2020-07-31

アカイロトリノフンダマシ(標準型と黒色型)


 ツルヨシの葉の裏にアカイロトリノフンダマシ Cyrtarachne yunoharuensis がいました。


 カメラを近づけると、歩脚を縮めてうずくまります。 じっとしている方が安全だと信じているようです。

 このブログでは、これまでにシロオビトリノフンダマシオオトリノフンダマシなどを載せています。 これらの形や色は、動かなければ糞らしく見えなくもありませんから、保護色として機能しているのでしょう。 しかしアカイロトリノフンダマシは写真のようによく目立つ色をしています。

 アカイロトリノフンダマシは毒を持つテントウムシ類に擬態しているのではないかと言われています。 テントウムシ類は、植物が被食防止のために持つ毒成分を、餌としているアブラムシなどの体をとおして取り込み、体内に蓄えている場合が多いようです。
 アカイロトリノフンダマシの体の色は、特にシロジュウシホシテントウなど、たくさんの種類がいる赤褐色に白斑のテントウムシの色によく似ていますし、体のサイズも、他のトリノフンダマシの体に比べて小さく、これらのテントウムシ類に近い大きさです。


 葉を動かしながらいろんな方向から撮っていると、ついに我慢できなくなったのか、歩きだしました。 歩きだすとクモらしくなります。


 ピンボケですが、体の腹面の様子も撮ることができました(上の写真)。 クモですから糸も出します。 トリノフンダマシの仲間は、暗くなってから水平円網を張り、明るくなる前には網をたたんでしまい、昼間は葉の裏でじっとしているようです。

 以上は、2013.9.6.に「堺自然ふれあいの森」で撮影し Part1の 2013.9.8.に載せていたものを、こちらに引っ越した記事です。

 アカイロトリノフンダマシには稀に黒色型がみつかります。



 上は 2020.7.30.に堺自然ふれあいの森にいた黒色型で、ケネザサの葉の上にちょこんと乗っていました。 今回は撮影のためにかなり葉を手荒に動かしたのですが、全く動く気配を見せませんでした。
 上に書いたように、アカイロトリノフンダマシはテントウムシに擬態していると思われます。 黒色型が稀なのは、生まれてくる頻度が稀なのか、擬態の効果が低いので生き残る確率が低いのか、どちらなんでしょうね。


2020-07-29

カワゲラ成虫2種

 カワゲラの仲間は、幼虫は水生昆虫の調査などで検索表もいろいろ作られています。 しかし成虫は似たものが多く、同定が難しい昆虫のひとつで、あまり熱心に撮影もしていないのですが、7月上旬にたまたま雨宿りの所にいた箕面公園のカワゲラの成虫2種を紹介します。

● フタツメカワゲラ属の1種 Neoperla sp.



 和名は「二爪」ではなく「二つ目」で、1対の複眼とは別に額にある単眼が、3個あるのが普通ですが、この属は2個しかないことからのようです。 幼虫ではもっとはっきりするようですが、上の写真では退化したもう1つの単眼があるようにも見えます。

● トウゴウカワゲラ属の1種


 「トウゴウ」は大型で強そうに見えるからでしょうか。 キベリトウゴウカワゲラ Togoperla limbata がよく知られていますが、同種と外見での区別が困難な未記載種が存在するようです。
 上の写真では大小の2頭が写っていますが、たぶん大がメス、小がオスでしょう。


2020-07-28

サンコタケ


  上は 2020.7.22.に大阪府の箕面公園で撮影したサンコタケ Pseudocolus schellenbergiae (スッポンタケ科)で、腹菌類の一種です。 3本(時には4~6本)の腕は頂部で結合しています。

 菌類にはいろいろな種類がありますが、いわゆる「きのこ」と呼ばれているものは、主に坦子菌類と子嚢菌類からなります。
 担子菌類の多くは、いわゆる傘を持ったきのこで、傘の下のひだや管などの表面に担子胞子を作ります。 しかし一部には、きのこの内側に担子胞子を作り、キノコが成熟すると外に放出するものがあり、これらを腹菌類と呼んでいます。

◎ 腹筋類の解説とスッポンタケ科のスッポンタケをこちらに載せています。

 サンコタケの名前は、形が三鈷(さんこ)に似ているところからです。 三鈷は密教の修法に用いる仏具の一つで、元は雷の神の武器で、雷をかたどったものといわれています。 後にこの神が仏を守護する神として仏教に取り込まれ、この武器があらゆるものを摧破(さいは)するとされているところから、煩悩を破る悟りの智慧の象徴として採り入れられたようです。

 以下、過去に撮った写真を使って、もう少しサンコタケを見て行くことにします。


  上は幼菌です。 この頂部が裂開して腕が伸び出してきます。


 上は腕が伸び出したサンコタケで、基部には袋が残っていますし、奥には幼菌が残っています。 腕はまだ開いていませんが、腕と腕の間の凹みに黒っぽいドロッとしたものがついています。 これはグレバと呼ばれているもので、胞子はこの液体中に散らばっています。


 上のサンコタケは、腕はまだ十分に開いていませんが、托が長く伸びてきています。 腕の頂近くには・・・


 上は腕の頂近くの拡大で、ハエの仲間が来ています。 じつはグレバは人間にとっては強烈な悪臭、ハエにとっては大好物のにおいです。 サンコタケはドロドロのグレバと共に胞子をハエに運んでもらう作戦をとっているようです。

※ 上の文はサンコタケが1種であるように書いていますが、じつは黄色型(上はたぶんこれ)と紅色型 P. fusiformis の2種があります。


2020-07-27

ナガヒツジゴケ


 写真はナガヒツジゴケ Brachythecium buchananii だと思います。 石垣上で、昨日載せたミジンコシノブゴケの上を覆っていたコケです。
 不規則に多くの枝を出し、枝葉の長さは 1.5mmほど、茎葉はピントが合っていませんが、長さ2~2.5mmほどです。


 上の写真は上が乾いた状態で、下が湿らせた状態です。 葉、特に茎葉は茎に接していて、湿らせても少し開くだけです。


 上は茎葉(右上)と枝葉(左下)です。 茎葉は深い縦じわがあり、先は細くほぼ真っ直ぐに伸びています(先が失われています)。 茎葉、枝葉とも、中肋は葉のほぼ中ほどで終わっています。


 上は茎葉の基部付近です。 翼部の細胞は方形~矩形に近い形です。


 上は葉身細胞です。

(2020.7.22. 大阪府 箕面公園)

こちらには蒴のついているナガヒツジゴケを載せています。


2020-07-26

蒴をつけたミジンコシノブゴケ


 石垣の上で育っていた上の写真のコケ、葉のツヤなどからアオギヌゴケ科のように思いましたが、持ち帰って調べることに。


 群落をほぐしてみると、1枚目の写真に写っていた葉は上の写真の中央の葉で、胞子体をつけていたコケはそれとは別で、その葉は上を覆われていてほとんど見えていませんでした。(小さすぎて気づかなかっただけかもしれませんが・・・。)
 コケの観察ではこのようなことがよくありますから、蒴がどこから出ているのか、きちんと確認する必要があります。

 以下、蒴のついているコケを調べました。


 毛葉はほとんど目立ちませんが、茎葉や枝葉の様子から、どうやらシノブゴケ科のようです。 葉はとても小さいのですが、茎は比較的太く(といっても幅は 0.5mm以下ですが・・・)、しっかりしています。



 上の2枚の写真は、1枚目は湿った状態、2枚目は乾いた状態です。 上の写真では蒴柄は16mmほどありますが、葉は小さく、茎葉でも 0.4mmほどです。


 上は茎葉です。 中肋は葉の長さの3/4ほどです。 葉先が少しボケているので、葉先付近をもう少し拡大したのが下です。


 葉先に透明尖はありません。 深度合成していますので、平面的になり、パピラは分かりにくくなっています。


 上は茎葉の葉身細胞で、背の高いパビラがあります。


 上は枝葉です。 各細胞の中央に1個の背の高い枝分かれの無いパピラがあります。


 枝の表面もパピラに覆われています(上の写真)。 茎の表面も同様です。

 以上の観察結果から、このコケはミジンコシノブゴケ Pelekium pygmaeum でしょう。

(2020.7.22. 大阪府 箕面公園)

◎ ミジンコシノブゴケはこちらにも載せています。

2020-07-25

ウバタマコメツキ




 六甲山の再度(ふたたび)公園にいたウバタマコメツキ Cryptalaus berus です(2020.7.16.撮影)。 この公園の中央には池(修法ヶ原池)があり、その周囲は松林になっています。 本種の幼虫は、マツの朽木中で、同じ朽木の中にいる他の昆虫の幼虫やさなぎなどを餌として育ちます。
 上は一見魚眼レンズを使ったような写真ですが、使ったのは 60mmマクロレンズです。 魚眼レンズのような印象を与えるのは、真上から撮ると分かるように(下の写真)、本種の胸部が左右に広く張り出しているからでしょう。




2020-07-24

コバノチョウチンゴケとクロホシテントウゴミムシダマシ


 コバノチョウチンゴケ Trachycystis microphylla の上に、クロホシテントウゴミムシダマシ Derispia maculipennis がいました。
 クロホシテントウゴミムシダマシ、とても長い名前ですが、その意味は、「ゴミムシの仲間に似たゴミムシダマシという分類群があり、そのなかにテントウムシに似ているグループがあり、そのグループの中の黒い斑紋(星)のあるもの」ということになります。 テントウムシに似ているのは、テントウムシは体に苦い物質を持ち身を守っていますが、それに擬態することで食べられることを免れようとしているのでしょう。
 これの仲間で、よく似たニセクロホシテントウゴミムシダマシというのもいるのですが、これらはコケ類や地衣類の上でよく見られます。 上の写真も食餌中のように見えますが、葉についている菌類か微生物を食べているのではないかと思います。

 クロホシテントウゴミムシダマシの大きな写真はこちらで見ていただくとして、話をコバノチョウチンゴケに移します。


 コバノチョウチンゴケは雌雄異株で、雌株が蒴をつけている様子はこちらこちらに載せていますが、上の写真は雄株で、茎の先端に雄花盤をつけているものが写っています。
 葉もこれまでに載せていますので、今回は簡単に・・・


 上は葉先付近で、中肋は葉先に達しています。 舷は無く、葉の上部の縁には鋸歯があります。


 上は葉身細胞です。

(2020.7.22. 大阪府 箕面公園)

2020-07-23

サビムラサキホコリにいたヒメキノコムシ科の1種


 上の写真の粘菌は、子実体の高さは 11.5~12mm、柄の長さは5~6mmで、全体の形や色、子嚢と柄のそれぞれの長さなどから、サビムラサキホコリ Stemonitis axifera だろうと思います。
 この写真の右中央に甲虫が一頭います。 体長は 1.3mmです。 これを拡大すると・・・


 ヒメキノコムシ科の甲虫のようです。 写真は何枚か撮ったのですが、この大きさの手持ち撮影、ピントの合っているのは上の1枚だけでした。 しかし、写真ではよく分かりませんが、撮影しながら行動を観察していると、胞子を食べているようでした。
 保育社の甲虫図鑑では、ヒメキノコムシ科は国内に2属3種が分布していて、これまでに判っている限りすべての種が粘菌類を餌にしているようです。 しかしその後、このような小さな虫でも研究が進み、現在ではヒメキノコムシ科は 10種を越えているようです。
 写真のものはマルヒメキノコムシ Aspidiphorus japonicus のようにも思うのですが、上のような状況下、種の違いも把握できていませんので、「ヒメキノコムシ科の1種」としておきます。
 いずれにしても、粘菌の子実体の存在期間はとても短いものですから、それに合わせてこの甲虫の成長もとても速いようです。 しかし子実体の無い期間はどのような形態で耐えているのか、不思議です。

(2020.7.22. 大阪府 箕面公園)

こちらではサビムラサキホコリの細毛体の様子などを載せています。


2020-07-22

イシノミの1種




 上の写真のイシノミ、これまで載せたもの(、120710141124170712、)とは別種なのか、同種の色彩変異なのかもわかりませんが、みつけると写真に撮りたくなります。

(2020.7.8. 大阪府 箕面公園)

2020-07-21

ヒメトサカゴケ


 岩上のマメヅタの群落の隙間に見え隠れするマット状のコケ、近づくと・・・


 2裂した葉が見えます。 葉は偏向してつき、少し腹側に巻き気味です。


 乾くと葉先は腹側に巻き込み、茎の背面は溝状になっています(上の写真)。 このコケの正体は・・・


 顕微鏡で観察すると、葉の周辺に無性芽がついていて、ヒメトサカゴケ Chiloscyphus minor であることが、はっきりします。
 本種の葉形も変異が大きく、一般的には先が浅く2裂した矩形と言われていますが、 極端な場合には先が中ほどまで2裂した円形に近い葉まで現れます。 また、たくさんの無性芽がついている場合はルーペでも分かりますが、上のように無性芽が少ない場合には顕微鏡でないと確認できません。


 上は腹葉と、その基部から束になって出ている仮根です。 腹葉も側縁に大きな刺歯があったり目立たなかったりするなど、変化が大きいようです。 このことは、これまで載せているヒメトサカゴケ(こちらこちら)を見比べても理解していただけるでしょう。

(2020.7.8. 大阪府 箕面公園)

2020-07-20

ヒオウギ


 7月も半ばを過ぎ、ヒオウギ Iris domestica の花が盛んに咲く頃となりました。 上は2015年に大阪市の長居植物園で撮影したものですが、今年もよく咲いていました(下の写真:2020.7.19.撮影)。 京都の祇園祭や大阪の天神祭で、床の間や軒先に飾られる花です。


 オシベは3本、メシベは細長い漏斗状で、柱頭は浅く3裂しています。 草地や海岸に自生する多年草ですが、自生の姿を見ることは少なくなりました。


 葉はアヤメ科らしく単面葉(葉が2つ折りになってくっつき、裏面しか見えていない)です。 和名はこの葉の重なる様子を、ヒノキの薄版を重ねた扇(檜扇:ひおうぎ)に見立てたところからと言われています



 いちばんはじめの写真の下方に若い果実が写っていますが、この果実は熟すと裂け、中から真っ黒な種子が姿を現します。 上の2枚は 10月下旬の撮影で、黒い種子の周辺の薄茶色のものが果皮です。
 この黒い種子は「ぬばたま」「うばたま」などと呼ばれていて、和歌で「黒」「夜」「夕」「宵」「髪」などにかかる枕詞としての使用は、万葉の世界から見られます。

  ぬばたまの夜(よ)の更け行けば久木(ひさき)生ふる清き川原に千鳥(ちどり)廔(しば)鳴く
    (万葉集 925 山部赤人)

  黒玉(ぬばたま)の夜さり来れば巻向(まきむく)の川音高しもあらしかも疾(と)き
    (柿本人麻呂歌集 巻7-1101)