2015-12-31

TG-4で深度合成

 今日は大晦日、1年間のまとめをすべきかもしれませんが、見た生物を順に載せているだけのブログをまとめられるはずもありません。 そこで今日は生物各論ではなく、今年の5月末から使い始めたオリンパスのカメラ TG-4 での深度合成について、コケの観察会などで聞かれることもありますので、まとめてみたいと思います。 なお、私はそれまでTG-2を使用しており、TG-3は使用したことはありませんが、TG-3とTG-4とでは、仕様表を見る限り、そんなに違いは無さそうです。(ちまたではTG-5でガラッと変わるのではないかとの噂が流れていますが、もしかしたら、オリンパスの方針としては、TGシリーズのコンパクトさはそのままで、TG-4より良い写真を求める人には、最後に書いた OM-D E-M1 などへの移行を薦めるのかもしれません。)
 深度合成は隅々までピントの合った状態で小さなものを大きく撮るための方法です。 深度合成の話に入る前に、TG-4ではどれくらいの小さなものを大きく撮れるのかを見ておくことにします。

● TG-4のマクロ機能
 TG-4(TG-3も)は、持ち運びに便利な丈夫なコンパクトさと、水中撮影やマクロ撮影ができることが特徴のカメラですが、ここではマクロ撮影、それもカメラと対象物をほぼ密着させた(いわゆる「1cmマクロ」ですが、この1cmは、レンズの先端からの距離ではなく、カメラ内の撮像素子からの距離です)マクロ撮影に話を絞ります。 なお、カメラを被写体に近づけると、カメラ自身の影ができますから、別売のLEDライトガイド(LG-1)が必須になります。

 TG-4のズーム機能は、ズームの上に、ソフト的に画素数を増加させる超解像ズームがあり、さらにその上にデジタルズームがあります。 超解像ズームとデジタルズームは個別に on/off が可能ですが、まずはこれらの機能をすべて使った場合、どこまで大きく撮れるのかを見ていくことにします。
 カタログなどを見ると、いろんな倍率が出てきます。 倍率は「○○の□倍」と、基準となる「○○」があるはずなのですが、これを無視して単に「□倍」とするのは無意味です。 次のa~cに分けると理解し易いでしょう。
a.カメラの背面液晶の表示
 カメラの背面液晶に表示される倍率です。 最もワイドの時の状態(=カメラのスイッチを on にした時の状態)が×1で、その何倍かを表示します。 ズームで×4、超解像ズームで×8、デジタルズームで×16まで拡大できます。 写る範囲(=長方形)の長辺は、LG-1を装着してカメラを被写体に密着させた場合は×1で20mmほどで、×4で約5mm、×8で約2.5mm、×16では1.3mmほどになります。
b.35mm版換算
 デジカメの世界でのマクロ撮影の基準となるのは、撮像素子の長辺が35mmのデジタル1眼レフカメラに等倍マクロレンズを使って撮影する場合でしょう。 この場合、最も大きく撮った場合は、35mmのものを撮像素子いっぱいに写し込むことになります。 35mm版換算とは、撮像素子上での比較です。 TG-4の×8では2.5mmのものを撮像素子いっぱいに写し込んでいますから、この場合の35mm版換算は14倍(35/2.5=14)となります。 撮った写真がどのくらいの大きさの写真なのかは撮像素子の画素数によるのですが、撮像素子の画素数が同じとして比較している数値ということになります。
c.背面液晶での観察倍率
 TG-4を実体顕微鏡やルーペ代わりに使おうとした場合の倍率です。 TG-4の背面液晶の長辺は58mmほどですから、最も大きく見た場合は、1.3mmを58mmに拡大して見ることになります。 パンフレットなどに「背面液晶で最大44.4倍の拡大観察が可能になります。」などと書かれてある倍率がこれにあたります。

 一般的な顕微鏡で低倍率と呼ばれているのは、10×10 つまり100倍です。 上の「44.4倍」を見て、顕微鏡の低倍率の半分の大きさか・・・と思ってはいけません。 基準となる「○○の」の○○が異なります。 1.3mmの大きさのものが視野いっぱいに広がる拡大率は、顕微鏡の10×10の視野範囲にほぼ相当します。
 しかしデジタルズームを使用すると、後述のように小さな撮像素子であるためにただでも画質の粗いTG-4の画質がさらにひどくなりますので、私はデジタルズーム機能をoffにしています。(そんな撮影をするなら顕微鏡を使います。) 顕微鏡を持たない人で、画像が多少粗くても・・という人には良いかもしれませんし、透過光と反射光では全く違った画像になるので、この倍率の意義はあるとは思いますが・・・。

● 深度合成とは
 被写体に近づいて写真を撮る場合、ピントの合う範囲(被写界深度)は非常に浅くなります。(例えば小さな虫を正面から撮る場合、複眼にピントを合わせると、胸部はもうピントが合っていません。) そこで少しずつピントの合う位置を変えて複数枚の写真を撮り、ピントの合った部分をつなぎ合わせて1枚の写真にするのが深度合成です。 下に1例を示します。


 上の写真は左下の一部にしかピントが合っていません。 このような一部にピントの合った写真を、ピントをずらして30枚撮り、深度合成したのが下の写真です。 両方の写真とも 1,280×960 で載せていますので、大きなモニターがあれば、写真をクリックして大きく表示し、比較してみてください。 なお、下の写真は、12月19日にクラマゴケモドキの所に載せた写真を再掲しています。


 深度合成については理解していただけたと思いますが、じつはこの写真はTG-4を使っていますが、深度合成モードで作ったものではありません。(この写真の作成方法は後述します。)

● TG-4で深度合成
 TG-4の顕微鏡モードには、①顕微鏡モード、②深度合成モード、③フォーカスBKTモード、④顕微鏡コントロールモードの4種のサブモードが用意されています。 ①と④は性能的に同じで、ズームレンズのように連続して倍率を変えていけるのか(①)、顕微鏡の対物レンズを交換するように倍率を変えていくのか(②)の違いです。

 TG-4購入時に私が期待したのは深度合成モードでしたが、期待外れに終わりました。 TG-4の深度合成モードは、自動的にピントをずらして8枚の写真を撮り、カメラ内の処理で自動的に深度合成した写真を作るというものです。 深度合成という技法は昔からありましたが、このようなカメラ内で自動的に深度合成してくれる機能は、TG-3がはじめて実現させたものです。
 しかし、このような作業を自動的にカメラ内で行うには、8枚の写真データをメモリに残し、比較し、処理するワーキングエリアも必要となります。 そのために、TG-4の深度合成モードには、様々な制約がつけられています。 まず、できてくる写真の画像サイズです。 上記①の顕微鏡モードなどでは最大4,608×3,456 の写真が得られるのですが、深度合成モードでは 3,200×2400 以下に限定されます。 また、デジタルズーム無しで顕微鏡モードなどでは8倍にまで拡大できるのですが、深度合成モードでは4倍までです。 そしてもうひとつ、これが私のいちばん気に入らなかった点なのですが、画像の粗さです。

 写真は明るすぎたり暗すぎたりしないように、被写体からの適度の光が必要なのですが、この光に関する条件が3つあります。 シャッター速度と絞りとISO感度つまりフィルムに相当する撮像素子の光に対する敏感さです。 レンズの小さなコンパクトカメラでは、元々小さなレンズなのですから、絞りはあまり関係しません。 問題はISO感度です。 デジカメではISO感度を電子的に調節できるのですが、ISO感度が高いと少しの光情報で処理してしまうことになり、粗い写真になってしまいますし、ISO感度が低いとたくさんの光を取り込まねばならず、シャッター速度が遅くなり、手振れし易くなります。
 TG-4の深度合成モードでは他のモードでは可能であるISO感度の調節ができません。 これは手持ちで深度合成モードを使うには当然かもしれません。 しかし大きく撮るために被写体にカメラをほぼ密着するまで近づけると、LG-1を使用しても光は不足気味で(こちら)、深度合成モードではISO感度は自動的に上がり、粗い写真になってしまいます。
 TG-4の深度合成モードは被写体が十分明るい条件でその性能を発揮するのでしょう。

 私が最近愛用しているのは、上記③の「フォーカスBKTモード」です。 このモードは、ピントを自動的に少しずつずらして複数枚の写真を撮ってくれるものです。 この機能を持ったカメラは以前からありましたが、大きく拡大した状態でフォーカスBKTが可能なのは、今のところTG-3とTG-4のみです。
 TG-4のフォーカスBKT(たぶんTG-3でも同じ)では、拡大率は4倍までですが、ピントをずらして撮る枚数を10、20、30から選択できますし、撮影ステップ(どれくらいピントをずらすか)も、狭い、標準、広いの3段階から調節できます。 サイズも 4,608×3,456 の画像が得られますし、何よりもISO感度を選ぶことができます! カメラを被写体に近づけて大きく拡大した写真では、手持ち撮影は無理です。 どうせカメラを固定するのならISO感度優先で、私は100に決めています。

 カメラを固定する工夫として私はペットボトルを利用して下の写真の右のようなものを作っています。 厚さの異なる複数枚を作っておき、被写体の厚さによって使い分けています。 左はこれをLG-1をつけたTG-4に取り付けた状態です。 写真を撮る時は、この状態で机の上の被写体に被せて撮っています。


 フォーカスBKTでえられた写真は、その中から自分が気に入った場所にピントの合った写真を1枚選び、他は捨てるという使い方もありますが、私はここで得られた複数枚の写真を、コンピュータのフリーの深度合成ソフト(CombineZP)を使って深度合成しています。

 CombineZP は昔からよく使われているソフトですが、Windows10でもちゃんと動きます(私がそのように使っています)。 アメリカで作られたソフトで、表示は全て英語ですが、その使用方法はいろんなところで(日本語でも)紹介されていますので、検索してみてください。(この記事の字数もかなり多くなったので、ここに載せるのは省きますが、要望があれば別の記事にします。)
 1つだけ注意があります。TG-4のフォーカスBKTでは、最初の1枚はシャッターを押した時の写真になります。 そしてピントを手前にずらして、最初の1枚のピントの位置を経て、奥にピントを合わせていきます。 CombineZPで深度合成するためには、ピントの合っている位置が、手前から奥でも、奥から手前でもいいのですが、順番になるように写真(のファイル名)を並べておく必要があります。 ですから、TG-4のフォーカスBKTで撮った写真を使って深度合成する場合は、最初の1枚は、必ず省いてください。(私はこの写真を写真整理の際の Index として使っています。)

● コケの深度合成
 最近私がよく撮っているコケの深度合成について、その難しさを簡単に書いておきます。 深度合成は簡単ですが、コケの深度合成は難しいという話です。
 乾いたコケを撮る時は問題ないのですが、葉を湿らせて広げて撮ろうとする場合が問題です。 まず葉の表面に水が残っていると、水で光の屈折率が変化して、深度合成すると、とても変な写真になってしまいます。
 そこで十分水を細胞に吸わせてから表面の水を拭き取り、撮影に入るのですが、今度は乾燥との戦いになります。 コケの種類によっては、短時間のうちに乾燥によって葉が巻き込んできます。 深度合成するためには被写体が動かないことが絶対条件になりますが、下手に湿度を保つ工夫をすると、今度はレンズが曇ります。
 コケの深度合成に比較すると、標本など死んでいる昆虫の深度合成は比較にならないほど簡単だ、というのが私の感想です。

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 最後に、少し余談気味になりますが、カメラ内深度合成について補足しておきます。 カメラ内深度合成は今のところはオリンパスの独壇場のようです。 2015年の秋には、ミラーレス一眼レフカメラ(レンズ交換式アドハンスカメラ)の「OLYMPUS OM-D E-M1」にファームウェア Ver. 4.0 が提供され、カメラ内深度合成やフォーカスBKT機能が追加されました。 OM-D E-M1のカメラ内深度合成は、8枚の写真で深度合成する点はTG-3やTG-4と変わりませんが、写真の緻密さでは格段に優れています。 またフォーカスBKTでは 999枚まで撮ることができますし、フォーカスステップ(ピントを変える幅)は1~10から選択できます。
 それに根本にあるのはフィルムに相当する撮像素子の大きさの違いです。  コンパクトなカメラの特徴を持たせるため、TG-4の撮像素子の大きさは6.2×4.6mmであるのに対し、OM-D E-M1の撮像素子の大きさは17.3×13.0mmで、面積にすると約8倍もあります。 こんな小さな撮像素子で画質でかなうわけはありません。
 小さなものを大きく撮るには、数値的には等倍マクロレンズではTG-3やTG-4にかなわないようにも見えますが、大きな撮像素子による美しい写真では大胆なトリミングも可能ですし、一眼レフではテレコンバーターを使うなど、レンズを工夫することも可能でしょう。 価格はTG-4の3~4倍はしますが、これから小さなものをしっかり撮っていこうとする方にはお勧めだと思います。 ちなみに私はニコン派で交換レンズもいろいろ揃えていますので、指をくわえています。

2015-12-29

お知らせ

 年末は何かと雑用が多く、何かのついでに短時間近くを見て回る程度で、あまり腰を据えた観察には出かけていません。 一方で秋に旅行した石垣島・西表島に関しては、まだまだ紹介しきれていません。
 そんなわけで、ここしばらくは旅先での生物とのふれあいの記録である「そよ風に乗って」の方の記事を多くしていきたいと思います(今日も載せました)。 こちらに記事が無い時は「そよ風に乗って」の方を見てください。
 今年は暖冬気味ですが、寒い冬に暖かい所の自然を楽しんでください。


2015-12-28

コモチシダ


 崖に垂れ下がるコモチシダ( Woodwardia orientalis )、私が出会ったコモチシダは、いつもこのように崖に垂れ下がっていました。



 大きな葉の上にたくさんの子供を持っていました。


 この子供は葉の組織から作られたクローンで、この状態で葉から離れ、落ちた所の条件が良ければ、そのまま新しい個体になっていきます。

 この無性芽とは別に、脈の両側に盛り上がったものが並んでいますが、これを葉の裏から見ると・・・


 薄い包膜に覆われて胞子嚢群が見えます。 この膜をピンセットでそっとはがすと・・・


 包膜を破った刺激で胞子嚢が割れ、飛び散った胞子が葉のあちこちに付いています(上の写真)。


 上は胞子嚢付近の葉の断面です。

 1枚目の写真のコモチシダの群落は、胞子生殖と無性芽による生殖がどのような割合で関与した結果なんでしょうね。 DNA解析をすれば分かるのかな?

(2015.12.27. 堺自然ふれあいの森)

2015-12-27

ジョウレンホウオウゴケ


 写真はジョウレンホウオウゴケ( Fissidens geppii )でしょう。 水の滴る崖に生育していました。 環境省のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類(VU)となっています。

 胞子体は後に回して、まずは配偶体の様子から見ていくことにします。



 上に2例の茎の長さを載せましたが、他のものもこの程度でした。 平凡社の図鑑の記載、「配偶体は長さ3~9mm、4~19対の葉をやや密につける。古い葉はやや赤味か黄味を帯びる。」と合致します。 葉の長さも、図鑑に記載されている1.2~2.7mmと合致します。


 1枚の葉に注目すると、背翼の基部は狭く、葉の基部は茎の上に細く下延しています。
 (ホウオウゴケ科の葉の各部の名称などについては、チャボホウオウゴケを見てください。)


 上は葉の基部を拡大したものです。


 上は2枚の偏光板を直交ニコルにして撮ったもので、細胞壁が白く写っていて、細胞壁の多い部分つまり中肋と舷が目立っています。 中肋は強く、葉先に達するか、短く突出します。 舷は下でも書くように葉の全周で非常に強いのですが、葉先近くで消えています。 下は普通の光学顕微鏡像で上記のことを確認するために葉先近くだけを撮ったものです。


 細胞は方形~不規則な六角形です。


 上の写真は、舷の一部の偏光顕微鏡像で、下方が葉身です。 舷は断面では2~3(まれに5)細胞層とのことですが、このことは断面を作らなくても上の像からも納得できます。

 以下は胞子体の様子です。



 蒴は常に茎の頂につきます。 蒴柄はカーブしていますが、蒴は曲がらず、ほぼ相称です。 2枚の写真を比較してわかるように、蒴歯は乾くと開きます。


 蒴歯は、ホウオウゴケ科全体にあてはまる特徴として、1列で16本なのですが、1本の蒴歯が複数に裂けますので、本数は基部に注目して数える必要があります。 写真のように乾燥して蒴歯が大きく開いた状態では、写真としてはおもしろいのですが、蒴歯がとても多く見え、数えるのが難しくなります。

(2015.12.22. 堺自然ふれあいの森)

こちらには蓋のついた蒴や葉の断面などを載せています。


2015-12-26

コカヤゴケ




 写真はコカヤゴケ( Rhynchostegium pallidifolium )だろうと思います。 アオギヌゴケ科は同定が難しいのですが・・・。 太陽の光があまり入らない谷の斜面にありました。


 茎は這い、不規則に分岐しています。 茎が赤っぽく見えている所は、茎の色ではなく、仮根と土の絡んだ色です。


 上の写真は左が湿っている状態で、右が乾いている状態です。 乾くと茎は曲がってきますが、葉は乾いてもあまり変化なく、茎にくっつこうともしません。


 上は1枚の葉を見たもので、縁には全周にわたり小さな歯があります。 中肋は種を見分けるのに大切なものですが、上の写真では中肋は無いようにも、葉の中央近くに達する二又の中肋があるようにも見えます。 ところが・・・


 上は同じ葉を偏光顕微鏡で細胞壁だけが光って見えるようにして撮ったものです。 同じ葉ですから、ゴミの位置は同じです。 これで見ると、中肋は葉の中ほどに達する1本であることが分かります。


 葉の先は鋭く尖り、ねじれています(上の写真)。 多くの葉の先が、写真のようにねじれていました。


 上は葉の縁の拡大です。 歯があり、葉身細胞は線形です。


 もう1枚葉を載せておきます。 上の葉の中肋は葉長の2/3にまで伸びています。 また葉の先はねじれていません。 1枚の葉だけを見ていては結論を誤る可能性があるということでしょうね。
 この葉も偏光顕微鏡で見たところ、上の写真では似た色になっている中肋と皺とをはっきり区別できました。 中肋がややこしい場合には、偏光顕微鏡が役に立ちそうです。

(2015.12.22. 堺自然ふれあいの森)

◎ まだ蓋も帽もついている蒴をつけた10月の様子はこちらに載せています。



2015-12-25

ツチノウエノコゴケ


 石垣の深めの凹みに土がたまり、そこに育ったツチノウエノコゴケ( Weissia controversa )です。 湿っている時は上の写真のように葉は放射状に広がっていますが・・・


 乾くと上の写真のように巻縮します。


 和名に「コゴケ」とあるように、葉は2mmほど、蒴も長い帽を含めても2mmほどの大きさですし、葉の色は明るい緑で蒴柄も黄褐色で、かろやかな印象を受けます。


 上は雌苞葉です。 披針形~線状披針形で、縁は上部半分ほどが狭く内曲します(写真では色が濃くなっています)。 普通葉は雌苞葉より短いのですが、葉身細胞の様子や葉縁の様子など、基本的なつくりは同じです。


 上は葉の背面から上部の縁を撮ったものです。 倍率は 40×10ですので、かなり小さな細胞から構成されています。 黄緑色の濃い部分が内曲している部分で、葉の縁は細胞の背面が連なっていることになり、凸凹しているように見えるのは、パピラが存在しているからです。


 上の写真は葉の基部近くを撮ったもので、5枚目の写真と同じ倍率です。 基部近くでは大きな細胞になります。

(2015.12.22. 堺自然ふれあいの森)

こちらではほぼ成熟した蒴の様子などを載せています。

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 蒴も蒴柄も古く褐色になってしまったツチノウエノコゴケがあったので、下に追加しておきます。
 (撮影 : 2016.7.13. 京都市 西芳寺川)



2015-12-24

ヘラハネジレゴケ


 石垣の間に生えていたヘラハネジレゴケ( Tortula muralis )が長い蒴をつけていました。


 蒴の長さは3mmほど、蒴柄は長短あるものの、上の写真では 2.7cm、これだけ大きな胞子体を数mmの植物体の光合成で作るわけですから、さすがに負担は大きいようで、胞子体をつけている植物体の葉は茶色くなっていました。


 葉は全縁で、中肋は葉身から長く突き出て毛尖となっています。 上の丸印a~cの場所の細胞を見ると・・・


 上は3枚目の写真のaのあたりの細胞です。 「C」の文字のような模様がたくさん見えます。 この模様に焦点を合わせていますので、細胞壁はうっすらとしか見えていません。


 上はbの位置あたりで葉の縁を斜めに見ていることになり、「C」の模様は細胞表面の盛り上がりだと分かります。 このような細胞表面の突起は「パピラ」または「乳頭」と呼ばれています。


 cの位置になると、葉緑体も少なくなり、細胞の大きさも少し大きくなります。

(2015.12.22. 堺自然ふれあいの森)

◎ ヘラハネジレゴケの葉の乾いてねじれた様子などはこちらに載せています。

2015-12-23

マキノゴケの造精器・造卵器

 胞子を飛散させている蒴の様子など、マキノゴケの3月の様子はこちらに載せていますが、その胞子体形成の前段階となる造精器や造卵器の様子を、この12月に観察することができました。

 マキノゴケ( Makinoa crispata )は雌雄異株です。 まずは雄株から。


 上がマキノゴケの12月の雄株です。 葉状体の先端付近に三日月形の凹みができ、そこに雄器がたくさん作られます。 上の写真では雄器がよく発達し、凹みがほぼ埋められています。 分かり易い三日月形の凹みはこちらをどうぞ。


 上の写真は雄器ができている三日月形の部分を覗き込むように斜め正面から撮ったものです。 小さな盛り上がりが複数見られますが、ここから精子が出てくるのでしょうか。


 上の写真はこの三日月形の部分の断面です。 上から見ると三日月形の凹みですが、その下は大きく膨れていて、たくさんの造精器が埋めこまれています。

 (以上、2015.12.2. 堺自然ふれあいの森、以下は2015.12.9. 京都市 西芳寺川)

 以下は雌株の様子です。


 上は雌株の葉状体を上から撮ったものです。 時間が経ってから撮ったので、少し傷んでいますが、やはり先端近くに凹みがあります。 この凹みの部分の断面を作って観察してみると・・・


 たくさんの造卵器が見えました(上の写真)。


 上は倍率を高くして手前の造卵器1つのみにピントが来るようにして撮ったものです。 この造卵器の中の卵細胞が受精し、胞子体へと育っていきます。


 なかには上の写真のような状態の胞子体にまで育っているものもありました。