2024-10-30

ハリスギゴケの乾いた姿

 写真はハリスギゴケ Polytrichum piliferum ですが、これを少し持ち帰り、乾いた状態を見ると・・・


 葉が段々についています。 もし新しい葉が出るのが1年に1回だとすれば、写真のハリスギゴケは10年以上育ち続けていることになります。
 なお、2枚目の背景は1㎜方眼、3枚目の最小目盛りは 0.1㎜です。

(2024.9.7. 北八ヶ岳)

◎ ハリスギゴケは下にも載せています。
221102・・・本稿とほぼ同じ針葉樹林内に育った本種
160917・・・樹林内だが環境が適していなかったのか、葉が茎の上部にしかない本種
200917・・・吹きさらしの高山帯に育った本種の葉を中心に
200918・・・上の胞子体を中心に


 

2024-10-27

ハナガゴケ

 写真はハナガゴケ Ditrichum divaricatum でしょう。 古い蒴がまだ少し残り、新しい蒴はまだ蒴柄と同じような幅です。 蒴柄は黄色~黄褐色です。

 葉は茎の下部までついています。 上の写真で少し混じっているのはオオヒシャクゴケです。

 葉の長さは5~8㎜、蒴柄の長さは上の写真で2cm、平凡社では1~3cmとなっています。 乾いた時と湿った時で、葉の様子はあまり違いません。

 上は茎の横断面で、葉鞘部が茎を取り囲んでいます。

 上は葉の基部です。 長い鞘状の基部から急に細くなり、そこから先の大部分は中肋が占めています。 翼部の細胞は分化していません。

 上は葉鞘中部の細胞で、写真上部は中肋です。 葉鞘中部の細胞は矩形で薄壁です。

 葉鞘部の肩の細胞は不規則な方形で厚壁です(上の写真)。

 上は葉の中央付近の側面を撮った写真で、下はその横断面です。

 葉の横断面で、ガイドセルの上下にステライドがあります。

 上は葉先付近で、細かい歯があります。

 上は蒴の上部です。 

 蒴歯は基部まで細かいパピラに覆われています(上の写真)。

 最後に、4枚目の写真では茎の横断面がはっきり写っていませんでしたので、改めて茎の横断面の中央付近を下に載せておきます。

(2024.9.7. 北八ヶ岳)

こちらには胞子を飛散し終えて間もない蒴をつけたハナガゴケを載せています。

2024-10-17

ノガリヤス

 写真はノガリヤス Calamagrostis arundinacea でしょう。 和名は「野のカリヤス」の意味だと言われています。 なお、カリヤスは栽培もされていて、黄色染料や薬用に用いられている植物ですが、本種とは属も異なります。
 本種は北海道~九州に分布する多年草です。 草丈は 0.5~1mで、和名のとおり産地の草原にも生育しますが、二次林など林の中でも、よく生育しています。

 小穂は紫色を帯びています。 小穂は2小花のうちの1つが退化し、2枚の包穎の中には1小花しかありません。 この小花の護穎のノギが長く突き出しています。 包穎を開いて小花を観察すると、小花の基部には基毛と呼ばれる長い毛があります。
 小穂が1小花からなり、小花の基部に長毛があれば、Calamagrostis(ノガリヤス属)です。 ノガリヤス属は日本には約20種が存在しますが、全国的にふつうに見られるのは本種の他にはヒメノガリヤスとヤマアワだけで、この2種ともノギは短く、小穂の外には伸び出しません。


2024-10-16

ホソバミズゴケ

 写真はホソバミズゴケ Sphagnum girgensohnii でしょう。 森林性のミズゴケで、ふつう年間を通して淡緑色ですが、高地では茶褐色になることもあります。

 多くの細く長い枝が垂れ下がっている場合が多いように思います。

 時には上のような姿になることも。

 下垂枝が開出枝より細く長くなるのも本種の特徴の1つです。

 上は枝葉です。(メチレンブルーで染色しています。)

 上は枝葉背面の上部です。

 枝葉背面中央部の透明細胞の縁には楕円形~半月形の貫通する孔が連続して並んでいます(上の写真)。

 上は枝葉中央の腹面の縁に近い所です。 背面に比較して葉緑細胞が太くくっきりとしています。

 上は枝葉の横断面です。 葉緑細胞は腹面に広く開いています。

 上は茎葉です。 葉先はささくれています。 舷は上部で狭いのですが、基部では広がっています。

 上は茎葉の上部(右が葉先)です。 上部の透明細胞に膜壁が無いのは本種の特徴の1つです。

 上は茎の表皮です。 各表皮細胞には0~1個の孔があります。

 上は茎の横断面です。 表皮細胞は上の写真では2~3層ですが、瀧田(1999)では3~4層となっています。

(2024.8.25-26 北海道・鹿追町)

◎ ホソバミズゴケは下にも載せています。
 161012・・・若い胞子体など
 191024・・・胞子の射出など
 170717161013・・・枝や葉なと

2024-10-14

メリケンカルカヤ

 以下は Part1の2009.11.13.を大幅に変更した引っ越し記事です。 

 メリケンカルカヤ Andropogon virginicus は北アメリカ原産の帰化植物です。 いろんな場所で生活できるようですが、やや乾燥した所でよく見られるようです。 刈り込み耐性が強く、年を経るごとに株が大きくなり、絶やすことが難しくなります。

 秋には朱色を帯び、たくさんの小穂に生える白毛は、逆光で見るとなかなか美しいものです(上の写真)。
 この小穂が風に乗って飛んでいます。 その1つを見ると・・・

 イネ科の花や果実(穎果)に関するつくりは、多くの被子植物と大きく異なっていて、またそれぞれの種ごとに“個性”があり、なかなか複雑です。
 ほんとうの1つの花をイネ科の場合は「小花」と呼びますが、複数の小花が集まって小穂(しょうすい:注1)を作ります。
 春に咲くイネ科の小穂は多くの小花からなる場合が多く、秋に咲くイネ科の小穂は2つの小花からなる場合が多く見られます。 上の写真の両性小穂(メシベとオシベを持つ小花からなる小穂)も、もともとは2つの小花からなっているのですが、本種の場合は下方の小花が護穎のみに退化していて、上方の小花のみ結実します。 つまり、両性小穂の中には1つの種子が入っています。
 また、特に秋のイネ科には、短い柄を持つ小穂と長い柄を持つ小穂の2つの小穂がセットで各節ごとにつく場合が多いのですが、本種の場合は、両性小穂は無柄になっており、長い柄のある小穂は退化して柄だけが残っています。

(注1) 起源から言えば小穂がひとつの花序になるのですが、イネ科の場合は小穂の集団を花序とよんでいます。

 上は苞葉の中から1本の花序を取り出したものです。 白い長毛は両性小穂をつなぐ軸にもたくさんついています。

2024-10-13

ジングウホウオウゴケ

 写真はジングウホウオウゴケ Fissidens obscurirete でしょう。 葉は茎の基部までついています。 比較的乾いた土の斜面にありました。 葉は平凡社では3~12対となっています。

 葉は乾くと上の写真のようにすぐに曲がりはじめます。

 葉は細胞にパピラがあるため暗く、中肋は透明で明瞭です。 長さは平凡社では 0.9~1.4㎜となっています。

 上は葉先付近です。 中肋は葉先に達しています。


 平凡社には、「蒴柄近くの1~2対の葉の腹翼には2~4列の細胞からなる舷があるが,下部の葉にはない。」とあります。 上の2枚の写真は、茎の中央付近についていた葉ですが、腹翼下部の葉縁にわずかに舷が認められます。

 上は上翼の葉身細胞で、写真の上は中肋です。 平凡社では背翼の葉身細胞について書かれていますが、背翼、腹翼、上翼のどの葉身細胞にもパピラがあります。

(2024.10.12. 京都市)

こちらでは蒴をつけた状態を、こちらでは若い蒴をつけた状態を観察しています。

2024-10-09

ホソムジナゴケ


 一見スナゴケやシモフリゴケなどの仲間にもみえる岩上にあった写真のコケ、どうしても名前が分からず、A先生に見てもらったところ、ホソムジナゴケ Trachypus humilis のようです。 ただし、特に葉の細胞の様子などは、図鑑に記載されているものとはかなり異なります。 この仲間は非常に形態的変異に富むようです。

 這う一次茎から二次茎が立ち上がります。二次茎はやや密に羽状に分枝し、葉を密につけています。

 上は茎葉です。 葉はねじれて壊れやすく、光沢が無く、長さは約1.5㎜でした。

 上は葉先です。 葉の鋭尖部はしばしば透明になっていました。 葉の上部の細胞は楕円形で、多くのパピラが細胞腔上にあります。

 上は茎葉のほぼ中央部の葉身細胞です。 細長い細胞の腔上に先端が星状に分かれたパピラが1列に並んでいます。 多くのホソムジナゴケでは、たくさんの先の分かれないパピラが細胞壁沿いに並びますので、ずいぶんと様子が違います。

 上は葉の横断面(一部)です。 あまり良い切片とは言えませんが、1層の細胞の背面にも腹面にも先の割れたパピラがあることが分かります。

 上は葉の基部です。 多く見られるホソムジナゴケでは葉の基部の細胞は透明になる傾向があるのですが、上の写真では先の分かれないパピラが細胞壁上についています。

(滋賀県大津市)

◎ ホソムジナゴケと思われるコケは、こちらこちらにも載せています。