2016-08-31

コセイタカスギゴケ


 写真はコセイタカスギゴケ Pogonatum contortum でしょう。 上の写真には、古い胞子体、古い造精器と、伸びはじめた新しい胞子体が写っています。


 胞子体をつけている配偶体は胞子体の生長に養分を奪われてあまり生長できないようですが、そうでない配偶体の茎は高さ4~10cmになります。
 写真の状態はそんなに乾いていませんが、乾くと葉は著しく巻縮します。


 上は葉の基部近くです。 コセイタカスギゴケは鞘部の縁に歯があることで近縁種と区別することができます。


 上は葉の断面です。 薄板の高さは、葉の縁近くでは主に2細胞で、中央付近では上の写真のように主に3細胞です。 端細胞は分裂せず、上面は平滑です(cf. セイタカスギゴケ)。


 上は蒴の表面を拡大したものです。 コセイタカスギゴケの蒴壁の細胞にはパピラがあります。 下はこれを横から見たものです。


(2016.7.20. 北八ヶ岳)

こちらではコセイタカスギゴケの葉を詳しく観察しています。


2016-08-30

ハナガゴケ


 写真はハナガゴケ Ditrichum divaricatum だと思います。


 平凡社の図鑑では、ハナガゴケの茎は長さ1~4cm、葉の長さは4~6mm、蒴柄は黄色~黄褐色で1~3cmとなっていて、サイズ的にはいずれも合致します。


 上は葉の鞘部です。 鞘部は円筒状に茎を抱いていました。 重なって茎を抱いているため、写真ではうまく表現できず、載せていませんが、葉を茎から外す時にこのことはよく分かりました。 鞘部を除くと、葉の大部分は中肋が占めています。


 上は葉の先の部分で、歯があります。


 中肋の細胞表面にはマミラが見られました(上の写真)。
 ※ マミラ(mammilla) : 細胞の表面にある凸レンズ状の丸い膨らみ


 蒴は円筒形です。

(2016.7.21. 北八ヶ岳)

こちらでは本種の葉の特徴などをもう少し詳しく観察しています。


2016-08-29

ゴゼンタチバナ


 上はミズゴケに囲まれて咲くゴゼンタチバナ Cornus canadense の群落です。 ゴゼンタチバナの分布は、国外では北東アジアと北米に分布していて、種小名からも分かるように、基準標本はカナダのものです。(カナダで撮ったゴゼンタチバナはこちらに載せています。)
 ゴゼンタチバナの葉は、花の咲いているものは6輪生に、花の咲かないものは4輪生のように見えます。 花の咲く/咲かないによる葉のつき方の違いはどのように説明がつけられるのでしょうか。
 ゴゼンタチバナはヤマボウシやハナミズキなどと同じ属のミズキ科で、対生の葉をつけます。 ただしそんなに高くは伸びず、1対の対生の葉をつけると、ほんの少し茎を伸ばして、よく光を受けられるように最初の対生の葉とは90°ずれた位置に、もう1対の対生の葉をつけます。 そしてそこで生長を止め、あとは光の少ない林床で光合成に専念します。 これが花の咲かない4輪生に見えるゴゼンタチバナです。
 花が咲く株の場合は、1対の対生の葉を広げた後の茎の先にある芽(頂芽)は花芽になっていて、それ以上伸びて葉をつけることはできません。 このとき、最初に開いた対生の葉の腋にあるそれぞれの芽(腋芽)がほんの少し伸び、対生の葉をつけます。 これが6輪生に見える葉で、最初の対生の葉より、その腋芽からの対生の葉(2枚×2ヶ所)が少し小さいことがよくあります。


 花序のつくりもヤマボウシやハナミズキなどとよく似ていて、たくさんの小さな花を4枚の白い総苞が囲んでいます。 小さな1つひとつの花は、上の写真で黒く見えている1本のメシベと、4枚の花弁と、その花弁の間に位置する4本のオシベと、それらを包む筒状のガクから成り立っています。

(2016.7.20-21. 北八ヶ岳)

セイタカスギゴケ


 セイタカスギゴケ Pogonatum japonicum は亜高山帯針葉樹林の林床に大きな群落を作ります。


 茎は高さ8~20cmになる大型のコスギゴケの仲間です。 茎の高さに比較すると蒴柄はそんなに長くはならず、それでも長さは 1.5~3.0cmあります。


 コスギゴケの仲間の多くの種と同様、葉は乾くと上のように著しく巻縮します。


 葉の長さは 10~18mmです。


 上は葉の断面です。 薄板は低く、高さは(2~)3~4(~5)細胞です。 上の写真では切片が厚すぎて不明瞭気味ですが、端細胞はしばしば2個に分裂します。


 薄板の端細胞の表面には、上の写真のようにパピラが見られます。


 上は蓋の取れた蒴口を拡大したものです。 U字型の繊維状の細胞からなる32本の蒴歯が口膜を囲んでいます。

(2016.7.20. 北八ヶ岳)

◎ 本種は雌雄異株で、上記の観察は雌株で行っています。 雄株の様子はこちらに載せています。


2016-08-28

ダチョウゴケ


 上は、あまり群落の規模も大きくなく、はっきりと斜上しているものも少なかったのですが、ダチョウゴケ Ptilium crista-castrensis だと思います。


 規則的に密に羽状分枝しています。


 最初に書いたようにあまり生育の良くないダチョウゴケですが、それでも5cmはあります。 生育条件の良い所では 10cmを越えるようです。


 2枚目の写真のように茎葉は枝葉よりずっと大きいのですが、枝葉でも長いものは2mm近くあります(上の写真)。


 葉は著しく鎌形に曲がり、深い縦じわがあります。


 葉の上部には歯があります。 葉身細胞は線形です。

(2016.7.21. 北八ヶ岳)

ナガゴマフカミキリ


 上はナガゴマフカミキリ Mesosa longipennis でしょう。 机の上を這わせて撮りました。


 上は別個体です。 コナラの枝にいるところを夜に撮ったものですが、触角を下げて睡眠中のようです。 個体差や撮影条件にもよるのでしょうが、夜の方が白っぽい体色になっているように思います。 甲虫も体色変化をするのでしょうか。

(2016.8.9,14. 堺自然ふれあいの森)

2016-08-27

タマゴバムチゴケ


 タマゴバムチゴケ Bazzania denudata は亜高山帯以上に生育するムチゴケ科の苔です。 葉は卵形で、やや凸面状になっています。


 上は腹面から撮ったものですが、一部葉が落ちた所があります。 葉が脱落し易いのもタマゴバムチゴケの特徴です。


 上は腹面から拡大して撮ったもので(深度合成しています)、右中央から右上に伸びているのが鞭枝です。 葉の先端には(2~)3歯があります。 腹葉は幅が茎の2~3倍あり、先端は全縁~円鋸歯状です。

(2016.7.21. 北八ヶ岳)

◎ タマゴバムチゴケはこちらにも載せています。


オオヤマフスマ


 オオヤマフスマ Moehringia lateriflora は北半球の温帯に広く分布するナデシコ科の多年草です。


 オシベは10本、花柱は3本に分かれていて、ガク片の長さは短いものの、ノミノツヅリなどと花の基本的なつくりはよく似ているのですが、種子の臍に付属体があるなどの違いによって別属とされています。

(2016.7.21. 北八ヶ岳)

2016-08-26

チョウチンハリガネゴケ


 写真は水の滴る崖に生えるチョウチンハリガネゴケ Pohlia wahlenbergii でしょう。


 上は1枚目の写真の一部を拡大したものですが、所々に丸い水滴があります。 葉はある程度水をはじくようです。


 茎は細く長く伸び、下部は赤みがかっています。 葉は茎の先のものほど小さくなっていますが、茎の基部の葉は長さが2mm近くになっています。


 葉は卵状披針形で鋭頭、上部には歯がまばらにあります。 葉身細胞は疎で、葉緑体の数は少ないようです。
 中肋は葉先近くにまで伸びているようですが、はっきりしないので、偏光顕微鏡で見たのが下です(上と同じ葉です)。


 中肋は葉先よりかなり下で終わっています。 葉身細胞は狭六角形です。


 上は葉の中ほどの葉身細胞を撮ったものです。 細胞の幅は葉縁でより薄くなっています。

(2016.7.22. 長野県茅野市 横谷峡)

※ チョウチンハリガネゴケは雌雄異株ですが、雄株の雄器盤の様子はこちらに載せています。

コバノイチヤクソウ


 コバノイチヤクソウ Pyrola alpina は、中部地方以北の亜高山の針葉樹林の林床に生育します。 花はイチヤクソウに似ていますが、葉は小型です。


 上は花を下から見上げるようにして撮ったものです。 下に長くゾウの鼻のように伸びているのがメシベで、10本あるオシベの葯は、先端の穴から花粉を出す孔開葯です。

(2016.7.21. 北八ヶ岳)

2016-08-25

カヤゴケ


 大阪市立自然史博物館で行われた標本同定会でカヤゴケ Rhynchostegium inclinatum だろうと教えていただいたコケです。 確認しようと平凡社の図鑑を見ると、検索表に名前があるだけですし、保育社の図鑑では名前すら載っておらず、カヤゴケ属は「日本に10種以上があり、分類はむずかしい。」とあるのみです。
 ※ 全国に広く分布するコカヤゴケはこちらに載せています。


 長く伸びている枝先もあります。


 葉の長さは1mm前後です。


 葉の先は鋭頭ですが、コカヤゴケほどには長く伸びてはいません。 中肋は細くなっていますが、葉の中部以上にまで伸びています。 全周に細かい歯があります。


 翼部は不明瞭です。


 葉身細胞はコカヤゴケほどは細長くないようです。

(2016.7.22. 長野県茅野市 横谷峡)

◎ カヤゴケはこちらにも載せています。


ネウスオドリバエ


 ハクサンフウロに来ていたネウスオドリバエ Empis flavobasalis です。 和名は翅の付け根付近の色が薄くなっているからだと思います。
 地元では今年の4月に見ていますが(こちら)、標高が高いと発生も遅れるのでしょうね。

(2016.7.21. 北八ヶ岳)

2016-08-24

ミヤマチリメンゴケ


 写真はミヤマチリメンゴケ Aquilonius plicatulum です。 亜高山帯の樹幹や腐木上で見られるコケで、茎は這い、やや規則的に枝を羽状に出します。


 葉は小さいのですが、蒴柄は 10~15mmあります。


 上は1枚の葉ですが、これだけ強く鎌状に曲がっていると、葉の長さをどのように測ってよいのか迷いますので、目盛をつけておきました。 最小目盛は 0.01mmです。 ちなみに上の写真は、葉と対物ミクロメーターを同じ倍率で別々に撮り、その2枚を合成したものです。


 蒴は長卵形で曲がり、上の写真でも縦じわがありますが、乾くともっと縦じわが深くなります。 蒴歯は2列です。

(2016.7.20. 北八ヶ岳)

こちらこちらにはミヤマチリメンゴケの自生している様子などを載せています。