく角度が鋭角であるためのようです。
上は、葉の基部が分かるように、下方についている葉を取り除いて撮った写真です。 背翼の基部が茎に下延しています。
上は葉の上部で、中肋から左方が上翼、右方が背翼です。 葉縁には細長い細胞からなる舷は無く、舷から葉縁にかけて次第に色が薄くなっていますが、葉縁の細胞に他の細胞と異なった特徴は見られません。
上は葉の下部の横断面で、左下に伸びているのが腹翼、右上に伸びているのが背翼です。 横断面で見ると、どこからどこまでが中肋なのか、境が曖昧になります。 腹翼は中肋に近い数細胞層の厚さから葉縁に向かって次第に薄くなり、1細胞層で終わっています。
上は中肋付近の横断面です。 ステライド(と言っていいのかどうか・・・)が上下に見られます。 このような組織はあまり他のホウオウゴケ類では見られないと思うのですが・・・。
上は葉の上部の表面から見た背翼で、葉身細胞は不規則な方形~六角形です。
(2020.8.31. 北海道 苫小牧市)
2020-09-26
コマノヒツジゴケ
写真はコマノヒツジゴケ Brachythecium coreanum でしょう。 上の写真では枝分かれが少ないようにも見えますが・・・
比較的大型のコケで(上の写真の数値の単位はcm)、1枚目の写真に写っている奥で羽状に多くの枝を出しています。 葉を含めた枝の幅は2mmほどです。
葉は乾いても縮れず、枝葉と茎葉との違いも少しで、上の写真の葉の長さは 2.5~3mmです。 蒴柄は赤褐色です。
茎葉は広披針形で細く長く尖り、深い縦じわがあります(上の写真)。 中肋は皺と重なって分かりにくくなっていますが、葉長の中ほどより少し上まで伸びています。
葉縁には全周にかすかな歯があります。 葉身細胞は線形です。
翼部の細胞は六角形~線形です(上の写真)。
上は若い蒴です。 蒴柄は赤褐色で全面にパピラがあり、帽に長毛があるのは本種の特徴の1つでます。
(2020.8.31. 北海道 千歳市)
2020-09-25
ダイセツヤノネゴケ
岩上を覆っていた上の写真のコケは・・・
上は乾いた状態ですが、湿った時と大きくは違っていません。 茎の幅は葉を含めて2mm前後です。 茎葉と枝葉は大きさだけでなく、形も少し異なるようです。
上の3枚は、いずれも茎葉です。 葉縁にピントが合っていて中央部がボケているのは、葉が凹んでいるからです。 葉先は微凸頭~短く尖っています。 中肋は葉長の 2/3~4/5で終わっています。 翼部は明瞭な区画をつくっていて、基部は広く下延しています。
葉縁には全周に細かい歯があります。
以上、ヤノネゴケの葉先を短くしたような茎葉でしたので、ヤノネゴケと同じ属を調べたところ、アラスカヤノネゴケ Bryhnia hultenii や、その変種のダイセツヤノネゴケ var. cymbifolia にたどりつきました。 両者は変種の関係ですので違いはわずかで、後者の方が葉がより覆瓦状につき、葉はより深く凹むなどの違いです。 しかしこれらは両者を並べて比較しなければ分からない違いでしょう。 平凡社の図鑑には両種とも図はありませんので、ここでは Noguchi(1991)の茎葉の図の似ている後者としておきます。 なお、和名に「アラスカ」や「大雪」とありますが、国内の分布はいずれも北海道と本州です。
以下、もう少し他の特徴も見ておきます。
上は葉身細胞です。
葉身細胞の背面上端には小さい突起があります(上の写真)。
上は右端中央から左上に伸びているのが茎ですが、かなり先の部分ですので、茎葉も少し枝葉に近づいた形になっています。
枝葉については詳しく触れませんでしたが、上の写真のように披針形をしています。
(2020.8.31. 北海道 千歳市)
◎ ダイセツヤノネゴケはこちらにも載せています。 またアラスカヤノネゴケと思われるコケをこちらに載せています。
2020-09-24
2020-09-23
ミズシダゴケ
水飛沫を浴びて岩上に育つコケ、北海道(苫小牧市)のせせらぎで、2020.8.30.に撮影しました。
このコケ、当初はヤノネゴケとしていましたが、SNSでヤノネゴケとミズシダゴケが似ていることが話題に上がり、気になって調べ直してみたところ、毛葉があり、ミズシダゴケ Cratoneuron filicinum であることが分かり、2021.9.23.に写真を追加するとともに、文も大幅に書き直しました。
最初気になったのは植物体の形状です。 最初の写真でもなんとなく分かりますが、上のように整列させてみると、長さの不揃いな短めの枝を不規則な羽状に出しているのが分かります。 ヤノネゴケの分枝はもっと不規則で、羽状とは言えません。
そして毛葉がありました(上の写真)。 ヤノネゴケに毛葉は存在しません。 言い訳になりますが、夏の水辺で茎や枝の表面には藻がはびこっていて、当初この毛葉には全く気づきませんでした。
上は茎葉です。 中肋は強壮で葉先近くに達しています。 葉先は弱く鎌形に曲がっています。 翼部の細胞は明瞭にその近くの葉身細胞から区別できます。
葉身細胞は平らです。 ヤノネゴケの場合は、葉上部の葉身細胞の上端に突起(proration)がでることが多くあります。
上は枝葉です。 ついている場所によって枝葉の大きさは異なり、あまり意味はないのですが、いちおう2枚目の茎葉と倍率は揃えてあります。
上は乾いた状態の枝です。
◎ ミズシダゴケとヤノネゴケの見分け方をこちらに書いています。 また、ミズシダゴケはこちらにも載せています。
2020-09-22
イタチゴケ
樹幹にポッコリとしたコケ群落、イタチゴケ Leucodon sapporensis のようです。 少し冷涼地寄りを好むコケのようで、分布は北海道~本州となっていて、四国・九州には分布していないようです。
樹幹を這う一次茎は細く、そこからたくさんの二次茎が湾曲して立ち上がっています。 二次茎はわずかに分枝しています。
二次茎の基部などは黄褐色になることも多く、和名は、この色や二次茎の湾曲の様子がイタチの尻尾を連想させるところからでしょう。
上は二次茎の葉です。 葉面には縦ひだがあり、中肋はありません。 翼部は葉のかなり上まで続いています。
葉の基部では翼部の幅は全体の1/3ほどを占めています。
葉身細胞は線形です(上の写真)。
上の2枚は二次茎の横断面と、その中心付近の拡大で、中心束が存在します。
(2020.9.1. 北海道 苫小牧市)
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