2019-09-30

ゴレツミズゴケ


 写真はゴレツミズゴケ Sphagnum quinquefarium です。 早くも色づきはじめていました。


 枝葉はきれいに5列に並びます。 そのため、開出枝を枝先から見ると、上の写真の青い矢印のように、五角形に見えます。


 枝は混み合っていて、長い下垂枝も見られます(上の写真)。


 枝は開出枝3本と下垂枝2本がセットになっている場合が多いようです。


 上は茎葉です。 舌状三角形で、舷は下方では葉の幅の半分ほどを占め、上方ではごく狭くなっています。 中部より上の透明細胞には糸状の構造が見られます。


 上は茎葉の葉先近くの拡大です。 先端は細まり、少し腹側に巻いています。


 上は枝葉で、丸みを帯びた卵形です。


 上は枝葉の先端近くを腹面から撮ったもので、葉先は腹側に巻いています。

(2019.9.14. 北八ヶ岳)

こちらには蒴をつけたゴレツミズゴケを載せています。


2019-09-29

ウロコミズゴケ


 写真はウロコミズゴケ Sphagnum squarrosum です。湿原の水の縁で育っていました。 開出枝につく葉(枝葉)は途中から反り返っていて(=反曲していて)、葉先が開出枝から突き出て枝全体が毛羽立ったように見えます。
 上の写真では、ヒメミズゴケが混じっていますので、本種が大形のミズゴケであることがよく分かります。


 同じ枝葉でも、下垂枝につく枝葉はほとんど反曲しないため、下垂枝はなめらかに見えます。


 上は開出枝につく枝葉(2枚)で、広楕円形の基部から急に細く尖り、先端は背方に反り返っています。
◎ この枝葉の断面の様子などはこちらに載せています。


 上は、剥がす時に破れてしまいましたが、茎葉です。 舷は細く葉の基部だけに見られます。 上では先端部も破れてしまっていますので、別の茎葉で、もう少し拡大した先端部を下に載せておきます。


 茎葉の先端は円頭で、ささくれています。


 上は茎の横断面の一部です。 表皮細胞は2~3層で、表皮細胞の表面に孔はありません。

(2019.9.14. 北八ヶ岳)

2019-09-28

コモチフタマタゴケ


 写真はコモチフタマタゴケ Metzgeria temperata でしょう。 樹幹で育っていました。


 葉状体の先端は細くなり、縁に無性芽をつけます。


 上は無性芽にピントを合わせた顕微鏡写真です。 無性芽は薄く、円盤状です。


 葉状体背面の中肋部は2細胞幅です(上の写真)。

(2019.9.13. 長野県茅野市 標高 1,100m)

◎ コモチフタマタゴケはこちらにも載せています。

 

2019-09-27

チャシッポゴケ


 写真はチャシッポゴケ Dicranum fuscescens だと思います。 朽木の上で育っていました。


 葉は乾くと、上の写真のように鎌状に曲がります。 配偶体の雰囲気が似ているカギカモジゴケの蒴が直立するのに対し、本種の蒴は傾いています。


 葉は狭披針形で先は細く伸びています。 葉の長さは6~8mmです。


 上は葉の基部です。 葉を剥がす時に仮根がくっついてきて見難くなっていますが、褐色の翼部があります。 中肋は葉の基部の幅の1/8ほどです。


 上は翼部の拡大で、赤い矢印は下の層の細胞壁を示しています。 つまり翼部は2細胞層の厚さがあります。


 上は葉の下部の葉身細胞です。 細胞壁の厚さは一様ではありませんが、くびれは見られません。


 上部の葉縁には小さな歯があります。 上部の葉身細胞は丸みのある方形~矩形です。


 葉の上部背面では、上端が突出している葉身細胞が見られました(上の写真)。


 葉先は細長く尖っています(上の写真)。


 上は蒴です。 蒴柄は黄色~黄褐色で、帽には長い嘴があります。 頸部は少し膨れています。


 蒴を切断し、蒴の内側から蒴歯を撮ってみました(上の写真)。 蒴歯の先は蓋の細い嘴の中にも少し入り込んでいます。

(2019.9.14. 北八ヶ岳)

◎ チャシッポゴケはこちらにも載せています。


2019-09-26

ヤマコスギゴケ



 写真は岩上に育つヤマコスギゴケ Pogonatum urnigerum です。 厚みを持った葉の色とツヤは多肉植物のようでもあります。


 乾くと葉は茎に接着します(上の写真)。 上の写真の上のように、枝分かれしているものもあります。


 上は背面から撮った葉です。 上の葉の長さは6mmほどですが、平凡社の図鑑では葉の長さは4~7mmとなっています。 葉縁には鋸歯があります。


 上は葉の断面です。 深度合成していますので、手前の細胞と奥の細胞が重なり、薄板がいくつの細胞の高さかなどは分からなくなっていますが、端細胞のパピラの存在はよく分かります。


 薄板は4~6細胞の高さがあります。 端細胞の上縁の細胞壁の厚さは細胞内腔よりは薄く、パピラがあります。 この端細胞のつくりが葉の表面のツヤにも影響しているのかもしれません。

(2019.9.14. 北八ヶ岳)

◎ ヤマコスギゴケはこちらにも載せています。

 端細胞にパピラを持つスギゴケの仲間は、本種の他にもミヤマスギゴケ、セイタカスギゴケ、ケスジスギゴケがありますが、次のような違いがあります。
  • ミヤマスギゴケの葉はもっと細長く、端細胞上縁の細胞壁は細胞内腔と同じくらいの厚さになります 。
  • セイタカスギゴケはずっと大型で、葉は乾くと著しく巻縮します。
  • ケスジスギゴケは全体が小さく、横断面で端細胞は方形~横長の矩形です。


2019-09-25

アリノオヤリの蒴柄はなぜ曲がっているのか


 写真はアリノオヤリ Tetraphis geniculata です。 細長い葉が本種のもので、小さな丸まった葉はハイスギバゴケです。
 本種の属するヨツバゴケ科は、蒴歯が4本という特徴の他、各々の歯が多くの細胞からできていることや、原糸体の一部から扁平な組織をもった第二次原糸体ができるなどの、他の科では見られない特徴を持っています。 しかし蒴柄が「く」の字に曲がっていることも、他種ではあまり見られない“変な”特徴です。 上の写真の蒴はまだ未熟で、特徴もよく現れていませんが、注目したいのは、蒴柄が既に曲がっていることと、その曲がり目を境に、下は赤みを帯び、上は黄緑色と、色が違っていることです。 色の違いは、形成された時期なのか組織なのか、とにかく何かの違いを反映しているのでしょう。
 本種の蒴のさまざまな生育段階を比較すると、この後、曲がった所より上の黄緑色の部分が伸びていくようです。
 曲がった所を境に異なっているのは色のみではなく・・・


 上は帽が取れるのも間近の蒴をつけた蒴柄の、曲がった所の拡大で、右が蒴のある方向ですが、曲がった所から蒴側にはパピラが見られます。 そして蒴柄全体にねじれ模様が見られます。


 上は帽が取れるまでに成熟した蒴で、帽をピンセットで引っ張って脱がし、蓋の様子も分かるようにしたものですが、もうひとつ注目したいのは、蒴柄のねじれです。
 上の写真は乾いていますので、蒴柄のねじれが強調されていますが、このようなねじれは他の蘚類の蒴柄でも普通に見られます。

 上で、乾いているためねじれが強調されていると書きましたが、このねじれは乾湿で変化し、湿ると蒴柄は水を吸って膨らみ、円柱状となって、ねじれは解かれますし、乾くとねじれてきます。 蒴柄の先には蒴がありますから、蒴柄のねじれ運動は蒴の回転運動となります。

 一般に蘚類の蒴は、種によって上向きのものと傾いているものがあります。 私なりに胞子散布のしくみを考えると、上向きの蒴は風などで揺らされることで胞子を飛散させ、傾いている蒴は回転運動によって胞子散布の範囲を広げることに役立っているのではないかと思っています。

 この考えが正しいとすると、アリノオヤリの蒴柄が曲がっていることも、その生態的な意義が見えてくる気がします。


 上の模式図で、緑が胞子体を表しています。 左がアリノオヤリ、右が蒴の傾いた胞子体です。 乾湿による胞子体の回転を考えた場合、図の赤で示したように、アリノオヤリの蒴の方が大きく回転することになります。

 アリノオヤリはヨツバゴケ科に分類されていて(こちら)、蘚類の中では比較的古い形質を持ったコケだとされています。 もし本種の蒴の回転のしくみが生態的に意義のあるものなら、なぜそのようなしくみを持った仲間が増えなかったのでしょうか?
 私は次のように考えます。 コケ植物の多くは、小さな体を寄せ合い、密集して暮らしています。 そうすることで、密集した集団の隙間に水分を蓄える事ができます。


 上がアリノオヤリの群落です。 本種は倒木上でよく見られますが、上もそのような場所で、密な群落を作り、たくさんの蒴をつけています。 このようなたくさんの蒴があると、互いに邪魔し合って、蒴の回転運動は不可能になってしまいます。
 つまりアリノオヤリは、いろいろ工夫して蒴柄を途中で曲げてみたものの、胞子散布の方法という生殖戦略と、水分保持という生存戦略のミスマッチの結果、あまり繁栄できなかったコケではないでしょうか。

(材料としたアリノオヤリは、2019.9.14.に北八ヶ岳でみつけたものです。)

2019-09-24

アリノオヤリ


 上はアリノオヤリ Tetraphis geniculata です。 2本の胞子体が重なってしまいましたが、若い胞子体の蒴柄は真っ直ぐで、胞子体がある程度伸びると、蒴柄は「く」の字に曲がります。


 蒴をつけている株の茎はあまり伸びないようです。 上の写真では、乾燥で葉が少し縮れかけています。


 上は蒴で、蒴歯の見えている状態(左)と帽を被っている状態(右)です。 本種はヨツバゴケ科に分類されていて、蒴歯は4本ですが、上の写真では1本の蒴歯の先端の一部が欠けているため、5本のようにも見えています。


 上の写真は、濡れたまま撮ったので葉が光ってしまいましたが、茎の先端の葉が他の葉より細く、苞葉となっていて、黄色のものを包み込んでいるように見えます。 この部分の手前の葉を取り除いて顕微鏡で観察すると・・・


 苞葉が包んでいたのは造精器でした。 細長い糸状のものは側糸と呼ばれていて、造精器や造卵器の周囲に見られるものです。


 上が包まれていた造精器の1つです。


 無性芽をつける茎の葉は、蒴をつける茎の葉に比べて幅広くなっています(こちら)。 無性芽は茎の先に幅の広い葉がカップ状に集まった所に作られます(上の写真)。


 葉は卵状披針形で、中肋は葉先に届いていません。


 上は葉身細胞です。

(2019.9.14. 北八ヶ岳)

こちらでは、アリノオヤリの蒴柄がなぜ曲がっているのか、考察しています。

2019-09-23

ケナシチョウチンゴケ



 写真はケナシチョウチンゴケ Rhizomnium nudum です。 湿った所に落ちた枯枝の上にびっしりとついていました。
 横から見ると、2枚目の写真のように、茎には毛つまり仮根がびっしりとついています。 にもかかわらず、「毛無し」とは!?
 ウチワチョウチンゴケ属( Rhizomnium )に分類されているコケは、全てたくさんの仮根を持っています。 属名も、rhizoは「仮根」、mniumはチョウチンゴケ属のことですから、「仮根の目立つチョウチンゴケ」といった意味になるでしょう。 「毛無し」の意味は、仲間のケチョウチンゴケなどのように葉の上にまで毛(仮根)がいっぱい見られるものに比較してのことでしょう。


 上は生殖器官をつけていない茎の葉です。 中肋は葉先に届いていません。


 上は葉先付近で、左下に中肋の先が少し写っています。 舷の細胞は、葉先ではほぼ1列になっています。


 上は葉の中央付近で、右下に中肋が走っています。 中肋の伸びている方向を縦とすると、葉身細胞は横に長くなっています。

 上は葉身細胞です。

(2019.9.14. 北八ヶ岳)

◎ ケナシチョウチンゴケはこちらにも載せています。